民族衛生
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イランの1農村に於ける土地所有と人口移動について
兜 真徳
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1974 年 40 巻 6 号 p. 291-305

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抄録

 イラン・ケルマン地方(中央部乾燥地帯)で,耕地が得られる少量の水に制限され,また不在地主達による土地所有がその社会・経済構造を強く規定している1農村を対象として・1972年11月から2ヵ月間の調査結果に基づき,その人口支持力(population carrying capacity)について検討した. 1.222人,45世帯が住むこの村は,農地改革後の現在も,86%の土地,94%の水利権は都市居住の約20人の不在地主達に所有されていた.世帯は世帯主の生計活動により,農民世帯(自作,定額小作および農業賃労働者)と非農民(大工,風呂焚き,牧畜等)に分けられ,その年間収入は,農業賃労働者と非農民の約3万から自作農の14万リアル(1リアル:約4円)であったが,住民全体の総収入は耕地の総生産額の4%にすぎないと推計された. 2.一方,高い出生力の持続と近年における乳幼児死亡率の顕著な低下から,人口は急増しているが,とくに他村への人口移動がこれを緩和していた. 3.耕地の総生産額は,小麦からピスタチオ(pistacia vera)という換金作物への転換により約32倍に増加したが,人口,世帯数および住民の総収入の増加は,数倍以内に止まっていると推計された. 4.以上とは別に,家族の成長周期という観点から世帯の収容能力についても検討した. 結論として,(a)村の世帯数はほぼ一定に保たれ,すなわち制限されていたが,これは不在地主達の労働力需要に対応していること,(b)こうした制限のため,とくに土地非所有家族が他村へ分散したこと,(c)今後生産年令人口の急激な増加に伴ない村~ 村の移動は,こうした社会・経済構造をもつこの地方の村の人口支持力の限界のため困難となり,都市への移動が増加すること,が考えられた.

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