2021 年 22 巻 1 号 p. 20-34
Argyris and Schön(1978)called the theory of real intention that practitioners are using in practice as “theory-in-use”. The study of this issue has mainly been conducted in the context of organization and learning theories, but no follow-up studies have been carried out focusing on leaders as an analysis target.
This paper is a qualitative study that elucidates the formation and revision patterns and timing of leadership opinion(theory-in-use)in a company that actually forms the opinion of leadership as a research site by clarifying what kinds of opinion formation and revision patterns and opportunities are being carried out by the investigating leaders and their followers over the long term. In addition, this paper analyzes leadership exercises and organization transformation through case studies related to formation and revision of leaders through the individual opinions of leaders.
The results of the survey indicate that the leader not only learns from challenging experiences, as reported in previous research, but also effectively carries out opinion formation and revision through constructive dialogue among experienced people. The leadership argument finds a revised/newly formed phenomenon with multiple patterns. Through this discovery, this paper adds new findings to the study of opinion. The structure of this paper is as follows.
In the beginning of this paper, we explain the consciousness problem of existing research on opinion. The reasons for selecting research sites and analysis targets, and the structure of this paper are explained. Company X, an IT company, was the subject of the analysis and had leaders who actually formed opinions under the guidance of special lecturers at 4-6 years since the time of starting the first survey. Detailed records describing the leadership opinions formed by the training and background work experience were kept by Company X as internal documents. As we can investigate the use development and revision of such opinions, we selected Company X as the research site.
The subjects mainly reviewed in previous research are lead opinion research, research-related leadership theory, and leadership development theory. From a review of existing research based on these previous reports, we investigated the patterns of and triggers for the revisions to existing and new formations.
