魚病研究
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ブリレンサ球菌症ワクチンの追加接種に関するアンケート調査
前田 知己 , 中川 徹優, 嶋原 佳子, 松山 知正
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2026 年 61 巻 1 号 p. 32-36

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要旨

ブリのレンサ球菌症ワクチンの追加接種に関するアンケートをブリ主産県に対して実施した。4県10業者30ロットを解析し,接種回数は1~3回,このうち接種回数が2回以上の追加接種は7業者22ロットで確認された。春種苗のワクチン接種時期は,種苗導入後に間をあけず夏までに2回のワクチン接種を完了させる連続接種と,導入直後に1回目を接種し冬から翌春の間に追加接種する越年接種に分けられた。越年接種では,1回目と2回目の接種の間に本疾病が発生すること,追加接種時の魚体重が用法外まで大型化し誤注射の危険性が高まることが確認された。それゆえ,接種時期は本疾病の発生が確認されず,魚体重が用法範囲内に収まる連続接種が推奨される。養殖業者の主観的な効果の判定では,追加接種を実施した約9割のロットで有効と回答された。本疾病発生時の投薬回数および累積死亡率は単回接種群と比べ追加接種群が低かった。これらの結果は,本疾病の予防を目的とした追加接種の有効性を示唆している。

ブリ(Seriola quinqueradiata)をはじめとするブリ類養殖において,Lactococcus属細菌を原因とするα溶血性レンサ球菌症(ラクトコッカス感染症)が大きな被害をもたらしている(吉田,2016)。本疾病の原因菌は血清型と遺伝型からIからIII型の3種類に分けられており,IとIII型はLactococcus garveiae,II型はL. formosensisに分類される(Mahmoud et al., 2023;南ら,2023;荒木ら,2024)。ブリ養殖ではL. formosensisによるII型レンサ球菌症による被害が目立ち(荒木ら,2024)*1,その対策としてワクチンが市販されている*2。II型のレンサ球菌症ワクチンは,2016年にI型およびII型レンサ球菌混合のホルマリン不活化菌体を用いた注射ワクチン(ピシバック注レンサα2)が承認・発売された。つづいて2020年4月に,レンサ球菌症(I型・II型)に加えてビブリオ病およびイリドウイルス病の抗原を含んだ混合多価ワクチン(ピシバック注4)が,その翌月にはワクチン有効性を高めるアジュバントと上記4つの疾病に類結節症を含む混合多価ワクチン(ピシバック注 5 oil)が承認・発売された。また2025年にはII型レンサ球菌のみを抗原とした単味ワクチン(マリンジェンナーII型レンサ)および3種類の血清型のレンサ球菌(I,IIおよびIII型)を抗原とした3価ワクチン(ピシバック注レンサα3 oil)が販売された(本調査の実施時点では未発売)。しかしながら,ワクチンが普及した現在においてもII型レンサ球菌による被害は継続的に発生している(荒木ら,2024)。このような状況の中,養殖現場では,ワクチンの有効性を高めるために,専門家の指導のもとワクチンを複数回接種する例があり,本研究ではその接種状況,効果および安全性についてアンケートで調査した。

*1  農林水産省消費・安全局(2025):新たな型と思われるα溶血性レンサ球菌に関する令和7年度調査結果について

*2  農林水産省消費・安全局(2025):水産用医薬品について(第38報)

材料および方法

ブリの生産量の上位5県(愛媛県・宮崎県・鹿児島県・大分県・長崎県)を調査対象とし,県内で生産規模の大きい養殖業者(最大5業者)にアンケート調査を依頼した。本アンケート調査は,追加接種の状況把握が主目的であり,事前に追加接種の情報が得られた養殖業者を生産規模に関わらず優先的に調査対象に選定した。一般社団法人全国海水養魚協会を通じて,令和4年10月5日から11月18日までの期間に,各県の養殖業者に電子メールまたはFAXでアンケートを配布し回収した。

本アンケート調査では,令和元年から令和3年の導入種苗に対して令和4年9月までの期間において,種苗導入時期,ワクチン接種の方法(種類,時期,回数),レンサ球菌症の発生状況(出荷または現在までの累積死亡率,投薬回数),追加接種の有効性(業者の主観による回答),追加接種に関する意見(自由記述)について調査した。同じ養殖業者の中で,同一の種苗からなる同一の処理をした生産群を1ロットとした。投薬回数は,用法・用量に定められた投与期間の連続投与を1回とカウントとし,大まかな投薬回数の範囲を選択する形式とした。業者の主観による追加接種の有効性は,著効(発生がほとんど認められなかった),有効(発生がかなり少なかった),無効(発生が変わらなかった),不明(発生が認められなかったが,ワクチン効果によるものか判断できない)の項目から選択する形式とした。回答が得られた32ロットのうち,令和4年(2022年)に導入した種苗に関して回答した2ロットは,ワクチン接種後の期間が短く,本疾病による被害の解析に適さないため除外した。また,種苗導入時期の回答がない1ロットは,種苗の導入時期,ワクチン接種時期に関する解析から除外したが,体サイズとワクチン接種時期から春種苗と判断できたためワクチンの有効性解析には含めた。

