日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
研究レビュー
組織的公正研究の概念的展開―包括的公正のパースペクティブ―
中津 陽介
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2021 年 22 巻 2 号 p. 41-55

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ABSTRACT

The purpose of this paper is to review conceptual research on the concept of “overall fairness” , which has attracted much attention in recent years in the field of organizational justice research. The concept of overall fairness is defined as “the global evaluations of the fairness of an entity based on personal experiences as well as on the experiences of others” . Based on the conceptual debate on overall fairness that developed in the 1990s and 2000s, this paper will summarize the background of researchersʼ interest in the concept and how they conceptualized the concept of inclusive justice.

In the first half of this paper, I try to relate the growing interest of researchers in the concept of overall fairness to the changes in researchersʼ core issues that have occurred in organizational justice research since the late 1980s. Then I summarize the limitations of organizational justice as existing concept and the usefulness of the concept of overall fairness for examining new issues. In the latter half of this paper, I will organize how researchers have conceptualized and operationalized overall fairness in order to examine new issues in organizational justice research. In particular, this paper will explain three representative ideas that constitute the definition of overall fairness concept, called “total justice model”, “justice heuristics theory”, and “entity justice”, as well as two approaches to operationalizing overall fairness. Finally, I will summarize the contents of this paper and present the significance of focusing on overall fairness and the prospects for future research.

1. はじめに

組織行動研究において,組織の構成員の態度や行動を理解するために,組織に対して彼ら/彼女らの抱く公正・不公正に関する主観的な感覚,すなわち「組織的公正(organizational fairness)」は研究者から高い関心を集めてきた。本論文の目的は,この分野における海外研究の近年の展開として,従来用いられてきたものとは異なる考え方として,「包括的公正(overall fairness)」とよばれる概念に基づいて組織的公正を捉えるパースペクティブに研究者の関心が高まっていることに注目し,これまでの概念的展開と概念に関する考え方を整理することである1

組織的公正は,組織の構成員の主観的な感覚であるために直接的には観察できず,それでいて非常に広範な構成要素が含まれる可能性のある捉えどころがない(Cropanzano & Ambrose, 2015)。それゆえ,組織的公正に関心を持つ研究者にとって,組織的公正をどのように概念化するのかという問題は実証研究を行ううえで非常に重要な問題の一つである。この問題に対して,従来の研究は「組織や(組織の中の)人に対して道徳的に要求される行為」(Goldman & Cropanzano, 2015)あるいは「意思決定の場面における組織の適切さを規定するルール」(Colquitt & Rodell, 2015; Colquitt & Zipay, 2015)を明らかにすることによって対処してきた。組織的公正研究において,これらの組織の機能や組織内のエージェントの行為の公正さを判断するために用いられる基準やルールは,「組織的正義(organizational justice)」とよばれる。研究者は主として組織内の資源分配の場面において,構成員が組織の機能や組織内のエージェントの行為が組織的正義に準拠していたかどうかを尋ねることによって組織的公正を捉えてきた(e.g. Colquitt, 2001; Moorman, Blackely, &Niehoff, 1998)。

現在の組織的公正研究において組織的正義概念によって組織的公正を捉えるアプローチは,広く受け入れられている(cf. Colquitt, Scott, Rodell, et al. 2013)。一方で,本論文において中心的に扱う包括的公正概念は,組織的正義とは異なる方向性で組織的公正を概念化する。包括的公正は「個人の経験,あるいは他者の経験に関する情報を参照して主観的に評価される特定の社会的実体の全体的な公正さ」(Ambrose & Schminke, 2009)と定義される。この時,包括的公正は組織あるいは組織内のエージェントに関する個々の機能や行為の公正さに注目するのではなく,より大局的(global)な視点から組織的公正を捉えようとする点に特徴がある。

本論文の問題意識は,組織的公正を捉えるための考え方として,過去数十年にわたって組織的正義概念に基づく旧来のパースペクティブが支配的な地位を占めてきたにもかかわらず,近年において包括的公正概念に基づく新しいパースペクティブが伸張している(cf. Ambrose, Wo & Griffith, 2015)理由を検討することにある。このために,包括的公正の概念的研究をレビューすることによって組織的公正研究全体における包括的公正概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブの位置づけを整理していく。より具体的には,組織的公正研究の学説史的観点から包括的公正概念に対する研究者の関心が高まる背景を説明し,包括的公正に関して先行する概念的議論を概観していくことで,研究者が新たに包括的公正概念を導入することでどのような問題を検討しようとしたのか,そのために包括的公正をどのように概念化・操作化しようとしてきたのかを説明していく。最後に,包括的公正概念に基づくパースペクティブを用いた将来の組織的公正研究の方向性を示し,本論文を締めくくる。

なお,包括的公正概念に関する近年のレビューとしては,Ambrose et al.(2015)がある。本論文では紙幅の関係から省略したが,包括的公正に基づいて組織的公正を捉えた個別の実証研究の展開について説明が必要であれば,これを参照されたい。