Next, we explain the background of the research site in detail. Specifically, we describe the circumstances of and motivation for the management and human resources development staff at the time Company X was nurturing the leaders of the next generation and the business environment surrounding the company.
We then explain the research method. In this paper, we adopt a qualitative method devised using the following methodology. In addition to interviewing the leader about the survey, we also interviewed the followers to verify the contents while supporting the demonstration of leadership through opinions. In addition, we simultaneously verified the evaluation of the leader of the organization by interviewing individuals in the human resources department regarding contributions to corporate management, public interest, performance, and organizational change.
As a result of the analysis of the data of the interview conducted on the leader and followers of Company X we clarified that the formation and revision of opinions included the patterns of “reinforcement”, “decline of availability”, “addition of meaning”, and “new formation”.
On the occasion of revision of the new formation of opinions, we found that which differs from the results of previous studies on leadership development theory.
As a result of the analysis of this survey, leaders who led organizational change at Company X through active dialogue reconsidered opinions, discovered that they had deepened their understanding, and made advanced revisions and new formations. In addition, the presentation of newly discovered facts and their implications are described based on a series of analysis results to date, along with the limits of this research and directions for future work.
個人も組織もどのようにすれば社会の変化に適応できるようになるのか。この問題を考える際に,組織論,リーダーシップ論において焦点とされるのは個々人のメンタルモデルである(Senge;1990;2006.Kegan ; 2009, Heifetz et al., ; 2009)。個々人のメンタルモデルについて,Schön(1983)は人が実践において心から信じ,実際に使う理論のことを使用理論(theory-in-use)1と呼んだ。Schön(1983)による使用理論の研究は,当時の学習研究に衝撃を与えた。人は信奉理論(esposed theory)と呼ばれる標榜しながら実践しない理論と,実践に耐えうると行為者が信じ,実践の場で実行される使用理論を使い分けている。この状況を多数のプロフェッショナルの事例研究から明らかにしたからである。
