日本労務学会誌
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スキル・ミスマッチと仕事満足の関係―残された課題の検討―
平尾 智隆
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2021 年 22 巻 1 号 p. 86-95

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ABSTRACT

This paper replicates models developed by our previous research to study the effects of skill mismatch on job satisfaction. Over-skilling (Under-skilling) refers to the mismatch wherein an individual has higher (lower) skills than that required for his/her current job. Using the original panel survey data, our results confirm our earlier work, showing that the effects of over-skilling on job satisfaction is negative. At the same time, our results also confirm that persons whose skill is less than the required skill for their job by a small measure receive significantly higher job satisfaction than their correctly placed colleagues. Furthermore, there is no significant difference between persons whose skill is less than the required skill for their job by large measures and person who their correctly placed colleagues. This suggests that under-skilling by small measures becomes an important opportunity to gain experience through actual work practice.

1. はじめに

スキル・ミスマッチとは,スキル過少(under-skilling),スキル適当(required skilling),スキル過剰(over-skilling)として定義されるスキルのマッチとミスマッチを個人レベルで捉える概念である。スキルが高低で測れるとして,スキル過少は個人のスキルが就いている仕事に求められるスキルよりも低い場合,反対に,スキル過剰は個人のスキルが就いている仕事に求められるスキルよりも高い場合をいう。そして,個人のスキルと就いている仕事に求められるスキルが同じ場合はスキル適当ということになる。

本研究では,スキル・ミスマッチ,特にスキル過少の程度の違いが従業員の仕事満足と会社コミットメントに与える影響を明らかにする。『日本労務学会誌』第20巻第1号に掲載された本研究と同主題の論文(平尾 2019)においては,主にスキル過剰が仕事満足と会社コミットメントに「負の影響」を与えることを実証したが1,スキル過少がそれらに与える影響の分析については,次の課題を残すことになった。

第2に,スキル過少者の仕事満足と会社コミットメントは,スキル適当者と差がないという結果であった。この点については留保が必要かもしれない。スキル過少の程度が大きくない場合は「成長の機会」となるが,スキル過少の程度が大きすぎる場合は,それはブラック企業的な働き方になっている可能性がある。換言すれば,スキル過少の程度がほどよく小さければ人的資本を蓄積する手段となるが,逆にそれが大きすぎれば人的資本を摩耗する結果につながる。本研究の分析結果は,適度なスキル過少の正の効果と過度なスキル過少の負の効果が打ち消しあった結果なのかもしれない。この点については,残された課題になるが,今後スキル過少の程度を捉えられる調査と分析が必要になるだろう(平尾 2019:33頁より引用)。

すなわち,平尾(2019)ではスキル・ミスマッチを大括りに把握したために,その程度が違えば仕事満足や会社コミットメントに与える影響も異なるのではないかという問題意識が薄くなり,分析に一定の課題を残すことになった。そこで,この課題を克服するため本研究では新たな調査を実施し,特にスキル過少の程度をいくらかでも捉えると同時に,その程度の違いが従業員の仕事満足と会社コミットメントに与える影響を分析する2

2. 理論的検討と仮説

スキル過少の程度をどのように捉えればよいだろうか。まず,Cohn and Khan(1995)の説明を援用しながらスキル・ミスマッチについて再度考えていこう。今,スキルの高低を連続的な数量で把握できると仮定して,個人のスキルの高さを\(S\),ある仕事をするために必要とされるスキルの高さを\(S^r\)とすれば,スキル過剰の程度は,

  
\[overskilling = S‒S^r\ \mathrm{if} S>S^r \]

と定義できる。同様にスキル過少の程度は,

  
\[underskilling = S^r‒S\ \mathrm{if} S<S^r \]

と定義できる。なお,以下の場合はスキル適当となる。

  
\[S = S^r \]

しかし,実際の調査では質問紙によって「あなたの能力と現在行っている仕事の関係は下記のどれに該当しますか」という質問をする方法(主観的計測法)をとるため連続的な数量でスキル過少やスキル過剰を把握することができない。平尾(2019)では,先の質問項目に対して「能力以上の高度な仕事をしている(スキル過少)」「能力相応の仕事をしている(スキル適当)」「能力以下の仕事をしている(スキル過剰)」の3つの選択肢を用意し,それぞれダミー変数化し,説明変数として使用した。本研究では,いくらかでもスキル過少の程度の把握を行うために,「能力以上の高度な仕事をしている」という選択肢を「能力以上の高度な仕事をしている(スキル過少L)」と「能力以上のやや高度な仕事をしている(スキル過少S)」の2つに分割し,スキル過少の程度を捉えることを試みた3