2. なぜ,研究者は包括的公正概念に注目する必要があったのか

Ambrose & Schminke(2009)による測定尺度の作成をきっかけとして,包括的公正概念を用いて組織的公正の問題を検討する実証研究の数は大きく増加したとされる(cf. Ambrose et al., 2015)。しかし,組織的公正研究者によって包括的公正概念の重要性が提起され,包括的公正に関する概念的議論が展開されたのはそれほど最近のことではない。Ambrose & Schminke (2009)によっても引用されるように,1990年代から2000年代初頭を中心として,一部の研究者らは包括的公正に類する概念の特徴やその重要性に関する議論を蓄積していた(e.g. Cropanzano & Ambrose, 2001; Greenberg, 2001; Lind, 2001; Shapiro, 2001)。それでは,初期の包括的公正に関する概念的研究の中心的な問いとは何だったのであろうか。

2-1. 1990年代を中心とする組織的公正研究の変化

学説史的観点から組織的公正研究をレビューした Colquitt, Greenberg, & Zapata-Phelan (2005)は,時代によって組織的公正研究者の関心を集める問題が変化する様子を「波(wave)」という言葉を使って表現した。Colquittによれば,1940年代末から2000年代初頭までの組織的公正研究には「4つの波(four waves)」がある。そのうちはじめの3つの波は「分配的正義の波」・「手続的正義の波」・「相互作用的正義の波」2とよばれ,1940年代末から2000年代初頭まで脈々と展開されてきた組織的正義の構成概念を拡張し,洗練するための一連の研究群を指す。このような研究群の台頭は,組織的公正がどのような概念によって構成されているのかを明確に定義することに対して,研究者が高い関心を持ち続けてきたことを反映している。

しかし,Colquitt et al.(2005)は,上記の展開と並行して,1980年代後半から2000年代初頭にかけて,研究者がそれまでとは異なる問題に関心を持ちだしたことを指摘している。Colquittらによれば,この時期には,組織の構成員がなぜ/どのように組織的公正を知覚し,それらに反応するのかを説明するための理論的フレームワークを提示することを志向した研究が発展したとされる(e.g. Folger, 1986; Tyler & Lind, 1992; Lind, Kulik, Ambrose, de Vera Park, 1993)。端的に言えば,これらの研究は,組織の構成員を取り巻く客観的状況と構成員の態度・行動を結びつける要素として「知覚(perception)としての組織的正義」を理解することを基本的な関心として持つ(Greenberg, 2001)。Colquittらは,これらの研究群について,組織的公正を構成する個別の要素に関する検討を主として展開されてきたそれまでの研究の方向性とは異なり,組織的正義の構成概念を複合的に検討することから,「統合化の波(integrative wave)」とよんだ(Colquitt et al., 2005; p.35)。

「統合化の波」について,Colquitt et al.(2005)は2005年の時点では議論の帰結が見られていない(open to debate)としていたが,現在においても,組織の構成員がなぜ/どのように組織的正義を知覚し,それらに反応するのかという問題は理論的・実証的に重要な問題であり続けている。例えば,2000年代には組織的正義の知覚と組織の構成員の態度・行動との関係について,社会的交換理論(Blau, 1964)の理論的立場から説明を試みる研究が報告され(e.g. Cropanzano & Mitchell, 2005; Masterson, Lewis, Goldman & Taylor, 2000),盛んに実証研究が展開された(cf. Colquitt et al. 2013)。さらに,近年では,組織心理学や社会心理学の新しい理論的観点から,従属変数としての組織的公正を説明しようとする研究が萌芽している(cf. Brockner & Carter, 2015)。

2-2. 組織的正義概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブの限界

研究者がどのような現象や問題に関心を持つかは,研究者がどのような概念を用いるのかと密接な関係がある。この時,「統合化の波」をきっかけとして,それまであまり注目されてこなかった,組織的公正の形成とその影響を説明するための理論の提示とその実証に対する研究者の関心が高まったことと,組織的公正を捉えるための新たな概念である包括的公正に対する研究者の関心が高まったことはおそらく無関係ではない。本項では,「統合化の波」と同時期に展開された包括的公正に注目した研究(e.g. Ambrose & Arnaud, 2005; Cropanzano & Ambrose, 2001; Greenberg, 2001; Shapiro, 2001)から,組織的公正の形成とその影響を説明するための理論を検討するうえで,組織的正義概念について研究者が認識した限界について説明していく。

