保険学雑誌
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「今,学会の存続をかけた若手研究者の育成」—平成29年度大会シンポジウム—
保険法研究者の再生産への取り組み
今井 薫
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2018 年 2018 巻 640 号 p. 640_55-639_75

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抄録

保険学の研究者数は大学における講座とともに減少の一途を辿っており,また高齢化もハイピッチで進んでいる。その原因の一つは,保険もファイナンスの一領域ということで理論的に一般化されてしまったからだともいう。もっとも,一般庶民の生活に保険が遍く行き渡っている今日,保険契約をめぐる法的紛争は枚挙にいとまがなく,法律を学ぶ学生からの保険法へのニーズも高い。その意味では,保険法学者の需要は少なくないし,弁護士などの実務法曹が保険学会で活躍する場面も増えている。
しかし,保険法学者の再生産は十分に行われているとはいいがたい。本稿では,わが国の保険市場が当初から胚胎している「企業保険」を中心と考える認識と,そのことから,大学や司法制度が保険に対して有している専門家同士の取引領域という認識が,保険学は元より保険法研究者の養成を困難にしていないか,という視点から論じ,さらに今日の法学教育が,リーガルマインドを養成する従来型の法学部,法(律)学科,という括りで行われにくくなっている現状に視点を置く。すなわち,18歳人口の減少もあって,政策型学部・学科・講義科目の台頭とともに,主流であった民商法教育のウエイトが低下したことで,その一分野である保険法が,現代市民にとって必須の知識であるにもかかわらずスポイルされることになったのだと論じている。

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© 2018 日本保険学会
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