Schönの個人の使用理論の研究関心は,その後Argyrisとの共同研究の中で,組織学習におけるダブル・ループ学習(organizational double-loop learning)と連動する使用理論(model- II theory-in-use)の関係に移行した。当時は組織学習論の黎明期であり,優先課題となっていたためである。後継研究者たちも,ダブル・ループ学習の方法論としてのコンサルタントなど外部専門家による介入(intervention)に研究関心が移行した(Nevis et al., 1995 ; Beer and Eisenstat, 1996)。その結果,個人の使用理論の研究が学習研究の領域で停滞している。
ところが近年,リーダーシップ論の研究領域においてリーダー個人の使用理論形成がリーダーシップ開発に重要であるとする研究の流れが生じている(金井,2005 ; 片岡,2010 ; 松尾,2011 ; 2013)。
リーダーシップ開発において,一皮むける経験(quantum leap experience)2が成長機会であり(McCall, 1988;McCall et al., 1988;McCauley et al., 2004),その内省を通じた教訓の概念化,使用理論の形成が重要なプロセス(Schön, 1983;Kolb, 1984 ; 松尾,2006)とされている。
だが,使用理論のリーダーシップ開発への応用に向けた研究には不明な点が多い。それは使用理論を形成しているリーダーを見つけ,追跡して使用状況を調査することが困難なためである。そのため,使用理論形成・改訂がどのようなパターンと要因で行われているのかがいまだに解明されていない。
だが,本稿では専門講師3によって実際にリーダーシップの使用理論を一度言語化しているX社におけるリーダーたちを4年間にわたり追跡調査する機会を得て,詳細に分析することができた。この調査機会を通じて,半ばブラックボックス化しているリーダーの使用理論形成・改訂のパターンと要因をつかむことを試みた。
本稿で検討する使用理論とはArgyris and Schön(1978)及びSchön(1983)に準拠し,「実践に耐えうると行為者が信じ,実践の場で実行している理論」と定義する。信奉理論(espoused theory)とは自分の行動はこれに基づいているのだと標榜しつつ,実践には結びついていない理論である。Schön(1983)が提示した使用理論の研究は,状況との自己対話の方法論を提示している。
Schönは「行為中の省察(reflection-in-action)」「事後の省察(reflection-on-action)」「省察に関しての省察(reflection on reflection-in-action)」という3つの省察の方法を具体的に提示した。また,Argyris and Schön(1978)はBateson(1972)の学習法の学習に依拠しつつ,学習の継続的な更新を行うダブル・ループ学習とそれに伴う使用理論形成・改訂の議論を行っている。ここで示すダブル・ループ学習とは,先入観や前提に捉われず,外部からの有効な情報を生かし,行動を変え,内部から引き起こされる本物の組織変革(real change)に導くことのできる学習法である(Argyris, 1977)。ダブル・ループ学習を実現することで,使用理論を適時改訂・新規形成して新たな学習を加えていくことが可能となる。使用理論の特徴を理解する上で,類似した概念を比較検討する(表1)。第1に,Furnham(1988)が社会心理学の研究として提示した素人理論がある。Furnhamの素人理論は素朴な感覚で,行為者の感覚に適した独自の理論のことである。Furnhamが素人理論の事例として挙げているものには,心理学,精神医学,医学,経済,統計学,法律,教育に関するものがある。例えば人間は誰しも健康に関する何らかの素人理論を持っている。だが,素人からの健康に関するアドバイスがしばしば害を及ぼすこともある。素人理論が使用理論と異なる点は,暗黙的で自覚が弱く,批判的内省プロセスから形成されるとは限らない点である。また,専門的検討も乏しく,実践して効果が上がるとは限らない点にある。

第2に,Dweck(2000)のセルフセオリーは,その人が持つ困難や努力などに対するモチベーションの研究である。使用理論は成人のプロフェッショナルが仕事を成功させるための勘所まで意図して理論化されたものである。それに対し,セルフセオリーは主に子供の暗黙の知能観(theory of intelligence)に着目した研究である。子供が潜在意識下のマインドセットとして「やればできる」と考えることができれば,難問に直面しても乗り越えていくことができる。使用理論との共通点としては肯定的メンタルモデルとして実際に活用される部分である。また,メンタルモデルの硬直性を問題視している点でも共通している。相違点として使用理論は理論化の強さ,成人を対象とする仕事経験からの学習を重視する部分で異なっている。また,Argyris and Schön(1978)はメンタルモデルの硬直性を緩和していくための学習法(ダブル・ループ学習)をモデルにして実践した点でも違いがある。