伝統的な組織的公正研究において,組織的正義概念が支配的な地位を占めてきたのは,組織的正義概念に基づいて組織的公正を捉えるパースペクティブが初期の組織的公正研究の中心的な問題を検討するうえで学術的・実務的に有益な視点を提供したからである(Fortin, Cropanzano, Cugueró-Escofet et al., 2020)。初期の組織的公正研究の注目する主たる問題は,賃金や昇進といった組織内の資源分配に関する組織の構成員の主観的満足の構造を理解することにあった(e.g. Adams, 1965; Stouffer. Suchman, Devinney et al., 1949)。より詳しく言えば,研究者は,個人の利得の最大化という観点だけでは説明できない組織内の資源分配に関する組織の構成員の主観的満足の規定要因を明らかにするために,組織の構成員がどのような考え方に基づいて組織内の資源分配の公正さを判断しているのかという問題に関心を持ってきた(Tyler, Boeckmann, Smith & Huo, 1997)。この時,組織的正義の考え方は,組織内の資源分配がどのような公正原理に基づいているかを簡便に理解するための視点を提供する。特定の公正原理に基づいて組織的正義を概念化し,その知覚が組織の構成員からどのような反応を引き出しているかを観察することによって,研究者は組織の資源分配に関する多様な公正原理の有効性を観察できるようになり,実務家は,組織的公正研究は組織内においてどのように資源を分配すべきかという問題に対するインプリケーションを獲得できた(Fortin et al., 2020)。

組織的正義概念を用いることで,組織的公正研究が大きく発展したことは疑いない。しかし,ある現象や問題を検討するうえで特定の概念に依拠することは,その概念の注目していない要素を捨象することでもある(服部,2020, p.55)。前述の「統合化の波」によって研究の中心的な問題関心が変化し,組織的公正の形成とその影響を説明する理論の提示とその実証に対して研究者の関心が集まるようになると,分析の有効性に制約を加える組織的正義の暗黙的な概念的仮定の問題が認識されるようになった。

第1に,組織的正義概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブは,組織的正義の枠組みに内包される概念間には独立性が確保されており,それぞれが独立して構成員の態度や行動に対して影響をおよぼすことを仮定している(cf. Cropanzano & Ambrose, 2001; Ambrose & Arnaud, 2005)。しかし,先行する実証研究に対してメタ分析を行った研究は,測定された異なる組織的正義の知覚の間に高い相関が存在し,それによって予測される構成員の態度・行動変数の一部にも重複が見られることを報告している(e.g. Cohen-Charash & Spector, 2001; Hauenstein, McGonigle & Flinder, 2001)。また,数は少ないものの,いくつかの研究は,人々の知覚した分配的正義と手続的正義の間に従業員行動に対する有意な交互作用が存在することを報告している(e.g. Brockner, 1996; Gilliland, 1994)。これらの知見は,概念的には独立していると考えられてきた組織的正義概念の間に,実際には相互依存性や通底する要素があることを示唆している(Brockner & Wiesenfeld, 1996; Greenberg, 2001)。この時,独立変数間の独立性を仮定する重回帰分析などの一般的な手法を用いてそれぞれの組織的正義の知覚と従業員行動との関係を分析した場合,個々の組織的正義概念に還元できないこれらの要素がおよぼす効果を分析結果から読み取るのは困難である(Ambrose & Arnaud, 2005)。

第2に,組織的正義概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブは,組織の構成員によって知覚された組織的正義のそれぞれが一般組織に対する構成員の好意的な態度や行動を引き出すことを仮定している(Greenberg, 1993, 2001)。しかし実際には,組織や職場,個人の属性によって特定の組織的正義の知覚から生じる組織の構成員の反応の大きさには違いがあることが知られている(e.g. Ambrose & Schminke, 2003)。また,実験手法を用いた研究は,組織的正義に関する情報を与える順番を操作することによって,人々の反応が変化することを報告している(e.g. Lind et al., 1993; Lind, Kray & Thompson, 2001)。これらの知見は,組織的正義の知覚によって生じる構成員の態度や行動に与える影響が文脈依存的に決定されることを示唆している(Greenberg, 1993, 2001; Shapiro, 2001)。組織の構成員は組織の資源分配に対する反応を決定するうえで,常に資源分配の公正さを最も重要な要因とみなしているわけではない。例えば,組織の中で,構成員にとって資源分配の公正さ以上に優先すべき問題がある場合,組織内の資源分配の公正さを知覚することによって生じる構成員の反応は小さくなるだろう(Leventhal, 1980)。また,組織の構成員は組織内の資源分配に関する特定の組織的正義を評価するために十分な情報や認知資源を持っていないかもしれない(Nicklin, McNall, Cerasoli et al., 2014)。それにもかかわらず,組織的正義の知覚と組織的公正の関係を自明視することによって,上記の組織的正義の相対的重要性の問題に関する理論的議論は覆い隠されてきた(Rupp, Shapiro, Folger, et al., 2017)。

第3に,組織的正義概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブにおいて,分析に用いる組織的正義の構成要素は特定の公正原理に基づいて先験的に決定される(Cropanzano & Ambrose, 2001)。しかし,先にも述べたように,組織の構成員は自身を取り巻く文脈に応じて特定の組織的正義に対する反応を決定しているだけでなく,時代や文化,組織や職場の状況,個人のパーソナリティなどに応じて組織的公正を評価するために独自の基準が用いられていることも十分考えられる(Fortin et al., 2020; Hollensbe, Khazanchi & Masterson, 2008)。この時,先験的に設定されたルールに基づいて組織的公正を概念化するアプローチは,組織的公正の構成要素として重要ではないものを分析に含めたり,重要なものを見落としたりする可能性を排除できない(Fortin et al., 2020)。

