日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
第45回全国大会報告(統一論題シンポジウム)
なぜ新卒採用・就職のミスマッチが起こるのか?―採用企業の募集・選考活動と学生の就職活動の隠れた要因を探る―
大久保 幸夫
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 17 巻 2 号 p. 80-82

詳細

 

本論考の問題意識は「なぜ新卒採用・就職のミスマッチが起こるのか」ということである。ミスマッチの背景に,企業が新卒者に望む能力と実際の学生の能力との間に根本的な差があると考えられる。解雇が厳しく制約されている日本で新卒者を採用することは,生涯年収相当の投資を行うに等しい。それだけに採用基準にはこだわりがあり,仮に応募者が集まりにくくても「採用基準では妥協しない」という企業が大半を占める。その一方で学生は卒業段階で社会に出る準備ができているかというと,社会人基礎力などのスコアを見る限り,とても十分とは言えない。そのなかで最終的に就職希望者の9割を超える就職内定率を実現しようとすれば,当然にミスマッチを内包した採用・就職となるはずである。しかし,このような構造的なミスマッチは容易に解決できるものではなく,学校教育の抜本的な改善などの長期にわたる改革を待たなければならない。

そこで,より改善の着手が可能な企業・学生の行動レベルに潜むミスマッチの要因に焦点を絞り,再考すべきポイントを検討することとしたい。まず企業の採用行動のなかにあるミスマッチの要因についてである。大きく4つの要素があるのではないかと考える。

第1は,募集活動そのものに埋め込まれた要因である。新卒採用のプロセスでは,まず企業説明会を行い,興味を持った学生がエントリーするという流れになっている。企業はそのなかから,一次的なスクリーニングを経て,採用候補となる学生のリスト(一般に「母集団形成」と呼ぶ)をつくる。つまり企業は,入社を希望する学生群のなかから採用者を選んでいることになる。教授推薦やリクルーターによる開拓活動が活発に行われていた頃と異なり,インターネットが普及した90年代後半から現在にかけては,母集団形成がより低コストでできるようになったため,企業の募集行動がより受動的になってきている。高い採用力を誇る人気企業を除けば,そもそも採りたい学生と入社したい学生との間にはギャップがあるため,ミスマッチが内在してしまうのである。

第2は,選考活動に埋め込まれている要因である。企業が新卒者の採用選考に用いる方法は「面接」に大きく偏っている。リクルートワークス研究所の調査によれば,選考でもっとも重視した方法は面接が81.4%を占めている1。国際的に見て,新卒者の選考には,①成績,②就業経験(インターンシップ含む),③筆記試験,④面接,を組み合わせるが,日本では,学校の成績はほとんど重視されず,インターンシップと就職は切り離され,筆記試験は形骸化している2。ほぼ面接によって決めているといっても過言ではない。面接によって見ることが適しているのは,表情や口調,視線やゼスチャーなどのコミュニケーションスタイルとコミュニケーションスキルだけである。それ以外のことを見ようとしても,コミュニケーションスタイル・スキルのフィルターを通してしまうので,それに左右されてしまう。たとえば論理的思考力を見極めようとしても,コミュニケーションスキルが高い学生は深く理解している「ふり」ができるということだ。実際に面接時の採点スコアが,就職後の活躍を説明できていないということは繰り返し検証されている。

第3は,企業が発信する情報の偏りという要因である。企業は多くの学生をひき付けようとするあまり,よい情報ばかり発信しようとする。たとえば,「やりがいのある仕事」「成長できる仕事」というメッセージの陰には,「長時間労働」や「過酷な労働環境」があることが多いが,後者は情報公開されない。新卒入社後3年以内の離職率については33.9%の企業,所定外労働時間の実績については18.9%の企業しか情報公開していないという調査結果がある3。その会社で仕事をすることのリアルが見えないままに就職すると,入社直後にリアリティショックを経験することになる。本来は,よい情報ばかりでなく,厳しい情報も順次発信して期待値を調整してゆくRealistic Job Preview(RJP)のプロセスが必要なのだが,それができている企業は少数にとどまると考えられる。

第4は,採用者に対する期待値の混乱,である。言い換えれば,企業の採用・選考基準は明確になっていない,または矛盾しているということである。たとえば,採用を担当するチームとしては現状を改革することに意欲的な異能人材を採りたいと思っているケースでも,実際に部門に配属してみるとそれまでに採用した社員と同じように職場に適応することを求めることがある。外国人らしい視点を求めて留学生を採用しても,現場は日本人化してしまうことが多い。つまり,人事の思いが必ずしも全社に浸透しているわけではないため,俯瞰的に見れば,矛盾する採用・導入になっているということである。また人事が発信する情報自体に矛盾が含まれていることもある。自律的な人材が欲しいと思っているにもかかわらず会社説明会で大企業のグループ会社で経営が安定していることや福利厚生の充実をアピールしてしまうというようなケースである。これらは「採用基準の明確化・公開」という言葉で繰り返し指摘されてきた課題でもある。

一方,学生の就職活動のなかにもミスマッチを生み出す要因がある。

まず,進路決定と就職先決定が同時になっているため,その場の状況で進路と就職先を決定してしまうことになりやすい。卒業後の進路について大学前期までに決める学生の比率は,米国では58.1%だが,日本ではわずか15.9%しかいない4。結果として,後悔する判断をしてしまいがちなのである。

また,就活が短期決戦であり,妥協のプロセスになっているということもミスマッチを起こしやすくしているだろう。準備不足な学生は,まず大企業を受け,内定が得られない場合は,徐々に企業規模を下げてゆき,内定が取れるまでそれを繰り返す。落とされた傷心状態から立ち直れないままに,とにかく次のエントリーをするという行動を求められるため,十分に会社研究をした結果の就職先選びとはならないのである。

しかも,学生は企業側の期待をよく理解していない。そのことは,学生が面接等でアピールする内容と,企業側が聞きたいという内容に大きなギャップがあることでわかる5。学生は,アルバイト経験や所属クラブ・サークルについて語ろうとするが,企業側はそのような内容にはあまり興味がなく,コミュニケーションがすれ違っているのである。

さらに誤った就活ノウハウの流通が拍車をかける。たとえば,エントリーシートや履歴書の書き方,面接時の態度・振る舞い,会社訪問時の服装,面接での受け答えなどに関する「テクニック」が,ノウハウ本に書かれたり,講演で披露されたりしているが,企業の面接官からするとピントはずれなものが多いという。

これらの要因が,構造的なミスマッチと組み合わされることで,さらにミスマッチを拡大していると考えられる。行動面の要因は,取り組み次第では改善が可能であると考える。より問題解決的な研究が行われることに期待したい。

(筆者=株式会社リクルートホールディングス専門役員・リクルートワークス研究所長)

【注】
1  リクルートワークス研究所「企業の採用状況と採用見通しに関する調査」(2012年)。

2  大久保幸夫(2012年)「新卒採用選考の再検討」『労政時報』3830号,労務行政研究所。

3  リクルートワークス研究所「企業の採用状況と採用見通しに関する調査」(2015年)。

4  リクルートワークス研究所『アジアの「働く」を解析する』(2013年)。

5  詳しくは株式会社リクルートキャリア・就職みらい研究所「就職白書」(2014年)。

 
© 2018 Japan Society of Human Resource Management
feedback
Top