日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
研究レビュー
障害者マネジメント研究の知見の整理と展望
丸山 峻
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2021 年 22 巻 2 号 p. 56-70

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ABSTRACT

This paper summarizes research relevant to the effect of management of employees with disabilities, on the attitudes and behavior of employees with disabilities and the employment rate of people with disabilities in companies, and suggests directions for future research. The literatures on management of employees with disabilities are divided into three categories: ⑴ corporate policies of disability employment and HR practices for persons with disabilities, ⑵ behavior of supervisors and colleagues around employees with disabilities, and ⑶ reasonable accommodations provided individually to employees with disabilities. The following four points are presented as future directions. First, there is a need for comprehensive research on the management of employees with disabilities in the workplace by integrating research on leadership, HR practices, and reasonable accommodation. Second, in contrast to accumulated research on corporate policies of disability employment and the design of HR practices, there is a lack of accumulated research on the implementation of HR practices. So further research is needed. Third, since there are conflicting results on the effects of reasonable accommodation for people with disabilities, future research should investigate the boundary conditions for the effectiveness of management of employees with disabilities, including reasonable accommodation, HR practices, and the behavior of supervisors and colleagues. Finally, because based on the social identity theory, the research fields are concentrated in the workplaces where the people with disabilities are distributed. Therefore, a comprehensive view of employment of people with disabilities in Japan should be taken by comparing and examining the workplaces where the employees with disabilities are centrally positioned with the workplaces where the employees with disabilities are distributed.

1. はじめに

世界では全人口の約15%にあたる10億人以上に何らかの障害があり,障害者は世界で最も巨大なマイノリティであるとされている(WHO, 2011)。だが,世界的に障害者の就業率は低く,OECD加盟国における障害者の平均就業率は60%を下回っている(OECD, 2010)。日本も同様であり,平成25年版の障害者白書(内閣府,2013)による障害者の年齢階層別の就業率は,身体障害者と精神障害者は全ての年齢層にわたって,知的障害者は20歳代を除く年齢層で,健常者1の就業率よりも低くなっている。さらに,障害者職業総合センター(2017)によれば,一般企業に就職した障害者が1年以上職場に定着する割合は60%未満で,多くの障害者が短期間で離職している。

このような現状の改善や,障害のある従業員から得られる成果の向上を目指し,障害者の態度・行動を決定づける要因に関する研究が蓄積されてきた。その要因には,法律・規制,組織特性,障害者の特性,管理者・同僚の特性など様々なものがある(Stone & Colella, 1996; Beatty et al., 2019)。これらのうち本論文は企業ないし職場のマネジメントに着目する。それらが障害者の態度・行動や企業の障害者雇用率等に与える効果を検討した研究の知見を整理し,今後の研究の方向性を示すことが本論文の目的である。

本論文では,障害者の雇用促進,職場定着,成果の向上などを企図したマネジメントを一括して障害者マネジメントと呼称する2。この中には,障害者だけを対象としたものに限らず,障害者と健常者の双方を対象としたものや,障害者を部下にもつ管理者などの健常者を対象としたものも含まれる。障害者マネジメント研究における結果変数は次の2つに分類される。1つ目は障害者個人レベルの態度・行動であり,ウェルビーイング,職務満足,離転職意思,能力向上,パフォーマンスなどである。2つ目は,企業レベルでの障害者雇用の成果であり,企業全体での障害者雇用率が扱われることが多い。

障害者マネジメントには企業レベルから職場レベルまで様々な種類のものが存在する。本論文では,各種の障害者マネジメントの既存研究の多寡に鑑み,(1)障害者雇用方針・人事施策,(2)障害者を部下にもつ管理者や周囲の同僚の行動,(3)障害者に個別に提供される合理的配慮,の3つに大別して既存研究を整理する。なお,障害者雇用促進のためには,労働組合による障害者雇用に関する施策への関与(Bacon & Hoque, 2015),就労支援機関,公共職業安定所,地域就労支援センターなどの活動も重要である(二神他,2017)ものの,本論文のレビュー対象は企業内での取り組みに限定する。