異なる組織的正義の知覚の間に存在する相互依存性や共通性,組織的正義の知覚が組織の構成員の反応を生じさせる境界条件や組織的正義の構成概念の網羅性といった問題は,いずれも組織的公正の形成と影響という現象を詳しく検討するうえで重要な論点であるが,組織的正義概念を用いて分析を行うと分析モデルが非常に煩雑となる。包括的公正に対する近年の関心の高まりは,これらの論点を簡潔に分析するための概念として,包括的公正が有用であったことも一因であったと推測される。

2-3. 包括的公正概念の有用性

これまで,1980年代後半から生じた組織的公正研究全体の問題関心の変化によって,研究者が組織的公正の形成とその影響を説明する理論の提示と実証に対して関心を持つようになった結果,組織的正義概念によって組織的公正を捉えるパースペクティブでは有効な示唆を導くことが難しいいくつかの論点が認識されたことを説明してきた。最後に,組織的正義概念によっては検討が難しい問題に対する包括的公正の潜在的な有用性について検討し,組織的公正研究の全体の中に包括的公正概念を位置付ける。

組織的正義と比較して,包括的公正の中核的な概念的特徴は,組織的公正の構成要素を細分化して理解しようとするのではなく,より大局的(global)な概念として捉えようとする点にある。Ambrose et al.(2015)Holtz & Harold(2009)によれば,組織的正義概念ではなく,包括的公正概念を用いて組織的公正の問題を論じることには,以下のような利点がある。

第1に,包括的公正概念を用いることによって,研究者は組織における構成員の組織的公正を簡潔に分析に反映することができる(Ambrose & Schminke, 2009; Hauenstein et al., 2001)。包括的公正概念は個別の構成要素を持たない全体として1つの概念であると考えられている(Cropanzano, Byrne, Bobocel et al., 2001)。このため,包括的公正を分析に用いることで,研究者は組織的公正の構成要素間に存在する複雑な相互依存性や共通性,網羅性の問題について議論する必要がなくなる。さらに,より従来よりも簡潔な概念として組織的公正を分析モデルに取り入れることで,それまで関連付けられてこなかった他の領域の研究に組織的公正概念を取り入れることが容易になった(Ambrose et al., 2015)。

第2に,大局的に評価される結果変数(例として,全体的な満足感や仕事の成果など)に対する予測を行う場合,組織的正義概念を用いた場合よりも包括的公正概念を用いた方がモデルの予測力が向上することが知られている(Ambrose & Schminke, 2009)。このため,研究者が特定の組織的正義の知覚と対応する特定の結果変数の関係に関心がない場合,包括的公正を組織的正義の知覚と大局的な結果変数の媒介変数として位置付けることによって,構成員の結果変数の予測をより正確に行うことができるようになる。

第3に,包括的公正概念を用いることで研究者は組織的正義の知覚の相互依存性や共通部分が構成員の結果変数に与える影響を分析に取り入れることができるようになる(Ambrose & Arnaud, 2005)。それまでの研究の多くは組織的正義の概念的重複を無視し,知覚された特定の組織的正義がおよぼす独自効果に注目してきた。しかし,先にも述べたように,組織的正義の知覚の共通部分が少なくないことを踏まえると,包括的公正概念を用いることで,組織的公正が組織の構成員の態度や行動におよぼす影響に関して適切な分析が可能になる。

本節では1980年代後半に生じた組織的公正研究全体のパラダイムの変化を背景として,研究者に認識された組織的正義概念の限界と,包括的公正概念の潜在的な有用性について論じてきた。本節の趣旨は,組織的正義概念に対する包括的公正概念の単純な優越性や先進性を指摘することや,組織的正義概念を用いて蓄積された知見を否定することにはない。そうではなく,本節の趣旨は,研究者が関心を持つ問題に合わせて組織的公正を捉えるための概念を使い分けるべきであることを説明することにある(Ambrose et al., 2015)。研究者が組織的正義の概念構造や,組織の構成員の態度や行動に影響を与える特定の組織的正義の知覚に関心がない場合,包括的公正概念を用いることで,分析モデルはより自由で簡潔なものとなるだろう。一方で,組織内の資源分配について,構成員の不満がどこにあるのか,そのような不満を解消するためにどのようなアクションを取るべきかという論点に関心がある研究者にとって,組織的正義概念は,現在でも有用な視点を提供するだろう(Fortin, et al., 2020)。次節では,この時期に展開された概念的議論と近年の包括的公正研究を結びつけるために,近年の包括的公正の中核的な研究の一つであるAmbrose & Schminke(2009)の定義に基づいて包括的公正がどのように概念化され,測定されるのかについて確認していく。

