2025 年 60 巻 1 号 p. 16-19
A mass mortality event with a mortality rate of approximately 30% occurred among juvenile ayu Plecoglossus altivelis in a hatchery in Japan that uses pure seawater for rearing. Bacteria isolated from the kidneys of dead fish were identified as Tenacibaculum maritimum using 16S rRNA sequencing and PCR analyses. Immersion infection experiments using this isolate confirmed a high mortality rate in ayu at a bacterial concentration of approximately 106 CFU/mL. Rearing affected ayu in half-strength seawater for 7 days significantly reduced deaths in the hatchery, and this effect was reproduced in the infection experiment. It was shown that rearing infected fish in half-strength seawater effectively treated this condition.
Tenacibaculum maritimumを原因菌とする滑走細菌症については,広島県の海面生簀で養殖されていたマダイPagrus major稚魚およびクロダイAcanthopagrus schlegelii稚魚における大量死の発生が初めての報告である(増村・若林,1977)。その後,ヒラメParalichthys olivaceusにおける本疾病の発生が報告されてから(Baxa et al., 1986),様々な海産魚類における発生が報告されている(若林,2004;Avendaño-Herrera et al., 2006; Mabrok et al., 2023)。稚魚の症状としては,口唇部のびらんや鰭の欠損,皮膚や筋肉の部分的な崩壊が特徴的である(若林,2004)。原因菌には当初Flexibacter martimusという名称が提案され(Wakabayashi et al., 1986),その後の塩基配列解析などにより新属であるTenacibaculum属の一種であるT. maritimumとなった(Suzuki et al., 2001; Avendaño-Herrera et al., 2006; Mabrok et al., 2023)。世界的な海産魚類養殖の増加に伴い,多くの魚種において本疾病による大量死の発生が報告され,近年では海面で養殖されているサケ科魚類での被害も問題となっている(Avendaño-Herrera et al., 2006; Mabrok et al., 2023)。
2019年の12月に広島県の種苗生産施設においてアユPlecoglossus altivelis稚魚の大量死が発生した。魚病診断を実施したところ,死亡魚の腎臓からT. maritimumが純培養状に分離された。本研究では,分離菌の特徴,アユに対する分離菌の病原性および対策法を検討した。
2019年12月中旬に,広島県内の種苗生産施設で死亡した平均体重 0.45 gのアユを魚病検査に供した。アユは砂ろ過海水(水温15°C–16°C)で飼育され,市販の配合飼料が給餌されていた。最初に,死亡したアユの体表患部の塗抹標本および鰓のウエットマウント標本を作製し,寄生虫感染の有無を調べた。次に,体表患部および腎臓の塗抹標本をメチレンブルー染色し,細菌の観察を行った。さらに,ハートインヒュージョン寒天培地(HIA,日水製薬)および海水で作製した普通寒天培地(0.5% Lab-lemco powder (Oxoid),1% Bacto peptone (BD),1% Bacto agar (BD),以下SWNA)を用いて,腎臓から培養温度25°Cで細菌分離を試みた。分離された細菌については 20Fおよび 1500Rプライマー(Weisburg et al., 1991)を用いて 16S rRNA領域のPCR増幅を行い,常法に従い塩基配列を決定した。得られた塩基配列について,DDBJ(https://www.ddbj.nig.ac.jp/index.html)のBLAST解析を行ったところ,T. maritimumと一致する結果となったため,T. maritimum特異的プライマーを用いたPCR法(Toyama et al., 1996)も実施した。さらに,T. maritimumのO抗原の遺伝子型分け用に開発されたマルチプレックスPCR法(Lopez et al., 2022)も実施した。
