2012 年 2012 巻 618 号 p. 618_77-618_96
家計保険に関し,リスク認知が保険需要形成プロセスの出発点であると想定されるにもかかわらず,実際の保険需要はリスク認知から形成されるとは限らず,合理的思考と行動の脆弱性を併せ持つことが指摘されている。医療保障領域について,家計におけるリスク認知と生命保険需要形成プロセスをパス解析で検証した結果,生命保険需要は,合目的的,合理的には形成されておらず,ケガ・病気のリスク認知が高くてもリスク保障欲求としては死亡,老後等の保障準備を優先し,ケガ・病気の保障準備の必要性を感じない一方,リスク認知が高いほど生命保険の購入意向が強いことが確認できた。このことから,公的医療保険制度が完備しているため,ケガ・病気の保障準備の必然性が弱く,リスク認知からリスク保障欲求へのプロセスが未成熟であること,さらに生命保険需要が直接リスク認知に求められており,生命保険に公的医療保険制度を補完する役割が求められていることが明らかとなった。