3. 包括的公正概念とは何か

前節では,組織的公正研究全体の学説史的観点から包括的公正概念に対する研究関心が高まる背景を説明した。本節では,それを踏まえて,包括的公正概念に関して,研究者がどのような概念化・操作化を行ってきたのかを検討していく。

包括的公正概念に関する初期の概念的議論は1990年代から2000年代初頭を中心とする(Ambrose & Arnaud, 2005; Colquitt & Shaw, 2005; Cropanzano & Ambrose, 2001; Greenberg, 2001; Hauenstein et al., 2001; Törnblom & Vermunt, 1999)。しかし,これらの研究では,包括的公正を概念化するうえで,必ずしも統合的な議論が行われたわけではない。このため,本論文では,包括的公正の尺度を作成し,近年の包括的公正研究の伸張のきっかけとなった研究であるAmbrose & Schminke(2009)を中心として,近年の研究者に共有される包括的公正の概念的特徴と操作化の手法について整理していく。

3-1. 包括的公正の代表的な概念的特徴

Ambrose & Schminke(2009)によれば,包括的公正概念は「個人の経験,あるいは他者の経験に関する情報を参照して主観的に評価される特定の社会的実体の全体的な公正さ」と定義される。この時,Ambroseらによる包括的公正の概念定義の背後には,「総合的公正モデル」(Törnblom & Vermunt, 1999),「公正ヒューリスティックス理論」(Lind, 2001),「社会的実体の正義(entity justice)」(Cropanzano et al., 2001)とよばれる3つの視点が取り入れられている(Ambrose et al., 2015)。本項では,それらの視点に関する説明を通じて,Ambroseらの定義する包括的公正概念の定義を検討していく。

(1) 総合的公正モデル

組織的正義概念に依拠するモデルにおいて,知覚された組織的正義は独立して構成員の態度や行動に影響をおよぼすことが想定されていた。これに対し,Törnblom & Vermunt(1999)は,分配的正義の知覚・手続的正義の知覚・結果の好ましさ(outcome valence)の3つの要因の相互作用を通じて組織の構成員が自身の置かれた状況に対する包括的公正,およびそれに後続する組織に対する反応を決定するモデルを提示し,総合的公正モデル(total fairness model)と名付けた。総合的公正モデルにおいて,組織の構成員の置かれた状況に対する包括的公正,およびそれに後続する組織に対する反応を決定するのは,分配的正義の知覚・手続的正義の知覚・結果の好ましさの3つの要因の相互作用である。このモデルにおいて,分配的正義の知覚・手続的正義の知覚が包括的公正とどのような関係を持つかは,他の要因のパラメータによって決定され,それ自体として判別することはできない。例えば,分配的正義の知覚が高かったとしても,手続的正義の知覚が低く,結果の好ましさも低い場合には,組織の構成員は自身の置かれた状況を不公正と判定するとされる。

総合的公正モデルの考え方は,包括的公正を単なる構成要素の総和として捉えることはできず,個人を取り巻く状況を勘案したうえで全体として意味を持つゲシュタルト的性質を持つ概念とみなせることを指摘した点で重要である。Törnblom & Vermunt(1999)によれば,特定の組織的正義の知覚が,他の組織的正義の知覚,あるいはその他の要因を総合的に勘案して包括的公正に影響を与える場合にのみ,構成員の態度や行動に対する影響が生じる(p.50)。Ambrose & Schminke(2009)は,Törnblomらによって提示された総合的公正の性質を包括的公正概念に取り入れ,分配的正義・手続的正義・相互作用的正義の知覚が職務満足や組織市民行動といった一般的な構成員の態度・行動変数に与える影響を媒介する変数として包括的公正を位置付けている。

(2) 公正ヒューリスティックス理論

公正ヒューリスティックス理論(Lind, 2001)は,組織の構成員がなぜ包括的公正に関心を持ち,どのようにそれを用いて組織に対する反応を決定するのかという一連の心理的メカニズムに対する簡潔な説明を提供しており,包括的公正を概念化する基礎的な考え方として,Ambrose & Schminke(2009)をはじめ,多くの包括的公正研究者に受け入れられている(cf. Ambrose et al., 2015)。

公正ヒューリスティックス理論は,組織に対する包括的公正が組織の構成員にとって組織に対する信頼を代理するヒューリスティックス(認知上の近道)となることを基本的な仮定とする(Lind, 2001)。Lind(2001)によれば,組織の構成員にとって,組織に所属し,組織との社会的な関係性を強化することは,道具的・社会的な便益を得られる機会を増加させる一方で,組織による搾取や社会的拒絶に対するリスクも高めてしまう。このため,人々が組織に対する態度や行動を通じて組織との社会的な関係を調整するために,組織に対する信頼は重要な役割を果たす。しかし,組織の構成員はしばしば組織を信頼するに足るだけの十分な情報や認知能力を持っていない。このため,組織の構成員は組織が信頼できるかどうかわからない状況において,組織に対する態度や行動を決定するための簡易的な基準として組織が全体として公正であるかどうかに注目する。この時,組織が全体として公正であるとみなせる場合,場当たり的な判断として,組織の構成員は組織が信頼できるものであった場合と同様の態度や行動を示すと考えられている。