第3に,Tichy(1997)のTPOV(teachable point of view)がある。TPOVは,自分の経験や観察を通じて,人に教えようとすれば教えられる教育的見地である。使用理論との共通点は経験の内省から生み出されている点である。リーダーシップに特化している点では,リーダーシップ開発に直接活用できるメリットもある。だが,使用理論との相違点としてTPOVはTichyのGE社での経験を元としている点で企業特殊性を有している。特にジャック・ウェルチの4Es(Energy,Energize,Edge,Execute)に関連したTPOVについてはジャック・ウェルチ個人の影響が強く,特殊性が顕著である。また,教育に焦点が置かれ,TPOVを適時改訂・新規形成するためのダブル・ループ学習に類する学習の方法が検討されていないデメリットもある。以上の点で長期的で幅広い企業でのリーダーシップ開発に応用する目的においてはTPOVよりも使用理論の方にメリットがある。
第4として,Kolb(1984)の経験学習モデルがある。Kolbは,4段階からなる経験学習のプロセスを提示しており,本稿において特に2段階目の批判的内省フェーズと3段階目の概念化フェーズが,持続的に個人の使用理論形成・改訂を説明するための基礎理論として位置づけられる。例えばスポーツの名選手,名監督がノートを内省的に記録し,振り返りの中でセオリーを磨き,新たな試みも重ねつつ,不調を乗り越えて好成績を出し続ける姿に当てはまる。主に教育界では経験学習に対する批判として「這い回る経験主義」と呼ばれるものがある。断片的で不完全な学習プロセスにより,経験と学習が連動しないことである。Kolbの経験学習モデルは,経験を学習へと転換させ,Schön(1983)が説明する「行為に関連する省察」(=批判的内省フェーズ)と「使用理論形成・改訂」(=概念化フェーズ)をシンプルにサイクル・モデル化できている点で基礎理論と言える。
以上の類似概念との相違点や基礎理論を参考にすれば,使用理論は標榜と実践の乖離の問題,経験学習を着実に積み上げるプロセス,シングル・ループ学習に陥りがちな人間の慣性に対処する学習法も内包し,企業のリーダーシップ開発に活用するのにメリットがあり,本稿で扱うこととした4。
2-2. 方法論としてのフォロワーへの調査本稿においてはYukl(2009)に基づき,リーダーシップとは「リーダーが目標達成に向けて方向づけるため,フォロワー集団への理解と合意を得るための影響力を発揮すること」と定義する。またリーダーとはその影響力を行使してフォロワーの心を一つにまとめる役割を果たす人とする。
Yukl(2009)に基づきつつ,リーダーシップの使用理論の活用状況を知る方法として,フォロワーの視点でリーダーシップ現象を確認する方法の活用について取り上げる。Calder(1977)は,リーダーシップは測定不可能だが,フォロワーにより観察された行動や事象からリーダーシップを帰属することのみが,測定可能な属性であると論じた。更に,リーダー中心主義ではなくフォロワーの視点による分析アプローチを顕著に主張しているのがMeindlによる一連の研究(Meindl et al., 1985; Meindl, 1990 ; 1995)である。これらの研究を日本で質的調査に活用しているものに小野(2016)がある。フォロワーの視点も活用したリーダーシップの質的調査法は,リーダーシップ現象の有無の裏づけだけではなく,リーダーシップ現象がどのような性質のものであったかを裏づけるのにも活用できる。
2-3. 研究課題の設定ここまでの議論を総合し,以下の研究課題を設定した。
RQ2 リーダーシップの使用理論が改訂・新規形成されて実践されているならば,どのようなパターンでなされているのか。
RQ3 リーダーシップの使用理論はどのような職務や実践行為が要因となり,改訂されているのか。
まずRQ1は本研究の前提となる使用理論活用の状況確認である。リーダーシップを専門とする講師による研修により形成されたリーダーシップの使用理論が,本調査では4年後に職場で実際に活用されているかどうかを確認するための問いである。
次にRQ2は一度形成された使用理論が数年後に改訂・新規形成されていくパターンに関する問いである。使用理論はSchön(1983)が主張する通り,継続的な省察を重視した実践のための理論だとするならば,改訂できている人物がいることも想定される。どのようなパターンで改訂されているのかをここで明らかにする。
RQ3は,使用理論の改訂パターンがわかれば,それはどのような職務や実践行為が要因となっているのかを知るための問いである。使用理論改訂の要因がわかれば,リーダーシップ開発を活性化する方策も見えてくる。このような研究課題を設定して調査を進めた。
本稿では,専門講師によって使用理論の形成を伴うリーダーシップ開発研修が行われ,4年経過している企業をリサーチ・サイトとし,インタビュー調査をする貴重な機会を得た。本稿の調査協力会社は,関西に本社を持つ大手鉄鋼会社を母体とするIT企業X社である。
X社を選定した際の理由と状況を述べる。まず,X社では,戸田(2008)のリサーチ・サイトとして人事担当者とアクセスがあった。次に,第一調査のインタビュー時点で使用理論を形成したリーダーシップ開発研修から4年間の時間が経過しており,使用理論を活用したリーダーシップのパフォーマンスの検証や,使用理論の改訂について検討できる状況があった。以上の理由からX社を選定した。
