民族衛生
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乳幼児の発達スクリーニング検査(JDDST)とその後の発達
上田 礼子
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1988 年 54 巻 2 号 p. 76-82

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抄録

 我が国には乳幼児期に標準化された発達検査あるいは知能検査の長期的妥当性を検討したものはほとんどない.発達スクリーニング検査については短期的・長期的妥当性ともに検討されたものが少ない現状である. 本研究は1975~1979年に日本版デンバー式発達スクリーニング検査の対象となった乳幼児1,830人(東京群1,230人,岩手群600人)を対象として6-8年後に追跡調査を実施し,その長期的妥当性を検討することを目的とした. 方法は母親および教師を対象として,それぞれ別個に質問紙を作成し,双方から現時点における子どもの状態に関する情報を得ることであった.可能な者には面接を行ない個別検査を実施して質問紙法の妥当性を確かめた.知的発達状態の評価に関する両者の一致率は88%であった. 結果:1)東京群の検討から,(1)検査当時にJDDST評価が正常だった者の中から発達遅滞児1.3~2.2%が出現していた.これは一般に学童期における発達遅滞児の出現率2.1%に近い値であった.(2)検査当時にJDDST評価が正常でなかった者の中から学童期に正常に変化している者があった.この変化の様相には検査実施時の年月齢が関係し,これを遅滞児の発見という視点からみると24ヵ月以下の予測性は低いが,年齢の増加につれて上昇することが明らかになった. 2)岩手群の検討からJDDST標準化の際に新たに作成した補正版はこれを使用することによって偽陽性率が減少し,長期的妥当性は高まることが確認された.云いかえれば,これは子どもの住む社会一文化的環境と同時に地理的環境も考慮して発達評価の結果を解釈することの必要性を示唆していると考えられる.

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