日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
論文
労働組合機能における契約社員と正社員の比較分析
梅崎 修田口 和雄
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 21 巻 1 号 p. 5-20

詳細
ABSTRACT

This study compared the functions of labor unions between a sample of contract workers and full-time salaried workers, based on survey questionnaires. First, it examined the manner in which full-time salaried workers and contract workers were engaged with labor unions. According to the study's findings, labor union membership rate of contract workers was lower than that of full-time salaried workers. In addition, although the full-time salaried workers and contract workers equally voiced their opinions and made requests to their superiors, when the contract workers joined labor unions, they communicated through their union representatives. Second, the effects of labor unions on full-time salaried workers and contract workers were analyzed. Among the full-time salaried workers, the effects of both labor unions and union members on employment security were statistically positive, whereas other effects were statistically non-significant. Meanwhile, the effects of other systems on wages, jobs, and human relations in companies without labor unions were also positive. Third, among the contract workers, the effects of union members on employment security were statistically positive, whereas the effects of labor unions on wages and jobs were statistically positive. In sum, the effects of labor unions on contract workers were greater than those on full-time salaried workers. Despite this finding, there are two possible reasons for the limited number of contract workers to join labor unions. The first reason is that contract workers have a greater incentive to leave a company compared to their full-time salaried counterparts; the second reason is that contract workers are used to consulting their superiors, instead of union representatives.

1 はじめに

本稿の目的は,従業員の苦情や要望が労働組合を通じて職業生活の改善につながっているのかについて,契約社員と正社員という雇用区分の違いに焦点を当てて分析することである。

労働組合の機能に分析した先駆的研究として,Freeman and Medoff(1984)による発言・退出(voice-exit)モデルの分析があげられる。このモデルは,もともとHirschman(1970)によって提示された組織と個人行動の関係についての考え方であるが,Freeman and Medoff(1984)は,このモデルを労使関係に当てはめた。このモデルによれば,労働組合の機能とは,組合員の不満や要望を汲み上げ,経営側に向かって発言することである。発言が有効であり,その発言によって現在抱える不満が解消すれば,従業員は企業に定着する。しかし,それが無理ならば退出(つまり退社)を選ぶという枠組みである。

Freeman and Medoff(1984)は,なぜ労働組合が存在するのかという問いに対して,その機能的条件を示したことになる。発言効果が見込まれれば,労働組合は結成されるし,また労働組合は利用されると言えよう。なお,ここでの発言には,毎期の賃上げのような労働条件交渉にとどまらず,労使が情報共有を行い,職場環境を改善することも含まれる。さらに,労働組合を介して個々の組合員の自主性が促されれば,組合員の労働意欲も向上すると言える。

日本における退出・発言モデルを検証した先行研究については,外舘(2009)野田(2010)の研究整理が参考になる。多くの先行研究は労働組合や従業員組織が賃金上昇,離職低下,雇用調整等に与える影響に絞って分析をしているが,その分析結果は分かれている。統計手法の違いから分析結果が異なると考えられるが,調査対象企業の違いや対象者属性の違いによって分析結果が異なる可能性,さらに組合効果をどのように定義し,どのように質問するかによって分析結果が違ってくる可能性がある。今後も研究の蓄積が必要であると言えよう。

ところで,組合効果の計量分析では,従業員の雇用区分が十分に考慮されていない。そもそも労働組合の組織率低下に関する議論では,第三次産業化に伴う非正規化がその要因として指摘される1。しかし,労働組合の効果がないと考えられているかというと,中村(2005)が指摘するように,全国調査によれば未組織労働者の多数(7割弱)は「労働組合が必要である」と答えている。つまり,労働組合は必要だが結成しない,労働組合があっても加入しない理由があると言える。非正社員の組織化自体は労働組合の課題であるのだが,実際,組合効果を正社員と非正社員で定量的に比較した研究はほとんどない。