X社は2002年に大手外資系IT企業の資本を導入し,その時点から大手外資系IT企業より経営陣を招聘し,経営体質を強化してきた会社である。その後全国企業品質賞(栃木県経営品質協議会主催)で大賞を受賞した。人材育成を重視しており,先輩社員のメンター制度を通じた新入社員の育成から,次世代経営幹部の育成まで,各階層における専門技能の研修,テーマごとに人材育成の場を形成し,独自の研修を行ってきた企業である。リーダーシップ開発研修を受講したメンバーは全員,専門講師により「リーダーシップとは何か」について,研修で基礎知識を得ていた。また使用理論(theory-in-use)については実務家にも理解しやすいように「持論」と意訳して紹介され,どのようなものであるかについて説明を受け,理解していた。
研修ではそれぞれの一皮むける経験をまとめて発表した。そこから得られた教訓を考察し,使用理論として言語化して,専門講師とメンバーでそれぞれのフィードバックを得ながら問題点を修正しつつ,完成に導いている。このリーダーシップ開発研修の中で発表してまとめた一皮むける経験の内容と,リーダーシップの使用理論が記録として保管されていた5。記録を手がかりとすることで,研修前の若手・中堅社員時代の仕事経験と使用理論について筆者は確認することができた。
X社は歴史のある大手鉄鋼メーカーを母体としていることもあり,伝統を重んじる保守的な体質を持つ企業であった。このX社を革新的なIT企業として,市場の変化に対してスピードのある対応のできる経営体質に変えていくため,大手外資系IT企業より,IT事業に精通した経営陣も派遣された。しかしながら,事業構造改革,組織風土改革,人事制度改革は一朝一夕に進まず,当時の経営陣は危機感を持っていた。X社では研修を企画した当時の経営者が危機感を持って真剣に次世代リーダーを育成しようと考えた。そして自らリーダーシップの専門講師を探し,自身も研修に参加し,会社をあげてリーダーシップ開発研修が実施された。
3-2. 方法X社では2009年11月から2010年1月にX社でリーダーシップ開発研修を受け,使用理論を形成したリーダー14名に対するインタビューを行った。次に,2010年7月にリーダーと同じ職場で仕事を共にしているフォロワーで調査可能な8名に,4年間に,当該リーダーがどのようにリーダーシップを発揮し,使用理論に関わる影響力を発揮していたかについてインタビューした。
本調査で重視したことは2つある。第1に,各ケースの分析について,リーダーシップの使用理論の活用状況を確認することである。そして,使用理論改訂がどのように行われているかパターンを浮き彫りにする。
第2に,リーダーシップの使用理論改訂の要因についてカテゴリー化することである。そして,リーダーは何をきっかけとして使用理論改訂を行っているのか手がかりを得る。
インタビュー調査の手順としてまず,使用理論を形成したリーダー本人に対して,個別インタビューを行った。「リーダーシップの使用理論を形成した後の出来事の中で,リーダーシップを一番発揮したと感じる出来事はどのようなことか」という質問項目を依頼段階でX社のリーダーたちに伝えてインタビューを行い,その語りのデータ分析を進めた。
次に,リーダーの右腕として仕事を共にしているフォロワーに対し,個別インタビューを実施した。本稿の方法的努力として,リーダーの右腕であるフォロワーが,どのようにリーダーの使用理論を通じたリーダーシップを仕事の中で感じ取り,認識したかを調査することにより,使用理論の改訂状況の裏づけを得た。
フォロワーに対しては,「リーダーの仕事の中でリーダーシップを感じる出来事と,そこにリーダーの使用理論を感じる出来事はあるか」という点について質問を行った。併せて人事部門に業績の面で組織としての評価についても確認した。
本調査では,事前に作成されたインタビュー・プロトコルを用いながらも,インタビュー対象者の話す内容に応じて柔軟に対応する,半構造化したインタビューを行った。インタビューの対象者には,事前にe-mailを用いて研究の目的と質問事項,また,データは研究以外には活用されないことを伝えた。また,ICレコーダーで録音をする許可を求めた。インタビュー時間は1人当たり約1時間〜2時間程度(平均1時間14分)で行った。
3-3. 結果 (1) リーダーの使用理論の活用状況本調査の結果として,4年前の研修で形成されたリーダーシップの使用理論は職場で実際に活用されていることが,リーダーとフォロワー双方の調査より確認された。表2は調査対象者の使用理論の活用とフォロワーの認識である
表2の各項目の結果より,RQ1については,研修で形成されていたリーダーシップの使用理論は4年後の事業現場で実際に活用されていたことがリーダーとフォロワーの発言からも確認できた。ただ,表2にある使用理論改訂の項目が示すように,使用理論が研修時のまま連続的に使用されている人と,改訂を加えている人がいた。また,強弱を持って活用されていた。

表2のフォロワーの認識が特に強かったリーダーの使用理論の部分に提示されている通り,フォロワーの証言からリーダーが使用理論を通じたリーダーシップを発揮していることが確認できた。
下記はあるフォロワーの発言である。リーダーの「逃げない」という持論に対して次のような発言をしている。
「逃げない」に関してですが,(Eさん)は誰に対しても思ったことを発言して,ぶち当たっていく。それは当社の役員クラスであっても,ぶれずにこうあるべきだ。大先輩にも「こうしましょう」とか。お客さんに対しても言っています。部下にもそうですね。めんどくさいこと相談されると,俺知らんわという人がいますけど,Eさんはそうではないですね。じゃあこうしようとか,じゃあそれ俺やってみるとか。じゃあ一緒に行ってみようとかというところで逃げない。Eさんと一緒に仕事した人はみんな,そう思ってるんじゃないですか。