すなわち,後の統計分析においては,スキル過少Lダミー変数,スキル過少Sダミー変数,スキル過剰ダミー変数を説明変数として投入し,スキル適当ダミー変数を基準にした時にスキル過少の程度の小さいスキル過少Sダミー変数とそれよりスキル過少の程度が大きいスキル過少Lダミー変数とでは,どのように影響力が異なるのかを分析することになる。

仮説の設定に際して,スキル過少について再考すると,スキル過少は適切な仕事の配分であるスキル適当よりも高い目標管理が行われており,それを達成することを通じて,より多くの人的資本の形成や経験の蓄積が期待できる一方で,自身が保有するスキル以上の仕事のため負担が大きいという側面を併せ持つということに気がつく。換言すれば,スキル過少には,「成長への機会」という側面と「スキル以上の仕事の負担」という2つの側面が内包されているといえる。本研究では,スキル過少をスキル過少Lとスキル過少Sに分割して分析を行うが,スキル過少Lは「成長への機会」よりも「スキル以上の仕事の負担」の側面が強く,逆に,スキル過少Sは「スキル以上の仕事の負担」よりも「成長への機会」の側面が強い状態ということになる。「スキル以上の仕事の負担」のみが大きいと思われるスキル過少Lについても,その中には「成長への機会」が含まれ,「成長への機会」と捉えられるスキル過少Sにもやはり「スキル以上の仕事の負担」は含まれる。

その意味で,スキル過少S者は「成長への機会」となる仕事が多く配分されるわけであるから,企業からの期待を受けて,その従業員の仕事満足や会社コミットメントはスキル適当者に比べて高くなると予想される。以上から仮説は次の通り設定される。

  • 仮説:スキル過少S者の仕事満足および会社コミットメントは,スキル適当者よりも高い(スキル過少Sダミー変数の係数の符号の向きは正)。

一方,スキル過少L者は,スキル過少S者よりもスキル過少の程度が大きいが,明らかにスキルの高い従業員が担わなければならない仕事をスキルが低いとわかっている従業員に配分する動機は企業にはない。なぜならば,スキルの低い従業員をそこに配置したらスキルの高い従業員がその仕事を担い産出できたであろう価値を逸するからである。改めて考察すると,スキル過少Lは,平尾(2019)で記述したようなブラック企業的な働き方ではなく,対処の難しい突発的な仕事を多く担う人や担当業務の変更後すぐの時期など,これまでに全く経験のない仕事をしている人の可能性が高い4。それはそれで短期的には「スキル以上の仕事の負担」は大きいが,中期的にはそれを乗り越えることで新しいキャリア展望が開ける可能性もある。その意味で,スキル過少Lには仕事満足・会社コミットメントを低める効果とそれを相殺する効果があることになり,スキル過少Lダミー変数の符号の向きと有意,非有意は明らかではない。ただし,「スキル以上の仕事の負担」はそれなりの程度で存在するため「正で有意」という結果は得られないだろう。この点は実証分析において確認することになる。

3. 調査概要とデータ

3-1. 調査概要

調査対象は,平尾(2019)と同様の食品製造企業Z社である。筆者らはZ社と共同で年に1回,従業員意見調査を実施している。この調査は,Z社の協力を得て職場ごとにアンケートへの回答時間を設定し,一斉に実施,調査票の回収を行っている。そのため,回収率はほぼ100%になる。このアンケート調査では,会社や仕事への思い,人事制度や処遇に関する満足度,自身の仕事ぶり,上司や同僚の仕事ぶりなどが質問されている。

同時に調査時点の人事マイクロデータがZ社から研究チームに提供されるので,それらを従業員ID番号で結合し,経年で人事マイクロ・パネル・データを作成している。平尾(2019)では,2013〜2015年調査の3年3期のパネルデータを分析したが,本研究では,スキル・ミスマッチの質問項目について,「能力以上の高度な仕事をしている」という選択肢を「能力以上の高度な仕事をしている」と「能力以上のやや高度な仕事をしている」の2つに分割して調査を実施した2018〜2019年調査の2年2期のパネルデータを使用する。