一方,聞き取り調査による非正規労働者の組織化研究では,非正規労働者の組織化の事例が紹介されている。例えば,金井(2011)秃(2016)は,ジェンダーによる偏りという問題を抱えつつも,企業別労働組合が非正規労働者の待遇改善に取り組んでいる事例を検討している。一方,前浦(2015)は,多くの産別組織は歴史的にもパートタイマーの組織化を検討し続けているが,その動きは一部の先進的な企業別労働組合の取り組みにとどまり,すぐに全体的な取り組みに発展するまでには至っていないことを確認している。その背景には,産別組織内で組織化方針や組合員の権利義務,組合員の範囲等について意思統一を図るのに試行錯誤の時間を要したことがあげられている。さらに橋元(20092010)は,非正社員の組織化に取り組む企業別労働組合の活動を聞き取り調査から分析し,基幹的労働力となった非正社員を多く抱える場合は,その組織化に取り組むという関係を指摘し,正規・非正規の区分に囚われない基幹的労働力に対する多様な処遇制度のあり方が検討されていることを確認している。一方,橋元(2010)では,基幹的労働力ではない非正社員に関して企業を超えた地域での連帯が必要になることが主張されている。

以上要するに,非正社員の労働組合への期待は高く,聞き取り調査では労働組合の結成や加入によって労働条件が改善した事例も確認できるが,全体としては労働組合に加入していない(加入できない)という状況が確認され,その理由については定量的に検討すべきであると言えよう。また,先行する聞き取り調査では,パート労働者と正社員の比較が中心であるが,仕事の内容も働く時間も同じである契約社員と正社員の比較は少ないと言える。

このような状況に対して,小池(19832005)が提示した「ホワイトカラー化組合モデル」を当てはめてみよう。このモデルによれば,正社員と非正社員における労働組合の機能の違いを次のように説明できる。まず,ホワイトカラー化組合モデルは,発言・退出(voice-exit)モデルとは因果関係が逆になっている点に留意する必要がある(都留(2002)参照)。ホワイトカラー化組合モデルでは,企業内の内部労働市場が整備されて従業員のキャリア形成も内部化され,企業特殊的熟練の蓄積が進めば,企業を退出(退職)するコストは大きくなる。結果的に,従業員は企業に対して発言(voice)する誘因を持つと考えられる。このモデルのポイントは,従業員のキャリアが長期雇用を前提にキャリア形成が内部化されているかどうかである。期間の定めのない正社員の場合,キャリア形成の内部化は当てはまると言えるが,非正社員はそもそも雇用契約の期間が定められているので,不満を持ったとしても,それを発言し職場問題の解決に至るまでには時間がかかり過ぎると言えよう。つまり,退出した方が得であると考えるかもしれない。

さらに先行研究では,労働組合の範囲などにおいて正社員と非正社員の利害が対立することが指摘されてきた。例えば,Lindbeck and Snower(1988)のインサイダー・アウトサイダーの理論は組合員(インサイダー)の範囲の分析枠組みとなる。すなわち,正社員や非正社員それぞれにとって労働組合の機能は異なる可能性がある。従って本分析では,これまで分析されることが少なかった契約社員と正社員の雇用区分に焦点を当てて,それぞれの労働組合の発言効果について検証したい。

なお,このような比較検証を行うためには,労働組合に関する質問と職業生活に関する満足度などの質問を契約社員と正社員に対して行う必要がある。本稿では,労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した『労使コミュニケーション実態調査』を使用する2。この調査は,正社員と非正社員に同じ質問項目を含む別調査を同じ時期(2009年3月)に行っている。なお,調査が実施された2009年3月は,半年前(2008年9月)に起こったリーマンショックの影響を受けて雇用環境が急激に悪化していた時期である。リーマンショックが雇用に与えた影響,特に労使関係への影響を取り上げた実証研究は,その重要性にかかわらず少ない。それゆえ本稿は,このような雇用危機に対して労働組合がどのような機能を果たしたのかについて分析した。

本稿の構成は以下の通りである。続く第2節では分析フレームワークを,第3節では調査概要をそれぞれ説明した。第4節では,はじめに記述統計から回答者の属性間比較を行い,次に契約社員と正社員別に組合効果の推定を,第5節ではその結果の考察を行った。最後の第6節は分析結果のまとめである。

2 分析フレームワーク

本節では,分析のフレームワークを説明する。Freeman and Medoff(1984)は,従業員の発言先として労働組合を想定し,人事・総務に苦情や要望を上げることもある。さらに,仁田(1992)が指摘したように,特に中小企業では,職場の上司が実質的な労使関係上の苦情や要望の窓口として機能していることがある。すなわち,労働組合の機能を分析する場合,従業員側からみれば,図1に示したように組合以外の発言先(voice)が競合していることに留意する必要がある3。この分析のフレームワークを踏まえれば,第一に,労働組合に苦情・要望が上げられてくるのかという問い,第二に,仮に苦情・要望が集まってきた場合,労働組合はそれらを団体交渉や労使協議の場で発言し,職業生活の改善につなげることができるかという問いに分けられる。それら2つ因果関係を分けて分析する必要がある4

