日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
論文
多様な非正社員の人事管理 ―人材ポートフォリオの視点から―
西岡 由美
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2016 年 17 巻 2 号 p. 19-36

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ABSTRACT

Most preceding studies on human resource management of non-regular employees have focused on comparing them with regular employees and did not consider the diversity of non-regular employees. However, from the current state of diversification of employee category and the fact that more than one employee category is set under the non-regular employee category, understanding the reality of the application and the personnel management of non-regular employees becomes difficult in the companies using a conventional framework of two divisions: regular and non-regular employees. Furthermore, from the view of balanced treatment of employee categories, the complication of a company's human resource portfolio (HR portfolio) through diversification of non-regular employee leads to a problem of balanced treatment between different categories of non-regular employees. This new diversity increases the necessity of personnel management to consider the various non-regular employees' categories equally.

Therefore, using micro data from an original survey, this study examines two points: (1) the conditions of employment and application of three different groups of non-regular employees: contract, part-time, and shokutaku employees (temporary employees hired after retiring from regular employment) and (2) the influence of the HR portfolio (the employment ratio and job level) of non-regular employees on personnel management of non-regular employees.

My analysis provides the following results. First, the evaluation and treatment of all nonregular employees tend to conform nearly to that of regular employees when the employment ratio of contract employees or part-time employees is high compared with that of the other nonregular employee groups in the same company. This suggests that when the employment ratio of a particular non-regular employee increases, the company begins to development the evaluation and treatment systems for that group. Consequently, to secure fairness between a particular non-regular employee group and the other non-regular employee groups, we see progress in the development of evaluation and treatment systems for the entire group of non-regular employees.

Second, in companies where shokutaku takes charge of higher-level jobs, there is less development of evaluation and treatment systems for all non-regular groups. Even when contract, part-time, and shokutaku employees are in the non-regular employee category, companies treat each of them differently in personnel management. Therefore, we do not see the ripple effect in shokutaku mentioned above.

Third, the development of education and training system for the non-regular employees does not influence the HR portfolio of non-regular employees. Education and training is indispensable to make the best use of employees in a company. Even if the content is different from regular employees, a high possibility exists that education and training for non-regular employees is beneficial and will be executed by companies.

Fourth, when the division of jobs between contract and part-time employees is ambiguous, a company tends to consider the development of evaluation and treatment systems for them. In contrast, when the division of jobs is clear, a company does not consider the development of evaluation and treatment systems. When a contract employee's job level and the division of jobs advance compared with that of the part-time employee, a company makes different personnel management choices for each of them, and a contract employee will be managed separately from a part-time employee.

1. はじめに

1990年代半ば以降,正社員数が減少する一方で,非正社員数が増加している。総務省「就業構造基本調査」によると,2012年の「雇用者(役員を除く)」5,354万人のうち「非正規の職員・従業員」は2,043万人(雇用者(役員を除く)に占める割合38.2%)であり,前回調査の2007年と比べると,「非正規の職員・従業員」は149万人増加している。このように,非正社員は増加しつつあるが,それに伴い非正社員の内部で複数の雇用区分を設ける企業が増加し,企業で雇用される非正社員はパートタイマー,アルバイト,契約社員,準社員,嘱託社員など多様化している(佐藤・佐野・原,2003今野,2010など)。

非正社員の人事管理についての先行研究の多くは,正社員との比較に焦点を絞り,非正社員の多様性はあまり考慮してこなかった。しかしながら,雇用区分の多様化が進行し,非正社員のなかに複数の雇用区分が設定されている現状からすると,従来の正社員と非正社員という二分割の枠組みでは,企業の非正社員の活用や人事管理の実態を把握することが難しくなっている。さらに非正社員の人事管理の規定要因は様々考えられるが,雇用区分間の均衡処遇の重要性に鑑みると,非正社員の多様化は非正社員の雇用区分間の均衡処遇の問題を顕在化させ,多様な非正社員全体を視野に入れた人事管理の在り方を問うことになろう。

そこで本研究では,同一企業内で就労する「契約社員・準社員」「パートタイマー・アルバイト」「嘱託社員」といった異なる非正社員グループの人材ポートフォリオの実態を明らかにした上で,非正社員の人材ポートフォリオの在り方が非正社員の人事管理に及ぼす影響を検討する。

2. 先行研究

わが国ではこれまで企業の人材を正社員と非正社員に大きく区分し,人事管理の在り方について様々な議論が行われてきた。しかしながら,同一企業内における雇用区分の多元化や雇用区分の組み合わせの多様化により,正社員と非正社員といった従来の枠組みでは企業の人事管理の在り方を検討することが難しくなっている(佐藤・佐野・原,2003島貫,2011; 今野,2010など)。例えば蔡(2007)は,非正社員のなかで賃金に代表される労働条件の多様化が進んでいる点を指摘し,非正社員に関する研究における非正社員の多様性の視点の重要性を主張している。さらに仁田(2011)は,パートタイマー・アルバイトの短時間就労中心型と契約社員・派遣社員のフルタイム就労中心型からなる非正社員の二層構造を指摘し,パートタイマー・アルバイトと契約社員・派遣社員では,労働時間,年収,学歴構成の面で違いがあることを明らかにしている。また島貫(2011)は,正社員と非正社員の仕事の重なりや非正社員の就業形態に注目し,非正社員の活用が,正社員は中核的業務に従事させ非正社員は周辺的な業務に従事させるという伝統的なタイプからいくつかのタイプに分化していることを指摘している。

