2012 年 2012 巻 616 号 p. 616_185-616_204
本稿は,D&O保険の免責条項に関して,とりわけ故意免責との関係など議論となることが多い,「法令に違反することを被保険者が認識しながら行った行為に起因する損害賠償請求」を免責事由とする規定(法令違反行為免責条項という。)に焦点を当てて,その規定の性質,適用範囲および今後の課題について検討している。法令違反行為免責条項は,米国のいわゆる不誠実免責条項をその前身とするが,認識ある法令違反について保険者免責とする現行の規定振りは,ドイツの故意除外条項の「認識ある義務違反」という危険事実について除外する旨の規定に近いといえる。したがって,理論的には,ドイツの故意除外条項に関する学説および判例の状況を参照して,法令違反行為免責条項は,故意免責の特別な(制限的な)形式であるということができるだろう。