日本労務学会誌
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論文
医療現場における自律的作業集団と労働生活の質との関係における多技能化の媒介効果
井川 浩輔厨子 直之
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2021 年 22 巻 2 号 p. 4-23

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ABSTRACT

Autonomous work groups are composed of team human resource management, team autonomy and multiskilling. These components have positive effects, but little quantitative research has explicitly examined these effects in Japanese hospitals. The purpose of this study is to examine the degree to which team human resource management and team autonomy would be associated with quality of working life levels, and whether multiskilling would mediate these relations. To test this model, using a sample of 302 Japanese medical professions working for hospital organizations in Japan. Based on multiple regression analysis and the bootstrapping method, two findings were revealed. First, both team human resource management and team autonomy were significantly and positively related to quality of working life. Second, multiskilling was evidenced to partially mediate the effects of team human resource management and team autonomy on quality of working life. These results provide further empirical support for autonomous work groups in hospital organizations, and also evidence to promote autonomous work groups to workplaces affected by the service economy and knowledge economy.

1. はじめに

組織の適応力や柔軟性,そこで働く従業員の仕事の質などの向上を目的としたチームとして仕事を行う方法,すなわち,チーム制に関する議論は,製造業からサービス業へと進展してきた(e.g., Manz and Sims, 1993)。我が国でも,後述のように,チームの取り組みに関連する実証的研究の対象が,製造業からサービス業へと広がりつつある。しかし,今日のサービス経済化(e.g., Normann, 1991)や知識経済化(e.g., Davenport, 2005)という経済動向は,組織で人的資源管理(Human Resource Management: HRM)を行う上で考慮するべきものと考えられるが,両経済の影響を受ける職場を対象としたチーム研究は,日本で十分に蓄積されたとは言い難い。サービス・知識経済の両方の特徴を有する職場は,チーム研究を発展させる上で重要であり,そのような職場の1つとして医療現場があげられる。

日本の医療現場では,患者の状況に適切に対応するために職種間の連携や業務補完に基づくチーム医療1(例えば,厚生労働省,2010)や,職種間での役割の代替関係や職能の拡大を意味するスキルミックス2(例えば,厚生労働省,2008)に関する取り組みが普及しつつある。しかしながら,職種間で業務を分担して行うことで医療従事者の専門性を向上させてきた病院組織において,業務補完や職能拡大を行うことは容易なことではない。そのため,医療専門職がチームとして業務を補完したり職能を拡大したりする作業方法と,そのチームによる作業をサポートするHRMを機能させるための実証研究が求められている。

このような背景を踏まえ,本稿の目的は,自律的作業集団(autonomous work group)3の労働生活の質(Quality of Working Life: QWL)への影響を明らかにするとともに,自律的作業集団の医療現場への適用可能性について検討を試みることである。

自律的作業集団はチーム作業(teamwork),すなわち,職場においてチーム単位で仕事を行う組織デザインの起源の1つとして考えられている(e.g., Porter and Beyerlein, 2000)。これまでのチーム研究では,様々な分析モデルが構築されてきた(e.g., Yeatts and Hyten, 1998)。しかし,分析モデルが増加するにつれて,それらを構成する要素の定義や位置づけも多様になり4,チームに関する知識の統合化や体系化の困難さが指摘されている(e.g., Salas and Cannon-Bowers, 2000)。そこで,チーム作業を研究・実践するための基盤になる枠組みの検討が喫緊の課題となるが,自律的作業集団の分析視角は次の3点において理論的な独自性を有しているため,チーム研究の統合化や体系化に貢献する可能性がある。

第1に,自律的作業集団を構成する要素に多技能化(multiskilling)(e.g., Cordery, 2000)という,チーム・メンバーが幅広い範囲の技術的スキル5を獲得・発揮している状態が含まれている点である。チーム活動における人間的スキルを取り扱うチーム研究は多数存在するが(e.g., Yeatts and Hyten, 1998),チーム・メンバーの多技能化という観点からチームの機能やメカニズムを説明している研究は,自律的作業集団に関連するものに限られよう。したがって,チームの多技能化という側面を捉えるためには,数あるチーム理論の中でも自律的作業集団の考え方が不可欠になる。

第2に,自律的作業集団の構成要素には,上記の多技能化を促進するHRMが含まれている点である。一般的に,作業組織は,分業と協業の体系,権限と管理の体系,教育訓練の体系,報酬の体系,という4つから構成されるものとして考えられてきた(例えば,倉田, 1985)。多技能化と作業組織を構成する4つの体系の複合体としてのHRMとの関係性まで包含する自律的作業集団は,技能とそれを支えるHRMという明確な論理を提示するため,チーム研究の統合化や体系化において基盤となる枠組みを提供するものとして期待できる。

第3に,自律的作業集団の設計は,QWLの改善を目指すアプローチの1つとされている(例えば,奥林,1991)。QWL概念は,これまで多様な意味において用いられてきたが,広義のQWLと狭義のQWLに整理できるとされ,前者が従業員の保障や職場の民主主義に関する制度や政策を対象とするのに対して,後者は仕事における心理的成果を向上させる作業組織設計に着目すると考えられている(例えば,嶺,1986)。また,QWL概念には,労働者が感じる労働生活に対する満足や重要性という心理的な側面と,その心理的変数に作用する職場や仕事の特性という構造的な側面が含まれると考えられている(例えば,高橋,1987)。

本稿は経営学を学問的基礎とするため,狭義のQWLに焦点を絞り,本文中においてQWLという言葉は,従業員が認知する労働生活の質という心理的側面を意味するものとして用いることとする。これに対して,自律的作業集団は労働生活の質という従業員の心理的側面に影響する職場の構造的側面として位置づけられる。

職務設計もQWLの改善を目的とするが,それが個人の心理構造と職務に含まれる心理的な要件の関係性に着目するのに対して,自律的作業集団の設計は個人の心理だけでなく環境の変化への柔軟な対応も考慮に入れた職務間関係,すなわち,個々の仕事を組織化した作業組織を対象としている(Davis and Taylor, 1972)。働き手の心理と環境変化それぞれへの対応が求められる医療現場において,QWLと環境適応の同時達成を理論的射程とする自律的作業集団は一定の意義を有するものと考えられよう。