2. 障害者雇用方針・人事施策に関する研究群

本節は障害者雇用方針と人事施策を扱った研究の知見を整理する。障害者の態度・行動や障害者雇用率に影響を及ぼす組織的な要因の主たるものの1つが人事施策である。障害者マネジメント研究で検討される人事施策には,障害者のみを対象とした人事施策もあれば,障害者を含めた従業員全体を対象とした人事施策もある。これに加え,既存研究では,人事管理に関する価値観や哲学を示すHRプリンシプルやそれをより具体的にしたHRポリシー(Posthuma et al., 2013)についても,障害者雇用に関わる人事施策の内容を決定づけるものとして分析対象とされてきた。本論文では,障害者雇用に関わるHRプリンシプルとHRポリシーを,障害者雇用方針と呼ぶこととする。障害者雇用方針は,障害者の雇用促進について,社内または社外へ発信されるポリシー,ステートメント,その他の明文化された言明であり,CSR報告書などを通じて示される。

2-1. 障害者雇用方針に関する研究

障害者雇用方針の存在が,障害者と健常者の処遇の格差に与える影響を検討する研究が一定数蓄積されている。Jones & Latreille(2010)は英国のアーカイバルデータを用いて,障害者への言及のある機会均等の方針,障害者の求人応募の奨励,採用・賃金・昇進における障害者への差別のモニタリングの3つの障害者雇用方針は障害者と健常者の間の賃金差別を是正するが,採用や昇進での差別是正効果はないことを示した。Jones(2016)Jones & Latreille(2010)と同じデータを用いて,障害者が健常者よりも職場・管理者に対する認識が否定的で,コミットメントや職務満足,仕事での影響力行使の認知が低く,障害者雇用方針はそれらを改善させていないことを明らかにした。この結果についてJones(2016)は,障害者の態度・行動には障害者雇用方針よりも人事施策の方がより大きな影響を与える可能性を指摘した。

このJones(2016)の解釈は,障害者雇用方針と人事施策が連関していないことを示唆している。障害者雇用方針と人事施策の関係についても研究が一定数蓄積されており,一部の例外(Pérez-Conesa et al., 2020)を除き多くの研究が,障害者雇用方針は実際の人事施策と結びついていないとしている。具体的には,企業の掲げる障害者の人事管理方針と,職場の人事管理の内容が異なっており,障害者が支援を不十分と感じていること(Cunnningham et al., 2004)や,障害者のインクルージョンに関する公式的な組織方針と,実際の人事部門が策定している施策には差があること(Kuznetsova, 2016)が示されている。さらに,障害者雇用に関する外部機関の認証についても,実際の人事施策とは結びついていない。Hoque et al.(2014)によれば,英国企業のディスアビリティ・チャンピオン(労働組合において障害者の代表権行使を担っている人物)を対象とした質問票調査の結果,Two-ticksシンボル(障害者雇用に積極的な企業であることを示す英国の行政機関による認証)の取得企業と未取得企業の間で,差別是正施策や障害者への支援についての差はない。この結果についてHoqueらは,企業がレピュテーション向上のためにTwo-ticksシンボルを活用しており,認証取得企業へのモニタリングが不十分な現状の制度下では認証取得は必ずしも障害者雇用への関心の高さを示さないと解釈している。

障害者雇用方針と人事施策は連関していないという見解が支配的であるものの,両者の重要性を示した研究(Araten-Bergman, 2016)や両者の連関を示した研究(Pérez-Conesa et al., 2020)も存在する。Araten-Bergman(2016)は,イスラエルの人事部門の管理者を対象とした調査をもとに,公式的な障害者雇用方針が存在することと,障害者の雇用とリテンションに関する訓練を行っていることが,6か月後の調査における障害者従業員数の増加を促していることを明らかにした。Pérez-Conesa et al.(2020)は,障害者雇用方針と,人事施策や障害者雇用率との関係を検討している。障害者雇用方針については,地域コミュニティとの連携,戦略的提携,障害に関する従業員フィードバック,コミュニケーション計画の導入,企業目標設定,ノーマライゼーションの戦略的計画の6つの方針の有無を調査し,人事施策については,募集・選抜,教育訓練,キャリアプラン,昇進,職務,コミュニケーション手段のそれぞれについて,障害者のための特別の施策の有無を調査している。スペインの46企業の管理者を対象とした質問票調査を分析した結果,地域コミュニティとの連携,戦略的提携,障害に関する従業員フィードバック,コミュニケーション計画の導入,企業目標設定,の5つの障害者雇用方針それぞれが障害者のための特別の人事施策の導入を促していることが明らかになった。一方で,ノーマライゼーションの戦略的計画は人事施策との関わりはなかった。また,障害者雇用方針と障害者雇用率との関係については,ノーマライゼーションの戦略的計画の方針のみが障害者雇用率を高めていた。

