日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
第45回全国大会報告(統一論題シンポジウム)
若年ホワイトカラーの組織への適応課題と適応促進要因―複数のデータを用いた分析結果から―
尾形 真実哉
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 17 巻 2 号 p. 68-76

詳細

 

本稿では,複数のデータを用いて若年ホワイトカラーの組織への適応課題と適応促進要因について分析結果を示しながら考察していく。

(1) 若年ホワイトカラーのリアリティ・ショックのコンテンツと組織適応への影響1

まずは,若年ホワイトカラーの組織適応課題とされるリアリティ・ショック(reality shock)に焦点を当て,若年ホワイトカラーがどのような対象にリアリティ・ショックを感受し,それがどのような側面に影響を及ぼしているのかを227名に対する質問票調査の分析結果から提示する。それによって,若年ホワイトカラーの組織適応を阻害する要因が何かを理解することができる。

分析の結果(表1),ショックの内容によって,若年ホワイトカラーの組織適応に与える影響は異なることが示され,必ずしもリアリティ・ショックが早期離職につながるとは言えないことが示唆された2

若年ホワイトカラーの組織適応を促進するためには,彼(女)らが会社や仕事に対し何を求め,何を重視しているのかを把握することが重要となる3

表1 リアリティ・ショックに関する分析の詳細

(2) キャリア初期の組織適応タイプとプロセスにおける固有の適応課題4

組織適応は,個人の知識的側面や感情的側面など,様々な要素が絡み合う,複雑な概念である。それゆえ,それぞれの組み合わせによって適応状態に多様性が生じるはずである5。また,若年ホワイトカラーが置かれている環境によっても適応状態は異なるであろう。それゆえ,若年ホワイトカラーの組織適応タイプを分類し,なぜそのような適応タイプに多様性が生じるのか,その適応プロセスのメカニズムについても分析する(表2)。

表2 若年ホワイトカラーの組織適応タイプに関する分析の詳細

分析の結果,若年ホワイトカラーの適応タイプは「低愛着−高離職意思型」「理想的適応型」「ステップアップ型」「低社会化型」の4つに分類された(図1)。

図1 若年ホワイトカラーの適応タイプの分類

次に,なぜこのような多様性が生じるのかを分析するため,それぞれの適応タイプに分類された個人の勤続年数を見てみた。それが表3である。

表3 各クラスタの勤続年数による割合比較

表3を見ると,勤続年数による特徴が見てとれ,適応タイプに多様性が生じる理由の1つとして,勤続年数が影響を及ぼしていると考えられる。

そこで,なぜこのような適応タイプに多様性が生じるのか,その多様な適応タイプが生じるプロセスについて勤続年数を意識した質的パネルデータを用いて検討した結果が,表4である。「適応」と一言で言っているが,組織への「適応」にも様々なタイプが存在している。若年ホワイトカラーと一言で捉えるのではなく,勤続年数固有のコンテクストに起因する適応課題が存在し,それへの対処経過の相違によって多様な適応タイプが生じることがわかった。それゆえ,組織はこのような勤続年数固有の課題やその解消方法を理解し,それに応じたサポートを提供することが重要であろう。

表4 若年ホワイトカラーの組織適応タイプに多様性を生じさせる要因

(3) 若年ホワイトカラーの組織適応を促進するエージェント(適応エージェント)7

上述の分析より,経験の浅い若年ホワイトカラーが,組織への適応課題を克服するためには,それをサポートする存在が重要になることが示された。それゆえ,次に若年ホワイトカラーの組織適応を促進するエージェントに焦点を当て,どのようなエージェントが若年ホワイトカラーの組織適応に重要な役割を果たしているのかを(1)と同様の227名に対する質問票調査の分析結果から提示する。それによって,若年ホワイトカラーの組織適応を促進する重要なエージェントが何かを理解することができる。

分析の結果(表5),若年ホワイトカラーの組織適応に重要な役割を果たす他者は上司であることが理解できる。しかしながら,若年ホワイトカラー自身で上司は選べない。つまり,組織適応に重要な役割を果たす上司に巡り合うのは,“配属の運”に任せるしかないことになる。

表5 若年ホワイトカラーの適応エージェントに関する分析の詳細

しかしながら,キャリアの重要なスタート時期を運任せにするのは,組織と若年ホワイトカラー双方にとって有益ではない。それゆえ,組織としては,育成型の上司のいる部署に若年ホワイトカラーを配属することが重要な組織的サポートになると考えられる。

(4) プロアクティブ行動8

先述の分析からも若年ホワイトカラーが組織への適応課題を克服するためには,それをサポートする他者の存在が重要になるが,若年ホワイトカラー自身の努力や行動も同様に重要となる。

近年の組織社会化研究は,環境に影響を及ぼす主体的な存在としての若年ホワイトカラーの捉え方に研究関心がシフトしている。若年ホワイトカラーでも自ら創意工夫し,積極的に環境に働きかける側面があることが指摘されており,既存研究にはない有意義な知見を提供している。