このような多様な雇用区分の設定と組み合わせについては,1990年代半ば以降,人材ポートフォリオとして議論されてきた。人材ポートフォリオとは,企業にとって最適な戦略や目標を達成するために,事業ないし業務内容に応じて人材を類型化し,類型ごとに適合的な人事管理を提示しようとするものである(Lepak and Snell, 19992002, 西村・守島,2009平野,2009大橋,2015)。しかしながら,これらの研究の基本的な問題関心は「Make」(長期雇用で内部育成する正社員)と「Buy」(短期雇用で市場から適宜スポット調達する非正社員)の境界設計にある(平野,2009)。そのため,非正社員比率が35%超になり,職務やスキルが高度化し,基幹労働力化する非正社員が増えているという日本の現状を踏まえると,「Make」と「Buy」の選択を中心とする人材ポートフォリオの考え方を,日本にそのまま当てはめて議論することは困難である。さらに企業がある事業を遂行するには,必要とされる人材を異なるタイプの社員に分類するだけではポートフォリオを編成することはできず,それぞれのタイプがどの程度必要か,つまり労働需要の質と量を同時に決定する人材タイプ別の要員決定メカニズムが必要となる(中村, 2015)。そこで本稿では,日本企業の非正社員の活用実態に適合した人事管理の在り方を検討するために,非正社員の人材ポートフォリオを,①異なる非正社員グループの組み合わせ,②非正社員の雇用比率(全従業員数に占める非正社員の割合)という量の面,③非正社員が担当する仕事レベルという質の面の3つの側面から捉えることとする。なお本稿ではそれらを区別するために,それぞれ雇用構成タイプ,量的ポートフォリオ,質的ポートフォリオと呼ぶ。

また非正社員の活用と人事管理との関係については,既に多くの研究が蓄積されており,非正社員の基幹労働力化のためには人事管理の整備が重要であることが指摘されている(武石,2003西本・今野,2003本田,2007有賀・神林・佐野,2008など)。基幹労働力化とは,正社員との対比で非正社員がどの程度高度な仕事に就いているか,つまり非正社員と正社員の分業構造を示す概念である(武石,2003)。そのため非正社員が多様化し,正社員と非正社員の分業構造が従来の正社員と非正社員といった単純な組み合わせから,正社員と非正社員グループ1と非正社員グループ2といった多様な組み合わせに変化すると,人事管理の在り方はそれに合わせて変化することになろう。その時に特に問題となるのは均衡処遇である。自分の処遇が公正に決定されているのか(つまり,均衡処遇が実現されているのか)を判断する場合,通常,労働者は個人属性に基づく比較対象を選択するが,役割内容などの状況特性が類似するほど状況特性に基づいて比較対象を選択するようになる(島貫,20072012平野,2013)。そのため,例えば基幹パートは自らの処遇水準の妥当性を判断する際に,比較対象として職務を同じくする正社員を選ぶ傾向にある(島貫,2007)。このようにして非正社員の基幹労働化は,正社員との均衡処遇の必要性を高めるが,一方で非正社員の多くが意識する比較対象は正社員ではなく非正社員であるとの実証結果もある(奥西, 2008)。つまり図1に示すように,人事管理の視点からすると,非正社員グループが多様化すると,正社員と非正社員の均衡(between)とともに異なる非正社員グループ間の均衡(within)への対応が求められる。そこで,これら2つの均衡を検討することの重要性を念頭に置いた上で,本稿では多様な非正社員の組み合わせと人事管理との関係を検討するための第一段階として,正社員と複数の非正社員グループとの均衡(between)に着目する。

図1 均衡の捉え方

3. 研究課題とデータ

3-1. 研究課題

本稿の研究課題を改めて整理すると,次の2点である。第一に,同一企業内における多様な非正社員グループからなる人材ポートフォリオの実態を,前述の雇用構成タイプ,量的ポートフォリオ,質的ポートフォリオの観点から明らかにする。非正社員の人材ポートフォリオに適合した人事管理の在り方を検討するためには,まずは多様な非正社員グループの活用実態を正確に把握することが必要だからである。

先行研究では非正社員の基幹労働化が進むほど,正社員と非正社員間の均衡処遇の必要性が高まることが指摘されているが,これらの研究は非正社員全体もしくは特定の非正社員に着目した研究が中心であり,非正社員の人材ポートフォリオが正社員との均衡処遇にもたらす影響は解明されていない。そこで非正社員の量的・質的ポートフォリオと人事管理との関係を分析することにより,非正社員の人材ポートフォリオが非正社員の人事管理に及ぼす影響を明らかにする。これが第二の研究課題である。この研究課題に応える統計分析を行う際に問題になることは,非正社員の人事管理の特性を計量的にどのように捉えるかである。本稿では,どの程度正社員に近い制度がとられているかの視点から非正社員の人事管理の特性を計量化する。

なお,非正社員の類型およびその呼称は企業によって様々だが,非正社員は人事管理上,短時間勤務かフルタイム勤務かといった労働時間数で区分されることが多い。このうち前者を代表するのがパートタイマー,アルバイトであり,後者を代表するのが契約社員,準社員である。さらに近年,定年後の高齢社員を労働時間数に関係なく嘱託社員として類型化する企業が増加している。そこで本稿では,非正社員が「契約社員・準社員(以下,契約社員)」「パートタイマー・アルバイト(以下,パート)」「嘱託社員」から構成されていることを前提とし,これら3つのグループの組み合わせから非正社員の人材ポートフォリオを捉えている。