2-2. 人事施策に関する研究

先述したJones(2016)は,障害者の態度・行動には障害者雇用方針よりも人事施策の方がより大きな影響を与えるという見解を示していた。人事施策が実際に障害者雇用率や障害者の態度・行動にどのような影響を与えているか実証を試みた研究は数多く,焦点を当てる人事施策の内容は各研究で異なる。

障害者の採用に関しては,多くの研究が採用選考における評価・判断のバイアスとその軽減方法に着目している(cf. Ren et al., 2008)。求人票の記載内容や障害者雇用方針によって,より多くの障害のある求職者を引き付ける可能性が理論的に提言されている(Stone & Williams, 1997)ものの,その実証は行われていない(Colella & Bruyère, 2011)。また,労働時間・賃金といった処遇に関する研究も行われている。実労働時間が希望労働時間よりも長いことによるウェルビーイングの低下は,健常者よりも障害者がより大きい(Wooden et al., 2009)ため,障害者の労働時間管理において本人の希望と実際のミスマッチの回避がより重要である。労働時間以外についても,雇用形態や社会保険などについて就職時の希望条件の非実現程度が高いほど障害者の離職意図は高くなる(若林, 2007)。Shantz et al.(2018)によれば,障害者は健常者より賃金満足度が低く,その差は変動給与制度が導入されている職場でより大きい。この障害者と健常者の賃金満足度の差は,マネジメントへの信頼(trust in management)が高い場合または障害者雇用方針と人事施策の一致度が高い場合に縮小される。

以上の研究は主として単一の人事施策を扱っているが,複数の人事施策を扱った研究でも,注目する人事施策が研究ごとに異なる。例えばWoodhams & Corby(2007)は,障害者差別是正のために重要な人事施策として6種類の施策に着目した。その6種類とは,障害者雇用の方針に関する「明記されたポリシー」,障害者を部下にもつ管理者の責任や管理者を対象とした訓練に関する「管理者責任」,ポジティブアクションの実施に関する「ポジティブアクション」,障害者を対象とした採用・選抜の見直しに関する「要員」,外部の専門機関から受けている支援に関する「外部機関からの支援」,従業員を定着させるための職務の再割当てや障害者用の設備の設置などに関する「適応の形成」の6つである3。英国の人事部門の管理者を対象に,障害者の割当雇用制度が撤廃される前の1995年と撤廃後の2003年に行われた質問票調査により,6種類のうち導入している施策数が多いほど障害者雇用率が高いことが明らかになった。さらに,1995年時点ではポジティブアクションが障害者雇用率に大きく影響していたが,2003年時点では「管理者責任」の施策が障害者雇用率に最も大きく影響していた。Schur et al.(2009)は,賃金・付加給付・雇用の安定性・昇進機会・訓練機会・意思決定への参加機会の6つの人事施策に着目している。米国の14企業の障害者と健常者を対象とした質問票調査の結果,障害者は健常者と比較し,賃金・付加給付・雇用の安定性が低く,訓練機会と意思決定への参加機会が少ないこと,それにより障害者の離転職意思が高く,勤労意思,ロイヤリティ,職務満足は低いことが明らかになった。健常者より劣る人事施策による障害者の態度・行動への悪影響は,公正風土と職場の応答性(responsiveness)4によって軽減される。福間(2019)は,評価,訓練,雇用保障に着目して分析を行っている。日本の特例子会社24社の障害者を対象とした質問票調査により,積極的教育訓練と評価の適切性についての認知が障害者の離職意思を低下させることを明らかにしている。Pérez-Conesa et al.(2020)は,障害者のための特別の人事施策について,前項で先述した6種類(募集・選抜,教育訓練,キャリアプラン,昇進,職務,コミュニケーション手段)の施策を調査したが,いずれの人事施策も障害者雇用率を高めていなかった。

個々の人事施策ではなく,施策間の適合関係も考慮に入れた人事施策体系を分析対象とした研究にHoque et al.(2018)がある。Hoque et al.(2018)は,戦略的人的資源管理論における高業績人事施策(HPWPs:High Performance Work Practices)に着目した。英国のアーカイバルデータの分析から,HPWPsに該当する施策が複数実施されている企業は,障害者雇用率が低い一方で,障害者のウェルビーイングの健常者との差は縮小していることが明らかになった。この結果について,HPWPsを多く導入している職場には障害者が入社し定着する可能性は低いものの,定着する障害者は障害がパフォーマンスに影響を及ぼさず,健常者と同様のパフォーマンスを発揮できているがゆえに,ウェルビーイングが健常者と同程度となるとHoqueらは解釈している。さらに,募集・選抜・昇進・賃金・アクセシビリティにおける公平性をもたらす障害平等施策(disability equality practices)が,HPWPsによる障害者雇用率低下の影響を軽減させていた。