図1 分析のフレームワーク

ところで,この調査は労働組合の発言機能を多角的に分析するために,職業生活の満足度に関する同一の質問文と選択肢で,賃金,雇用の安定性,仕事の内容,職場の人間関係について質問している。賃金や雇用調整については客観的な変化率を測ることもできるが,仕事の内容や職場の人間関係については,満足度という従業員の主観的尺度で測らざるを得ない。本稿はそれぞれの項目間の比較を行うために同一の質問文と選択肢に統一して従業員の主観的尺度を被説明変数に選択する。

さて,契約社員と正社員を比較すると,期間の定めがある雇用契約を結んでいる契約社員は正社員と比べると労働組合の組織率が低いと考えられる。仮に参加できる労働組合があって,労働組合に苦情・要望を上げようとしないかもしれない。その理由として,契約社員は期間の定めがある雇用契約なので,仮に労働組合に発言効果があったとしても,その効果が現れる前に雇用契約が終了してしまう可能性があげられる。

他方,非正規雇用の雇用調整による数量的柔軟性が正社員の雇用安定をもたらすという正社員と非正社員の相反する利害関係を踏まえると,正社員が中心の労働組合は契約社員の組織化になかなか取り組まない,つまり労働組合という窓口がそもそもない可能性がある。これらの契約社員と正社員の違いの可能性を踏まえて,労働組合の加入率や発言効果の分析を行いたい。

なお,本稿では「組合員かどうか」,「企業に労働組合があるか」という2つのカテゴリーに分けて効果を検証している。その理由として,所属する労働組合が企業別労働組合ではなく,企業外で個人加盟できる労働組合に所属している場合や企業別労働組合はあるが加入している場合なども考慮するためである。例えば,組合員でなくても,会社に労働組合があれば,その労使交渉の影響を受けると考える。

3 調査概要

前述のように労働政策研究・研修機構が実施した質問紙調査『労使コミュニケーション実態調査』は,リーマンショックを通して日本企業の雇用システムをはじめ,職業生活やキャリアに対する雇用労働者の意識の変化を把握することを目的としている。具体的な調査内容は,現在の仕事内容,人事管理や処遇の意識,職場の変化,会社・キャリアに関する意識,職業と生活の満足度と職業に対するコミットメント,勤務先の概要等である。調査対象は正社員,契約社員,派遣社員として働いている雇用労働者1万8,000人である5。調査方法は調査会社を通したインターネット調査であり,回収率は計算できない。調査実施時期は2009年3月である。なお,本稿では先に述べた問題意識に基づいて,調査対象の雇用労働者(1万8,000件)の中から一般社員の正社員(以下「正社員」)(3,000件)と契約社員(3,000件)を分析対象にしている。

4 分析結果

本節では,はじめに記述統計によって調査の回答者である正社員と契約社員の属性や発言行動,さらに労働組合の有無や加入状況を確認する。その上で労働組合の有無や組合員であるかどうかによって職業性格の満足度が如何に変化するかを推定する。最後に,分析結果の解釈を行う。

4-1 記述分析

⑴ 労働組合の有無と加入状況等

従業員の勤務先の労働組合の有無,労働組合の加入状況と加入先,そして加入希望を整理した表1をみてもらいたい。現在の勤務先に労働組合が組織されている割合(「ある」の回答率)は正社員,契約社員とも1/3強(正社員36.5%,契約社員38.8%)の水準にある。その一方,「わからない」の回答が正社員で6.5%,契約社員で2割強(22.9%)みられる。この点について正社員では現在の勤務先の労働組合が従業員数の過半数を確保する多数派組合ではない場合,労働組合への関心が低いことから,契約社員の場合,現在の勤務先に労働組合があるとしても加入資格の対象外が多いことから,その存在を確認する意思を持たないことが考えられる。