3-2. データ

分析には,2014年7月に実施した「多様な働き方に関する調査」のデータを用いる。具体的には,東京商工リサーチの企業データから第一次産業および公共・宗教関連を除く全ての業種で,従業員数の上位順に抽出された全国の民営企業15,000社に対し,郵送法による質問紙調査を実施した。調査の回答にあたっては,契約社員,パート,嘱託社員のいずれかを雇用している企業のみに質問紙を返信してもらった。有効回答数は903社(有効回答率6.0%)である。なお,同調査では契約社員,準社員,パートタイマー,アルバイトは企業における呼称に基づいて回答してもらい,嘱託社員は定年後の再雇用者・継続雇用者について回答してもらった。

分析対象の主な企業属性は,従業員総数が平均889.9人(S.D.=1486.8),非正社員比率が平均29.6%(S.D.=23.6),正社員に占める女性比率が31.3%(S.D.=23.4)である。業種は製造業が18.3%で最も多く,これに医療・福祉業(15.9%),卸・小売業(15.0%)が続いている。

4. 人材ポートフォリオの実態

4-1. 非正社員の雇用構成タイプ

まず非正社員の雇用構成タイプの現状について確認する。表1に示すように,「多様な働き方に関する調査」では,契約社員,パート,嘱託社員といった3つの非正社員グループを全て雇用している企業「全て雇用」が約半数を占める。また2つの非正社員グループを組み合わせて雇用している企業は37.9%で,このうちパートと嘱託社員を雇用している「パート+嘱託」が16.7%と最も多い。さらに特定の非正社員グループのみ雇用している企業(「契約のみ」「パートのみ」「嘱託のみ」の合計)は13.3%にとどまることから,非正社員を雇用している企業では,複数の非正社員グループを組み合わせて雇用する傾向が確認できる。

次いで企業属性との関係をみると,業種別には製造業(50.3%),卸・小売業(55.6%),教育・学習支援業(58.3%)は「全て雇用」が他の業種に比べて多い。情報通信業は「契約+パート」(17.9%),「契約+嘱託」(21.4%),「契約のみ」(10.7%)が多く,いずれも契約社員が含まれることから,他の業種に比べて契約社員を雇用する傾向が強い。さらに運輸業は「嘱託のみ」(11.4%)が多く,金融・保険業,不動産業は「パート+嘱託」(35.7%)が多い。サービス業は「契約+パート」(20.2%),「パートのみ」(11.4%),医療・福祉業は「パート+嘱託」(25.0%),「パートのみ」(11.4%)が多く,両業種とも他の業種に比べてパートを雇用する企業が多い。これらの結果が示すように,どのような非正社員グループを雇用するかは業種によってかなりばらつきがみられる。企業規模別には,従業員数が多い企業ほど「全て雇用」の割合が高い。さらに非正社員比率別にみると,同比率が高いほど「全て雇用」と「契約+パート」が多く,「契約+嘱託」と「嘱託のみ」が少ないことから,嘱託社員は非正社員を積極的に雇用していない企業で雇用される傾向にある。

表1 非正社員の雇用構成タイプ

4-2. 非正社員の量的ポートフォリオ

多様なタイプの非正社員を雇用した時に,企業がどのような人材ポートフォリオをとり,それが人事管理にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするために,以下では契約社員,パート,嘱託社員を全て雇用している「全て雇用」の419社に絞り,人材ポートフォリオの現状を確認する。

まず「全て雇用」企業における契約社員,パート,嘱託社員の雇用比率(いずれも対従業員総数)をみると,パートが平均17.9%(S.D.=19.7)で最も高く,これに契約社員が平均11.4%(S.D.=13.1),嘱託社員が平均3.4%(S.D.=3.8)で続いている。また最大値をみると,パートは92.4%,契約社員は79.7%であるのに対して,嘱託社員は27.6%にとどまり,3つの非正社員グループのうち嘱託社員の雇用はそれほど進んでいないことがわかる。

さらにこれら雇用比率をクラスター分析することにより,企業がどのような量的ポートフォリオをとっているのかをみる。分析の結果,4つのタイプが抽出された(図2参照)。タイプ1は,他のタイプに比べて契約社員,パート,嘱託社員の全ての雇用が少ない企業群である(以下,「非正社員消極活用型」)。タイプ2は,契約社員の雇用比率が平均32.0%と高い企業群であり(以下,「契約社員活用型」),タイプ3は,パート社員の雇用比率が平均55.3%と従業員の約半数をパートが占めている企業群であり(「パート活用型」),タイプ4は,他のタイプに比べ嘱託社員の雇用比率が高い企業群である(以下,「嘱託社員活用型」)。このうち,最も多いのは「非正社員消極活用型」であり,全体の6割を占めている。