人事施策の内容よりも,その戦略との関係が重要であることを示した研究も存在する。Konrad et al.(2016)は,ダイバーシティと雇用機会均等のための管理施策体系(diversity and equality management systems,以下DEMS)と障害者雇用率および他のマイノリティの雇用率との関係を検討している。カナダの155社の人事部門の管理者を対象とした質問票調査をもとに,DEMSを分類し,DEMSの各分類とアウトカムとの関係,DEMSの各分類を決定づける組織の要因について分析した。クラスター分析により,明らかになったDEMSの分類は次の3つである。1つ目が古典的格差(classical disparity)DEMSであり,多様な労働力の平等性を確保するマネジメントを行っていない状態を指す。2つ目が制度的(institutional)DEMSであり,法規制に合わせてマネジメントを変更していることを指し,主に採用における選抜においてダイバーシティを重視している。3つ目はコンフィギュレーショナル(configurational)DEMSであり,ダイバーシティを戦略と結びつけ,選抜のみならず,募集,教育訓練などにおいても多様な従業員を念頭に置いたマネジメントを指す。この3分類のDEMSと障害者雇用率の関係を分析した結果,コンフィギュレーショナルDEMSに分類される企業は他の2種類のDEMSに分類される企業よりも,障害者雇用率と管理職の障害者比率が高いことが明らかになった。コンフィギュレーショナルDEMSが行われる要因として,雇用均等法(Canada’s Employment Equity Act)の適用対象企業であること,人事部門の戦略への関与が高いこと,ダイバーシティ専門家を設置していること,の3つがある。

2-3. 障害種別を考慮した研究と組織風土に関する研究

以上の研究において,障害種別の違いは必ずしも考慮に入れられているわけではない。障害種別によって,職場定着に有効な人事施策は異なるという前提に立つ研究の多くは,知的障害者に対象を限定している。個人―職務適合(個人の関心・スキルと職務の適合)が知的障害者のパフォーマンスを高め,自己決定は知的障害者のパフォーマンス,職務満足,勤続年数を高める(Fornes et al., 2008)。また,知的障害者の能力分析と,その結果をもとに互いの能力を補完するようなグループを編成することが,知的障害者の能力発揮に重要である(猪瀬, 2008)ことや,知的障害者の能力開発については,技能や比較的得意な分野を見極めたうえでの育成が重要である(眞保, 2010)ことが明らかになっている。その他の人事施策としては,ペアで仕事を行うバディシステムや,管理者・同僚からの支援が,知的障害者の職場での参画やウェルビーイングの向上に有効である(Meacham et al., 2017)。また,Bartram et al.(2021)は,知的障害者の人事管理では,公平な機会提供,「障害者」である前に「従業員」であることを重視する組織文化,知的障害者と健常者が同じチームで働く体制,知的障害者を対象とした戦略的な訓練が重要であることを示した。

なお,人事施策は組織風土を形成し従業員の態度・行動に影響を与える(e.g. Li et al., 2019)ことから,職場レベルの組織風土についても,障害者とその上司との関係性や,障害者の態度への影響が検討されている。Dwertmann & Boehm(2016)のドイツの54職場を対象とした質問票調査によれば,上司・部下の一方にのみ障害がある場合にリーダー・メンバー間交換関係(leader-member exchange:以下LMX)の質が低下しており,特に上司のみに障害がある場合にLMXの質が低下する。そして,部下と上司の一方のみに障害があることがLMXに与える負の影響を,インクルージョン風土が軽減する。Zhu et al.(2019)の中国の製造業2社の114チームの従業員を対象とした質問票調査によれば,障害者のスライビング・アット・ワーク(thriving at work:以下TAW)が健常者よりも低く,障害の有無とTAWの間の関係を,自己効力感が完全媒介している。また,インクルージョンの認知が高いほど,障害者と健常者の自己効力感の差は軽減され,この調整効果はチーム学習風土が高いとさらに強くなる。

