日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
巻頭言
学会誌とかかわる
島貫 智行
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2021 年 22 巻 1 号 p. 2-3

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学会誌が届くのが待ち遠しい。大学のメールボックスに学会誌が届くとすぐに目を通す。日本の労務研究の問題関心が今どこにあるのか,全国各地の諸先生や大学院生がどのようなテーマに取り組んでいるのかを知りたいのである。

学会誌に掲載されている査読付論文は,厳しい査読プロセスを経た労作である。そして,査読付論文という研究業績は,大学院生がジョブマーケットに出るうえで極めて重要である。指導教員の教育方針もあり,私が大学院生であった15年ほど前のゼミは,専ら各人のペーパー・ディベロップメントであった。優秀な先輩や仲間に刺激され,私も研究のアイデアを出しては思索し,先行研究となり得る論文を読み漁り,データを収集・分析して原稿を執筆し,皆からコメントをもらい考量して修正する,その繰り返しであった。

指導教員から及第点をもらっても,学会誌に投稿すれば「大幅な修正が必要(メジャーリビジョン)」で戻ってきて御の字である。査読者のコメントを熟読して問題がどこにあるのかを考える。改訂方針は自分でなんとか捻り出すしかない。より多くの論文を読んだりデータを再分析したりして,査読者の要求に応えるために採り得る案の検討に苦心する。そして,採択通知を受け取ったときの達成感が落ち着くころに改めて初回投稿時の原稿と見比べると,論理や分析などあらゆる面で論文の質が格段に向上したことに気づかされる。査読者の厳しくも誠意のある建設的なコメントのおかげで,未熟な読み物がどうにか学術論文と呼べるものになり得たのである。査読付論文は,投稿者である私一人の力では到底完成しない。最近は共著で投稿することも増えたが,査読者にはいつも感謝の思いである。

現在私は,大学院生に研究指導を行う立場になった。大学院生のやるべきことは昔の私と何ら変わらず,投稿論文を書き博士論文を提出することである。ただ,研究テーマは人事管理論から組織行動論まで多岐にわたり,私が深くかかわってこなかった分野もある。しかも皆よく勉強しており,一人ひとりが自分の研究分野に精通しているという自負がある。指導教員のコメントだからといって容易には受け入れてくれない若き専門家たちに対峙するには,各人の研究分野の論文を読み込み,分析手法の幅を拡げ,大学院生の思考の道筋を推測しながら,彼・彼女らが納得して理解できる説明を何通りも考えねばならない。指導の基本は傾聴と対話であるから,個別指導が2時間を超えることも珍しくない。一筋縄ではいかない大学院生たちのおかげで,私は自身の研究スキルを磨くことができているのである。

大学院生は論文を完成させたら投稿である。査読者から厳しいコメントが戻ってきても,もし不採択になっても落ち込まずにチャレンジを続ける気構えをもってほしい。審査結果が届けば,私も本人と一緒に悩む。その道の専門家である査読者の指摘は的確である。指導する立場からも,なるほどと唸る指摘も多い。査読者のコメントに対応して論文を改訂するプロセスは,私の指導の何倍も彼らを成長させてくれるばかりか,私にとっての学びでもある。

査読を依頼されることも増えた。「査読の依頼が来るのは名誉なこと」という先生方の言葉を思い出し,よほど異なる分野でない限りは引き受けている。新しくユニークなアイデアに溢れた論文に出会えることも多い。著者が相当な労力をかけて執筆した論文であるから,論文を何度も読み返し,参考文献リストに掲載された論文だけでなく関連する論文にも目を通す。大事にしていることは,その論文の良い点や優れている点に注目することである。自覚しないと問題点ばかりに目がいくので要注意である。査読票のコメントにも気を遣う。著者が問題点や改訂の方向性を理解し,意欲的に改訂作業に取り組み,再投稿してくれることに自身のコメントが少しでも役立つことを期待する。

査読は自分の研究業績にはならない,ボランティアである。自分の研究時間を削って行う作業になることは否定できないが,私は査読を通じて自分の研究関心や知識を拡げ,良い論文とは何かを考える貴重な機会を与えてもらっていると思っている。

これらはごく個人的な経験に過ぎないが,一読者として,また投稿者,指導教員,査読者それぞれのかかわり方は違っても,私は学会誌に今なお研究者として育ててもらっている。多くの先生方が教えてくれたように,学会誌に掲載される査読付論文は,著者と査読者による知的対話の成果であり,学会員が広く共有する知的資産である。また,本学会には日本の労務研究を牽引する役割が期待されている。学会誌が私たちの研究コミュニティの基盤となる活動であるならば,学会誌の充実や論文投稿の活性化は最重要課題といってよい。

このような問題意識から,現執行部では編集委員長を中心に『日本労務学会誌』の改革を進めてきた。投稿・査読プロセスの迅速化・透明化を目的とした年2回(5月末と11月末)の投稿締切の設定や投稿から1年以内の採否決定,オンライン投稿・査読システムの導入は,大きな前進である。加えて,多様な労務研究を促進する試みとしてのレビュー論文特集の企画や,学会誌のいっそうの充実のための全国大会統一論題報告の論文掲載や研究奨励賞受賞論文の優先掲載などもある。この改革が本学会50年の伝統を継承し,今後50年のさらなる発展に貢献することを願っている。

  • 島貫智行

一橋大学

 
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