この4つの企業タイプと企業属性との関係をみると,業種別には,医療・福祉業で「契約社員活用型」,運輸業で「嘱託社員活用型」,製造業と情報通信業と金融・保険・不動産業で「非正社員消極活用型」,教育・学習支援業で「パート活用型」が多い。企業規模別には,大手企業ほど「パート活用型」が多く,「非正社員消極活用型」が少ないといった特徴がみられる。さらに企業タイプ別に雇用される非正社員の職種の特徴をみると,「契約社員活用型」は契約社員を専門職・技術職や事務職に,パートを専門職・技術職に,嘱託社員を事務職,サービス職に多く従事させている。「パート活用型」は,契約社員とパートを営業・販売職やサービス職に従事させる傾向がみられる。「嘱託社員活用型」は契約社員,パート,嘱託社員にかかわらず専門・技術職が少なく,生産工程・労務作業者が多いといった特徴が確認された。「非正社員消極活用型」は特に傾向はみられなかった。

図2 量的ポートフォリオ(雇用比率):全非正社員グループ対象

4-3. 非正社員の質的ポートフォリオ

質的な側面から非正社員の人材ポートフォリオの現状を確認する。「多様な働き方に関する調査」では,非正社員の仕事レベルを次の方法で調査している。正社員と同等の仕事をしている人がいる場合には,その仕事レベルが正社員のどの等級(ランク)の仕事に対応しているかを回答してもらい,正社員と同等の仕事をしている人がいない場合には,正社員の高卒初任格付けの仕事と比較し,3段階(やや低い=0,低い=-1,とても低い=-2)で回答してもらっている。

そこで,まず正社員と同等の仕事をしている人がいる場合の各非正社員グループの仕事レベルを箱ひげ図にした。図3に示すように,嘱託社員が平均5.6等級とかなり高いレベルの仕事を担当しているのに対して,契約社員は平均3.7等級と大卒初任格付けよりほぼ1等級上のレベル,パートは平均3.0等級と大卒初任格付けレベルとなっている。また同じ非正社員グループ内での仕事レベルの幅をみると,嘱託社員が平均1.9等級(最大6.6-最小4.7等級)と同じ嘱託社員のなかでのばらつきが大きく,パートは平均0.7等級(最大3.3-最小2.6等級)とばらつきが小さい。

さらに正社員と同等の仕事をしている人がいない場合について,前述の3段階の回答結果をみると,パートが平均-0.5と低く,契約社員と嘱託社員はともに平均-0.2である。以上のように同じ非正社員であっても,非正社員グループによって担当する仕事レベルにかなりばらつきがみられる。

この非正社員の担当する仕事レベルをもとに,クラスター分析をした。分析にあたっては図3で示した,正社員と同等の仕事をしている人がいる場合には対応する等級レベルを,いない場合には高卒初任格付けを基準とした等級レベルのデータを用いた図4に示すように,4つの企業タイプが抽出された。最も多いのはタイプ1であり,パートと契約社員に比べて嘱託社員の仕事レベルが6等級と非常に高い企業群である(以下,「嘱託社員戦力化型」)。タイプ2は,全ての非正社員グループについて,平均すると大卒初任格付け等級レベル以上の仕事を任せており,非正社員全体に高度な仕事を任せている企業群である(以下,「非正社員戦力化型」)。タイプ2と対照的にタイプ3は,非正社員が担当する仕事レベルが低く,最も高い契約社員でさえも平均0.92と1等級以下であることから,正社員と同等レベルの仕事を担当している非正社員が少ない企業群である。言い換えると,正社員と非正社員では担当する仕事が明確に区分されている企業群である(以下,「職域分離型」)。タイプ4は,パートに比べて,嘱託社員と契約社員の仕事レベルが非常に高い企業群である(以下,「契約+嘱託社員戦力化型」)。

これら企業タイプと企業属性との関係をみると,業種別には製造業で「嘱託社員戦力化型」,情報通信業で「契約+嘱託社員戦力化型」,運輸業で「職域分離型」,金融・保険・不動産業と教育学習支援業で「非正社員戦力化型」と「嘱託社員戦力化型」,サービス業で「非正社員戦力化型」の割合が高い。企業規模別には従業員数が少ないほど「嘱託社員戦力化型」が多い。さらに企業タイプごとに非正社員の職種の特徴をみると,「非正社員戦力化型」は契約社員,パート,嘱託社員ともに専門職・技術職が多く,「職域分離型」は運輸・通信職が多い。「契約+嘱託社員戦力化型」は契約社員で事務職や営業・販売職が多く,パートで生産工程・労務作業者,嘱託社員で営業・販売職,生産工程・労務作業者が多い。「嘱託社員戦力化型」は職種による特徴はみられない。

図3 非正社員グループ別の仕事レベル
図4 質的ポートフォリオ(仕事レベル):全非正社員グループ対象

5. 全非正社員グループを対象とした分析

以下では,契約社員とパートと嘱託社員の3つの非正社員グループからなる人材ポートフォリオが非正社員の人事管理に与える影響を検討するために,人事管理制度の整備度を従属変数,人材ポートフォリオ(量的ポートフォリオ,質的ポートフォリオ)を独立変数,企業属性と人事方針をコントロール変数とする重回帰分析を行った。