分離菌の薬剤感受性については,動物用抗菌剤研究会MIC測定法標準化委員会(2004)に記載された寒天平板希釈法に準じて調べた。薬剤としてオキソリン酸(和光純薬),スルフィソゾールナトリウム(和光純薬)およびフロルフェニコール(LKT Labs)を選択し,海水サイトファーガ寒天培地を用いて25°Cで24時間培養することによりMIC(最小発育阻止濃度)を判定した。
分離菌の増殖に海水濃度が与える影響を明らかにするために,海水濃度0%,20%,40%,60%,80%および100%となるように調整した液体培地(0.5% Lab-lemco powder,1% Bacto peptone)に分離菌を接種し,25°Cで振盪培養(60 rpm)し8,12および16時間後に 660 nmの吸光度を測定した。
分離菌の病原性試験病魚の腎臓から分離されたPHS-1914株について,アユに対する病原性を浸漬感染実験および同居感染実験で調べた。感染実験には紫外線処理海水で飼育されていた人工産アユ(宮崎県海産系)を用いた。供試前のアユに滑走細菌症を含む魚病の発生は確認されていなかった。
浸漬感染実験:2 Lの海水にアユ30尾(平均体重 0.79 g)を収容した4水槽を準備し,液体培地(Bacto agarを含まないSWNA,以下SWNB)を用いて20°Cで24時間振盪培養(100 rpm)したPHS-1914株を,1.8×106 CFU/mL,1.8×105 CFU/mLおよび 1.8×104 CFU/mLとなるように,各水槽に接種した。なお,1水槽は菌液を接種していない対照区とした。通気しながらアユを60分間浸漬した後,新たな水槽(30 L)にアユのみを収容した。紫外線処理海水を注水(15.1°C–15.9°C)しながら10日間飼育し,アユの死亡状況を観察した。毎日水槽から死亡魚を取り上げ,体表患部の塗抹標本に長桿菌を多数確認することで,本菌の感染を確認した。
同居感染実験:3 Lの海水にアユ30尾(平均体重 2.5 g)を収容し,前述と同様の方法で振盪培養したPHS-1914株を 5.3×106 CFU/mLとなるように接種した。通気しながら60分間浸漬し,海水を入れた新たな水槽(300 L)内に設置したプラスチック製のかご(容量 30 L)にアユ(donor fish)のみを収容した。無処理のアユ(recipient fish)を同じ水槽に設置した他のかごに収容した。海水を注水(16.5°C–17.5°C)した条件で10日間飼育し,それぞれのアユの死亡状況を観察した。なお,菌液を接種していない対照区も設定し,他の水槽のかご内に収容した。アユへの本菌の感染は前述の方法と同様に確認した。
希釈海水飼育が死亡に及ぼす影響淡水で希釈した海水飼育が本菌感染後の死亡数に及ぼす影響について調べた。3 Lの海水にアユ30尾(平均体重 3.4 g)を収容した4水槽を準備し,前述と同様の方法で振盪培養したPHS-1914株を 1.3×106 CFU/mLとなるように各水槽に接種した。60分間通気しながら浸漬し,アユのみを海水(塩分3.2%),2/3希釈海水(海水:脱塩素水道水=2:1,2.1%),1/2希釈海水(1:1,1.6%)および1/3希釈海水(1:2,1.1%)を 20 Lずつ入れた止水の水槽に収容した。止水の水槽の海水および希釈海水は毎日全量交換し(水温17.2°C–17.6°C),アユの死亡状況を7日間観察した。対照区として浸漬感染させていないアユを海水および各希釈海水にそれぞれ収容し,死亡状況を観察した。アユへの本菌の感染は前述の方法と同様に確認した。
種苗生産施設において,アユの死亡は複数の水槽(50 kL規模)で発生し,死亡数が最も多い水槽では2週間のうちに飼育されている10万尾の内3万尾が死亡した。死亡したアユには,背鰭周辺の表皮が剥離し筋肉が露出した病変(Fig. 1A)や,下顎周囲の赤変や崩壊(Fig. 1B)が観察され,一部の個体には体の屈曲も確認された。一方,内臓には肉眼的な症状は観察されなかった。体表の病変周囲や鰓には寄生虫は観察されなかったが,メチレンブルー染色した病変周囲の塗抹標本には長桿菌が多数確認された。死亡したアユ6尾の腎臓からの菌分離をHI寒天培地およびSWNAで試みたところ(25°C・3日間),すべてのアユからコロニー辺縁部が樹根状で,培地表面から剥離しにくい細菌がSWNAのみで純培養状に分離され,そのうち4株を単離した。分離菌について 16S rRNAの塩基配列(1374 bp)を決定したところ,4株の塩基配列は同一で,Blast解析によってT. maritimum(CP020822.1)と100%一致した。さらに,T. maritimum特異的プライマーによるPCR法(Toyama et al., 1996)に供したところ,4株とも陽性反応を示し,死亡したアユから分離された細菌はT. maritimumと同定された。加えて,T. maritimumのO抗原の遺伝子型分け用のマルチプレックスPCR解析を行ったところ,4株すべてが3組のプライマーに陽性反応を示し,2-1型と判定された(Fig. 2)。2-1型はヨーロッパ,アメリカ,オーストラリアおよびアジアなどの様々な魚種由来のT. maritimum株に比較的多く見られる型である(Lopez et al., 2022)。しかし,1977年に広島県のマダイから分離された菌株(NCIMB 2154T)は1-0型で(Lopez et al., 2022),今回のアユ分離株とは異なった。