それがプロアクティブ行動(proactive behavior)の研究である。プロアクティブ行動とは「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり,未来志向で変革志向の行動」(Grant & Ashford, 2008)と定義される。

ここからは,若年ホワイトカラーの組織適応を促進するプロアクティブ行動とそのようなプロアクティブ行動を促進する要因について分析していく(表6)。

表6 若年ホワイトカラーのプロアクティブ行動に関する分析の詳細

分析結果が,表7である。分析の結果,若年ホワイトカラーも指示や教育を待つだけではなく,自ら積極的に行動することが,組織への適応を促進することが示され,その行動の内容によっても多様な効果を生み出すことがわかった。さらに,そのような行動を喚起する要因にも職場の特性,仕事の特性,個人特性が影響を及ぼしており,それぞれの環境によって喚起されるプロアクティブ行動が異なることが示された。

表7 若年ホワイトカラーのプロアクティブ行動に関する分析結果

つまり,若年ホワイトカラーの組織適応を促進するプロアクティブ行動は,若年ホワイトカラー個人の要因と同様に,あるいはそれ以上に環境要因も重要であることが理解できる。

(5) 若年ホワイトカラーの組織適応と不適応を分ける要因9

それらの結果を踏まえて,組織に上手く適応する個人と上手く適応できない個人を分ける要因は何かを検討する。

七五三離職やフリーター,ニートの増加,内定率の低さなど,若年ホワイトカラーを対象とした社会問題は多く,若年ホワイトカラーの早期離職の問題はいまだに続いているのが現状である。しかしながら,その一方で,円滑に会社に馴染む若年ホワイトカラーが多いのも事実である。厳しい就職活動を乗り越え,入社した会社を早期に辞めてしまう個人と上手く会社に適応して組織内キャリアを歩んでいく個人の間には,どのような違いがあるのか。その両者を分ける要因として,個人要因(行動特性)と環境要因(職場特性,職務特性),サポート要因(上司サポート,同僚サポート,同期サポート)の3つに焦点を当て比較分析する(表8)。

表8 若年ホワイトカラーの組織適応と不適応を分ける要因に関する分析の詳細

以上の分析から,組織に上手く適応している若年ホワイトカラーとそうではない若年ホワイトカラーの間の具体的な相違点が明確になり,若年ホワイトカラーを円滑に組織に馴染ませるために必要な環境要因を明確にすることが可能となる。

分析結果が表9である。分析の結果から,若年ホワイトカラーの組織への適応と不適応には理由があることが示された。上手く組織に適応している個人と適応できていない個人の間には,他者からのサポート,職場の特性,行動特性などに多くの相違があることがわかった。若年ホワイトカラーの組織適応は,若年ホワイトカラー個人の要因も重要であるが,環境要因が大きな影響を及ぼしていることが理解できる。

表9 若年ホワイトカラーの適応と不適応を分ける要因に関する分析結果

(6) まとめ―若年ホワイトカラーの組織定着を促進するために

ここまで,若年ホワイトカラーの組織適応について,多様なデータを用いて分析した。以上の分析結果から,若年ホワイトカラーの組織適応を促進する組織適応施策について考察したい。

 ① 採用

1つ目は,採用である。組織に上手く適応できる能力や資質のある人物を採用する。つまり,プロアクティブ行動を積極的にとれる個人を峻別し,採用することである。当然,そのことを理解している企業は多い。そこでの課題は,どのようにしてそのような人材を見極めるのか。それが組織的な課題と言えよう。

 ② 職場デザイン

2つ目は,職場デザインである。本稿の分析によって,若年ホワイトカラーの適応には若年ホワイトカラーが置かれている環境,とりわけ,職場が大きな影響を及ぼすことが示された。組織としては,そのような職場環境のデザインが求められる。具体的には,職場内コミュニケーションを活発化させる場づくり,職場内の相互学習を促進する職場づくり,相互支援を促進する職場づくり,職場全体で新人を育成しようとする育成風土づくりなどである。

しかしながら,どのような働きかけでこのような職場をデザインすることができるのか。それが課題となるが,職場における上司の影響力は多大であり,職場の雰囲気やコミュニケーションなどは上司の影響が大きい。その点も含めて,上司の教育は重要であろう。

 ③ 教育

3つ目は,教育である。採用と同様であるが,若年ホワイトカラーに対しては,プロアクティブ行動がとれる個人に育成することがあげられよう。そのための方法としては,小さな課題でも自分ひとりの力で克服できたというSmall Winを積み重ねさせることである。初めから大きな責任のある仕事を与えても役割過負荷となり,キャリア初期に自分の力ではどうしようもできないという学習性無力感を覚えさせてはならない。このようなSmall Winは,実際の仕事で得られるものであり,それはOJTの役割となる。さらに,OJTでは指導不可能な部分は,Off-JTでしっかりと補う。そのようなOJT & Off-JTの両輪を円滑に機能させることが重要である10