E氏のケースでフォロワーは明瞭にリーダーの使用理論を認識していた。「逃げない」という持論について,周囲の誰もが真似できない水準で実践していたと発言していた。
筆者はフォロワーが明瞭に使用理論を認識している発言をする状況に対し,研修で形成した使用理論に捉われていないか確認するため,インタビュー中はフォロワーに使用理論一覧を見せないようにし,最後の10分で網羅的な確認をした。そして,リーダーシップの出来事を中心とするインタビューをしたが結果は変わらなかった。ただ,研修で形成した使用理論の全てを均等に認識しているのではなく,認識の強いものと弱いものの差は生じた。
(3) 使用理論改訂・新規形成のパターンここではRQ2である使用理論改訂・新規形成のパターンについて取り上げる。本調査の結果として以下のパターンで使用理論は改訂されていた。
① 連続的に使われている使用理論(continuous use)
連続的に使われている使用理論は,連続的に使用され,効用に確信を持ち,使用理論形成時よりも意識されているものである。連続的に使われている使用理論については,経験というものが1回性のものではなく,類似する状況で連続して表れることから生み出されてくる(Dewey, 1938;Kolb, 1984)。一度形成された使用理論が様々な場面で試されて,成果と共に効用が確認され,効力感が強化されている。例えば下記の事例があった。
あまりね,持論に新しく加えて変えているというのはね,実感は実はないのですよ。ただ,ここに挙げている持論は,当初書いたときに思っていたよりも繰り返し実践しています。
この発言はX社のI氏によるものである。I氏はX社の神戸本社の営業部門と東京本社営業部門の統合マネジャーとなって業容を拡大させた。統合を進める際のリーダーシップを発揮するうえで,「相手によって発揮するリーダーシップを変える」という使用理論を連続して使用していた。
② 使用度の低下している使用理論(decline in use)
使用度の低下している使用理論は,一度形成された使用理論で,優先度が低く,その後活用の度合いが低下しているものである。リーダーの使用度の低下していることから,問われない限り発言されないものがあった。
事例から見出されたパターンは次の(a)から(c)の状況である。
(b) 異動や昇進によって使用度が低下している。
(a)(b)のパターンについては,立場や環境の変化によって使用の機会が低下したということである。
(c)のパターンは,自分の弱点であることを自覚し,努力目標として設定した使用理論である。努力目標を設定して,やはり克服できないまま,フォロワーにも認識されていないケースである。
例えば,「信頼する」とか,「ほめる」とか,どちらかというと対人的な気をつけるところですよね。ところが,今になって思うと,頭ではわかっているのですけど,なかなかできていません。日々の行動にまで落とし込めるまでの持論になったかというと,どちらかというとペーパー的な,本当に対応的なことでしかできていないと思っています。だけど,そこら辺がもっと重要だというように思ってはいるのです。
これはB氏の発言である。B氏は業界特化のサービスの仕組みを構築し,画期的な業績をあげたリーダーである。しかし,自分に不足している部分としては部下を心配して配慮し,ほめる部分であると自覚している。そのために努力目標として「信頼する」「ほめる」という使用理論を形成した。「信頼する」「ほめる」の重要性を認識しつつも,構造改革に打ち込んで問題解決に意識を集中していくうちに使用頻度が低下していた。使用頻度は低いものの重要性の認識は変わっておらず,学習棄却されているわけではなかった。
③ 意味の追加されている使用理論(addition of meaning)
意味の追加されている使用理論とは,過去に形成された使用理論に新たな経験学習より意味を追加したものである。
様々な状況下で使用理論を活用し,より使いやすくするため,意味を補足し,多様な局面で通用するために改訂し,理解を深めている使用理論である。
過去の使用理論には「率先垂範」というのがありました。今は組織が大きくなったので,前は小さな問題を最後まで首突っ込んで,処理ができるのですけど。それをやっていると他に目がいかなくなってくる。それを直していこうと。何か火を噴いた問題に対してある程度方向性だけ示して,あとは下の課長に任せる。委譲していくしかない。そうじゃないと下の課長も育たない。そこのさじ加減が難しい。この委譲していくという部分は新たに加えています。
E氏は,「率先垂範」を使用理論としていた人物であった。顧客から小さなクレームが生じても問題を放置せず,部下と共に自ら現場に出向き,迅速に対処することで周囲からの信頼を得てきた。
しかし,西日本エリアだけの課長であった時と異なり,東日本エリアも同時に統括するマネジャーに昇格すると,小さな問題まで率先垂範で対応する時間がなくなった。また直属の部下の中から責任者を育成していくという観点からも「率先垂範しつつ,任せるべきは任せる」という言葉で条件を補足して意味を追加していた。
④ 置き換えられている使用理論(replacement)