5-1. 主な変数

(1) 従属変数

正社員と非正社員の均衡処遇に関する実証研究は数多く存在するが,その際に用いられる均衡処遇の尺度は多様である。均衡処遇の尺度は「処遇の水準」と「決め方」に大別されるが,西本・今野(2003)が指摘するように,本来「処遇の水準」とは「処遇の決め方」によってもたらされる最終的な結果であり,「処遇の決め方」を検討しない限り,「処遇の水準」の均衡の問題も解決されない。そこで本稿では,人事管理の結果としての水準ではなく,それを決定する人事管理制度の整備状況に着目する。具体的には,8つの人事管理制度・施策の整備度(3つの非正社員グループ全てに実施している=3,2つのグループに実施している=2,1つのグループに実施している=1,全てに実施していない=0)について探索的因子分析(主因子法,バリマックス回転)を行った。その結果,2つの因子が抽出された。第一因子は「目標管理制度」「人事評価制度」「自己申告制度」「社員格付け制度」「昇給制度」といった評価や処遇にかかわる項目であるため,この因子を「評価・処遇」とし,5項目の総和の平均を算出した(信頼性係数α=.721)。第二因子は,「仕事に直接関連する研修」「採用時の導入研修」「自己啓発の援助」といった項目で負荷量が大きいため,「教育訓練」とし,3項目の総和の平均を算出した(信頼性係数α=.596)。

なお,これらの人事管理制度は正社員を対象に大多数の企業で導入していることが想定されることから,それぞれの変数の値が大きいほど,より多くの非正社員グループに対して正社員に近い人事管理制度が整備されていると考えられる。本稿では,上記の変数をそれぞれ「評価・処遇制度の整備度」「教育訓練制度の整備度」とする。評価・処遇制度の整備度の平均は1.083点,教育訓練制度の整備度は1.506点であり,教育訓練制度の方が評価・処遇制度に比べてより多くの非正社員グループに等しく導入されている。

(2) 独立変数

前述のクラスター分析の結果をもとに人材ポートフォリオに関するダミー変数を作成した。具体的には,量的ポートフォリオは「非正社員消極活用型」をレファレンスとし,「契約社員活用型」「嘱託社員活用型」「パート活用型」の3つのダミー変数を,質的ポートフォリオは「非正社員戦力化型」をレファレンスとし,「嘱託社員戦力化型」「契約+嘱託社員戦力化型」「職域分離型」の3つのダミー変数を作成した

(3) コントロール変数

コントロール変数は企業属性と人事方針の変数を設定した。まず企業属性として,正社員数(対数),業種ダミー(運輸業,情報通信業,小売・卸売業,金融・保険・不動産業,医療・福祉業,教育・学習支援業,その他サービス業:レファレンス=製造業),非正社員比率(従業員に占める非正社員の割合(%)),正社員数および非正社員数の増減(20%以上増加=5,10~19%増加=4,±10%程度=3,10~19%減少=2,20%以上減少=1)を設定した。ついで人事方針として「仕事と生活の調和の推進」と「中途採用」の変数を設定した。「仕事と生活の調和の推進」は,正社員の働き方の多様化・柔軟化を促進し,従来の雇用区分の設定に変化をもたらす。また「中途採用」に積極的な企業では,外部人材を即戦力として有効に活用するために職務の明確化,仕事配分の再考が求められる。その結果,いずれも同一企業内で働く非正社員の活用の在り方に大きな影響を及ぼすことが考えられる。そこで具体的には,「仕事と生活の調和に配慮した働き方の推進」の質問項目について4点尺度(重視している=1~重視していない=4),「A:採用は新卒採用を中心に行う,B:採用は中途採用を中心に行う」の質問項目について4点尺度(Aに近い=1,ややAに近い=2,ややBに近い=3,Bに近い=4)をコントロール変数として用いた。なお全変数の平均と標準偏差および主な変数間の相関は,34頁の付表に示したとおりである。

付表 主な変数の記述統計と相関係数:全非正社員グループ対象

5-2. 分析結果

分析結果は表2のとおりである。第一に,量的ポートフォリオと評価・処遇制度の整備度との関係をみると,「契約社員活用型」「パート活用型」がいずれも評価・処遇制度の整備度に有意な正の影響を示した。これは他の非正社員グループに比べて契約社員,パートの雇用比率がそれぞれ高い企業では,非正社員の評価・処遇の面で人事管理制度の整備が進む傾向にあることを示している。

第二に,質的ポートフォリオと評価・処遇制度の整備度との関係をみると,「嘱託社員戦力化型」が評価・処遇制度の整備度に有意な負の影響を示した。この結果は,契約社員やパートに比べて嘱託社員の担当する仕事レベルが非常に高い企業では,他の企業タイプに比べて非正社員の評価・処遇制度の整備が進んでいない,もしくは非正社員グループ間で制度の整備状況が異なることを示唆している。

第三に,人材ポートフォリオと教育訓練制度の整備度との関係をみると,量的ポートフォリオとの間に有意な関係はみられず,また質的ポートフォリオとの間でも「契約+嘱託社員戦力化型」で10%水準の有意な正の影響しか確認できなかった。評価・処遇とは異なり,非正社員の教育訓練制度の整備度は,非正社員の人材ポートフォリオの影響をあまり受けていない。