また,組織の構成員は,組織が信頼できるかどうかだけではなく,組織が全体として公正であると判断するためにも十分な情報や認知能力を持っていない場合がある。このような場合,組織の構成員は自身にとって無視することができず,重要性の高い公正・不公正の問題に関する評価を用いて包括的公正を評価すると考えられている(Greenberg, 2001; Lind, 2001)。このため,組織との関係性の根幹をなす組織内の資源分配に関する公正判断は,組織に対する包括的公正の代表的な先行要因であるとみなされている(Ambrose & Schminke, 2009; Lind, 2001)。

(3) 社会的実体に対する正義

組織的正義概念は,過去の組織内の資源分配の場における組織の機能や組織のエージェントの行動に対する組織の構成員の知覚から構成される。これに関して,Cropanzano et al.(2001)は,人々は特定の出来事(event)に関して公正さを評価できる一方で,組織や上司,同僚といった特定の社会的実体(entity)についてもその公正さを評価することができることを指摘している。この時,Ambrose & Schminke(2009)は包括的公正を特定の社会的実体を対象とする公正さの評価を反映する概念であると定義している。Cropanzano, Anthony, Daniels et al.(2017)によれば,特定の社会的実体を対象にした公正評価は,時間や状況を超えた組織の機能や人の行為に内在する安定的な性質に対する個人の評価を反映している。つまり,組織に対する包括的公正の高い構成員は,組織が一般的な傾向として,自身を含む構成員を公正に処遇する可能性が高いという認知を持っているとみなされる。

上記の考え方に基づき,Ambrose & Schminke(2009)は作成した包括的公正尺度の項目の主語をいずれも「組織」に統一し,包括的公正の対象となる社会的実体を組織に設定している。また,一部の研究は,尺度に含まれる「組織」の部分を「上司」や「同僚」に修正することで,関心のある特定の社会的実体を対象とした包括的公正を観察している(e.g. Fortin et al., 2020; Patel et al., 2012)。

3-2. 包括的公正の操作化

包括的公正をどのように概念化するかという問題は,包括的公正をどのように操作化するのかという問題にも関係している。近年の研究において,包括的公正を測定するための尺度としてAmbrose & Schminke(2009)の尺度は広く普及している。しかし,包括的公正の定義が厳密に設定されていないこともあり,包括的公正を操作化する手法には未だコンセンサスが存在するとは言えない。このため,本項では,包括的公正を操作化する手法として,包括的公正に関する心理尺度を用いて直接的に組織の構成員の包括的公正を測定する直接測定アプローチと,組織的公正に関係する概念の既存尺度を用いて,それらに影響をおよぼす潜在変数として包括的公正をみなす間接測定アプローチの2つの手法に大別し,それぞれの手法について説明していく。なお,Ambrose et al.(2015)はどちらのアプローチを採用した場合でも包括的公正研究であるとみなしている。

(1) 直接測定アプローチ

直接測定アプローチは,包括的公正を測定するために,全体的な組織の公正さを直接的に尋ねる項目からなる尺度を採用するアプローチである。近年では,Ambrose & Schminke(2009)Colquitt, Long, Rodell et al.(2015)が代表的な尺度として知られている。いずれの尺度も特定の社会的実体を対象としており,組織の性質や組織内のエージェントのパーソナリティとしての公正さの評価を直接的に測定することを企図した項目から構成されている。

包括的公正を測定するために直接測定アプローチを採用することは,後述する間接測定アプローチに対して以下の2点の利点がある。第1に,直接測定アプローチを用いることで,組織の公正さに対する構成員の評価を確実に反映することができる(Fortin et al., 2020; Leventhal, 1980)。組織的正義の測定をはじめとして,間接測定アプローチでは,先験的に特定された何らかの基準に基づいて組織の機能や組織内のエージェントの全体的な傾向を把握しようとする。この時,間接測定アプローチでは,組織の公正さに対する構成員の評価を直接的には測定しないため,組織の構成員が組織や組織内のエージェントの公正さを判断するために自身の置かれた文脈に応じて独自の基準を用いて評価を行っている場合,分析によってその可能性を捕捉することはできなかった。

第2に,直接測定アプローチを採用することによって,研究者は包括的公正の先行要因について,柔軟なモデルを設定することができる(Colquitt & Shaw, 2005)。前述のように,包括的公正に影響を与える可能性のある要因は,非常に多岐にわたる可能性がある。例えば,包括的公正が組織の性質や一般的な傾向を示していることを踏まえれば,組織の構成員は,組織内の資源分配とは直接的に関係のないマネジメントに対しても包括的公正を評価しうる(De Roeck, Marique, Stinglhamber, 2014)。また,組織をどのように評価するのかという観点からは,個人のパーソナリティや志向性といった要因も包括的公正に対して影響を与えると考えられる(Colquitt, Zipay, Lynch et al., 2018)。この時,研究者は直接測定アプローチを採用することによって包括的公正に影響を与える様々な変数を分析モデルに取り込むことができる。

