抄録
わが国の社会・経済にとって,自動運転技術の進展は様々なメリットをもたらすものとして期待されている。その一方で,自動車のコントロール主体が運転者からシステムへ移行することにより,事故の際の責任関係が複雑化する可能性が指摘されている。保険はこのような状況においても,迅速かつ円滑な被害者救済を実現するとともに,自動運転技術の社会受容性を下支えする役割を担う必要がある。この点について,わが国では自動車損害賠償保障法に基づく自賠責保険制度により,対人事故における被害者救済にかかる制度が整備されており,現行の制度が維持される限りにおいて,被害者救済レベルは維持できるであろう。また,近時,任意保険においても,法的責任関係が複雑化することを見越した新たな保険が開発されており,被保険者における法律上の損害賠償責任の有無にかかわらず,被害者に生じた損害を補償することが可能となっている。このように,補償面での対応は検討されつつあるものの,一方でその後の求償については,今後の重要な検討課題である。