表1 労働組合の有無と加入状況等と苦情申し出状況

次に労働組合に「加入している」割合は正社員が3割強(34.0%)にあるのに対し,契約社員は1割強(13.1%)にとどまっている。なお,加入先は正社員と契約社員とも「勤務先の労働組合」(同93.8%,同83.2%)としている。さらに,労働組合に「加入していない」という回答者における加入希望の割合(「加入したい」の回答率)は正社員,契約社員とも1割強(同16.7%,同16.5%)にとどまる。

⑵ 苦情の発言行動~苦情の申し出状況とその申し出先

苦情の申し出状況とその申し出先の2つの点から従業員の苦情の発言行動を確認する。まず苦情の申し出状況について先ほどの表1をみると,過去3年間に会社や労働組合に苦情を申し出たことが「ある」の回答は,正社員(6.3%),契約社員(5.9%)のいずれも少数にとどまり,ほとんどの回答者は苦情を申し出たことが「ない」状況にある。

苦情を申し出たことが「ある」回答者の申し出先について,苦情内容を「労働条件」「職場の人間関係」「仕事内容」の3項目に分けて回答してもらった。表2はその全体像を整理したものである6。以下では,それぞれの組合との関係の違いを踏まえながら苦情の申し出先である上司,総務・人事部門,労働組合を比較した。

表2 苦情の申し出先(複数回答)

まず「労働条件」をみると,その申し出先は正社員と契約社員とも「上司」に集中しており,その割合は6割を超える水準(同61.4%,同67.4%)にある。こうした上司を中心とする苦情の申し出先を,第一に現在の勤務先の労働組合の有無別にみると,勤務先に労働組合が「ない」正社員で多い。これに対して,労働組合が「ある」場合には正社員,契約社員とも「労働組合」の回答率が高くなる。そこで,第二に契約社員に注目して労働組合の加入状況別にみると,「労働組合」の回答は加入者で多くなるのに対して,未加入者は「上司」が多い。

次に「職場の人間関係」に関する苦情の申し出先は,正社員,契約社員とも「上司」(同65.1%,同62.9%)が6割を超えて最も多い一方で,「その他」の回答が正社員で1割強(11.1%),契約社員で2割弱(18.5%),「わからない」の回答が正社員で2割弱(17.5%),契約社員で1割強(11.2%)にある。職場の人間関係の苦情は労働条件や仕事内容といった会社との間で発生する苦情とは異なり,個人との間で発生する苦情であることから苦情の申し出先が分散しやすくなる状況にある。こうした結果を現在の勤務先の労働組合の有無別にみると,上司を主とする苦情の申し出先は,第一に勤務先に労働組合が「ない」正社員で多くみられる一方,契約社員では「その他」が多くなる。第二に労働組合が「ある」場合には正社員,契約社員とも「労働組合」が多く,とりわけその傾向は労働組合に「加入していない」契約社員よりも「加入している」契約社員でみられる。これに対して,「加入していない」契約社員では「上司」と「総務・人事部門」の経営側の申し出先の回答が多くなる。契約社員の苦情申し出先として,労働組合に「加入している」者は労働組合に頼る傾向にあるが,「加入していない」者は経営側に頼る傾向にある。

さらに「仕事内容」の苦情申し出行動をみると,正社員,契約社員とも「上司」(同72.5%,同75.8%)が7割を超え,こうした状況は現在の勤務先の労働組合の有無別には労働組合の「ない」正社員で総じて多くみられる。これに対して,勤務先に労働組合が「ある」場合には正社員,契約社員とも「労働組合」が多くなり,とりわけ労働組合に「加入していない」契約社員よりも「加入している」契約社員で高いことから,苦情の申し出先として労働組合を選んでいることがわかる。なお,「加入していない」契約社員は「上司」の回答が多い。労働条件と同じように労働組合に「加入している」契約社員は苦情の申し出先として労働組合に頼る傾向にあるのに対して,「加入していない」契約社員は上司に頼る傾向にある。

以上要するに,「上司」を中心とする苦情の申し出先の状況は正社員と契約社員に共通してみられるものの,労働組合がある方が苦情の申し出先としての利用が進んでいる状況にあり,その傾向は職場の人間関係や仕事内容に関する苦情よりも労働条件に関する苦情で大きいことが確認された。さらに,労働組合に加入している契約社員の方が労働組合のさらなる利用につながっていること,加入していない場合は経営側に頼っていることが確認できた7

