Japan Journal of Human Resource Management
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The 46th Annual Conference at Doshisha University
Development of Human Resource Architecture of Regular Employees - Forecasting the Future of HRM
Motohiro MORISHIMA
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2017 Volume 18 Issue 1 Pages 80-84

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1. 「正社員」が多様化している。

  • 1.1   「正社員」という雇用区分にはこれまでも多くの下位区分があった。例えば,「技能職,技術職,事務職」,「総合職と一般職」,「専門職」,「専任職」など。

  • 1.2   ただ,最近はいわゆる「限定付き正社員」の活用が増加していると言われている(労働政策研究・研修機構,2011)。また政策的にも正社員改革の議論で注目を浴びてきた。

  • 1.3   限定付き正社員には,JILPT(2011)の分け方に従えば,図1の4種類がある。

  • 1.4   さらに西村・守島(2008)も,既に2007年当時で,正社員の内部に2区分以上をもっている企業がサンプル全体(102)の56.8%であることを示している。

  • 1.5   また,非正規社員からの正規社員への転換を促進する企業も増えてきた。転換元の雇用形態(パートタイマー,契約社員など)によって違うが,3~4割の企業が転換制度をもち,また転換実績も確認されている(JILPT,2011)。転換先としては,限定正社員のカテゴリーが使われることもあれば,他の正社員と区別のないカテゴリーに異動する場合もある。

  • 1.6   非正規社員もこのカテゴリー内で多様性を増しながら増加しており,いわゆる「質的基幹化」によって,正社員と類似した職務を担当する非正規社員も増えてきている。

図1 制限付き正社員のカテゴリーと分布

2. 人材選抜による正社員の多様化

  • 2.1   またこれに加えて,正社員カテゴリー内の区分管理という観点では,雇用契約以外の軸による多様化も進んでいる。

  • 2.2   具体的には,企業が能力・成果等のアセスメントに基づいて,キャリア早期に一部の正社員を選抜し,区分して育成・活用する動きが目立ってきた。

    JILPT(2015)によれば,早期選抜型人事を導入または導入の検討をしている企業が,約4割であり,産能大学(2012)によると,次世代リーダーの選抜型育成を行っていると答えた企業は,2006年度の38%に対し,2012年度は51%と増加している。もちろん,こうした人材絞り込みは以前もあったが,早期の選抜や選抜者を公表する企業が数多く出てきた。産能大学(2012)によると,おおよそ34%の企業が選抜者の氏名を公開している。

  • 2.3   こうした動きは,Lepak and Snell(1999,2002)による人材の現在価値を基本軸にした分類から,中長期的なキャリア展望や将来の活用の仕方までも考慮した人材区分と言える。

3. 結果として,現在,職場には多様な正社員が働いている

  • 3.3   つまり,正社員と呼ばれる人材だけに限っても,異なった人的資源としての特徴や雇用形態をもつ人材が1つの職場で働いており,職場で働く人材のdiversityまたはworkforce differentiationが進展していることを示している。考え方によっては,この展開は日本経営者団体連盟の『新時代の「日本的経営」』(1995)の枠組みよりもずっと複雑なdiversityが日本の企業で出現しているということかもしれない。

  • 3.2   こうした状況の中で,今後個別カテゴリーごとに分化した人事管理が進むと予想する立場もある。日本経営者団体連盟(1995)や,Lepak and Snell(1999)などはこうした展開を予想(提言?)している。Huselid and Becker(2011)も,workforcedifferentiation にはHRMのdifferentiationが伴うと主張する。こうした予測は,主に人事管理の効率性(efficiency)を追求する観点からのものである。

4. 人事管理の必要要件としての公平性

  • 4.1   だが,これまで多くの研究者が主張してきたように,人事管理が目指すべき目的は効率性だけではない。企業が社会的な存在である以上,経済合理的な目的だけではなく,社会政治的(socio-political)に合理性のある目的の達成も重要であると主張する論者は多い(例えば,Boxall and Purcell,2016)。

  • 4.2   こうした目的の1つが,公平性である。公平性とは,端的に言えば,雇用形態や人的資源としての特徴を問わず,各人の仕事(その具体的内容をはじめ,責任,権限,労働時間,拘束の度合等)に応じた賃金その他の処遇を得られるということである。

  • 4.3   また,人事管理において公平性は,従業員の認識としても重要な要因である。組織行動論において,公平性の認識は,人事制度または処遇結果等の納得性または受容に繋がり,個人のモチベーションや組織のパフォーマンスに影響があるという知見が多く蓄積されている(Conlon,Meyer andNowakowski, 2005)。

  • 4.4   だが,公平性認知の確保は極めて難しいのも事実である。守島(2009)は,公平性の一種類であり,現在主流の考え方である,衡平性(equity)原則の観点だけをとっても,従業員が公平だと認識するには,1)誰を比較対象に選ぶのか,2)何を基準として個人の貢献を評価するのか,3)何を報酬と考えるのか,4)どこまでの不衡平を許容するのかについて合意が得られることが必要だと主張した。多数の参加者(従業員)が公平だと認識する状況をつくりだすのは極めて難しい。

  • 4.5   守島(2009)によると,そのため補完的に使われるのが,いわゆる手続きの公平性(procedural justice)と呼ばれる概念である。この概念は,人事管理研究において,分配を受ける人が分配決定過程に部分的に参加したり,事後的な苦情申請を行ったりすることで,確立される公平性だとされてきた(守島,2009)。