本稿では,上記のような分析視角の独自性を強調するため,また,チームに多様な定義が存在することから生じる不要な混乱を避けるため,古典的な自律的作業集団という概念を分析に用いることとした。自律的作業集団の考え方の一部は,セルフマネジング・チーム(Manz and Sims, 1993)など様々な研究に応用されているが,本研究では自律的作業集団に固有の構成要素に着目して,それらの関係性や一般化可能性を探究することとしたい。

2. 先行研究の検討

2-1. 自律的作業集団の構成要素

上記のように,自律的作業集団とはQWLを高める上で着目するべき作業組織の一形態である。イギリスの炭鉱やインドの織物工場における諸研究(Trist and Bamforth, 1951; Trist, Higgin, Murray and Pollock, 1963; Rice, 1953, 1958)を通じて明らかにされてきた自律的作業集団の構成要素は,以下のように整理できよう。

第1の構成要素は,ひとまとまりのタスク(a unitary task)(Emery, 1977)の集団への割り当てである6。個人に対して明確な仕事を割り当てる1人1職務(one man, one job)(Emery, 1977)と表現される職務設計とは異なり,この作業組織設計は各メンバーの活動の余地を広げる。また,ひとまとまりのタスクでは,相互扶助や共同作業が促進されるため,メンバー間での学習機会が生じやすくなる(Ketchum and Trist, 1992)。このような自律的作業集団の特徴は,作業組織設計を中心として教育訓練にも関連するものと解釈できよう。

第2の要素は,集団の自律性(autonomy)(e.g., Gulowsen, 1972)である7。自律的作業集団では,管理者がすべての意思決定を担うのではなく,集団自身が環境の変化に合わせて,メンバーを選んだり仕事の進め方を決めたりすることができるとされている。このような特徴は,権限配分を中心として採用や配置にも関連するものと考えられよう。

第3は,集団全体としての取り組みが評価され報酬が支払われることである(e.g., Davis and Taylor, 19728。個人単位で評価が行われ,その結果に対して報酬が支払われるという仕組みを用いていないため,自律的作業集団では個人目標よりも集団目標が優先されやすくなると考えられる。これは自律的作業集団における評価や報酬の特徴といえよう。

第4は,集団の仕事が円滑に行われるように援助する管理者の役割(e.g., Bucklow, 1966)である9。これは,組織において個々人の統制を専門的に行う管理者の役割とは異なるため,集団として意思決定を行う余地を生み出す。また,集団を熟知して援助していることを評価されたメンバーが管理者に昇進することも意味する。このような自律的作業集団の特徴は,第2の権限配分や第3の評価・報酬とも関連性があるものである。

第5は,メンバーの複数技能の向上(multiple skill proficiency)(Ketchum and Trist, 1992),すなわち,多技能化である10。この状態では,個人が保有している技能の幅が限定されていないため,集団内のメンバー間で共有された技能を用いて相互扶助が行える可能性がある。これは自律的作業集団における技能の保有や発揮に関する特徴と解釈できる。

上記のような特徴を有する自律的作業集団,すなわち,作業組織設計とそれを支えるHRMを用いると,集団内におけるメンバー間の援助の増加や一体感の醸成,欠勤率の低下などQWLに関連すると考えられるポジティブな成果に結びつくことが報告されている(Trist and Bamforth, 1951; Trist et al., 1963; Rice, 1953, 1958)。上述の自律的作業集団の構成要素がQWLの向上に結びつくメカニズムは,Ketchum and Trist(1992)を参考に以下のように整理できよう。

自律的作業集団では,ひとまとまりのタスクが集団へと割り当てられ,集団活動が評価・報酬の対象となる。そのため,メンバーが活動する余地が広がるとともに,そのような行動がインセンティブによって促進される。また,集団のメンバーが多技能化しているとともに,集団に対して自律性が付与され,管理者には集団の活動を援助する役割が求められている。そのため,ひとまとまりのタスクにおいて発生した変動に,多技能化と自律性,すなわち,変動を統制するために必要な技能と権限で集団として対応することが可能になる。このように集団として自律的に変動統制が行えるため,各メンバーのQWLの認知が向上すると考えられる。

2-2. 我が国における自律的作業集団に関連する実証研究

1980年代から1990年代にかけて,我が国において自律的作業集団を紹介する文献が数多く公刊された(例えば,赤岡,1989奥林,1991)。理論的研究が進展する中,国内の職場を対象とした自律的作業集団に関連する実証的研究も少しずつ蓄積されてきた。紙幅が限られるためすべては紹介できないが,以下では代表的な研究をいくつか整理したい。

近藤(1986)は,我が国の製紙会社を対象にインタビュー調査を行い,作業組織の実態を明らかにしている。その結果,複数の技能を獲得した,すなわち,多技能化した従業員による柔軟な役割分担関係が示され,それは自律的作業集団的アプローチによって設計された海外の製紙工場の特徴と似たものであると解釈された。しかし,多技能化のQWLへの影響などの具体的な変数間の関係について,定量的な実証はなされていない。

森田(2008)は,近藤(1986)との比較を念頭においた国内の製紙工場のサンプリングを行い,インタビュー調査やアンケート調査を実施した。その結果,近藤(1986)と同様に,日本の作業組織と自律的作業集団の考え方に基づいて設計された作業組織との共通点が明らかにされた。また,自由裁量の援助行動への影響などについても差の検定による検討が加えられている。しかしながら,自律的作業集団を構成する多様な変数同士の関連を説明する因果モデルの解明までには至っていない。

上記した2つの研究が生産現場を分析の対象としているのに対して,奥林・庄村・竹林・森田・上林(1994)は,製造企業だけでなく非製造企業も対象に加えて,我が国の作業組織の特徴を,技術や組織構造,HRMなどから構成される枠組みで捉え,インタビュー調査や質問紙調査を実施して明らかにしている。その結果,多技能化の進展が職務内容の複雑化や自由裁量の増加と関係しうることなどが示唆された。しかし,自律的作業集団に含まれる各変数がどのようなメカニズムで影響を及ぼしているかまでは明らかにされていない。