置き換えられている使用理論は,過去に形成された使用理論が新たな環境において通用しなくなり,アンラーニングされると共に,新たな使用理論が取って代わっているものを指す。Argyris and Schön(1996)も置き換えのことをアンラーニングであると認識していた。
本稿はリーダーシップの使用理論の形成・改訂の現象を見ていく上で置き換えが行われていないか注目した。それはArgyris(1977)がダブル・ループ学習の条件の一つとしている組織学習による変革につながる現象を見極めようとしたためである。次の発言は,ある赤字部門を黒字に転換したリーダーのものである。
二律背反的な課題があって,そこをどのようにクリアしていくのか。単純に物事を表面だけ見ると二律背反に見える。だけど,突き詰めていくと,根本原因にたどり着くことができれば,本当は二律背反ではないということが見えてくる。そこらへんをTOC6の勉強をした時になるほどなと感じ,それ以来私は変わりました。例えば本当にライン長として上からのプレッシャー,下からもプレッシャーが来た時に,二律背反でやっていて何も他に行き所がなかったらそらもうどうしようもないです。二律背反と思っていても現象にとらわれていて,深い理由であるとか,突っ込めてないからだと考えるならば解決できます。しかし,それまでは,プレッシャーが来たら,人に対して明るく接して問題解決に向けて巻き込んでいくようにすればいいとしか考えていなかったのです。
この発言はK氏の発言である。K氏はシステム開発の事業現場で赤字部門を再建する仕事に取り組んでいた。現場改善の関連書籍を読んでいる中でTOCやトヨタ生産方式の問題解決の方法論に出会った。表面的な現象にとらわれず,背後に潜む真の原因を突き詰めていく。真の原因がつかめれば,解決策も見出され,真実に基づいて人を説得することもできる。真の解決への道筋が見え,徐々に成果が現れてくると心の底から自信がわいてきて,仕事に対するモチベーションまで変わった。以前は「問題解決に向けて明るく巻き込み,その気にさせる」としていた使用理論は,「本当の原因をつかむことで,二律背反する問題も解決できる」という使用理論に置き換えられていた。その後K氏は赤字続きだった組織を黒字転換に導いている。
⑤ 新規形成された使用理論(new formation)
新規形成された使用理論は過去に形成した使用理論には関連のない内容の使用理論が新しく形成される現象である。新規形成は,それまでのキャリアのなかで経験したこともない問題に直面し,その局面を打開しようとする中で新境地として生み出されているものである。
私もMBAに行っていましたから,どうやったら組織が活性化して,どうやったらモチベーション上がるのかっていうようなことを,実際,研究テーマでまとめたんです。その中の1つのファクターとして,「参画意識を持たせる」ということが結果として出てきたんですよね。3人集まりゃ文殊の知恵みたいな側面もあるし,呼ばれたっていう意味でのモチベーションみたいな部分もあるのです。
これはG氏の語りである。G氏のシステム開発部門で100人規模の部下を束ねるマネジャーに昇格し,事業現場でキャリアを重ねてきた。しかし,本部長職に就任し,本社のスタッフ部門の責任者に異動した。そこでキャリア上初めて人事の仕事を経験することになった。その際にIT企業として成果を重視した人事制度改革を進めることとなった。成果主義を取り入れながら,どのようにすれば人のモチベーションを落とさず,やる気に火をつけることができるのかを考えた。結論が「参画意識を持たせる」であった。人は自分が気の進まない事柄であっても,その改革に参画意識を持ち,責任を持たされると問題意識を共有するようになる。そして,やる気を出して組織変革に向けて前向きなコミットメントを取り始める。人事の仕事を経験する中で参画意識を持たせることの重要性に気がついた。G氏は「参画意識を持たせる」という使用理論を新規形成し,困難な人事制度改革を実現に導いている。
(4) 使用理論改訂の職務要因ここまで使用理論がどのように改訂されているのかについてインタビュー・データを踏まえながら結果を整理した。次に本稿のRQ3の論点である,リーダーが使用理論改訂をした学習の職務要因について分析結果を提示する。
表3はX社におけるリーダーのリーダーシップの学習の職務要因を分類し,右端ではMcCall(1988)の経験学習に関するカテゴリーと比較したものである。左側から職務要因は5つのカテゴリーに,更に7つのサブ・カテゴリーに分類した。そして,サブ・カテゴリーに対しての説明とどのような事柄を学んでいるかを示した。左端にはMcCall(1988)の経験学習に関するカテゴリー,サブ・カテゴリーと比較している。McCall(1988)との比較からは共通点と相違点が見出された。共通点は,McCall et al.(1988)をベースにMcCauley et al.(1994)が整理して提示した発達的挑戦課題(development challenge)の要因について,学習の職務要因としている事例が顕著に確認できたことである。赤字事業の立て直しや,異動を伴う困難な問題の解決などの発達的挑戦的課題への取り組みは,本調査におけるリーダーたちのケースでも学習機会となっていた。相違点は,新規情報や経験を持つ他者との対話から学習したことを強調する発言が見られたことである。対話の相手として職場の上司だけではなく,経営幹部,同僚,関連部署の同僚,外部専門家からの学習が明瞭に発言されていた。「私は上司や仲間に育てられたとはっきり言えます」「あの人と仕事をしたことで気づきが得られた」と強調して発言するリーダーが多数見出された。McCall(1988)の調査研究の特徴は挑戦的な経験からの学びが詳細に分類されている点である。一方,他者からの学びは「上司をロールモデル及び反面教師として学ぶ」のカテゴリーのみで捨象される傾向が見られる。自らの経験学習プロセスに他者の経験学習やフィードバックが刺激を与え,予測範囲を広げている状況は見えにくい。本調査では使用理論の改訂・新規形成に着目した。そして質問の角度を変えて調査し,異なるコーディングの視点を持ったことにより,他者との対話からの学習状況が見えやすくなり,詳細な発言を引き出す結果となった。