また,本稿の分析により,若年ホワイトカラーにとっての上司の存在は重要であることがわかった。それゆえ,新人の教育と同様,上司の教育も重要である。若年ホワイトカラーが良いキャリアのスタートが切れるよう,また,コア人材として将来の組織を背負う人材に育成するためには,上司のリーダーシップ開発,とりわけ,育成型リーダーの育成に組織的に取り組む必要性がある。

さらには,若年ホワイトカラーを指導する側の意識改革も必要である。当然,ベテラン社員と若手社員の間には,ジェネレーションギャップが存在している。そのようなギャップがある限り,相互のコミュニケーションを促進したり,信頼関係を築くことは難しい。それゆえ,ベテラン社員は,今時の若手社員の意識を理解することが重要である。がむしゃらに会社のために働いてきた世代と違って,全てが揃い,温室で育てられた世代では,その意識や考え方が異なるのは当然である。それゆえ,自分達が受けてきた指導方法で指導することは適切ではない。「ゆとり世代」などと言われる今時の若者を理解する必要性があり,それに合わせた育成方法が求められる。

若年ホワイトカラーを組織に円滑に適応させるためには,若年ホワイトカラーを教育するだけではなく,彼(女)らを取り巻く上司や先輩社員を育成することがより重要であると考えられる。

 ④ 組織的育成システムの構築

4つ目は,上述の全てを含むことになるが,組織的な育成システムの構築である。近年,若年ホワイトカラーの早期離職を抑制するためにメンター制度などを設ける企業が増えてきた。しかしながら,「指導者をつけたから大丈夫」「指導者に任せた」では絶対に機能しない。メンター制度などの教育制度を円滑に機能させるためには,組織としてしっかりとした仕組みづくりが求められる。例えば,公式メンター制度などは,組織から指導者を指名することになるが,指導者と新人との間の相性が問題になる。相性が良ければ良いが,悪ければ逆効果(離職)に陥る可能性が高い。それゆえ,尊敬できるメンターを自分自身で選ばせるような仕組みづくりが必要であろう。また,組織的に公式な指導者を指定するとしても指導力があり,指導に対するモチベーションの高い個人を見極め,指名するような仕組みづくりや人事評価に反映させるが,利己的ではなく利他的に行動できるような評価システム,公式的な指導者をつけることでそれ以外の人が指導に無関心にならず,職場全体で育てるという意識を持たせる仕組みづくり,指名された指導者をサポートする仕組みづくりなど,組織的にデザインすることが重要である。

以前,日本企業にも“即戦力化”という言葉が広がり,新入社員にもそれを求める風潮が出てきたことがあるが,即戦力化は農耕民族としての日本人気質には合わない。農耕民族としての日本人気質に合う育成観は長期的視点に基づく人材育成である。そのような長期的視点に基づく旧来型の人材育成観への回帰も必要ではないだろうか。そのためには,組織的な育成システムの構築が重要である。

そのような組織の育成観に最も強い影響力を及ぼすのがトップの育成観である。それゆえ,まずトップが育成の重要性を理解し,その育成観と人事部の育成観を適合させることが重要である。さらに,実際に教育が実践される職場の上司(現場=OJT)と人事部(Off-JT)の個別的教育と両者の協調的教育も不可欠である。つまり,トップ―人事部―現場の三位一体の協調的教育関係の構築が求められる。このような育成システムの組織的構築が,従業員の組織コミットメントを高め,組織市民行動を促進し,高いパフォーマンスを発揮する人材を多く育成することを可能とし,人材育成企業として競争優位を高めることにつながるであろう。

(筆者=甲南大学経営学部教授)

【注】
1  本研究の詳細は,尾形(2012a),「リアリティ・ショックが若年就業者の組織適応に与える影響の実証研究:若年ホワイトカラーと若年看護師の比較分析」『組織科学』第45巻第3号を参照されたい。

2  この点については,尾形(2006a,2007,2012b)も参照されたい。

3  この点については,尾形(2011)も参照されたい。

4  本研究の詳細は,尾形(2015a),「若年ホワイトカラーの適応タイプと適応プロセスの多様性に関する実証研究:量的調査と質的調査の混合研究法による分析から」『甲南経営研究』第55巻第3号を参照されたい。

5  この点については,尾形(2012c)も参照されたい。

6  調査対象者は全部で227名だが,勤続年数を記載していない者が2名含まれていたため,その2名は除かれている。

7  本研究の詳細は,尾形(2013a),「若年就業者の組織適応エージェントに関する実証研究:職種比較分析」『経営行動科学』第25巻第2号を参照されたい。

8  本研究の詳細は,尾形真実哉(近刊),「若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行要因に関する分析」『経営行動科学』第29巻第2号を参照されたい。

9  本研究の詳細は,尾形(2015b),「若年就業者の組織適応と不適応を分ける要因に関する実証研究」『甲南経営研究』第55巻第3号,21-66頁を参照されたい。

10  Off-JTの効果については,尾形(2009)を参照されたい。

参考文献
 
© 2018 Japan Society of Human Resource Management
feedback
Top