大津(2007)は,製造業とサービス業を対象に質問票調査を実施して,国内の職場における社会システムを,技術システムや職務充実,生産性などを含めた枠組みで捉え,それぞれの関係について解明している。その結果,集団自律性が高いほどローカル・エリア・ネットワーク(Local Area Network: LAN)の活用が生産性を高める可能性などが示された。しかしながら,自律的作業集団の中心的な構成要素である多技能化や,それをサポートするHRMが分析枠組みに含まれておらず,作業組織を体系的に捉えているとは言い難い。

2-3. 研究の課題と対象

本研究では我が国において実施されてきた自律的作業集団に関連する実証的研究の蓄積を踏まえて課題を2つ設定した。

1つは,自律的作業集団を構成する要素がQWLを高める具体的なメカニズムを明らかにすることである。上記のように,先行研究では自律的作業集団という作業組織の一形態を用いることで,集団の構成メンバーのQWLを高める可能性が示されていた。しかしながら,自律的作業集団の構成要素は多技能化やHRMと多様であり,それぞれの要素がどのように関係してQWLを高めるかについて,定量的な検証が十分に行われていなかった。そこで,本稿では,我が国の職場において自律的作業集団に関する1次データを収集して,構成要素間の関係とそのQWLへの影響を解明する因果モデルの推定を行い,自律的作業集団の機能とそのメカニズムを探るための足掛かりとしたい。

もう1つは,専門知識に基づくヒューマン・サービスを提供する職場への自律的作業集団の一般化可能性をリハビリテーション医療の現場で検証することである。上述のように,日本の自律的作業集団に関する既存研究では,製造業からサービス業へと実証分析の対象を広げてきた。そこで,本研究では自律的作業集団研究をさらに発展させるため,今日の産業構造の転換,すなわち,サービス経済化や知識経済化の影響を意識したサンプリングを行う。我が国のサービスを提供する現場の中でも,資格に基づいた専門知識が求められる職場を意図的に調査対象とすることで,自律的作業集団が専門的ヒューマン・サービスを提供する職場でも心理的な成果に結びつくかについて検討する。

これら2つの研究課題を解明するため,本稿ではリハビリテーション医療の職場を調査対象とした。その理由は,リハビリテーション医療の現場がサービス経済化と知識経済化の影響を受けているためである。サービス経済では,生産と消費の同時性を考慮する必要があり,ヒューマン・サービスを環境の変化に合わせて柔軟に提供することや,顧客満足と従業員満足を同時に満たすことが求められよう(Normann, 1991)。一方,知識経済では,多様な知識が付加価値の源泉になるため,それらの専門性を統合し提供することが必要になる(Davenport, 2005)。理学療法士や作業療法士,言語聴覚士等の多様な医療専門職が働くリハビリテーション医療の現場では,医療専門職の専門性を統合して患者の変化に対応し,その結果として患者と医療専門職双方の満足を高める努力が続けられている。このようなリハビリテーション医療における作業組織と組織行動の関係性を定量的に分析することで,自律的作業集団の議論を専門的なヒューマン・サービスを提供する職場へと展開させたい。

また,実践に目を向けると,我が国では医療サービスの質的向上や医療専門職の疲弊などに対応するためチーム医療のあり方について模索が続けられており,チーム医療における医療専門職の役割の拡大や業務の補完の必要性が指摘されている(例えば,厚生労働省,2010)。このような状況を念頭に置きつつ,これまでの自律的作業集団の議論を振り返ると,単調労働が問題となっていた生産現場では役割拡大や業務補完を可能にする作業組織設計が従業員のQWLを高める可能性が示されたものの,専門性に基づいて仕事が遂行される医療現場でも同じような効果が期待できるかについて,日本ではあまり検討されていないという課題が浮かび上がる。さらに,自律的作業集団の構成要素には,チームとして仕事を行うことをサポートするHRMが含まれるが,そのようなHRMと役割拡大や業務補完との関係性は,我が国の医療現場では十分に解明されていない。本研究の分析モデルから導出されうる実証結果は,医療専門職の役割拡大や業務補完を実施する際の一助になると考えられる。

3. 分析モデルと仮説

以上の先行研究のレビューから構築される本研究の分析モデルが図1である。

図1 本研究の分析モデル

第1に,独立変数として取り上げられる概念は,「チームHRM」と「チーム自律性」である。前者は,自律的作業集団の構成要素における多技能化の促進に関連する職場内のHRM施策に対する組織メンバーの主観を意味する。ここでHRMを主観的な側面から捉える理由は,HRM施策自体は客観的なものであるが,同一の施策であっても組織メンバーに与える認知は異なり,それに伴う行動や態度は異なってくる(山本, 2007)からである。すなわち,人事担当者の設計意図だけでなく,組織メンバーがそれぞれのHRM施策をどのように認知しているかが,多技能化を促進する上で重要になると考えられる。一方,後者は,自律的作業集団の構成要素としての自律性,すなわち,チーム・メンバーによって行われる意思決定における裁量の程度を指す。多技能化を促進する意思決定方法に対する医療専門職の認知が多技能化を規定する程度を検証することがねらいである。分析モデルでは医療現場において行ったワーディングを活用した端的な概念表記を行うため,チームHRMとチーム自律性という表現(ラベル)を用いることにした。本研究ではチームHRMとチーム自律性という2つの視点から医療現場の作業組織を紐解くことにする。

第2に,媒介変数として取り上げられる概念は,「多技能化」である。これも自律的作業集団の構成要素であり,医療専門職が複数の技能を獲得・発揮している状態を捉える変数である。先行研究のレビューを通じて,多技能化をサポートする要因や多技能化していること自体が心理変数にどのような影響を及ぼすのかを定量的に明らかにする必要性が示された。そこで,本研究では多技能化を媒介に,独立変数と従属変数がどのように関係しているかを検討することにしたい。

第3に,従属変数として「QWL」を用いている。これは自律的作業集団の影響を捉える概念であり,職務満足や成長感など職場における個人のポジティブな状態を測定する心理変数である。従来は生産現場における人間性疎外への対応に関する概念(例えば,赤岡,1989奥林,1991)であったが,今日ではチームによる活動が個人に与える影響を捉える重要なパフォーマンス指標の1つとされている(e.g., Cohen, Ledford and Spreitzer, 1996)。

