2015 年 16 巻 1 号 p. 125-137
日本では,労働市場で活躍する女性が少ない。それは,終身雇用制度や年功賃金制度といった日本的雇用制度が女性にとって不利な制度であるからではないだろうか。本稿は,そのような問題意識に基づき,終身雇用制度や年功賃金制度などの日本的雇用制度の特徴と女性の活躍の間にどのような関係があるかを分析し,女性活躍のために必要な施策について議論する。
分析の結果,終身雇用制度の特徴が強い産業で女性のフルタイム労働者が少ないこと,年功賃金制度の特徴が強い産業では,女性の相対賃金が低く,女性管理職の割合が低いことが明らかになった。これらの結果は,日本的雇用制度の特徴が強い産業では女性が活躍しにくいことを示している。
分析から以下のようなインプリケーションが得られる。第1に,中途採用を増やすことが,女性フルタイム労働者の増大にとって必要である。新卒採用中心で,中途採用が少ない産業では,女性労働者の割合を高くすることが難しいことを推定結果は示している。
第2に,勤続重視の処遇制度を改めることが,女性の活躍にとって重要である。賃金制度が年功的な産業では,男女の賃金格差が大きく,女性管理職割合が低い。このことは,勤続重視の処遇を行なっている企業が多い産業では女性が活躍しにくいことを意味している。賃金が年功的である企業では,賃金制度だけでなく,配置や昇進においても年功を重視していると推測できる。勤続重視の処遇に代わる制度とは,能力や実績重視の処遇である。若い人や中途採用された人を実力主義で登用する企業で女性は活躍できる。
第3に,女性フルタイム労働者数の増大には,労働時間の短縮が必要である。推定結果によれば,労働時間が短い産業では,女性フルタイム労働者が多い。これは,労働時間短縮に限らず,育児支援や介護支援など,ワークライフバランス施策全般に当てはまるだろう。ワークライフバランス施策の充実が女性フルタイム労働者の増大にとっては不可欠である。
しかしながら,第4に,労働時間の短縮は,必ずしも女性の相対賃金の上昇や女性管理職の増大につながるわけではない。推定結果によれば,労働時間は女性フルタイム労働者の割合と有意に負の関係があるが,女性相対賃金とは有意に正の関係があり,女性管理職割合とは有意な関係がない。ワークライフバランス施策は,女性にとって働きやすい職場を作るために必要であるが,それだけでは女性が活躍する職場にはならないことを示唆している。