  • 4.6   また同様に強調されるようになってきた公平原則が,いわゆる「機会の平等」であり,「選択の自由」とともに,様々な報酬等を獲得する場への参加機会を平等にあたえることで,公平性を確保する考え方である。完全な機会の平等ではないが,例えば職種転換制度などによる機会の公平施策はこうした原則にそったものであると考えられる。

5. 企業は,公平性認識を確立する難しさがある中で,効率性と公平性のバランスを保ちつつ,人材のマネジメントを行い,企業としての成果をあげていかなければならない

  • 5.1   これまでわが国の多くの企業は,長期的な雇用契約や正社員間の小さな格差など多様な施策を通じて,一定レベルの公平性の認識や納得感を確保し,同時に効率性も確保していたと思われる(江夏,2009)。

  • 5.2   だが,今後はこの仕組みが機能しない可能性もある。仮に人材区分と管理の細分化が進んだ場合,カテゴリー間に絶対的な格差が生じ,格差の存在も明確になることで,従業員の公平性認識に影響を与える可能性があるからである。こうした中で,効率性を維持するためには,格差を正統化し,納得感を確保するためのロジックと仕組みの導入が必要になる。

  • 5.3   また一部には公平性の観点から,人事管理の細分化ではなく,同じ人事管理の原則が異なった雇用区分に適用される「実質的統合化」が進むと予想する研究者もいる(今野,2010)。

6. そうした中で,企業は効率性と公平性のバランスを保つために,人事管理をどう変えていくのだろうか。幾つかの仮説が考えられる

  • 6.1   人材カテゴリー間の処遇等の違いや格差の基盤としての職務主義的な人事管理が進展する

    これは職務を基盤とした細分化である。例えば,米国での人材カテゴリー間の格差は,職務が違い,その結果としてポストに就く人材の価値が違うということで正統化される。

  • 6.2   個人別の貢献を明確にし,区分や違いの基盤とするメリットクラシーの進展

    これは個人の貢献度合いを基盤として人材の扱いを細分化する方向であり,格差の正統化の1つの手段である。

  • 6.3   手続きの公平性・機会の平等性の提供

    上記にあるような他の種類の公平性概念の導入による格差の正統化がおこる。

  • 6.4   外部環境からの要請により正統化される人事施策の導入

    例えば,ワークライフバランス施策,女性活躍支援施策などが導入される。

7. ささやかなデータ分析

  • 7.1   『日経働きやすい会社調査2011年版』調査対象:上場かつ連結従業員数2,000人以上の企業,日経株価指数300採用銘柄300社それらに準じる有力企業の計1,575社に調査票を送付し,有効回答は465社。

  • 7.2   分析は,制限付きの正社員カテゴリーをもっている企業で,その他の人事管理の面で,どういう施策が導入されているかのクロス集計(次頁図2)。

図2 多様な正社員の活用と人事管理

8. 結論:正社員の多様化が進んでいる企業では,6.1を除いて,残りの3つの動きが一定程度見られる

  • 8.1   こうしたことにより正社員の多様化は,人事管理を変化させていく可能性がある。

(筆者=学習院大学経済学部教授)

【参考文献】
  •   Boxall, Peter and Purcell, John (2016) Strategy and Human Resource Management, 4th Edition. London: Palgrave.
  •   Conlon, D. E., Meyer, C. J. and Nowakowski, J. M. (2005)“How does organizational justice affect performance, withdrawal, and counterproductive behavior?” In Greenberg J and Colquitt J(Eds.), Handbook of Organizational Justice(pp.301–327). Mahwah, NJ: Laurence Erlbaum Associates Publishers.
  •   Huselid, M. A. and Becker, B. E. (2011)“Bridging Micro and Macro Domains: Workforce Differentiation and Strategic Human Resource Management.”Journal of Management, 37, 421-428.
  •   Lepak, D.P. and Snell, S.A.(1999)“The human resource architecture: Toward a theory of human capital allocation and development.”Academy of Management Review,24, 31-50.
  •   ―(2002) “Examining the human resource architecture: The relationships among human capital, employment, and human resource configurations.”Journal of management 28, 517-543.
  •   今野浩一郎(2010)「雇用区分の多様化」『日本労働研究雑誌』, No.597, pp.48-51.
  •   江夏幾多郎 (2014) 『人事評価の「曖昧」と「納得」』NHK ブックス.
  •   日本経営者団体連盟(1995)新・日本的経営システム等研究プロジェクト編『新時代の「日本的経営」』日本経営者団体連盟.
  •   西村孝史・守島基博(2009)「企業内労働市場の分化とその規定要因」『日本労働研究雑誌』, No.586, pp. 20-33.
  •   守島基博 (2009) 「今、公正性をどう考えるか:組織内公正性理論の立場から」鶴光太郎他編著『労働市場制度改革:日本の働き方をどう変えるか』日本評論社,pp. 235-262.
  •   労働政策研究・研修機構(JILPT)(2011)『多様な就業形態に関する実態調査―事業所調査/ 従業員調査』JILPT 調査シリーズ, No.86,労働政策研究・研修機構.
  •   ―(2015) 『「人材マネジメントのあり方に関する調査」および「職業キャリア形成に関する調査」結果』プレスリリースhttp://www.jil.go.jp/institute/research/2014/128.html.
  •   産業能率大学(2012)『データから読み解く~「次世代リーダーの選抜型育成」の現状と課題~第1回』http://www.hj.sanno.ac.jp/cp/page/11094.
 
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