3. 管理者・同僚の行動に関する研究群

障害者の管理者・同僚など周囲の人物の特性・態度・行動は,職場における障害者の受容ひいては障害者の職場定着や生活の質の向上などに寄与することが理論的に想定されてきた(Vornholt et al., 2013)。本節では,この関係の実証を試みた障害者マネジメント研究の知見を整理する。まず,管理者行動のもたらす影響に関する研究を概観する。そのうえで,障害者雇用の促進や継続に望ましい管理者行動を引き出すための組織マネジメントに関する研究の知見について記述する。次に,障害者と同じ階層の同僚による行動が障害者にもたらす影響と,そのような行動の先行要因に関する研究を整理する。

障害者の態度・行動や雇用継続に望ましい管理者行動については,主にリーダーシップ行動に関する検討が行われている。障害者を部下にもつ管理者の変革型リーダーシップ行動(transformational leadership behavior)は,障害者の自尊心を高め,感情的疲労を低下させる(Kensbock & Boehm, 2016)。ケアや支援を通して従業員を導くベネボレント・リーダーシップ(benevolent leadership)は,障害者の被差別の認知,職務満足,回復の必要性(need for recovery)に好影響を与える(Luu, 2019)。Moore et al.(2020)は,オーストラリアの薬局チェーンの各店舗の管理者を対象とするインタビュー調査をもとに,インクルーシブな組織への移行には,従業員間の情報やアイデアの共有とそれによる創造,学習,革新を促進するリーダーシップを意味する複雑性のリーダーシップ(complexity leadership)を取り入れることの重要性を指摘している。逆に,障害者の態度・行動や雇用継続に望ましくない管理者の態度として,障害者に対する否定的な態度(Sundar & Brucker, 2019)がある。

障害者雇用の促進や継続に望ましい管理者行動を引き出すための組織マネジメントについても検討が行われている。McLellan et al.(2001)は,米国の職場の管理者を対象としたディスアビリティマネジメント研修の効果を検証した。その研修は,怪我・障害のある労働者への支援促進,コミュニケーション促進,怪我や健康の懸念の報告の奨励,可能な場合の合理的配慮の実施の4つを目標としたものである。研修前,研修後1か月・1年の計3時点での質問票調査の結果,管理者は部下の怪我・障害への対処の準備に関する能力の自己評価が上昇していた。一方で,障害者雇用に関する法律の知識を管理者が有していることだけでは,障害者雇用が促進されないことも明らかになっている(Sprong et al., 2019)。

障害者の態度・行動に影響を与える同僚の行動については,同僚の支援の内容が検討されている。青木(2008)は,日本の特例子会社において古紙のシュレッダー処理に従事する知的障害者を援助する指導員を対象としたインタビュー調査から,知的障害者の職務能力向上には,職務遂行に必要な基本的スキルだけでなく,その応用や新たなスキル獲得を促すという企業内援助者たる指導員の役割が重要だと指摘した。職場の同僚が援助行動を行うかどうかの先行要因として同僚の性質について,いくつかの研究がなされている。博愛的な公正選好(equity preference)をもつ同僚は障害者に対する援助行動をとる傾向にある(Miller & Werner, 2007)。また,Millerらによれば,精神障害者に対してよりも身体障害者に対して援助行動がより発生する。Nelissen et al.(2016)によれば,ワークプレッシャーが低い状況下では,障害者の能力に関するステレオタイプの内容が肯定的であるほど,職場の同僚は障害者に対してインクルーシブな行動をとる。

管理者・同僚の行動の双方について検討した研究も存在する。若林・八重田(2016)によれば,日本企業で働く知的障害者を対象とした質問票調査の結果,管理者・同僚からの援助行動のうち,「私にわかりやすく仕事を教えてくれる」などの項目から成る「教育」の因子と,「ミスなくスムーズに仕事ができるよう,アドバイスしている」などの項目から成る「作業遂行サポート」の因子が,知的障害者の職務満足と中程度の相関がある。Kulkarni & Lengnick-Hall(2011)によれば,管理者・同僚は障害者の社会化のプロセスにおいて,重要な役割を担う。社会化に有効な同僚の役割としてタスクの実行と理解への手助け,メンタリングなどがあり,管理者の役割として仕事に関する問題へのメンタリングや個人的な問題への非公式な援助などがある。

4. 合理的配慮に関する研究群

本節では,障害者に対して提供される合理的配慮が,障害者の態度・行動に与える影響を検討した研究の知見を整理する。配慮(accommodation)とは,障害者の活動を制約する障壁をなくすことを指す。経営学研究においては,職場の従業員に対して提供するという文脈に沿った配慮の定義として「物理的・社会的な障壁を減らす,職務,職場環境,仕事のプロセス,仕事の状態の変更」(Colella & Bruyère, 2011)が広く引用される。配慮のうち,その実施の負担が理に適っているとみなされるものは合理的配慮(reasonable accommodation)と呼ばれる。