分離された4株のうちの1株であるPHS-1914株のアユに対する病原性を浸漬感染実験で調べたところ,1.8×106 CFU/mLで60分間浸漬した試験区では浸漬翌日から3日後までに死亡が集中し,10日間の累積死亡率は86.7%となった(Fig. 3)。死亡したアユには筋肉が露出した病変部が再現され,病変部に多数の長桿菌が確認された。1.8×105 CFU/mLおよび1.8×104 CFU/mLの累積死亡率は10.0%および6.7%と1.8×106 CFU/mL浸漬より低く(Fig. 3),106 CFU/mL程度の浸漬感染で高い死亡率が得られることが明らかになった。一方,対照区に死亡は確認されなかった。ヒラメ稚魚を用いた本菌の浸漬感染実験では,いずれも60分間の浸漬で,5.0×107 CFU/mLにおける死亡率は100%,5.0×106 CFU/mLにおける死亡率は55%と報告されている(西岡ら,2009)。ヒラメにおける 5.0×107 CFU/mL浸漬による死亡は浸漬1日後から3日後に集中しており(西岡ら,2009),アユにおける1.8×106 CFU/mLの死亡状況と同じ傾向であった。

次に,水平感染の有無を確認するために,分離菌を浸漬感染させたアユを感染源として同居感染実験を行った。5.3×106 CFU/mLの菌液に浸漬させたアユは,浸漬1日後から死亡し,4日後には累積死亡率が100%に達した(Fig. 4)。同居させたアユは3日後から死に始め,10日後の死亡率は86.7%となった(Fig. 4)。いずれの試験区の死亡したアユの体表にも病変部が再現され,長桿菌が多数認められた。なお,対照区のアユに死亡は確認されなかった。この実験結果から,感染魚から同居魚に水平感染しやすいことが確認された。以上の分離菌の同定結果と感染実験の結果から,アユに発生した疾病はT. maritimumを原因とする滑走細菌症であり,アユにおける最初の報告例となった。T. maritimumの宿主特異性は低く,様々な海産魚や遡河性魚類にも感染する可能性が指摘されていることから(Avendaño-Herrera et al., 2006; Mabrok et al., 2023),海水で飼育されているアユ稚魚にも感染しうるものと考えられた。

分離菌4株についてアユに投与可能な抗菌剤3種のMICを調べた。その結果,4株は同じMICを示し,オキソリン酸で 16 μg/mL,スルフィソゾールナトリウムで 4 μg/mL,フロルフェニコールで 2 μg/mLとなった。当施設では,最初に水産用医薬品であるオキソリン酸の経口投与が行われたが,死亡数が減る効果はみられなかった。次にフロルフェニコールが経口投与されたところ,死亡数が減る傾向がみられた。オキソリン酸のMICと比較して,フロルフェニコールのMICが低く,現場の投与効果と同じ傾向を示した。日本国内では承認されていないが,海外ではフロルフェニコールは滑走細菌症の治療において用いられ,耐性菌が生じる可能性も指摘されている(Mabrok et al., 2023)。
しかし,フロルフェニコールの投与によってアユの死亡が止まらなかったことから,当施設でアユ種苗生産中に死亡軽減対策としてしばしば用いられる7日間の1/2希釈海水飼育が行われた。すると死亡数が顕著に減少したことから,その効果を検証するための実験を行った。本菌に浸漬感染(1.3×106 CFU/mL)させたアユを海水,2/3,1/2および1/3希釈海水に収容し,死亡状況を観察した。Fig. 5に示すように,1/3希釈海水(累積死亡率0%)および1/2希釈海水(3.3%)においては,2/3希釈海水(93.3%)および海水(100%)と比較して有意に死亡数が少なかった(P<0.05,Fisherの正確確率検定)。また,実験終了時(7日目)の1/2希釈海水および1/3希釈海水で生存していたすべてのアユに外観症状は確認されず,これらのアユはその後も生存するものと推察され,1/2希釈海水飼育の有効性が実験的に再現されたと考えられた。なお,菌液を加えていない対照区のアユに死亡は確認されなかった。T. maritimumの増殖には少なくとも30%の海水成分を必要とすることが明らかにされている(Wakabayashi et al., 1986)。アユ分離株においても海水濃度が増殖に及ぼす影響を調べたところ,海水と同程度の増殖は80%海水まで確認されるが,60%では増殖性が低下し,40%ではほとんど増殖しなかった(Fig. 6)。このことから,1/2希釈海水中(50%)における分離株の増殖抑制効果が,アユにおける治療効果の一因と考えられた。また,希釈海水飼育によって海産魚の外傷やストレスによる死亡が軽減される効果が確認されており(御堂岡ら,2017),この効果も影響している可能性がある。


広島県では海水で種苗生産されたアユは例年1月頃に淡水馴致された後,中間育成場で淡水を用いて飼育され,4月以降に河川放流や養殖に用いられている。海水成分を必要とする本菌の増殖特性から,淡水馴致後に本疾病は問題にならないと考えられる。