本稿の発見事実は2点ある。1点目は,追跡調査による分析によって抽出された使用理論の形成・改訂は複数のパターンで行われていたということである。Argyris and Schön(1996)が主として検討していた「置き換え」のほかに,「連続的使用」「使用度の低下」,「意味の追加」,「新規形成」の5つのパターンを抽出した。
2点目は,使用理論形成・改訂の要因に関して,リーダーシップ開発論の先行研究と共通点と相違点が発見されたことである。共通点は一皮むける経験(quantum leap experience)や発達的挑戦課題(development challenge)を機会として成長に結びつけているという点である。課題のカテゴリーにある「ゼロからの立ち上げ」,「立て直し」などの課題からの学習の重要性は共通していた。相違点は,使用理論改訂の要因となっていたのは,他者との対話が顕著な学習機会となっていた点であった。個人で経験学習が終始しているのではなく,対話によって他者の経験からも視点が加わり,直面する問題解決の予測範囲が広がり,使用理論の改訂が進展していた。
これは既存研究の調査が成功後のリーダーに対して,経験からどのような教訓を学んだかを1時点で調査したのに対し,本調査では過去の成功体験に基づく使用理論形成時と,それから数年後の新たな経験を踏まえた時点の2時点で,どのように改訂をしているか,改訂プロセスに重点を置いて質問したことにより見出された発見事実である。また,リーダー同士の対話が鍵となり,過去の成功体験にこだわることなく新たな学習を可能ならしめていた。それは,一旦言語化され,成功体験もある使用理論にこだわらずに改訂していくためには,他の信頼できるリーダーからの真剣な問いかけといった言葉のやり取りが必要となったということである。
以上の発見事実に基づいて本稿の理論的示唆を述べる。リーダーシップの使用理論形成過程については既にSchön(1983)が「行為中の省察」,「事後の省察」,「省察に関しての省察」の方法論を提示している。本稿の発見はSchönの状況との自己対話による知の生成論に続き,その後の状況変化の中での知の改訂に関する方法論とパターンの知見を理論的に示唆する。つまり発見事実より使用理論は5つのパターンで改訂され,使用理論形成後の継続学習法として,新規情報や多彩な経験を持つ他者との対話による学習が使用理論改訂・新規形成に導く過程で有効であるという示唆である。
また,本稿の実践的示唆としては次世代リーダー育成を目的とする管理職研修,評価及び昇進昇格人事を進める際,様々な場面で使用理論改訂・新規形成の吟味や対話が重要となるということである。長期間リーダーの使用理論に改訂・新規形成が生じないということは,防衛的思考(defensive reasoning)の傾向が芽生えており,次世代リーダーとしての成長や社会変化に適応するためのリーダーシップ発揮は期待しにくい兆しが読み取れるということでもある(Argyris and Schön, 1996;Argyris, 2010)。経営トップ及び人事責任者は次世代リーダーたちの業績や社内評価を確認すると同時に,使用理論改訂状況を研修ごとに可視化し,対話を重ねながら次世代リーダー育成や昇進昇格人事に活かしていくことが肝要である。また,リーダーを目指す個人の自己啓発においても,対話による学習と改訂パターンを意識することで,防衛的思考が萌芽していないか注意を払い,リーダーシップの使用理論を磨き続けていく姿勢が重要である。
4-2. 本稿の限界と今後の展望最後に本稿の限界と今後の展望を述べる。本稿の限界としては,対話による使用理論形成・改訂の知見の一般化を進めるにはサンプル数が少ないことが指摘できる。質的調査については,フォロワーの視点も取り入れて確認をとる方法で裏づけを取りながら進めた。また人事部へのインタビューもすることで多角的な視点を取り入れる方法的努力を重ねた。方法的努力を重ねたものの,より強固な知見としていく上で,異なるコンテクストでサンプルを収集して分析し,更には統計解析も加えていくことが重要である。そうすることで使用理論をリーダーシップ開発に応用する研究を更に前進させていきたい。
本論文は,神戸大学経営学研究科へ提出した博士論文「リーダーシップの持論形成・改訂に関する研究」(2016年)の一部についてデータを再分析し,内容を修正したものです。ご指導いただいた金井壽宏先生,高橋潔先生,平野光俊先生に感謝申し上げます。また本論文の作成にあたっては,匿名レフリーの先生方から大変貴重なコメントを賜りました。ここに心より謝意を表します。
(筆者=大阪経済法科大学准教授)