以上の分析結果を踏まえると,契約社員あるいはパートに特化して多くの非正社員を雇用する量的ポートフォリオをとる場合には,非正社員の評価・処遇制度の整備が進むが,嘱託社員についてはその傾向がみられない。しかも質的ポートフォリオとの関係をみると,嘱託社員に高度な仕事を任せる企業ほど評価・処遇制度が整備されなくなる可能性が示唆された。この企業タイプは,同じ非正社員であっても,嘱託社員の活用には積極的であるが,パート,契約社員の活用には消極的であり,人事管理上の扱いも契約社員,パートと嘱託社員では異なり,嘱託社員の評価処遇制度の整備度は他の企業タイプと同程度であるが,パート,契約社員の評価・処遇制度の整備が非常に遅れている。その結果,嘱託社員を戦力化している企業では,非正社員全体でみた場合に評価・処遇制度の整備度が低くなっている可能性が窺える。

このように回帰分析結果より,嘱託社員と契約社員,パートとの人事管理上の扱いの違いが明らかにされた。それを踏まえると,次に問題になるのは,人事管理上,正社員との均衡処遇を意識する必要性が高い契約社員,パートの2つの非正社員グループの人材ポートフォリオの在り方が非正社員の人事管理制度の整備にどのような影響を及ぼしているのかである。そこで以下では契約社員とパートに焦点を絞り,質的,量的ポートフォリオと非正社員の人事管理制度の整備状況との関係について追加検討を行う。

表2 人材ポートフォリオのタイプと人事管理の均衡度との関係:全非正社員グループ対象

6. パート,契約社員を対象とした追加分析

ここでの分析は,3つの非正社員グループを雇用する企業を対象としたこれまでの分析と同様の手順で行った。まず契約社員とパートの2つの非正社員グループを雇用している企業(513社)の契約社員,パートの雇用比率および仕事レベルを用いてクラスター分析を行い,その結果をもとに量的・質的ポートフォリオのダミー変数を作成し,重回帰分析を実施した。

図5は量的ポートフォリオ(雇用比率)のクラスター分析結果を示したものであり,契約社員,パートともに雇用比率が低い「非正社員消極活用型」,パートの雇用比率が平均49.4%と高い「パート活用型」,契約社員の雇用比率が平均31.4%と高い「契約社員活用型」の3つの企業群が抽出された。

図6は質的ポートフォリオ(仕事レベル)のクラスター分析結果を示したものであり,契約社員とパートが担当する仕事レベルは低く,正社員と職域が分離されている「職域分離型」,契約社員とパートが担当する仕事レベルは大卒初任格付けレベルである「非正社員戦力化型」,契約社員の担当する仕事レベルが非常に高い「契約社員戦力化型」の3つの企業群が抽出された。これらの企業タイプを用いて,量的ポートフォリオでは「非正社員消極活用型」を,質的ポートフォリオでは「職域分離型」をレファレンスとするダミー変数を作成した。従属変数10を契約社員,パートと正社員との「評価・処遇制度の整備度」「教育訓練制度の整備度」,独立変数を量的,質的ポートフォリオとする重回帰分析を行った。

重回帰分析の結果は表3のとおりである。まず,量的ポートフォリオとの関係をみると,表2の分析結果と同様に「パート活用型」「契約社員活用型」が評価・処遇制度の整備度に有意な正の影響を示した。

ついで質的ポートフォリオとの関係をみると,「非正社員戦力化型」が評価・処遇制度の整備度に有意な正の影響を示したのに対して,「契約社員戦力化型」の影響は確認できなかった。契約社員とパートの両グループが正社員と同等の高いレベルの仕事を担当している企業では,非正社員の評価・処遇制度の整備は進む。一方,契約社員の担当する仕事レベルが高くてもパートの担当する仕事レベルが高くない場合には,企業は契約社員の評価・処遇制度は整備するものの,パートの評価・処遇制度の整備は進めず,契約社員への制度導入に伴ってパートへの導入が進むわけではないことが示唆された11

なお量的,質的ポートフォリオともに教育訓練制度の整備度との間には有意な関係はみられなかった。

図5 量的ポートフォリオ(雇用比率):契約社員・パート対象
図6 質的ポートフォリオ(仕事レベル):契約社員・パート対象
表3 人材ポートフォリオのタイプと人事管理の均衡度との関係:契約社員・パート対象

7. おわりに

本稿では,多様な非正社員の人材ポートフォリオの実態を明らかにするとともに,非正社員の人材ポートフォリオが,複数の非正社員グループの人事管理制度の整備状況に及ぼす影響を検証した。

前者については,雇用構成タイプ,量的ポートフォリオ,質的ポートフォリオの観点から実態把握を試みた。その結果,第一に非正社員を雇用している企業では,複数の非正社員グループを組み合わせて雇用する傾向が確認された。第二に,「全て雇用」企業における量的ポートフォリオをみると,「非正社員消極活用型」「契約社員活用型」「パート活用型」「嘱託社員活用型」の4タイプが抽出されたが,このうち約6割は契約社員,パート,嘱託社員の全ての雇用比率が10%以下の「非正社員消極活用型」である。第三に,「全て雇用」の企業では,非正社員の担当する仕事レベルは非正社員グループによってかなりばらつきがみられ,非正社員の質的ポートフォリオとしては,「嘱託社員戦力化型」「非正社員戦力化型」「職域分離型」「契約+嘱託社員戦力化型」の4タイプが確認され,このうち最も多いのはパートと契約社員に比べて嘱託社員の仕事レベルが非常に高い「嘱託社員戦力化型」である。