結果および考察

追加接種を実施した業者に優先的にアンケート調査したこともあり,回答を得た4県(宮崎県・鹿児島県・大分県・長崎県)の10業者中7業者,解析に用いた30ロットのうち22ロットで追加接種が確認できた(表1)。本アンケート内での1ロット当たりのワクチン接種回数は1~3回であった。ワクチンの組み合わせは,1回のみ接種する単回接種が3通りと,複数回投与する追加接種が6通りの合計9通りが確認された(表1)。単回接種は,ピシバック注 5 oilが最も利用されていた。一方,追加接種では,1回目と2回目ともにピシバック注レンサα2を接種するパターンの出現頻度が最も高かった。種苗の導入時期およびワクチン接種時期のヒストグラムを図1に示した。種苗の導入時期は,大きく春季(3~6月)と秋季(10~12月)の2つにピークが確認された(図 1A)。春種苗では,1回目のワクチン接種が種苗導入年の5~9月に実施され,ピークは6月であった(図 1B)。2回目のワクチン接種は,種苗導入年の6~7月に実施するパターンと翌年の2~4月に実施するパターンが確認された。以後,前者を連続接種,後者を越年接種とした。2回目接種時の平均魚体重は,連続接種が 88.8 gで,越年接種が 1,783 gと大きく,本ワクチンの用法・用量に記載された投与可能な魚体重を超えていた(表2)。2回目のワクチン接種時の平均水温は,連続接種が21.8°Cで,越年接種が15.8°Cと低かった。追加接種の時期が2つに分けられた理由として,8~10月は水温が高く,一般的に高水温ではワクチン接種のストレスで死亡する危険性が高まること(乙竹,2009),夏から冬にかけてレンサ球菌症の発生時期であること(室賀,2004),そして10月以降はブリ出荷の繁忙期であること(重野,2019)が考えられる。作業効率は,小型魚に接種する連続接種の方が,大型魚への接種を余儀なくされる越年接種よりも優れている。にもかかわらず越年接種を実施する業者が存在するのは,追加接種の時期をなるべく遅らせることでワクチンの有効性を出荷まで持続させようという意図があるものと推測される。秋種苗では,1回目のワクチン接種は導入年の11月から翌年の2月に実施され,追加接種は翌年の4~6月に実施されていた(図 1C)。2回目のワクチン接種時の平均魚体重は 420 gであり,春種苗の連続接種より大きく,越年接種より小さかった。2回目接種時の平均水温は21.5°Cで1回目の接種時とほぼ同じであった(表2)。

表1 アンケートで得られたワクチンの接種パターン

パターンワクチンの種類1)回答
no.1回目2回目3回目ロット数2)
15混oilα2-5
25混oil--5
34混5混oil-1
44混α2-1
54混--1
6α25混oilα22
7α25混oil-4
8α2α2-9
9α2--2
合計30
1)  “5混oil”はピシバック注5 oil,“4混”はピシバック注4,“α2”はピシバック注レンサα2を表す。

2)  同一のワクチン接種計画で処理された魚群の数。同一養殖場でも,異なる魚群に対して異なる接種計画を採用することがある。

図1 ブリの種苗導入時期とワクチン接種時期

ブリの種苗導入時期を示す(29ロット)。1ロットは導入時期が不明のため除外した。春の稚魚の大半は天然種苗である。7月に導入された稚魚は人口種苗である可能性が高いため“その他”と分類した。(B)春種苗に対するワクチン接種を示す(22ロット)。追加接種は,夏または冬から翌年の春にかけて実施された。(C)秋種苗に対するワクチン接種を示す(5ロット)。

表2 接種時期別の追加接種の有効性および接種条件の比較

種苗導入
時期
追加接種の
接種時期
有効性2)
(ロット)
平均水温(°C)3)
(Min – Max)
体重(g)
(Min – Max)
レンサ球菌症
の発生4)
(ロット数/
総ロット数)
平均投薬
回数5)
(回)
著効
有効
無効
不明
1回目2回目3回目1回目2回目3回目
春
(3~6月)
夏
(連続接種)
2218.8
(17–21)
21.8
(20–24)
-40
(30–50)
88.8
(80–95)
-0(4)0.0
冬・翌春
(越年接種)
11022.6
(21–24)
15.8
(15–17)
-192
(50–600)
1,783
(1,330–2,100)
-9(11)4.9
春のみ
(単回接種)
--22.0
(21–23)
--86
(50–102)
--4(5)5.4
その他1)2120.7
(20–21)
22.0
(18–24)
17
(17–17)
62
(55–70)
740
(100–2,000)
2,100
(2,000–2,200)
0(3)0.0
秋
(10~12月)
冬・翌春2021.0
(21–21)
21.5
(19–24)
-64 .0
(58–70)
420
(290–550)
-2(2)3.0
秋のみ
(単回接種)
--19.0
(16–21)
--53
(50–60)
--3(3)3.7
その他
(7月)
秋2025.0
(24–26)
20.5
(20–21)
-50
(30–70)
650
(300–1,000)
-1(2)1.0
1)  連続接種と越年接種の中間時期の10月に追加接種したロットや3回接種のロットを含む。