上記の分析モデルに基づいて本研究で検討される仮説として,以下の4つを設定する。第1に,チームHRMおよびチーム自律性がQWLにダイレクトに影響するという直接効果仮説である。先行研究レビューにおいて示したイギリスの炭鉱やインドの織物工場における研究(Trist and Bamforth, 1951; Trist et al., 1963; Rice, 1953, 1958)などを通じて明らかにされてきた自律的作業集団の影響から導出することができる仮説である。

  • 【仮説1】チームHRMの程度が高いほど,チーム・メンバーのQWLを向上させる。

    【仮説2】チーム自律性の程度が高いほど,チーム・メンバーのQWLを向上させる。

第2に,チームHRMとチーム自律性は多技能化を介してQWLに影響を与えるという媒介効果仮説である。この仮説はKetchum and Trist(1992)森田(2008)おいて示される自律的作業集団がQWLに影響するメカニズムから導き出すことができる。

  • 【仮説3】チームHRMは多技能化を媒介して,チーム・メンバーのQWLを向上させる。

    【仮説4】チーム自律性は多技能化を媒介して,チーム・メンバーのQWLを向上させる。

4. 方法

4-1. 調査概要

本研究で用いるデータは,7病院の回復期リハビリテーション病棟を対象に,そこで働く看護師,介護士,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士に対して実施された量的調査によって収集された。以下の分析は,収集されたデータの一部を使用している。現場で働く多職種(看護師,理学療法士,作業療法士など)・多階層(トップ,ミドル,ロワー)の医療専門職を対象に,質的・量的予備調査を経て,量的本調査の質問票は,2010年2月から3月上旬にかけて350部配布し,回収はそのほとんどが3月下旬までに郵送によって行われた。合計315票を回収することができ,回収率は90.0%である。

分析に用いられるデータにおける対象者の基本属性は,以下のとおりである。第1に,職種については,看護師128人(42.4%),介護士22人(7.3%),理学療法士72人(23.8%),作業療法士61人(20.2%),言語聴覚士19人(6.3%),合計302人である。なお,回答者に不備があったデータ,すなわち,上記の本調査で対象にしなかった医療専門職(例えば,医療ソーシャルワーカー)などが回答した13の質問票は分析に用いていない。看護師と介護士の合計と理学療法士・作業療法士・言語聴覚士3職種の合計がそれぞれ約50%ずつとなっている。第2に,役職については,役職者が10.6%であり,役職が無い対象者が89.4%である。第3に,性別については,男性が21.5%であり,女性が76.8%である。最後に,平均年齢は32.48歳(標準偏差9.83),平均勤続年数は5.72年(標準偏差6.16)であった。

4-2. 測定尺度

我が国の医療現場を対象とした自律的作業集団に関連する研究で,量的サーベイが実施されたものは筆者らの知る限りほとんど存在せず,既存の尺度を本研究の調査項目に援用することが困難であった。そこで,質問項目が測定目的に一致するかを意味する内容的妥当性(村上,2006)を確保するために,医療専門職を対象にインタビュー調査を行い,チームHRMや多技能化といった本調査で取り扱う概念に関する彼(彼女)らの発言をもとに,図1の分析モデルの変数を測定する質問項目を作成した11

第1に,チームHRMはWalton(1985)が提示した複雑なチームワークを必要とする職場で適合的なマネジメント・モデルとされているコミットメント・モデルを参考に,職務設計,配置,教育,評価,報酬の5領域を1つの尺度として構成した。具体的な質問項目としては,「私の職場では,他職種と協力して業務を進めることが常に求められている」,「私の職場に人材が配属される時,最も重視されるのは他職種との協調性である」,「私の職場には,職種間の相互理解に結びつくような勉強会がある」,「私の職場では,職種単位ではなく多職種チームとして成果をあげることが評価される」,「私の職場の上司には,職種にこだわらず幅広い業務を理解することが求められている」の5つを設定している12

第2に,チーム自律性については,リハビリテーションの計画,実施の際の調整,さらに実施後の評価という3つの側面から測定する尺度とした。具体的には「私の職場では,リハビリテーション実施の計画を多職種が共同で立てている」,「私の職場で職種を跨ぐ問題が生じると,特定の人ではなく職種間の話し合いで解決する」,「私の職場では,リハビリテーション実施の評価は多職種が共同で行っている」の3つの質問項目で構成した。

第3に,多技能化は,他職種が保有するスキルや知識を理解している,他職種の業務を遂行できる,他職種の業務を手伝っている,という3つのレベルを含む尺度とした。具体的には,「私は,自分の専門領域だけでなく,他職種が行うADL向上業務も理解している」,「私は,自分の専門領域に加えて,他職種のADL向上業務も一定程度行うことができる」,「私は,他職種が行っているADL向上業務を,可能な範囲で手伝っている」の3つの質問項目からなる。

第4に,QWLは上述のCohen et al.(1996)を参考に,職務満足や成長感といった個人の肯定的感情を測定する尺度として作成した。具体的には,「私は,現在のADL向上業務に達成感がある」,「私は,現在のADL向上業務を通して,自分が成長していると感じている」,「私は,現在の回復期リハビリテーション病棟で働いていることを誇りに思っている」,「私は,ADL向上業務における現在の役割分担に満足している」,「私は,現在のADL向上業務そのものに満足している」の5つを設定した。

これらの項目は,オリジナル尺度であるため測定尺度の正しさに対する被調査者の主観的判断を表す表面的妥当性(村上,2006)を高める目的で,医療専門職と一緒に行ったパイロット調査により表現などの正確さを確認している13。また,すべての質問項目について,4件法によるリッカート尺度(1. 全くあてはまらない~4. 非常にあてはまる)で測定した。

なお,本研究では,全変数について個人レベルの単位で分析を行う。自律的作業集団という集団レベルの変数を扱っているため,通常,マルチレベル分析を検討する必要があろう。しかし,本研究が理論的基礎としている自律的作業集団理論の独創的な点は,チームが機能するか否かについて,チームを構成するメンバーの多技能化という個人レベルの技能変数を重視していることである。また,医療現場では患者ごとに異なるチームが編成されるため,特定集団(チーム)から階層性を持たせたサンプリングが容易ではない。そこで本稿では,説明変数の目的変数への効果は,個人レベルの変数による影響と捉えることにした。

