抄録
えら腎炎の発生が予想される静岡県焼津市のM養鰻場を指定池として,1972年12月から翌年の6月まで毎月定期的に6~10尾,合計59尾を採捕し,その血液性状と鰓・腎病変の変化を調査した。その結果,以下のようなことが判った。1) 赤血球数,ヘマトクリット値および血色素量は12月から増加しはじめ,翌年の3月にはそれぞれの平均値が273×104/mm3,39.7%,11.12g/dlと正常値より高くなり,全期間中最高となった。これに対し血漿Cl-濃度は負の相関を示し,3月には最低の47meq/lとなった。2) このような血液性状の変化に対応して,鰓薄板のゆ合と腎臓の退行性病変は進行し,3月に最も顕著になった。また,3月の採捕時には異常遊泳魚と斃死魚が観察された。3) したがって,本調査群におけるえら腎炎の発症盛期は,1973年の3月であったと考えられる。4) 3月の食塩撒布を経て,赤血球数,ヘマトクリット値,血色素量および血漿Cl-濃度は正常値に回復し,鰓薄板のゆ合や腎尿細管上皮細胞の退行性病変は軽微になった。しかし,6月の調査魚に再び腎尿細管上皮細胞の高度な硝子滴変性が高頻度で出現した。