⑶ 職業生活の満足度

現在の職業生活の満足度について,賃金,雇用の安定性,仕事の内容,職場の人間関係を例にそれらの回答を指数化した結果をみると(表3),「仕事の内容」(正社員0.24,契約社員0.41)と「職場の人間関係」(同0.15,同0.29)は正社員,契約社員とも指数の値がプラスを示し,満足していることがわかる。これに対して,「賃金」(同-0.38,同-0.46)の値は正社員,契約社員ともマイナスを示して満足度が低く,しかも契約社員は「雇用の安定性」(同-0.49)の満足度も低い。

次に職業生活の満足度に対する正社員と契約社員の差に注目すると(表3「正社員-契約社員」の値),契約社員に比べ正社員は「雇用の安定性」(0.52)に対する満足度が高い。これに対して,契約社員は正社員に比べ「仕事内容」(-0.17)と「職場の人間関係」(-0.15)の満足度が高く,「賃金」については正社員と契約社員との間に大きな違いはみられない(0.07)。

表3 職場生活の満足度(指数化)

4-2 組合効果の比較検証

⑴ 推定式

続いて,労働組合が職業生活の満足度に与える影響について統計分析する。本調査では,「現在の職業生活にどの程度満足していますか。あてはまるものをそれぞれお答えください。」(5:満足している,4:どちらかといえば満足している,3:どちらともいえない,2:どちらかといえば満足していない,1:満足していない)という質問をしている。その中でも組合効果の被説明変数として,賃金,雇用の安定性,仕事の内容,職場の人間関係の4項目に対する従業員側の満足度を被説明変数として取り上げる。同じ質問文と尺度なので,組合効果を多元的に比較することが可能になる。これらは,5段階の順序尺度になるので,順序プロビット推定を採用した。

次に,説明変数として,労働組合の有無(現在働いている会社に労働組合はありますか。基準:組合ない,組合ある,わからない)と,組合員かどうか(あなたご自身の労働組合加入状況。基準:組合員ではない,企業内・組合員である,企業外・組合員である)をそれぞれ組合ダミー,組合員ダミーとして取り上げる。会社に労働組合があっても加入していない場合もありうるし,会社の労働組合以外の労働組合に加入している場合もありうるので,組合効果と組合員効果をそれぞれ検証することに研究上の意義はある。なお,労働組合の有無と組合員の有無から4分類の説明変数を作って推定することもできるが,会社に労働組合なしで組合員,労働組合ありで非組合員というカテゴリーは人数が少なすぎるので,2つの質問項目で2つの説明変数を作成した。また,「わからない」という回答には注意が必要である。「わからない」を選択した場合,現時点では労使の課題がない(例えば,良い経営状況等)ので,労働組合に関心がないこともあり得る。そこで本稿では,「組合がある,ない」の違いに焦点を絞って分析結果の解釈を行う。

この他,統制変数として以下の質問を選択した。年齢と年齢の自乗項,性別ダミー(男性:0 女性:1),学歴ダミー(基準:中学校・高等学校,専修・専門学校,短期大学・高専,四年制大学,大学院,その他),職能ダミー(基準:専門的・技術的な仕事,管理的な仕事,事務の仕事,営業・販売の仕事,サービスの仕事,保安の仕事,運輸・通信の仕事,技能工・生産工程の仕事,労務作業等の仕事,その他)。企業規模ダミー(基準:10人未満,10人以上~30人未満,30人以上~100人未満,100人以上~300人未満,300人以上~1,000人未満,1,000人以上),産業ダミー(基準:建設業,製造業,電気・ガス・熱供給・水道業,情報通信業,運輸業,卸売・小売業,金融・保険業,不動産業,飲食店・宿泊業,医療・福祉,教育・学習支援業,サービス業,官公庁,その他)。

⑵ 推定結果

正社員と契約社員の2つの推定結果は,表4および表5に示した通りである。まず正社員においては,所属する会社に「組合ある」という組合ダミーと,企業外・組合員ダミーが雇用の安定性に対して統計的に有意な正の値があったが,他の被説明変数に対しては有意な値ではなかった。

表4 正社員の推定結果
表5 契約社員の推定結果

続いて契約社員の推定を確認すると,組合ダミーが賃金と仕事内容に関して正で有意な値であり,企業内・組合員ダミーに関しては,雇用の安定性に関して有意で正の値である。

次に,この2つの推定結果を比較すると,正社員に比べると労働組合に所属している人が少ない契約社員の方が,実際には幅広い組合効果があることが確認できる。つまり,契約社員にとって労働組合があるかどうか,組合員であるかどうかで大きな差が生まれると解釈できるが,その一方で,実際に労働組合に入っている契約社員は少ないという事実がある。