5. 結果

5-1. 因子分析と信頼性分析の結果

(1) 独立変数:チームHRMとチーム自律性

チームHRMの5項目とチーム自律性の3項目の合計8つの項目に対して探索的因子分析をした(反復主因子法,プロマックス回転,以下,同様)ところ,いずれの因子に対しても因子負荷量のカットオフ基準である0.4を下回る項目が見られたため,その項目を除外して再度因子分析を行った。その結果,固有値1.0以上の因子が2つ抽出され,アプリオリに設定していた2次元が確認された(表1)。

表1 チームHRMとチーム自律性尺度の探索的因子分析結果

第1因子に高く負荷した項目は,「私の職場の上司には,職種にこだわらず幅広い業務を理解することが求められている」など,チームに適用されているHRMの主観認知に関わる因子である。第2因子に高く負荷した項目は,「私の職場では,リハビリテーション実施の評価は多職種が共同で行っている」といった,チームに付与されている権限の程度を表す因子である。第1因子の4項目,第2因子の2項目の平均スコアをそれぞれチームHRM(α=.71,ω=.71),チーム自律性(α=.66,ω=.69)14として尺度化することにした。

因子間相関が若干高かったので,チームHRMとチーム自律性について確証的因子分析を行い,表1の6項目が1つの因子に収束する1因子モデルと2つの因子で構成される2因子モデルの両モデルに関して適合度と情報量規準を算出した(表2)。

表2 因子モデルの適合度比較

適合度指標であるCFI(comparative fit index)は .95以上,SRMR(standardized root mean residual)およびRMSEA(root mean square error of approximation)は .05以下,情報量規準とみなされるAIC(Akaike information criterion),BIC(Bayesian information criterion),CAIC(Consistent AIC)は値が小さい方が当てはまりが良いモデルとみなされる(Litalien, Morin, Gagné, Vallerand, Losier and Ryan, 2017; Purnomo, 2017)。適合度指標については,1因子モデルはすべて基準値を満たさず,2因子モデルはCFIとSRMRが十分な値を示した。さらに,情報量規準のAIC,BIC,CAICはすべて1因子モデルより2因子モデルの方が値が小さくなっている。RMSEAは両モデルとも基準をクリアしていないが,2因子モデルは境界値である1.00を超えていないこと,RMSEA以外の適合度指標および情報量規準の観点から1因子モデルより望ましいことを総合的に勘案して,チームHRMとチーム自律性は2次元から構成される2因子モデルが妥当であると判断できる。

(2) 媒介変数:多技能化

多技能化を測定する3つの質問項目について探索的因子分析をしたところ,想定どおり固有値1以上の1因子構造を示した(表3)。尺度の内的一貫性指標は,α係数が 0.65,ω係数が 0.67で若干低いことに留意の必要性があるが,基準値となる 0.7に近い値を示していることとω係数の方がα係数より若干上昇していることから,許容可能な水準と解釈した。3項目の回答結果を単純平均することで,多技能化次元の得点とした。

表3 多技能化尺度の探索的因子分析結果

(3) 従属変数:QWL

同様にQWLを測る5つの質問項目についても探索的因子分析を実施した。表4で示されているとおり,固有値1以上の想定した 1つの因子に収束した。α係数,ω係数ともに0.77となり,十分な内的一貫性があることが確認された。QWLは,5項目を平均した合成尺度を用いる。

表4 QWL尺度の探索的因子分析結果

5-2. 各変数の基本統計量と相関係数

上記で尺度化した独立変数,媒介変数,従属変数に加え,従属変数のQWLに外在的な影響を与えうると考えられる,①職種(レファレンスを看護師とし,介護士,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の4つの職種それぞれに対して,該当する:1,該当しない:0にダミー変数化),②性別(男性:1,女性:0にダミー変数化),③役職(管理職:1,非管理職:0にダミー変数化),④年齢,⑤勤続年数,が統制変数として考慮された。全変数の記述統計量および相関係数を示したものが表5である。

表5 分析で使用された全変数の記述統計量と相関係数

5-3. 分析モデルの検証

従来,媒介分析の検証は,次の2つのステップで行われてきた。第1ステップは,Baron and Kenny(1986)に基づいて階層的に回帰式を算出し,独立変数と従属変数に加え媒介変数を投入したモデルにおいて直接効果の非有意性,もしくは総合効果と比較した時の直接効果の減少の確認である。第2ステップは,ソベル検定(Sobel, 1982)による間接効果検定である。しかし,これらの手法は,①Baron and Kenny(1986)の手続きのみでは間接効果そのものの検定が行われないこと,②ソベル検定はサンプルが多く,正規分布に従うことが前提となっていることから,標本サイズが大きくなく正規性が必ずしも確保されないデータの場合は,ブートストラップ法による間接効果の検定が優位であることが指摘されている(Preacher and Hayes, 2008, p.880Hayes, 2013, pp.104-105)。

そこで本研究では,Kenny, Kashy and Bolger(1998)の分析手順を踏まえた後15Hayes(2013)のブートストラップ法に基づいて仮説検証を行った。具体的には,①チームHRMおよびチーム自律性がQWLに与える直接的な影響(総合効果)が有意か(モデル1),②チームHRMおよびチーム自律性による多技能化への影響が有意か(モデル2),③モデル1に多技能化を含めた際に,多技能化によるQWLに対する影響が有意,かつチームHRMおよびチーム自律性がQWLに与える影響(直接効果)が弱まる(部分媒介)かもしくは非有意になる(完全媒介)か(モデル3)を確認した。その上で,復元サンプリングによって標本分布をシミュレーションで推定するブートストラップ法を用い,妥当性と検出力のバランスの観点で間接効果の推定に望ましいとされている「バイアス修正済みブートストラップ信頼区間」(Bias-Corrected Bootstrap Confidence Interval: BCCI)を求め,BCCIの上限値と下限値の間に0を含むか否かを基準に間接効果の検定を実施した。

なお,検証にあたっては,ブートストラップ標本数として推奨されている5000(Preacher and Hayes, 2008, p.889)を基準値にリサンプリングを行い,共変量(covariance)に職種(介護士ダミー,理学療法士ダミー,作業療法士ダミー,言語聴覚士ダミー),性別(男性ダミー),役職(管理職ダミー),年齢,勤続年数を投入している。また,Preacher and Hayes(2008)Hayes(2013)の手続きに即して,独立変数が複数個あるため(チームHRMとチーム自律性),2回のシミュレーションを実施したが,1つの変数が独立変数に設定された時には,残りの独立変数は共変量として投入した。