ただし,直接測定アプローチを採用した実証研究においても,包括的公正の操作的定義には議論が残されている。Ambrose & Schminke(2009)は,包括的公正の尺度を作成するにあたって,組織の構成員が組織からの処遇に関する個人の経験を反映するための項目と,一般的な組織の公正さの評価を反映するための項目を組み合わせている。これは個人が自身の経験だけではなく,組織内の他者の経験に関する情報を踏まえて包括的公正を評価しているという予測(Lind, 2001)に基づいている。Ambrose & Schminke(2009)は,これらの項目群の間に統計的な違いは確認されなかったと報告しているが,包括的公正を測定するうえで,操作的定義の違いによって分析結果に違いが生じる可能性については追加的な検討が必要である。

(2) 間接測定アプローチ

間接測定アプローチは,包括的公正を測定するために,組織の機能や組織内のエージェントの行為に関する知覚の評価を統合するアプローチである。典型的には,Colquitt & Shaw(2005)が提示した方法として,組織的正義の知覚を測定するための尺度(e.g. Colquitt, 2001)を用いて,組織的正義の知覚に関する項目を観測変数とする1次あるいは2次の潜在因子(latent factor)として包括的公正を概念化する方法が知られている(e.g. Barclay & Kiefer, 2014; Diehl et al., 2016)。

間接測定アプローチは,包括的公正を評価するために,旧来の尺度を流用できる点に利点がある。しかし,このアプローチによって評価された包括的公正が直接測定アプローチによって測定された概念と同一であるかどうかについては議論の余地がある。理論的には,直接アプローチで測定された包括的公正は組織的正義の知覚に後続する変数であるとみなされる(Ambrose & Schminke, 2009)のに対して,間接アプローチで測定された包括的公正は組織的正義の知覚の先行要因となる点で違いがある。この違いを実証用に検討した研究は少ないものの,例えば,Rodell, Colquitt & Baer(2017)は,間接測定アプローチによって測定された包括的公正と直接測定アプローチによって測定された包括的公正の間に高い関連が見られることを報告する一方で,上司が組織内の資源分配について意思決定を行う頻度が高い場合には,両者の関連が弱められることを報告している。

4. 包括的公正概念に注目する意義と今後の展望

最後に,本稿の締めくくりとして,組織的公正研究において包括的公正概念に注目する意義と,今後の研究の方向性についての展望を述べる。

4-1. 包括的公正概念に注目する意義

本論文において,組織的公正研究における包括的公正概念への注目の高まりは,学説史的観点から研究者の関心の分化とそれに合わせた概念の変更という現象として説明された。1980年代後半を契機として,組織的公正の研究者はそれまで主として行われてきた組織的正義のフレームワークの拡充・洗練という課題だけではなく,組織的公正の形成と影響を説明する理論的説明を提示・実証することに対しても関心の範囲を拡大させた(統合化の波)。しかし,組織的公正の構成要素の複合的な効果に注目する新たなパラダイムの下で,組織的正義概念の持つ構成概念の独立性の仮定や,先験的な公正原理に基づく概念化といった性質は,組織的公正研究に生じた新たな問題を検討するうえで,分析上の制約となることが認識された。包括的公正は,このような組織的公正研究の展開を前提として,より簡潔かつ自由に組織的公正の形成およびその影響について分析を行うための概念として注目された。

このような背景から,包括的公正概念には,単なる組織全体を評価して形成される公正評価という以上の含意が含まれている。代表的には包括的公正は組織の構成員個人を取り巻く状況に存在する様々な要素が複雑に絡まって構成されるゲシュタルト的概念である(Törnblom & Vermunt, 1999)とともに,組織との信頼が十分に醸成されていない状況において,組織の性質や一般的な傾向を推し量り,組織に対する態度や行動を決定するための簡易的な基準として用いられているヒューリスティックスとしての側面が内包されている(Lind, 2001)。

組織的正義概念は,組織的公正を捉える概念として最も広く普及しており,現在においても重要な概念である。しかし,研究者は,どの概念を用いて組織的公正を観察するのかについて,自身の問題関心に基づいて慎重に選択すべきである。特に,知覚としての組織的公正の形成や影響およびその背後にある理論的メカニズムに関心がある研究者は,包括的公正概念を用いることで,より簡潔で自由な分析モデルを検討することができる。組織に対する包括的公正が組織の構成員自身の経験,あるいは他の構成員の経験に関する情報に基づいて評価される組織の性質や一般的な傾向を反映している概念であることを踏まえれば,組織に対する包括的公正に影響を与える要因は無数に存在しうる。研究者は包括的公正概念を用いることで,組織内のより広い範囲の現象を組織的公正の問題として論じることができるようになるだろう。また,組織的公正と組織の構成員の態度・行動との関係を論じるうえでも,包括的公正概念は有益な視点を提供する。組織的正義概念を用いた分析では,それぞれの組織的正義間の相互依存性や共通部分が構成員の態度や行動におよぼす影響はほとんどの研究で無視されてきた。しかし,Ambrose & Arnaud(2005)によって指摘されるように,現実的に組織的正義の構成要素間に高い相関が見られることを踏まえると,この影響を無視して組織的公平と組織の構成員の態度や行動との関係を分析することは適切であるとは言えないだろう。