特に契約社員の場合,雇用の安定性に関しては労働組合があるかどうかではなく,実際に企業内の組合員かどうかが雇用の安定性に関する満足度を高めている。言い換えると,仮に企業内労働組合が存在したとしても加入していないと効果がないと言える。そもそも,その企業内労働組合が契約社員の加入を認めていなければ,その効果を得ることができないという問題がある。社外の労働組合に加入しても,その効果は統計的には確認できない。

一方,正社員の場合,雇用の安定性だけではあるが,組合ダミーと企業外・組合員ダミーの2つに正の影響があると解釈できる。雇用の安定性に関しては,雇用調整などを想定すれば,組合側が早期離職制度や解雇に対してどれだけ発言してくれるかについて評価をしていると考えられる。言い換えれば,賃金,仕事内容,および職場の人間関係について労働組合がない会社では,組合効果に代替的な企業側の人事管理施策,もしくは社員会などの従業員発言機構があり,労働組合(労使関係)を抜きにしても同様の効果を得られているとも解釈できる。

5 分析結果の理論的含意

分析フレームワークに基づきながら,正社員と契約社員の推定結果の比較を踏まえて,どのような解釈が可能かを考察する。

まず,正社員の推定結果は図2-1のように整理できる。先行研究でも指摘されているように正社員は,離職コストが大きいと考えられるので,労働組合を通した発言への誘因があると考えられている。組合があれば,加入することがあげられるが,組合がなければ,時間はかかるが組合を結成する可能性もある8。実際,記述統計をみても契約社員と比較すると,正社員は労働組合の加入率は高いが,推定結果からその発言先である労働組合の効果は雇用の安定性に対してのみであり,契約社員と比べて大きいとは言えない。

図2-1 分析結果の解釈①:正社員

次に,契約社員の推定結果は図2-2のように解釈できる。正社員と比べて組合加入率の低い契約社員の方が幅広い組合効果があると言えよう。また,労働組合に加入している場合,正社員と同等に労働組合へ苦情をあげる傾向が確認できる。ところが,この分析結果から組合効果があるならば労働組合の結成率や加入率は高まるとも予測できるが,実際のところ,正社員に比べると非正社員の結成率や加入率は低く,労働組合への意見は少ないことも確認できる。その一つの理論的理由として,労働組合の効果が小さいからではなくて,契約社員の場合,退出するコストが正社員よりも小さいからであると解釈できる。本稿の実証研究では,退出行動や退出するコストを測れていないが,有期雇用の契約社員は,退職までの時間が決まっているので,期間の定めのない雇用契約の正社員と比べて,退出コストが低いと考えられる。すなわち,契約社員たちは,今辞めることと期間終了で辞めることを比較して退出コストを測っているので,理論上,定年まで働くことを想定している正社員よりも契約社員の方が退出コストは低くなると言える。

図2-2 分析結果の解釈②:契約社員

以上まとめると,正社員と比べて期間の定めがある契約社員は,労働組合の組織率も加入率も少ないことは事実であるが,その理由は契約社員にとって労働組合の効果がないからではないことが本稿では確認できる。労働組合の効果はあるが,それは退出(exit)への誘因が大きく(言い換えると,退出コストが小さく),仮に発言する場合でも,加盟率の低い労働組合ではなく職場の上司や人事部に対して発言することが多いからであると解釈できる。

6 おわりに

本稿では,正社員と契約社員の間における労働組合機能の比較を行った。第三次産業化によって非正社員が増えた結果,労働組合の組織率が低下したことは,従来から指摘されてきたが,実際,労働組合の機能を正社員と非正社員で比較した研究はなかった。非正社員が労働組合に入っていない理由としては,非正社員にとって労働組合に加入する利点がないという解釈も成り立ちうるが,労働組合の効果はあるのだが加入に対して高い壁があるという解釈もあり得る。実際に,未組織労働者の労働組合に対する評価は高いことに留意する必要がある。