ついで,非正社員の人材ポートフォリオと人事管理制度の整備状況に関する分析結果から,以下の含意が得られた。第一に,他の非正社員グループに比べて,契約社員の雇用比率が高い「契約社員活用型」と,パートの雇用比率が高い「パート活用型」では,非正社員全体の評価・処遇制度が整備される傾向にある。つまり,いずれかの非正社員グループの雇用比率がある一定水準を超えた場合に,評価・処遇面で非正社員の人事管理制度が整備される傾向が示唆された。企業内で特定の非社員グループの雇用比率がある一定水準を超えると,当該非正社員グループを対象に非正社員の人事管理制度の整備が議論され,その結果実現された当該グループの人事管理制度の整備は非正社員グループ間の公平性を確保するために他の非正社員に波及し,非正社員全体として人事管理制度の整備が進むと予想される12

第二に,質的ポートフォリオの観点から人事管理制度の整備状況をみると,契約社員とパートが担当する仕事のレベルはそれほど高くないのに対して,嘱託社員が係長・主任相当の高度な仕事を担当している「嘱託社員戦力化型」では,評価・処遇の面で非正社員全体に対して制度の整備が進まないことが明らかになった。この背景には,企業は同じ非正社員でも定年後の社員が対象となる嘱託社員と契約社員,パートを別枠で捉えており,評価・処遇上の扱いが嘱託社員と契約社員・パートで異なることが考えられる。その結果,嘱託社員を積極的に戦力化している企業では,非正社員全体でみた場合に評価・処遇制度の整備度が低くなってしまう。したがって,第一で述べた制度整備の波及効果は嘱託社員では起こらない。

第三に,評価・処遇制度の整備度と異なり,教育訓練制度の整備度は非正社員の人材ポートフォリオの影響を受けない。当然のことながら,社員を活用し,戦力化していくために,教育訓練は必要不可欠であり,本分析データをみても,教育訓練制度の整備度は評価・処遇制度の整備度に比べて高い。そのため,内容は正社員と異なるとしても非正社員にも何らかの教育訓練を実施している可能性が高く,どのタイプの非正社員グループをどの程度雇用するか,どのタイプの非正社員グループにどのレベルの仕事を担当させるかによる教育訓練の差はみられない。

第四に,非正社員グループ間の職域分離と人事管理制度の整備状況との関係についてである。追加分析によると,契約社員とパートの両グループがともに高いレベルの仕事を担当している「非正社員戦力型」,つまり契約社員とパートの職域区分が曖昧な企業では,評価・処遇制度を整備する傾向にある。それに対して,パートに比べ契約社員が担当する仕事レベルが高い「契約社員戦力化型」,つまり契約社員とパートの職域分離が明確な企業では,評価・処遇制度への影響は確認できない。さらに「非正社員戦力型」に比べて「契約社員戦力化型」の方が整備度の平均値が低いことを踏まえると13,「契約社員戦力化型」は評価・処遇制度の整備に消極的であることがわかる。西岡(2015b)は,契約社員の質的基幹化と量的基幹化がともに進むと,正社員と契約社員間で管理・監督業務は正社員,専門業務は契約社員という分業化が進み,その結果,企業は正社員と契約社員の賃金決定を別枠で管理することになり,正社員と契約社員の賃金制度の均衡が低下する可能性を指摘している。これを踏まえると,契約社員とパート間でも同様のことが生じており,契約社員の仕事が高度に専門化し,契約社員とパート間の職域分離が進むと,非正社員グループ間で異なる人事管理が行われ,契約社員をパートと別枠で管理することになるので,全体として評価・処遇制度の整備が進まないと考えられる。

これらの点を踏まえると,本稿で明らかにされた重要な点は以下の3つである。第一には,日本企業では非正社員の多様化が着実に進んでおり,それに伴い量の面,質の面ともに非正社員の人材ポートフォリオは複雑化している。第二には,企業は非正社員の多様化が進んだとしても,正社員と非正社員間および非正社員グループ間の職域分離が明確な場合には評価・処遇制度の整備に特に注意を払わない。しかしながら,たとえ一部の非正社員グループであっても正社員との職域分離が曖昧になる,もしくは非正社員グループ間の職域分離が曖昧になると,多様な非正社員グループ間の公平性,納得性の確保の観点から当該タイプの非正社員にとどまらず,非正社員全体に対して評価・処遇制度を整備するようになる。第三には,以上の非正社員に対する人事管理制度の整備の背景にあるメカニズムは嘱託社員については機能しない。定年後の高齢社員が増えるに伴い変化する可能性はあるものの,現状では,嘱託社員の人事管理は正社員とともに他の非正社員グループとも分離した形で行われている。これまでの研究では,非正社員の基幹化に伴い人事管理制度の整備の必要性は高まることが明らかにされているが,本稿の分析結果より,企業がどのような非正社員の量的,質的ポートフォリオを選択するかにより,非正社員の人事管理制度の整備をどのような形で進めるべきかが異なる可能性が示唆された。

最後に本稿の限界と今後の検討課題を述べる。第一に,データの制約から量的ポートフォリオと質的ポートフォリオの相互作用を検討できなかった点である。中村(2015)が指摘するように,企業は労働需要の質と量を同時に決定することなしに労働者を雇用するのは困難であり,それを踏まえると,企業が人材ポートフォリオを選択する場合には,質的ポートフォリオと量的ポートフォリオの互いの関係性にも目を向ける必要がある。さらに本稿の回帰分析で用いた量的ポートフォリオと質的ポートフォリオの変数間の相関をみると,ダミー変数であるためその係数は小さいものの,一部の企業タイプにおいて両者間に統計的に有意な相関関係が窺えることから(付表を参照),量的・質的ポートフォリオの相互作用が非正社員の人事管理に及ぼす影響についても検討が必要であろう。