4-2. 包括的公正研究の展望

本論文で論じたように,包括的公正は組織的公正研究において,組織的正義概念によっては検討のできない特定の問題を検討することを目的に概念化がなされている。最後に,本論文では紙幅の関係から省略したが,本論文およびAmbrose et al.,(2015)の内容を踏まえて包括的公正概念に依拠して組織的公正研究を進展させていくうえで検討されるべき実証研究の方向性を整理し,本論文を締めくくる。

第1の方向性は,知覚された組織的正義以外で包括的公正に影響を与える先行要因を明らかにすることが考えられる。前述のように,組織の構成員は,組織的公正を評価する際に,組織的正義の知覚よりも広い経験や情報を参照している。この時,包括的公正概念を用いて様々な先行要因との関係を明らかにすることで,組織的公正の形成の全体像に対する理解が深まるだろう。この際,注目する要因と包括的公正との関係をより正確に分析するために,知覚された組織的正義の影響については統制することが望ましい(Ambrose et al., 2015)。

第2の方向性は,包括的公正とその先行要因との関係を調整する調整要因を明らかにすることが考えられる。組織的公正の形成メカニズムを理解するうえで,組織の構成員がどのような要因を重視して組織的公正を評価しているのかという問題は重要な問題である一方で,組織的正義概念を用いると,分析モデルは非常に煩雑となる。この時,組織的公正を包括的公正によって概念化することによって,研究者はより簡潔なモデルによってこの問題を検討することができるだろう。

第3の方向性は,包括的公正によって影響を受ける後続要因との関係について,複数の理論的メカニズムを比較することが考えられる。1980年代後半から現在にかけて,研究者は,組織的公正が組織の構成員の態度や行動におよぼす影響を説明する理論的立場を複数提示してきた。しかし,これまでのところ,それらの理論的立場を統合し,それぞれの説明の有効性を比較した研究はそれほど多くない(例外として,Arneguy, Ohana & Stinglhamber, 2018; Aryee, Walumbwa, Mondejar et al., 2015)。包括的公正概念は,かつて無視されてきた組織的正義の構成要素間の共通要素や文脈要因を簡潔に分析に反映させることができる。このため,包括的公正概念を用いることで,研究者は組織的公正が組織の構成員の態度や行動に対して影響をおよぼす心理的メカニズムについて,より深く洞察することができるだろう。

(筆者=一橋大学大学院経営管理研究科)

【注】
1  近年の組織的公正研究において“justice”と“fairness”が明確に区別される傾向にあることを踏まえ(cf. Colquitt & Zipay, 2015; Goldman & Cropanzano, 2015),原著において「正義(justice)」という文言が用いられていたとしても(e.g. Ambrose & Schminke, 2009),本論文で注目するパースペクティブに内包される概念はいずれも「包括的公正」として記述を統一する。この理由は,本論文で注目される包括的公正は従来の「組織的正義(organizational justice)」概念とは明確に異なる特徴を持ち,それは“justice”というよりも“fairness”に近しいものであると考えられるためである。なお,本論文では便宜的に“justice”を「正義」,“fairness”を「公正」と訳したが,この翻訳の是非についてはここでは議論しない。

2  組織的正義に基づく組織的公正のフレームワークとして,分配的正義(distributive justice)・手続的正義(procedural justice)・相互作用的正義(interactional justice)とよばれる3つの組織的正義概念によって組織的公正を理解しようとする考え方は,近年の研究においても広く受け入れられている(cf. Colquitt,2001; Colquitt et al., 2001, 2013)。それぞれの正義概念は,いずれも組織内の資源分配の場面における組織の公正さを評価するための基準から構成されるが,組織内の資源分配のどの側面に注目するのかという点において違いがある。例えば,分配的正義は,組織内の資源分配について,賃金や昇進といった「仕事に対する報酬の適切さ」に対応するルールを反映している(Adams, 1965)のに対し,手続的正義は,組織内の資源分配について,報酬が決定されるまでの過程における発言の機会の有無や情報公開の程度といった「組織の意思決定プロセスに関する適切さ」に対応するルールを反映している(Leventhal, 1980)。また,相互作用的正義は,組織内の資源分配について,報酬が決定されるまでの過程に注目する点では手続的正義と同一であるが,手続的正義が組織の公式的な機能に注目するのに対して,「組織の意思決定プロセスに関与する組織内のエージェントからの対人的扱いの適切さ」に対応するルールを反映している点で他の正義概念からは区別される(Bies & Moag, 1986)。

【参考文献】
 
© 2022 Japan Society of Human Resource Management
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