本稿では,正社員と契約社員に対して同じ質問をしている調査を使って比較分析を行った。分析結果は,以下の3点にまとめられる。

第一に,正社員と契約社員の労働組合のとの関わりを比較した。まず正社員に比べると,契約社員の組合加入率は低く,加入していたとして勤務先以外の労働組合の場合が正社員より多いことが確認できた。また,苦情の申し出先について比較分析した結果,「上司」を中心とする苦情の申し出先の状況は正社員と契約社員に共通してみられるものの,労働組合があれば,または労働組合に加入していれば,そうでないよりも苦情の申し出先としてのその利用が進んでいる状況であった。この状況は労働組合に加入している契約社員でそのさらなる利用につながっているが,加入していない場合は経営側に頼っていることがわかる。最後に,賃金,雇用の安定性,仕事の内容,職場の人間関係の4項目について従業員の満足度を比較すると,契約社員に比べて正社員は「雇用の安定性」に対する満足度が高いことがわかった。

第二に,正社員と契約社員それぞれサンプルにおいて,先ほどの4項目の満足度に対する組合効果の推定を行った。その結果,正社員においては組合ダミー(所属会社の組合有無)と企業外・組合員ダミー(企業外の組合員であるか)ともに雇用の安定に対して統計的に有意な正の値があったが,他の被説明変数に対しては有意な値ではなかった。雇用の安定性に対する満足度は,実際に雇用調整や解雇への不安を想定した場合,実際に組合が発言してくれるかを評価していると考えられる。そもそも企業内に組合があるかどうか,企業外の組合に加入できているかによって,その評価は変化すると言えよう。言い換えれば,賃金,仕事内容,および職場の人間関係について組合がない会社では,組合効果に代替的な企業側の人事管理施策があり,労働組合(労使関係)を抜きにしても同様の効果を得られると解釈することができる。

第三に,契約社員においては,企業内・組合員ダミーが雇用の安定性に関して有意で正の値であり,組合ダミーは賃金と仕事内容に関して正で有意な値であった。つまり,契約社員の方が正社員と比較して幅広い組合効果が確認できる。なお,契約社員において組合ダミーが有意ではないのは,企業別労働組合があったとしても,契約社員は加入できないという可能性がある。

最後に,契約社員において正社員よりも幅広い組合効果は確認されるが,組合加入が少ないという分析結果に対して,その理由を理論的に考察した。まず,期間の定めがある契約社員は,正社員と比較すると離職コストが低く,退出(exit)への誘因が大きいと考えることができる。また,仮に発言する場合でも,加入率の低い企業別労働組合ではなく職場の上司や人事部に対して発言していると考えられる。

以上,契約社員の労働組合の組織率が正社員に比べて低い理由に対する解釈は,正社員と比べて契約社員にとって労働組合が役に立たないので,労働組合を結成したり,労働組合に加入したりしないという解釈とは異なる。組合効果はあるが,加入しない(できない)という事実が本稿の発見であり,労働組合には効果がないと思い込んでいる人たちにとっては「隠された可能性」と言えるかもしれない。言い換えれば,転職を前提としたキャリアにおいては一企業を超えた労働組合活動が求められていると言えるかもしれない。非正規雇用問題に対する企業別労働組合の役割を詳細に検討した橋元(2010)も,企業別労働組合の活動を評価しつつも,外部労働市場から雇用された非正規労働者に対しては,産別組織やナショナルセンターとの役割連携の可能性が指摘されていた。

さらに,この調査の時期がリーマンショック直後であったことを留意するべきであろう。急な不景気によって求人が減れば,転職可能性によって変動する離職コストは大きく上昇する。そのような時こそ労働組合は役に立つと言えるし,その効果は統計的には確認できる。それゆえ,このような効果が不況期にあることは強調すべき事実かもしれない。さらに,検討すべきは産別組織やナショナルセンターが,転職を前提としたキャリアを形成している労働者に対して,どのようなアプローチができるかを検討することは重要であろう。転職しながらも組合員資格が維持されるような地域,産業,職種という企業を超えたレベルで労働組合活動を行う実践が必要になる。未組織労働者の問題は,その効果の違いではなく,その費用の違いであるとわかれば,その解決すべき課題も絞られたと言えるのではないか。