まず,表6表7のモデル1より,チームHRMからQWL(Β=.39,p<.001),チーム自律性からQWL(Β=.21,p<.001)への直接的なパスにプラスの有意な関係が確認されている。この結果から,チームHRMが適用されている医療専門職ほど,またチーム自律性が高い医療専門職ほど,QWLが向上するという結果が読み取れ,仮説1と仮説2は支持された。次に,モデル2を見ると,チームHRMから多技能化(Β=.23,p<.001),チーム自律性から多技能化(Β=.16,p<.001)のそれぞれへのパスに有意な正の関係が見出されている。

表6 チームHRM,多技能化,QWLの総合・直接・間接効果とブートストラップ結果
表7 チーム自律性,多技能化,QWLの総合・直接・間接効果とブートストラップ結果

最後に,モデル3で多技能化を投入した後,多技能化からQWLへのパスがプラスに有意な関係(Β=.13,p<.05)が確認されている。加えて,QWLに及ぼす影響がチームHRMはΒ=.36(p<.001),チーム自律性はΒ=.19(p<.001)と,それぞれモデル1の総合効果の係数に比べ弱まった。チームHRMとQWLの関係,チーム自律性とQWLの関係に介在する多技能化の間接効果の推定値(Β=.03,Β=.02)の95%BCCIは,それぞれ下限=.01,上限=.07,下限=.00(.0044),上限=.05といずれも0を含んでいないことから,多技能化の媒介効果が検証された。以上の結果より,医療専門職の多技能化はチームHRMおよびチーム自律性とQWLの関係を部分的に媒介すると判断でき,仮説3と仮説4も支持された。

6. 考察

6-1. 発見事実

本稿では,専門知識に基づくヒューマン・サービスを提供する医療専門職(看護師,介護士,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)を対象に,チームHRMとQWLの関係についての仮説1,チーム自律性とQWLの関係についての仮説2,チームHRMが多技能化を介して,QWLに対して与える影響についての仮説3,チーム自律性が多技能化を介して,QWLに対して与える影響についての仮説4,を定量的に検証してきた。検証結果は,次のように整理できる。

第1に,仮説1と仮説2は支持された。チームHRMとチーム自律性ともに,QWLと正の関係が示されている。チームHRMが実践されている,もしくはチームの自律性が高いと認知している医療専門職ほど,QWLの程度が高いといえる。ただし,注目すべき点は,チーム自律性よりチームHRMの方が,QWLに対して強いインパクトがあることである17。チームに対して変動統制に関する裁量が与えられていることよりも,チームとして実際に変動統制する時に用いる多技能化を促進するサポートの方が,チーム・メンバーである医療専門職のQWLへの影響が大きいと解釈できよう。

第2に,仮説3は支持された。チームHRMとQWLの関係は,多技能化によって媒介されることが示されている。すなわち,チームHRMは,医療専門職の多技能化を高めることを通じて,QWLの向上に結びつくと解釈できるのである。ただし,仮説1でチームHRMによるQWLへの直接的な効果も確認されていることから,多技能化による媒介効果は部分的であり,多技能化によるチームHRMとQWLに対する媒介効果は必ずしも強いものでない。上記のように,チームとして環境変動を統制する際に多技能化は重要な役割を果たすし,その多技能化を促進するためにはチームとしての活動を支えるHRMが必要になろう。しかしながら,チームHRMは多技能化以外のチーム活動,例えば,コミュニケーションなどもサポートすると推察される。そのようなチーム活動を支える職場条件は,そこで働くメンバーが感じるQWLに直接的に働きかけるため,多技能化の媒介効果は部分的なものになると考えられる。

第3に,仮説4は支持された。チーム自律性とQWLとの関係は,多技能化によって媒介されることが示されている。すなわち,チーム自律性は,医療専門職の多技能化を高めることを通じてQWLを向上すると解釈できるのである。ただし,先ほどと同様に,仮説2においてチーム自律性がQWLに与えるダイレクトな影響も見られたことから,多技能化は部分的な媒介効果を有し,多技能化によるチーム自律性とQWLに対する媒介効果は必ずしも強いものでない。前述のように,チームが変動を統制するためには,その前提としてチームに裁量が与えられていることが重要であり,そのような条件でメンバーが幅広い技能を発揮することで,QWLの認知も高まっていくと考えられる。しかしながら,チーム自律性はメンバーの意思決定への参加そのものを通じて直接的にQWLに影響すると考えられるため,多技能化の媒介効果は限定的なものになると推測される。

6-2. 意義と課題

以上の発見事実,すなわち,チームHRMとチーム自律性のQWLへの直接効果と,その関係における多技能化の媒介効果を踏まえて,本研究の2つの意義について考察したい。多技能化の媒介効果は部分的なものであったが,先行研究での議論や現場の実践を考慮し,その重要性についてもポジティブに言及する。

1つは,自律的作業集団という作業組織の一形態が従業員のQWLを高めるメカニズムを実証したことである。上記のように,先行研究では自律的作業集団がQWLに影響することが示唆されていたものの,自律的作業集団は多くの要素から構成されるため,それらの構成要素がどのように結びついてQWLを向上させるかについては明らかにされていなかった。このような状況で,本稿において定量分析を行った結果,チーム活動をサポートするHRMやチームの柔軟な意思決定を可能にする自律性がQWLを直接的に高める,また,チームHRMやチーム自律性が多技能化を介してQWLを高める,という具体的なメカニズムを理解することが可能となった。このようなメカニズムを変数間の関係として量的に示した点は,自律的作業集団の実証研究を進展させる貢献と考えられる。