Z社の調査時点の企業属性を確認しておくと,従業員は約640人(非正規を含む),20歳代の従業員が約4割を占め,従業員の平均年齢は約34歳である。女性比率は約3割,中途採用者の比率は約32%である。

3-2. スキル・ミスマッチの発生状況

次に調査対象となったZ社のスキル・ミスマッチの発生状況について確認しておこう。調査期間におけるZ社正規従業員のスキル・ミスマッチの発生状況をまとめたものが表1である。

表1 スキル・ミスマッチの発生状況

2013〜2015年調査においては,概ねスキル過少者が20%程度,スキル適当者が75%程度,スキル過剰者が5%程度となっていた。2018〜2019年調査においては,スキル過少L者が5%程度,スキル過少S者が30%程度,スキル適当者が60%程度,スキル過剰者が5%程度となっている。2つの調査ではスキル過少の割合が異なる傾向を示す結果となった。2013〜2015年調査ではスキル過少者は20%程度だが,2018〜2019年調査ではスキル過少L者とスキル過少S者があわせて35%程度とスキル過少者が15%ポイントほど増加している。同じく2013〜2015年調査と2018〜2019年調査を比較すれば,逆に,スキル適当者は15%ポイントほど減少している。

スキル・ミスマッチの質問項目について,2018〜2019年調査時に2013〜2015年調査と同じ質問項目を実施した場合の潜在的な結果は把握できないので推測の域を出ないが,スキル過少の選択肢が2つに分割されることで,スキル過少者がスキル過少L者とスキル過少S者に分かれたというよりも,従来はスキル適当と回答していたが「ややスキル過少」の選択肢ができたことによってそちらを選択した人がでてきたのではないかということが考えられる。

なお,スキル・ミスマッチは,同一個人において多時点で変化する変数である。恒常的にスキル過少,スキル適当,スキル過剰のままの人がいる一方で,これらのマッチ・ミスマッチの間を行き来する人もでてくる。人材育成のためにスキルの低い者にレベルの高い仕事を任せた結果,ある者はスキル過少になるだろうし,逆に,経験豊富な中途採用者が会社の配慮などにより最初は簡単な仕事から始めてもらおうと簡単な仕事を配分されたらスキル過剰に陥るだろう。これら以外でも異動や担当業務の変更,社内外の研修や訓練の受講などによってもその状態は変わり得るだろう。そのため次節では,パネルデータを用いることで変動するスキル・ミスマッチ,特にスキル過少Lとスキル過少Sの状態が仕事満足や会社コミットメントにどのような影響を与えているのかを分析する。2時点間のスキル・ミスマッチの変動については,表2にまとめている。

表2 スキル・ミスマッチの変動

4. 実証分析

4-1. 分析方法

本節では,スキル・ミスマッチが仕事満足と会社コミットメントに与える影響について,パネルデータを用いた分析を行う。分析には,前述した従業員意見調査(アンケート調査)のデータと人事マイクロデータをID情報で結合した2年2期の人事マイクロ・パネル・データを用いる。

パネルデータを用いることで,見せかけの相関を打ち消すことができ,また横断面データでは対処の難しい観察困難な個体固有の効果を制御して推定を行うことができる。例えば,生来の能力が高い人は生産性が高いだろうと推測される。生産性が高い人は,会社内での評価も処遇も高くなり,その結果,仕事満足や会社コミットメントが高くなっていくだろう。この影響力を制御せずに推定を行うと,内生変数の推定値が過剰推定されることになる。換言すれば,個人の生来の能力や価値観など観察困難な個体差を制御することで,スキル・ミスマッチそれ自体が仕事満足と会社コミットメントに与える純粋な影響を分析できることになる。具体的には,最小二乗法,固定効果分析,変量効果分析を行った上で,個体固有の効果が存在するか,個体固有の効果はランダムか否かを検証する検定を行い,分析方法を選定した後に,結果を解釈する。

4-2. 変数

基本的には,平尾(2019)と同じ説明変数と被説明変数を用いるが,2013〜2015年調査と2018〜2019年調査の間に,従業員意見調査においていくつかの質問項目の入れ替えが起こっているので,本項ではこの点について確認をしておく。