2)  追加接種の有効性に対する養殖殖業者の主観的な判断を示し,著効(発生がほとんど認められなかった),有効(発生がかなり少なかった),無効(発生が変わらなかった),不明(発生が認められなかったが,ワクチン効果によるものか判断できない)の項目から選択する形式とした。無回答は“無効・不明”として処理した。単回接種ワクチンの有効性に関する判断を回答した業者もあったが,いずれも“不明”であった。ただし本調査は追加接種の有効性を把握するためのものだったため,結果は示さなかった。

3)  15°C以下との回答は15°Cとして処理した。

4)  無回答は発生なしとして処理した。

5)  回答用紙に示された対応範囲で答えた場合,“1~5回”と答えたロットは3回,“6~10回”と答えたロットは8回,“11~15回”と答えたロットは13回および“16~20回”と答えたロットは18回として平均値を計算した。回答がなくレンサ球菌症の発生もなかったロットは“0回”として扱った。

養殖業者による主観的な効果の判定では,追加接種を実施したと回答を得た22ロットのうち,著効5ロット(23%)および有効14ロット(64%)を合わせると19ロット(87%)であり,追加接種したロットの9割近くでその有効性を実感していた(表2)。主観的な効果に加え,レンサ球菌症の発生ロット数および投薬回数による客観的な効果を比較した(表2)。接種時期で比べると,連続接種では2歳魚までレンサ球菌症の発生が抑えられ投薬もなかった(表2)。一方で,越年接種では1回目と2回目の接種の間にレンサ球菌症が発生しているケースが散見され,平均投薬回数は単回接種とほぼ同じであった。

追加接種した事例の中で,2業者は単回接種群と追加接種群を同一条件で飼育しており,それらのレンサ球菌症による累積死亡率およびレンサ球菌症発生時の投薬回数を比較した。事例1では1回目および2回目ともにビシパック注レンサα2を投与し,レンサ球菌症による累積死亡率は単回接種区が10.8%で,追加接種区が3.6%であった。レンサ球菌症発生時の投薬回数は,それぞれ16~20回と11~15回との回答が得られた。事例2では1回目にビシパック注 5 oilを2回目にビシパック注レンサα2を投与し,レンサ球菌症による累積死亡率が単回接種区と追加接種区で,それぞれ0.5%と0.1%,レンサ球菌症発生時の投薬回数がそれぞれ5~6回と3回であった。いずれの事例においても,追加接種区で累積死亡率の低下および投薬回数の減少が確認された。

自由記述においては,レンサ球菌症の発生が全くなく効果を実感できなかったケースを除き,追加接種したロットでは単回接種のロットと比較してレンサ球菌症による死亡が少なかった,1回目の接種後ではレンサ球菌症の発生がみられたロットでも2回目の接種以降発生がなくなった,といった追加接種の効果を実感するような意見が確認され,有効性を疑問視する意見は無かった。また追加接種と直接関係はないものの,オイルアジュバント入りワクチンであるピシバック注 5 oilにより被害が減少した,と感じる業者も存在した。追加接種のデメリットとしては,ワクチン接種回数の増加による作業時間と労力の増大や,大型魚への接種に伴う問題点(労力の増大,麻酔が効きにくい,針刺し事故の危険性の増加など)が挙げられていた。その他の意見として,追加接種のデメリットを解決するためのより効果の高いワクチンの開発,経口ワクチンの開発,および自動ワクチン接種機の開発などが求められていた。一方で,ワクチンの複数回接種に伴う大量斃死など魚側の安全性に関する回答はなく,重大な問題は確認されなかった。

本アンケート結果より,追加接種はブリのレンサ球菌症の予防策として有効であることが示唆された。また,追加接種のタイミングとして,種苗導入後に間をあけずに2回のワクチン接種を完了させる連続接種が,接種作業に危険を伴いかねない大型魚への接種を避け用法の範囲内に体サイズを収めることができる点と,1回目と2回目の接種の間に起こる本疾病の発生での被害を避けることができる点において優れている。上記考察はあくまでアンケート結果に基づくものであり,今後は,市販ワクチンの持続期間や追加接種の効果を実験的に明らかにすることに加え,追加接種に伴う魚体への毒性や臨床データ等の安全性に関する知見を蓄積し,科学的根拠に基づく適切なワクチネーションプログラムを提案していく必要がある。引き続き,水産物と接種作業者の安心と安全を担保するために,水産用医薬品の適切な使用が望まれる。

謝辞

農林水産省消費安全局の令和4年度水産防疫対策事業で実施いたしました。同局においては,アンケート内容の推敲,調査の調整や問い合わせの窓口など多岐にわたりご協力・ご助言賜りました。ここに深く謝意を表します。また,アンケート対象者の選定や回収に尽力いただきました一般社団法人全国海水養魚協会に深く感謝申し上げます。最後に,本アンケートに貴重な情報を快く御提供いただいた養殖業者のみなさまに最大の敬意を表するとともに,心より感謝申し上げます。

文献
 
© 2026 日本魚病学会
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