特に,多技能化は,既存研究において示されるように,自律的作業集団がQWLを高めるメカニズムにおいて重要な役割を担う変数であった。なぜなら,上述のように,自律的作業集団がQWLを高める際の前提となる変動統制を行うためには,多技能化したメンバーが状況に合わせて技能を発揮することが求められるからである。自律性が付与されて可能になった集団意思決定に参加することでメンバーのQWLが高まったとしても,チーム活動がHRMでサポートされてメンバーのQWLが高まったとしても,チームの各メンバーが多技能化していなければ,組織成果に影響しうる変動統制に結びつかない可能性があろう。例えば,本研究で対象としたリハビリテーション医療現場では,患者の変動に医療専門職の多技能化で柔軟に対応することで在宅復帰が可能になり,その結果として病院組織の成果指標の1つである在宅復帰率が高まると考えられる。このような組織成果の鍵となりうる技能的変数である多技能化が,構造的変数であるチームHRMやチーム自律性がQWLを高める際に,それらを部分的ではあるが媒介する機能を果たすメカニズムの妥当性を統計的に検証した点にこそ本研究の意義が見出せよう。

もう1つは,専門的なヒューマン・サービスを提供する職場への自律的作業集団の適用を可能としうる分析結果が示されたことである。上記のように,我が国で自律的作業集団の議論は製造業の現場からサービス業の職場へと展開されてきた。このように研究が発展する中,医療専門職が働くリハビリテーション医療の現場で,自律的作業集団という作業組織の一形態がQWLという心理的成果を高めるデータを提示したことは,自律的作業集団のサービス経済や知識経済の影響を受ける職場への普及を促進するエビデンスの1つとして位置づけられよう。

自律的作業集団が適用可能な理由として,高い専門性が求められる職場でも環境への様々な対応が求められることがあげられる。病院組織では医療の高度化と複雑化双方への取り組みが求められているが,後者,すなわち,複数の疾病や経済的・社会的課題を抱える患者へのアプローチが求められる医療現場への自律的作業集団の適用可能性が示唆された。今日,シームレスな医療サービスを提供するために多様な専門職の連携が求められているが,チームとしてサービスを繋ぎ合わせるためには,本稿で提示したような作業組織設計やHRM,技能形成を含む体系的な仕組み作りが求められよう。

特に,医療専門職の多技能化を部分的に介してチームHRMやチーム自律性がQWLに影響する可能性を示したことは一定の意義を有するものと考えられよう。なぜなら,専門性の向上を追い求める医療専門職の多技能化が,役割に関する葛藤やストレスが存在しうる医療現場において,彼(彼女)らのQWLに影響するというポジティブなパスが確認されたためである。その背景には,多様な職種がADL向上業務を行うことで患者の在宅復帰が促進されたという,リハビリテーション医療の現場におけるチーム成果に関する経験の蓄積があると考えられる。チームとして成果をあげることを経験した医療専門職は,職種の専門性を高めることだけでなく,チームの成果に結びつく幅広い技能を発揮することでもQWLの認知を高めると推察できよう。すなわち,医療専門職の多技能化は,患者の生活の質(Quality of Life: QOL)に貢献しうるだけでなく,自身のQWLにも寄与しうるのである。このようなパスは,チーム医療やスキルミックスに関する取り組みが続いている医療現場において重要なエビデンスの1つとして位置づけられよう。

もちろん,その際にチームでの仕事を支える仕組み作りを忘れてはいけない。自律的作業集団を医療現場に適用するための条件は,定量データが示すように,チーム活動をサポートする体系的なHRMと,チームの活動余地を拡大する自律性である。医療現場でチーム医療やスキルミックスを実施する際の前提として,このようなHRMや作業組織設計が不可欠であることを示す本稿の発見事実は,それらの導入の後押しになろう。

最後に,本研究の限界と今後の課題を示す。第1に,今回の分析が回復期リハビリテーション病棟の医療専門職のみのサンプルを用いて行われたことである。媒介効果の一般化に向けて,異なる環境条件の医療現場(例えば,急性期の一般病棟)において,サンプル・サイズを増やして検証する必要があろう。

第2に,結果変数を個人成果に限定していたことである。自らの専門的スキルを向上させることに意欲的な医療専門職に対して,まずは多技能化を進める上で本人の心理態度にどのような影響を与えるのかを明らかにすることが重要であることは言うまでもない。次のステップとして,組織成果にとってどのようなインパクトがあるのかを解き明かすことが課題となる。医療現場の組織成果として,平均在院日数,在宅復帰率,重症患者回復度などの客観的変数が考えられる。これらの成果変数との関連については,改めて検討を加えることが求められる。

第3に,本研究において自律的作業集団という階層構造を成していると想定される変数を扱っているにもかかわらず,個人単位のデータ分析に留まっている点である。4-2.で述べたように,今回対象とした医療現場では患者ごとにチームが編成されることがその理由ではあるが,そうした多様なチームに所属する場合の集団の特徴を測定する方法や解析するためのマルチレベル分析の手法について精査することが残された課題である。

 【謝辞】

本稿の執筆にあたり匿名査読者の先生方から貴重なコメントをいただきました。ここに記して深く感謝申し上げます。本研究はJSPS科研費 19730254の助成を受けたものです。

筆者=井川浩輔/琉球大学国際地域創造学部経営プログラム准教授 厨子直之/和歌山大学経済学部経済学科准教授

【注】
1  チーム医療とは,「医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」(厚生労働省,2010,2ページ)である。

2  スキルミックスとは,「患者のためのよりよい医療が行われる体制がとられることを前提に,その職種でなくても行いうる業務を他の職種に担わせる」(厚生労働省,2008,3ページ)ことである。スキルミクスと表記されることもある。

3  自律的作業集団については,研究者によってautonomous work group(Bucklow, 1966)やsemi-autonomous group(Emery, 1977)など異なる表記が用いられているが,本稿では自律的作業集団という表現に統一する。

4  例えば,凝集性(cohesiveness)を組織過程として扱うチーム研究もあれば,組織成果としてみなすチーム研究もある(Gully, 2000)。

5  Katz(1974)は,スキルを職能の専門性に関連する技術的スキル(technical skill),人間関係の構築に関する人間的スキル(human skill),物事の関連性を捉える概念的スキル(conceptual skill)に類型化している。