多くの研究は,配慮の提供が障害者の態度・行動に好影響を与えることを示している。必要な配慮が障害者に提供されている場合に,障害者の生活満足度が向上するとともに被差別の知覚が低下し(Konrad et al., 2013),離転職意思は低下する(Schur et al., 2014; 若林, 2007)。また,配慮提供に対する障害者の満足度は,配慮提供のプロセスへの障害者の関与が大きいほど高くなる(Balser & Harris, 2008)。

配慮の提供を促進させる要因についても多くの研究が蓄積されている。そのような研究で扱われる要因は管理者・同僚による衡平基準(Paetzold et al., 2008)など多岐にわたるが,本論文では企業や職場による関与を扱った研究のみ紹介する。管理者の配慮行動(consideration behavior)と管理者の裁量の大きさは,配慮提供の可能性を高める(McGuire et al., 2015; Kristman et al., 2017)。配慮の交渉の成否は組織の方針・施策よりも,個々のライン管理者の知識・態度・親切心が重要である(Foster, 2007)という研究結果もあるものの,組織の方針の重要性を示した研究も存在する。McGuire et al.(2017)によれば,管理者の認識しているディスアビリティマネジメントの方針の数が多いほど,配慮が実施される可能性が高い。

これらの研究は配慮の提供が障害者に好影響をもたらすという前提である一方で,配慮の提供が障害者に悪影響を与えることを示した研究も存在する。Kensbock et al.(2017)は,ドイツの障害者を対象としたフォーカスグループインタビューをもとに,配慮の実施後に障害者は管理者・同僚からの社会的支援の欠如や差別・いじめを経験するなどしてストレスを高めうることを示している。

5. 課題と今後の研究の方向性

本論文では,障害者マネジメント研究の知見について(1)障害者雇用方針・人事施策,(2)障害者を部下にもつ管理者や周囲の同僚の行動,(3)障害者に個別に提供される合理的配慮という3種類に分けて整理してきた。これらの研究で検討されてきた障害者マネジメント変数と結果変数との主要な変数間関係を整理すると,図1のようになる。なお,この変数間関係には,実証の結果が正の効果,負の効果,非有意な関係のいずれも含まれる。

図1 障害者マネジメント研究で検討された主要な変数間関係

企業の障害者雇用方針と人事施策については,障害者個々人の態度・行動だけでなく企業全体の障害者雇用率との関係について実証研究が行われてきた。その際に,障害者雇用方針と人事施策の関係についても検討されている。また,職場の組織風土や管理者・同僚の行動が障害者の態度・行動に与える影響が検討されている。管理者を対象とした研修により管理者の行動が変化するなど,人事施策と管理者の行動との関係も検討されている。さらに,合理的配慮の提供は,その実行主体は企業や職場のいずれもありうるが,障害者の態度・行動に与える影響について検討がなされてきた。管理者の配慮行動(consideration behavior)と合理的配慮の提供の関係など,管理者の行動と合理的配慮の提供の関係も議論されてきた。

障害者雇用や障害者マネジメントに関する研究の主要な課題として,障害種別の違いや,障害者雇用法制や行政機関による障害者の定義の国・地域ごとでの違いなどを考慮する必要性はこれまでも提起されてきた(e.g. Dwertmann, 2016)。本節では,これらの主要課題の他に,4つの課題と研究の方向性を提示する。

障害者マネジメント研究における第1の課題は,企業や職場の取り組みを包括的にとらえた研究が少ないことである。すなわち,既存研究では障害者雇用方針,人事施策,管理者のリーダーシップ行動,合理的配慮といった個々の取り組みが障害者の態度・行動や障害者雇用率に及ぼす影響は明らかにされているものの,これらが全体として与える影響をとらえた研究が限られていた。障害者マネジメントの包括的な研究が求められるのは,人事施策が障害者の態度・行動に影響を与えるプロセスと障害者雇用率といった企業レベルの成果変数に影響を与えるプロセスが異なる可能性があるからである。そのプロセスの実態を明らかにするうえで,障害者マネジメントを包括的にとらえることが重要となる。