第二に,冒頭で述べたとおり,本稿は非正社員グループ間の均衡(within)ではなく,正社員と非正社員間の均衡(between)に着目したものであるが,調査データ上の制約から人事管理制度の導入状況といった限られた面でしか均衡を検討できていない。正社員と非正社員の人事管理制度がどの程度一元的に管理されているか,また非正社員グループ間で人事管理制度は一元的に管理されているのか,こういった制度の適用が最終的に処遇水準の均衡につながっているかなどが検討課題として残る。

第三に,非正社員グループ間の分業構造が人事管理に及ぼす因果関係について,厳密な分析が行われていない点である。因果推定のためには時間横断的なデータを入手し,本結果を再検討する作業が必要である。

第四に,量的な観点として雇用比率,質的な観点として仕事レベルを用いて非正社員の人材ポートフォリオのタイプ分けをしたが,人材ポートフォリオの捉え方は様々であり仕事内容,就業条件の観点からの検討も残る課題である。

(筆者=立正大学経営学部准教授)

【謝辞】

本研究は,2015年8月29日に法政大学で開催された日本労務学会第45回全国大会の大会研究報告論集に掲載された「多様な非正社員の人事管理スタイル―職場の分業構造に着目して―」を大幅に改訂したものである。報告では討論者の佐野嘉秀先生(法政大学)とフロアの参加者から貴重なコメントをいただいた。また,本稿の執筆では匿名の査読者からも有益なコメントをいただいた。ここに記して,心より感謝申し上げます。

【注】
1  本調査は,文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(A)課題番号24243090研究代表者:学習院大学経済学部脇坂明)により実施されたものである。

2  非正社員の雇用比率は,労働時間換算の人数ではなく実人数を採用している。

3  調査の等級レベルは,公益財団法人日本生産性本部が2004年度から2012年度まで毎年実施していた「活用職種別賃金統計」2012年度版に基づき設定した。

4  「多様な働き方に関する調査」では,正社員と同等の仕事をしている人がいる企業といない企業で異なる質問を設定していることから,そのままでは両者の仕事レベルを総体的に把握できない。しかしながら,非正社員の仕事レベルを把握するためには,正社員に対応しない仕事レベルまで何らかの形で把握することが重要であるため,本稿では高卒初任格付けを両者の接合点とし,同初任格付けと比較した仕事レベルのデータと等級レベルのスコアを連続変数とした。したがって尺度は-2から10の13点尺度である。

5  ただし,本稿で用いた「多様な働き方に関する調査」では,正社員と3つの非正社員グループの人事管理制度の一元的な管理は把握できず,大多数の企業で正社員を対象に導入していることが想定される人事管理制度の非正社員グループへの整備状況を把握するにとどまることから,これら制度の導入をもって非正社員と正社員との均衡処遇を捉えることには,一定の限界があることに留意する必要がある。

6  本来であれば最も件数の多い「嘱託社員戦力化型」をレファレンスとすべきだが,多様な非正社員の職場での分業構造の特徴がより鮮明に表れている企業群の人事管理を検討する観点から,「嘱託社員戦力化型」についで企業件数の多い「非正社員戦力化型」をレファレンスとした。

7  ただし,量的ポートフォリオに関する重回帰分析では,独立変数との多重共線性の可能性を排除するためにコントロール変数から非正社員比率を除外している。

8  「嘱託社員戦力化型」の非正社員グループ別の処遇・評価制度の整備度(5つの制度の平均)をみると,嘱託社員については,調査対象企業全体とほぼ同程度(全体との差0.6)であるのに対して,契約社員(同-4.0),パート(同-5.6)に対する整備度は低くなっている。

9  追加分析の対象企業は,表1の「全て雇用」(419社)と「契約+パート」(94社)である。

10  全非正社員グループを対象とした分析と同様に8つの人事管理制度・施策の導入状況に着目し,契約社員とパートの両方に実施している=2,いずれかに実施している=1,どちらにも実施していない=0とし,「評価・処遇の整備度」は5つの制度・施策の総和の平均(信頼性係数α=.689),「教育訓練の整備度」は3つの制度・施策の総和の平均(信頼性係数α=.579)を算出した。

11  処遇・評価制度の整備度を調査対象企業全体と比較すると,「非正社員戦力化型」はパート(全体との差3.4),契約社員(同5.3)ともに整備度が高いのに対して,「契約社員戦力化型」では契約社員(同1.8)は全体より高いが,パート(同-2.2)は低くなっている。

12  企業タイプごとの非正社員への評価・処遇制度の導入状況をみると,同傾向は,特にパートと契約社員の間で顕著であり,「契約社員活用型」「パート活用型」ではパートと契約社員の両者に対して,評価・処遇制度の整備度が高い。一方,嘱託社員は同じ非正社員であっても「契約社員活用型」「パート活用型」ともに評価・処遇制度の整備度が低い。

13  「非正社員戦力化型」の評価・処遇制度の整備度の平均は0.823であるのに対して,「契約社員戦力型」は同0.733である。

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