6  第1の構成要素は,本稿で研究対象としたリハビリテーション医療の現場において次のような現象として確認できる。リハビリテーション医療におけるひとまとまりのタスクとして,在宅復帰があげられる。患者の在宅復帰というタスクは,移動能力向上や食事能力の向上,家屋改修など多様で複雑に絡み合った仕事から構成されるものである。このタスクが1人の患者に対して組まれたリハビリテーション・チームに割り当てられている場合,各メンバーの仕事を意図的に重ね合わせることが可能になり,病棟や患者の自宅など様々な場面で移動能力向上などの業務について多様な医療専門職が継続的に携わりやすくなる。これに対して,1人1職務の特徴を有する職務設計について考えてみる。このような分業的な構造では,例えば,リハビリテーションの機能訓練室で実施される歩行訓練という仕事が,理学療法士に対して明確に割り当てられている。したがって,他の医療専門職が歩行能力の向上に関わることは基本的に想定されていない状態を意味する。すべての医療専門職に対して,厳密に区分された仕事が与えられているといえよう。

7  第2の要素は,対象とした職場において次のように確認できる。リハビリテーション医療の現場において,もちろん,医師の指示のもとであるが,患者のリハビリテーションを実施するための計画を多職種(看護師,理学療法士,作業療法士など)が一緒に立てていたとする。また,患者の変化に応じて,どの職種をリハビリテーション・チームに加えるかや,どのような仕事を誰がサポートするか,などについてメンバー全員で話し合って決めたとしよう。このような作業組織では,集団が一定の自律性を有していると判断できる。

8  第3の要素は,対象とした現場では次のように確認できる。リハビリテーション医療の現場で,在宅復帰の実現という集団目標の達成が最も評価され,それに対して報酬(非金銭的報酬も含む)が与えられていたとする。このような作業組織では,集団活動を促進するような評価や報酬がデザインされていると解釈できる。

9  第4の要素は,対象とした職場で次のように確認できる。リハビリテーション医療の現場で,管理職の看護師が理学療法士や作業療法士の仕事を深く理解した上で,それらの職種の業務も幅広くサポートしていたとする。これは自律的作業集団の特徴である援助タイプの管理者と考えられよう。

10  第5の要素は,対象とした現場で次のように確認できる。リハビリテーション医療の現場で,リハビリテーション・チームのメンバーが自分自身の専門分野の技能だけでなく,他職種の構成メンバーの専門性に関連する技能,例えば,歩行訓練という理学療法士の専門的な技能を,同職種と同じレベルではないものの,作業療法士や看護師がある程度身につけていたとする。この場合,一定レベルの多技能化が実現している作業組織であると考えられよう。

11  自律的作業集団の理論的枠組みに基づく質問票の妥当性を確認するために,多様な医療専門職を対象に暫定版の質問票を用いて準構造化インタビュー調査を実施した。この調査は2010年1月に理学療法士や作業療法士,看護師などを対象に行われた。例えば,自律的作業集団の構成要素の1つである多技能化の医療現場における実態について各医療専門職に質問して,それぞれの回答において共通している部分を探索した。したがって,特定の医療専門職の発言だけに着目することは避けた。その結果,自律的作業集団の抽象度の高い構成要素とリハビリテーション医療の現場を結びつけうるキーワードとして,日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)訓練が明らかになった。このADL訓練はリハビリテーション医療においても患者の在宅復帰や満足に影響する重要度の高いものとされていた。また,一般的に各医療専門職の業務は法律によって規定されているが(例えば,基本医療六法編纂委員会編,2002),ADL訓練に関連する業務については,多様な医療専門職が医療の質を向上させるため,法律に縛られることなく職種の壁を越えて積極的に関わっていることが確認された。これらのインタビュー結果を踏まえて,本稿で用いる質問票はADL訓練を基軸として構成することにした。

12  チームHRMの構成要素である報酬について質問票の妥当性を確認するための準構造化インタビュー調査を行った結果,チームに対して明確な報酬が必ずしも与えられていないことが示されたものの,チームにおいて他の職種の仕事を理解している医療専門職が管理者に昇進していることが確認された。そこで,多技能化を促進するインセンティブとして解釈できるこのようなインタビュー・データをもとに報酬に関する質問項目を作成した。

13  各質問項目の表現などの妥当性を確認するために,多様な医療専門職を対象にすべての質問項目を用いてパイロット調査を行った。この調査も2010年1月に理学療法士や作業療法士,看護師などを対象に行われた。具体的には,質問項目1つ1つに回答していただき,回答終了後に判断しづらかった質問項目とその理由について説明していただいた。その結果,異なる職種の医療専門職が回答できるようにワーディングする必要性が明らかになった。例えば,修正前の質問項目において用いていた「ADL訓練」という記述における「訓練」という表現は,その訓練に様々な形で携わる職種によって解釈にばらつきが生じた。そこで各医療専門職からいただいた「ADL訓練」の代替的表現を複合的に取り入れ「ADL向上業務」と修正することにした。

14  ω係数は内的一貫性指標の1つであり,以下の式で与えられる。   
\[\dfrac{(\sum\lambda_j)^2}{\left[\left(\sum\lambda_j\right)^2+\left(\sum\Psi\right)\right]}\]

\(\lambda_j\):項目\(j\)の因子負荷量,\(Ψ\):独自性 

ω係数は,クロンバックのα係数がテスト項目の因子負荷量がすべて等しいというτ等価の仮定により信頼性を過小評価してしまうバイアスを補正する(Trizano-Hermosilla and Alvarado, 2016)ことから,近年,α係数に代替して報告すべきとの指摘もある(Dunn, Baguley, Brunsden, 2014)。チーム自律性の信頼性係数がやや低いが,ω係数の値が0.7に近似し,α係数に比べてわずかに上回っていることから,概ね満足できる内的一貫性が確保できていると解釈した。

15  Baron and Kenny(1986)の方法において,媒介変数と従属変数の間の関係が有意であることが媒介モデルの成立条件の1つに挙げられる。その際,媒介変数と従属変数の回帰式をもとに推定される。しかし,両者は独立変数によって引き起こされることから,媒介変数と従属変数は相関する可能性があり,媒介変数が従属変数に与える影響は独立変数をコントロールして確認する必要がある(Kenny, Kashy and Bolger, 1998)。それゆえ,本研究においても,独立変数と媒介変数の両方を投入した回帰モデル(モデル3)で媒介変数と従属変数の関連を評価した。

16  Hayes(2013)は2値変数の標準化係数の解釈に問題があるため,論文では非標準化係数を掲載することを推奨しており,本論文においてもその見解に従った。

17  表6表7B値は非標準化係数で示されているが,標準化係数も確認して判断した。

【参考文献】
 
© 2022 Japan Society of Human Resource Management
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