人事施策,従業員の態度・行動,成果との間の関係を,代表的なモデルの1つのPurcell & Hutchinson(2007)は次のように説明する。彼らのモデルによれば,人事施策が(1)意図された施策(intended practices),(2)実際の施策(actual practices),(3)施策の認知(perceptions of practices)の3段階で実行され,従業員の望ましい態度・行動を引き出すことによって,職場レベルの成果をもたらす。障害者マネジメントの研究領域において,企業レベルと個人レベルの双方の成果変数と人事施策との関係を検討した唯一の研究がHoque et al.(2018)であり,その結果は先述の通り,HPWPsが障害者雇用率を低下させるが,障害者と健常者のウェルビーイングの格差を縮小させるというものであった。この結果は,望ましい障害者の態度・行動を引き出せたとしても,障害者雇用率が高まるとは限らないことを示唆している。

Hoque et al.(2018)においても,障害平等施策がHPWPsの障害者雇用率へ与える負の影響を軽減させることを明らかにしているが,人事施策にとどまらず,管理者のリーダーシップ行動や同僚の行動,合理的配慮などとの相互の影響も検討すべきである。そのことによって,障害者マネジメントにおける個人レベルと企業レベルの双方への成果へと至るプロセスと,そこにおける重要な調整変数が明らかになるだろう。

人事施策やリーダーシップの影響を包括的に検討した研究が全くないわけではない。Luu(2018)は,障害包摂的人事施策(disability inclusive HR practices)が,組織アイデンティフィケーションを媒介し,障害者のワーク・エンゲイジメントを高めることを,ベトナムのIT企業の障害者従業員とその直属上司を対象とした質問票調査から明らかにした。さらに,障害包摂的人事施策と組織アイデンティフィケーションの間の関係は,直属上司の自身の利益より部下の利益を優先する行動・特性を意味するモラル・リーダーシップ(moral leadership)が高いほど強くなることと,組織アイデンティフィケーションとワーク・エンゲイジメントの関係は,特別扱い(idiosyncratic deals:以下I-deals)が行われているほど強くなることを明らかにしている。Luu(2018)は,人事施策,リーダーシップ,I-dealsの関係を明らかにしたという点でその意義は大きい。今後は,個別の障害者に合わせて行われる処遇を,企業と従業員の双方に利益をもたらすことが想定されているI-dealsに限定することなく,企業に直接の利益をもたらすとは限らなくとも,理に適えば実行される合理的配慮にも分析対象を拡大すべきである。そのうえで,結果変数として障害者雇用率などの企業レベルの変数を加え,障害者の態度・行動などの個人レベルの変数と双方の検討を行うことにより,障害者マネジメントが障害者雇用を促進するメカニズムを明確にできるだろう。

第2の課題は,人事施策の実行段階を検討した研究が少ないことである。先述のPurcell & Hutchinson(2007)のモデルに従えば,実際の施策の部分にあたる研究がなされていないのである。第2節で紹介した人事施策に関する研究はいずれも,人事部門の管理者あるいは障害者を対象とした調査によってデータを収集しており,先述のPurcell & Hutchinson(2007)の分類による意図された施策と施策の認知に該当するものと言える。これに加え,職場のライン管理者による人事施策の運用次第で人事施策が異なった内容となる可能性を考慮に入れ,職場における実際の施策を障害者マネジメントの変数として扱うべきである。障害のある従業員に関わる人事施策はレトリックとリアリティの乖離が大きい(Cunnningham et al., 2004)という指摘もなされていることから,人事施策の実行段階を含めた詳らかな観察が特に重要である。これは,日本の大企業で障害者雇用を促進するうえで,社内の管理者や従業員が障害者雇用に対する共通の認識を得る必要がある(手塚,2000)という主張にも沿う。よって今後は,障害者マネジメント,特に人事施策が障害者の態度・行動や障害者雇用率にもたらす影響の検討には,人事部門の管理者と障害者に加えその直属上司を対象に,意図された施策,実際の施策,施策の認知の3段階をとらえた調査が必要である。

