2016 年 17 巻 2 号 p. 77-79
近年の好景気を受けて新卒者の就職状況は改善した。だが既卒者,すなわちかつての不況期に未就職のまま卒業した若者や早期離職者の多くは不安定な就労状況のままである。その一因である「新卒一括採用システム」は日本の若年失業率の低さを支えてきた一方で,若者の優良な雇用機会を最終学歴修了時に限定する「やり直しできないシステム」でもある。そのため「新卒一括採用システムの見直し」は若年者雇用対策の中心を占めてきた。政府は2006年の再チャレンジ推進会議「中間取りまとめ」以来,本システムの大枠は残したままその硬直性を緩和させる取組を進め,より多くの若者を本システムに包摂するように労働需要側へ働きかけてきた。
しかし企業にとって採用は投資である。既卒者の採用が新卒者と同等かそれ以上の利得をもたらすという判断が成立しない限り新卒採用での既卒者採用拡大は望めない。特に,応募が多数集まり一定数を毎年採用する大企業にとって,新卒採用はスクリーニングコストが低く精度も高いメリットの大きい人材獲得手段である1。したがって大企業は既卒者にとって新卒者以上に狭き門である。
一方,中小企業には既卒者採用への動機付けを高められる余地がある。そもそも中小企業の人材需要は発生頻度も人数も少ないため定期採用は不要である。欠員補充や増員の必要に応じて募集するため新卒者の画一的な就職活動スケジュールとはズレが生じる。欠員補充では前任者の代わりを早く務めることを期待するため,一から育てる必要がある新卒者は敬遠される。ゆえに中小企業の新卒採用実施率は低く2,中途採用が中心となるが大企業に対する競争力が低いため即戦力の獲得は困難である3。中には生え抜き社員の育成を望み新卒採用を実施する中小企業もあるが,やはり競争力の点で需要を満たすことは難しい4。
以上を鑑みるに,労働市場での競争力が低く教育訓練資源も不足しがちな中小企業にとって,若く多少の社会経験をもつ既卒者は,経験者ほど高賃金を払う必要もなく,新卒者よりは早期育成が可能な魅力ある人材となりうるのではないか。すなわち,新卒採用を志向しない中小企業には,就業経験のある早期離職者やフリーター等を「準即戦力」として受け入れてもらい,新卒者を望む中小企業には卒業間もない既卒者を「準新卒者」として受け入れてもらう。やや乱暴だが,若年者雇用対策が中小企業に期待する役割はこのようにまとめられるだろう。
それでは,中小企業による既卒者採用の促進に向けて解決すべき課題を,関連施策と共にみていこう。第一に既卒者を一律に排除せず個々の能力や働きぶりを評価する仕組の構築である(「卒業後3年以内は新卒扱い」と定めた「青少年雇用機会確保指針」の改正,「職業能力評価基準」やジョブカード制度を活用した雇用型訓練,トライアル雇用奨励金など)。
第二に能力開発機会の整備である。多くの既卒者が従事する非正規の仕事は訓練機会に乏しい。費用の負担感から訓練を行わない企業もある。企業内訓練を支援すると共に企業外訓練の機会も整備する必要がある(「キャリア形成促進助成金」「求職者支援制度」など)。
第三に個別マッチングの強化である。既卒者には年齢・学歴・就業経験・職歴など様々な点で異なる若者が混在する。他方,中小企業の求人はアドホックで,労働市場や会社の状況,募集の緊急性等により内容が大きく変化する。若者・企業双方の多様なニーズとスペックを整理し個別にマッチングさせる仕組が必要だろう(「新卒応援ハローワーク」等の若者専門相談機関の設置とその相談員による個別支援など)。
最後に,急激な景気後退期には労働需要を刺激する支援も考慮すべきだろう。2010年からの「新卒者雇用に関する緊急対策」では,卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いで採用する助成金が支給される施策が暫定的に実施された。こうした施策は賃金低下を招く恐れがある一方で,通常は新卒者や経験者に応募を限定していた企業に既卒者採用を試す契機を与える。企業に「採用してみたら期待以上によい人材だった」と気づきを与え応募条件緩和を継続させるには上記の支援,すなわち既卒者の能力を開発し,企業に客観的評価手段を提供し,双方のニーズを満たす適切なマッチングを並行して行うことが必須となる。
これらの施策は一定の効果を示してきた。しかしまだ十分とは言えない。第一に,「新卒一括採用システムの見直し」の目的は「やり直せる社会の構築」だが,日本の若年者雇用対策には「やり直す」手段として「経済的自立=就職」以外の選択肢が乏しい。移行期の生活保障に欠けるため,職業訓練や学校教育,非営利活動等の社会参加手段は,本人や家族に経済的余裕がないと選択できない。とはいえ,社会保障を家族と企業に依存してきた日本は,福祉国家の確立後に若者問題が深刻化した欧州諸国とは前提条件が異なる。欧州諸国が若年者雇用対策の要に据える,「若者手当」等の生活保障と引き替えに就業・訓練を促す「ワーク・フェア」の導入は,日本では財政と国民のコンセンサス獲得の点で難しい5。
第二に,労働需要側への更なる介入が必要である。近年,職場への定着が政策課題に浮上しているが,早期離職率は中小企業や新興産業で高く6,企業による雇用管理の未成熟が要因の一つである可能性が示唆される。また規模にかかわらず若者を「使い捨て」する企業も社会問題化している。これらの問題の解決には,若者のキャリアプランニングのスキルや「企業を見る目」を養う一方で,企業側に対しても法令順守の徹底と雇用管理の改善を求め,社会全体で若者を育成する体制を構築していく必要がある。同時に,労働市場の透明性を高める取組も必要である。実際に2015年3月,これらの改善策を一部盛り込んだ「勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律案」が提出された。ただしその規制は「学卒求人(≒新卒採用)」に限定されており,「一般求人(≒中途採用)」は適用外である。既卒者は年齢も経歴も様々であり,その応募する求人も新卒採用と中途採用が混在している。どのような類型の求人であっても,応募・就職した若者が健全な雇用環境の下でキャリアを形成していけるように,更なる法整備と政策の推進が望まれる。
(筆者=労働政策研究・研修機構研究員)