Japan Journal of Human Resource Management
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Print ISSN : 1881-3828
Foreword
Utilities of an Academic Society
Norio KAMBAYASHI
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2017 Volume 18 Issue 2 Pages 2-3

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日本労務学会の会員数はここ数年,会員増強策が奏功し,また諸先生方のご尽力の甲斐あって,至って堅実に推移しているようである。会員数が減少に転じる学会も散見される中,とても喜ばしいことである。当学会への期待感の表れであり,「人間」の存在や営為に対する学界や世間の関心が否応なく高まりつつあることの反映でもあろう。

ただ,私自身が毎年大会や部会に参加していて感じるのは,意外にも学会会場にまで足を運び,参加しようとする会員は,全会員のごく一握りに過ぎないのではないかということである。実際に人数を数えたわけではないし,あくまで個人的心象でしかないのだが,大会や部会例会で顔を合わせるのはいつも「常連メンバー」であるようにも感じられる。

大会の自由論題セッションで報告する若手研究者の中には,自身の報告に手いっぱいで,他者の報告には関心がなく,自分の出番が終われば他のセッションに出ることなしに早々に退散する会員が増えているという噂も時に耳にする。単なる噂なので実情はわからないが,もしそうであるとするなら勿体ない話である。

一般に,学会に所属するメリットは,自身の研究成果を発表したり,査読付きの学会誌に投稿したりといった権利が付与されることに留まらない。リアルに学会報告の会場に赴き,他者の報告やその場のディスカッションを聞いてさまざまなことを学べることが―そして自分自身もそのディスカッションに参画することが―何ものにも代えがたい学会の効用である。

実際に学会に参加して他者の報告を聞くと,たとえ自身の研究テーマや関心とは違っていても,なぜこの報告者はそうしたテーマにこだわりを持っているのか,この報告に至るまでにどんな経緯があったのか,論文や著書には書かれていない見えざる苦労がいかほどであったか等々のさまざまな付帯情報を知ることができる。いわば,報告の舞台裏や報告者の息づかいがわかるのであり,これは実際に学会に参加してみないとなかなか得られない効用であると言えよう。報告者のそうした微妙な息づかいを自分なりに感じ取り,それに対して素直に自分の思うところを報告者にぶつけてみる。……これが学会に参加する最大の楽しみであり醍醐味でもある。

裏返して言うなら,報告者はせっかく貴重な時間を割いて会場に足を運んでくださった聴衆に対し,こうした報告の裏側まで垣間見られるよう,おもてなしの精神をもってプレゼンすべきであるということになろう。

そしてもう一点,日本労務学会ならではの学会参加の効用がある。それは,当学会が多種多様な領域の研究者や実務家から構成されていることに関わる効用である。

当学会は周知のとおり,経済学や経営学,社会学,心理学,労働法学,労働科学,組織行動論といった,実にさまざまな領域を専攻する研究者や実務家から成り立っている。そもそもの前提やバックグランドが異なる多彩な領域の研究者が一堂に会し討議し合うことで,普段の自身の研究活動だけでは気づきえなかった新たな発見や疑問点が掘り起こされることもある。実際,大会の統一論題やシンポジウムなどでは,プログラム委員会の配慮によりこうしたダイナミズムやシナジーが意識され,慎重に登壇者の人選がなされているケースも多い。

しかし,自由論題の会場や部会例会の発表などでは,極めて専門的で難解な,その領域のプロパーでないと理解が不能なような報告も,特に昨今ではかなり多く含まれているように感じることがある。研究を始めたばかりの駆け出しの若手大学院生ならある程度は致し方ないかも知れないが,ここはやはり,どこの誰が自分の報告を聞いても理解可能であるような内容を,少なくとも心がけてプレゼンすべきではないかと私は考える。専門的でテクニカルな詳細は各専門の学会で話せばよい(……と言えば乱暴すぎてお叱りを受けるだろうか)。

学会報告と,厳密な記述が要求される査読論文とは,決してイコールであるべきではない。専門に閉じた報告だと,当然その道の専門家しか報告会場に足を運ぼうというインセンティブは働かない。専門性は基軸に据えながらも,外部に広く開かれており,ある意味「突っ込みどころ」満載の報告であってほしい。そうでないと学会に参加する大きな楽しみの一つが減ってしまう。

せっかくさまざまな領域の研究者・実務家を擁する学会でありながら,その多様性や本来のダイナミズムを十分に活かしきれていないのはいかにも勿体ないというのが,私がここのところ当学会に足を運んで感じる正直な感想である。

人間の営為に多様な観点からアプローチする日本労務学会だからこそ,どこまでも人間味に溢れ,参加者とのキャッチボールが気軽に楽しめる学会であってもらいたいと切に願う。

  • 上林 憲雄

神戸大学

 
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