今後の課題として,第一に,パート労働者や派遣労働者との比較も行いたい。派遣労働者に対する質問紙に関しては,派遣労働者は「会社の組合」と質問された場合,派遣先か派遣元かを明確に認識できない。言い換えれば,職場においては両者の役割の境界が曖昧であるという実情がある。聞き取り調査を行いながら質問紙調査をする場合でも適切な質問を考えるべきであろう。第二に,発言行動の結果としての離職行動(exit)も分析するべきであろう。現時点では,苦情の発言行動をとらなかった従業員が離職する行動は,パネル調査が最も適した調査方法である。本稿を含めた発言・退出(voice-exit)モデルの実証研究は,個人の離職行動の実証は行われていない。今後の課題としたい。

(筆者=梅崎 修/法政大学キャリアデザイン学部教授 田口和雄/高千穂大学経営学部教授)

【注】
1  例えば,中村(1988)

2  従業員調査『労使コミュニケーション実態調査』はJILPTのプロジェクト研究「個別的労使関係が進展する中での企業内の労使関係システムのあり方に関する研究」の一環として実施された調査であり,本稿の執筆者の1名はプロジェクトメンバーとして質問項目作成から参加している。同プロジェクトは従業員調査(正社員調査,非正社員調査)の他に企業調査(「企業における人事機能の現状と課題に関する調査」)も実施しているが,調査時点の関心から報告書(『企業における人事機能の現状と課題に関する調査』)は企業調査の分析にとどまっている。同研究会メンバーである執筆者がJILPTに従業員調査のデータ利用の許可を得て分析している。

3  例えば,梅崎・田口(2012)は,労使協議制,人事部相談窓口,苦情処理委員会がそれぞれ競合している(競合説),もしくは別々の機能を持っている(機能分化説)に分けて実証している。

4  図1の分析フレームワークでは,理論的には選択肢の一つとして退職(exit)が提示されているが,実際に退出=離職行動を測ることは難しいと言える。分析対象からは外し,解釈の際に,本フレームワークを使う。

5  1万8,000件のサンプリング方法の詳細は,次のとおりである。調査会社に登録している会員を対象に「正社員・部長クラス」「正社員・課長クラス」「正社員・係長クラス」「正社員・一般社員(役職についていない)」「契約社員」「派遣社員」の各カテゴリーが3,000件に達するまで回答を募る方法である。このサンプリング方法をもとに正社員調査は「正社員・部長クラス」「正社員・課長クラス」「正社員・係長クラス」「正社員・一般社員(役職についていない)」の計1万2,000件を対象に,非正社員調査は「契約社員」「派遣社員」の計6,000件を対象に実施した。

6  同調査では,「実際に」申し出た時の申し出先と「仮に」申し出る場合の申し出先を同一の設問で尋ねているが,この分析ではそれらの回答を統合して分析している。その理由は「実際に」と「仮に」を合わせて分析することで,苦情を申し出たことが「ある」回答者が申し出先として頼っていることが明らかになるからである。なお,設問のデータセットについて,申し出先を選択していない場合は「非選択:0」,「実際に」「仮に」の両方あるいはどちらか1つを選択している場合は「選択:1」とした。

7  その一方で,労働組合に加入していないにもかかわらず,苦情の申し出先として労働組合が選ばれている状況にも留意する必要がある。この点については,労働組合は組合員だけに組合活動を行うだけではなく,組合員以外にも組合活動を行っている。その代表例として労働組合が設けている苦情相談窓口がある。苦情相談窓口は組合員を対象とした組合サービスの1つであるが,労働組合に加入していない労働者であっても苦情相談をきっかけに組合に加入することにつながるため,企業別労働組合だけではなく,産別組織や職種別労働組合などの労働組合はオルグ活動の一環として非組合員からの苦情相談を受け付けている。さらに労働組合は経営との交渉・協議に向けて組合員の意見や要望を集約・収集するために行うアンケート調査等を組合員以外にも行っている。こうした労働組合の活動を労働組合に加入していない労働者は評価して,苦情の申し出先として労働組合を選んでいることが考えられる。また,組合に加入していない者の「労働組合」の回答率が契約社員よりも正社員で多くなることについては,契約社員に比べて会社との関係性が強いことから労働組合への評価と期待が大きいことが考えられるものの,当該件数が6件にとどまっているため今後の課題としたい。

8  既存の組合がユニオンショップである場合,入社=組合加入になる点は留意すべきである。そのユニオンショップの組合が結成されたという過去の出来事が現在に反映されていると言える。

【参考文献】
 
© 2020 Japan Society of Human Resource Management
feedback
Top