第3の課題は,期待した効果をもたらすための境界条件が明らかになっていないことである。配慮の提供が障害者にもたらす影響については,ポジティブな影響を示したもの(Konrad et al., 2013; Schur et al., 2014; 若林, 2007)と,ネガティブな影響を示したもの(Kensbock et al., 2017)の両者が混在していた。この結果について,Kensbock et al.(2017)は,それまでの配慮に関する研究の大部分の調査対象国となっていた米国と,彼らが調査を行ったドイツとの制度的環境の違いによるものである可能性を提起している。合理的配慮以外にも,人事施策,管理者行動について,同様の内容でも期待した効果が得られる場合とそうでない場合が混在している可能性がある(cf. Leslie, 2019)。それゆえ,今後の研究の方向性として,障害者マネジメントが与える影響を左右する境界条件を検討することが求められる。境界条件として考えられる候補として,Kensbock et al.(2017)の提起したような制度環境や,人事施策に関して,先述の実行段階における職場のライン管理者による人事責任遂行の行動などが考えられる。また,Kalfa et al.(2021)は,オーストラリアの人事部門の管理者を対象としたインタビュー調査をもとに,配慮提供による精神障害者へのスティグマ化を避けるためには,従業員とライン管理者の双方向の対話を促す人事部門の介入が重要である可能性を示唆している。

第4の課題は,障害者を集中配置している職場を対象とした研究がほとんど存在しないことである。これは,障害者雇用や障害者マネジメントに関する研究がダイバーシティ研究の知見を応用してきたことと深い関わりがある。障害者マネジメント研究が依拠しているダイバーシティ研究の大部分は組織行動論の理論的前提を置いたダイバーシティ研究である。こうしたダイバーシティ研究は社会的アイデンティティ理論,社会的カテゴリ化理論などを前提としており,ダイバーシティに関連した不公平な現象を,対人間での認知プロセスの結果ととらえる(Janssens & Steyaert, 2019)。それゆえ,これらのダイバーシティ研究を前提とした障害者マネジメント研究も自ずと健常者という多数派が内集団を形成している職場に,新たに加わる少数派である障害者が外集団となる状況が前提とされてきた。現に,障害者マネジメント研究の初期から現在に至るまで用いられている理論的枠組みを提示したStone & Colella(1996)では,管理者・同僚など周囲の人物が障害者に対して抱くステレオタイプによって,障害者に対する感情や期待,処遇が変化することが想定されている。だが,企業で就労している障害者が健常者と同じ職場で働いていておらず,障害者のために業務を切り出した職場に集中配置されている事例が,特例子会社を中心に多数存在する。

日本のコンテクストを踏まえて障害者マネジメントの研究をするうえでは,特例子会社の存在を無視すべきではない。先述した国内の既存研究の多く(青木,2008; 猪瀬,2008; 眞保,2010; 福間,2019)も,特例子会社を調査対象の中心としている。この傾向の背景には,特例子会社が障害者雇用を進展させるための有効な方法である(福間,2016)ため研究対象として注目されていることがあるだろう。今後の研究の方向性として,特例子会社に典型的な障害者が集中配置されている職場と,障害者が分散配置されている職場を比較することによる検討が求められる5。これにより,日本での障害者雇用を包括的にとらえることができるだろう。

 【謝辞】

本論文の執筆にあたり,島貫智行先生(一橋大学)と藤原雅俊先生(一橋大学)より大変丁寧なご指導をいただきました。また,第51回全国大会での本研究の報告にて,眞保智子先生(法政大学)と池田心豪先生(労働政策研究・研修機構)より,示唆に富む貴重なコメントをいただきました。ここに記して,深く感謝申し上げます。

(筆者=一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程)

【注】
1  本論文では,記述を平明にするため便宜的に,非障害者のことを健常者と表記する。

2  障害者マネジメントと類似した用語にディスアビリティマネジメントがあるが,ディスアビリティマネジメントは,「労働者の病気や事故等による,労働者自身と企業に与えるネガティブな影響を軽減し,職場への加入や復帰を支援するためのアプローチ」(Harder & Geisen, 2011:p.1)などと定義され,本論文における障害者マネジメントとは意味が異なる。

3  これらの内容には必ずしも一般的に人事施策とされるとは限らない内容も含まれているものの,Woodhams & Corby(2007)は人事施策(HR practices)と表記している。

4  職場の応答性とは,従業員の関心に対し職場が対応する程度の認知を指しており,「私は自分の考えや意見が仕事に反映されていると感じる」,「私は自分の仕事を行ううえで必要な情報が与えられている」などの17項目によって測定される。

5  このような分散配置の職場と集中配置の職場を比較した研究に丸山・島貫(2021)がある。インタビュー調査により収集した情報をもとに同一企業内の分散配置の職場と集中配置の職場を比較し,障害者のための特別の人事管理体系および健常者と同様の人事管理体系のそれぞれが障害者の職場定着に機能する境界条件として,職場で共有されている障害者の能力観とライン管理者の裁量に関する仮説を例証している。

【参考文献】
 
© 2022 Japan Society of Human Resource Management
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