2013〜2015年調査と2018〜2019年調査の質問項目をまとめたものが表3である。各質問項目には,「全くあてはまらない」=1,「あまりあてはまらない」=2,「どちらともいえない」=3,「多少あてはまる」=4,「非常にあてはまる」=5の選択肢があり,データ上はそれぞれ1〜5の数値が与えられている。合成変数の場合は主成分分析を行い,その第1主成分より得られた推定値を分析に使用していた。また,ダミー変数の場合は「全くあてはまらない」「あまりあてはまらない」「どちらともいえない」にゼロを与え,「多少あてはまる」「非常にあてはまる」に1を与えていた。

2013〜2015年調査と2018〜2019年調査の間にいくつかの質問項目の入れ替えが起こっているが,表3では調査されている質問項目には○が記入され,調査されていない質問項目は空欄となっている。①仕事満足については,2013〜2015年調査では「現在担当する仕事を続ければ力がつく」という質問項目を合成変数の一部として使用していたが,2018〜2019年調査ではそれが質問項目に入っていないので使用できない。代わりに,2013〜2015年調査では聞かれていない「自分の担当業務に納得している」が2018〜2019年調査では使用可能なので,それを合成変数の一部として使用した。

表3 分析に使用する変数の関係

②会社コミットメントについては「友達や親戚に当社への入社を勧めたい」「社外の人に対して,『私はZ社の社員です』と自信を持って言える」の質問項目が本研究では使用できない。同様に,④職場要因についても「定期的に振りかえりをし,進歩している職場である」「職場では,メンバー同士で個人的に教えあうことが多い」の質問項目が,⑤上司要因についても「部下があげた案件について,上司は速やかに判断している」の質問項目が本研究では使用できない。⑥他部門要因では「私の仕事を理解しようと働きかけてくる他部門・他職場の人が多い」「私は,他部門の人と話す機会に,それぞれの仕事内容について話題にしている」の質問項目が使用できないものの,「職場は,他部門と連携して業務を進めることができている」という質問項目が新たに利用可能となっている。これら質問項目が完全に一致したかたちで合成変数が作成されていないことには留意が必要である5

一方,人事マイクロデータから得られる教育年数,女性ダミー変数,勤続年数,管理職ダミー変数,基本月給(千円),月当たり時間外労働時間は,それぞれ調査時点のデータが使用可能である6。なお,分析対象は正規従業員であるが,調査期間中に発生する新卒採用や中途採用,退職,休職,質問への未回答などの理由により,パネルデータは全ての変数に欠損のないbalancedパネルデータではなく,unbalancedパネルデータを分析することになる。変数の記述統計量は表4の通りである。

表4 記述統計量

4-3. 推定結果

先に示した変数を使用して,データをプールしての最小二乗法,固定効果モデル,変量効果モデルの推定を行い,次に,モデルの選択のために以下3つの検定を行った。まず,個人効果の存在を確認するため最小二乗法と固定効果モデルの比較を行い,「個人効果がない」という帰無仮説が棄却されれば固定効果モデルを,棄却されなければ最小二乗法を選択することになる。F検定の結果,帰無仮説が棄却され固定効果モデルの採択が支持された。

次に,最小二乗法の誤差項がゼロであるという帰無仮説が棄却できるか否かの検定をブラシュ・ペーガンLM検定(Breusch and Pagan Lagrangian multiplier test)により行った。この場合,帰無仮説が棄却されることは,誤差項に個体の異質性が残っていること,すなわち,個人効果の存在が認められることを意味するが,検定の結果,帰無仮説が棄却され,変量効果モデルの選択が支持された。

最後に,固定効果モデルと変量効果モデルのどちらを採択すればよいのかを探るために,個人効果がランダムか否かを検証した。ハウスマン検定(Hausman specification test)によって「個人効果と説明変数に相関はない」とする帰無仮説を検証するが,変量効果モデルは個体効果と説明変数の相関を認めず,固定効果モデルはその相関を認める分析方法である。ハウスマン検定の結果,帰無仮説は棄却され,固定効果モデルの採択が支持された。以下では,表5の固定効果モデルの推定結果を確認していく。

表5 推定結果

分析の結果,仕事満足を決定する要因として,スキル過少Sダミー変数の係数の値は正で有意になっている。すなわち,スキル過少S者の仕事満足はスキル適当者より高いということがわかる。保有するスキルよりやや高いスキルが求められる仕事をしている者は,企業から「成長への機会」を与えられ,その仕事を遂行することで人的資本の蓄積が進み,仕事満足が高まっていくものと思われる。

また,スキル過少Sであることは会社コミットメントをも高めている結果が確認できる。仕事満足と同様に,保有するスキルよりやや高いスキルが求められる仕事をしている者は,その過程の中で,会社コミットメントも高くなっていくといえるだろう。

一方,スキル過少Lダミー変数の符号は,スキル過少Sダミー変数と同様に正ではあるものの有意ではない。スキル過少L者とスキル適当者の間には,仕事満足,会社コミットメントに差がないという結果になった。

加えて,スキル過剰ダミー変数は負で有意となり,平尾(2019)と同様の結果が得られた。負の方向への係数の値も大きく,スキル過剰状態にあり続けることの「負の影響」は人的資源管理において大きな問題となるだろう。

5. おわりに

本研究で得られた結果は次の通りである。第1に,スキル過少S者の仕事満足と会社コミットメントはスキル適当者に比べて高いことが明らかとなった。個人のスキルと就いている仕事に求められるスキルとの関係において,後者が前者をやや上回る場合,高い目標管理とその仕事を遂行する過程において意欲や満足の上昇,会社へのコミットメントが起こるものと推測される。仮説は実証されたといってよいであろう。

第2に,スキル過少L者の仕事満足と会社コミットメントはスキル適当者と差がないことが明らかになった。スキル過少Lダミー変数の係数は,正で有意にはならないだろうという予想通りの結果が得られており,スキル過少Lには短期的にそれなりに大きい仕事の負担(負の効果)とそれを乗り越えた場合の中期的なキャリア展望(正の効果)が含まれていることが示唆される。

第3に,スキル過剰者の仕事満足・会社コミットメントは,スキル適当者のそれよりも低いことが改めて確認された。個人のスキルと就いている仕事に求められるスキルとの関係において,前者が後者を上回る場合,生産性を発揮できないことによる意欲の低下と不満の拡大が示唆される。

最後に残された課題を述べて結語としたい。本研究は,1企業を対象とした研究であり,外的妥当性の確保は依然として残された課題である。また,スキル過少に含まれる「成長への機会」という側面と「スキル以上の仕事の負担」という2つの側面を識別した分析も必要かもしれない。これについてはスキル・ミスマッチの他の計測法を応用するなど,さらなる研究デザインの改良が必要となるだろう。

(筆者=摂南大学経済学部准教授)

 【付記】

本研究はJSPS科研費 19H00619の助成を受けたものである。

【注】
1  具体的には,スキル過剰者の仕事満足と会社コミットメントはスキル適当者に比べて低いことを実証した。

2  スキル過剰の程度については,平尾(2019)でも考察した通り,その程度の差が与える効果は同じ符号になると考えられる。小さなスキル過剰は仕事満足と会社コミットメントに対して小さな負の効果,大きなスキル過剰はそれらに大きな負の効果を持つと考えられる。本研究では,このスキル過剰の程度は取り扱わない。

3  本研究では,2つに分割したスキル過少を表す場合は,ややスキル過少を「スキル過少Small」,それより程度の大きいスキル過少を「スキル過少Large」と表記する。

4  ブラック企業では,問題はスキル・ミスマッチというかたちではなく,低賃金や長時間労働として表出するだろう。ハラスメントや「追い出し部屋」は,法を逸脱した行為として別の社会問題として取り扱わなければならない。ブラック企業についての理論的な考察は,伊藤(2014)を参照されたい。

5  ⑦仕事の裁量は2018〜2019年調査で質問されておらず,本研究では説明変数として使用できない。しかし,平尾(2019)の分析において,仕事の裁量ダミー変数は仕事満足および会社コミットメントに影響を及ぼしていなかったので,本研究で説明変数として使用できなくても大きな問題にはならないと思われる。

6  教育年数は中学卒=9,高校卒=12,専門学校・短大・高専卒=14,大学卒=16,大学院卒=18とした連続変数である。

【参考文献】
 
© 2021 Japan Society of Human Resource Management
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