保険学雑誌
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【コロナ禍における保険業の役割と今後の展開】特集
生命保険を巡る紛争解決のあり方に関する一考察
—ウィズコロナ・ポストコロナ時代への示唆—
泉 裕章
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2022 年 2022 巻 659 号 p. 659_71-659_100

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抄録

本稿は,コロナ禍を経た今,紛争解決の場面を含めて消費者・事業者間の「対話の重要性・価値」が認識されている中,生命保険を巡る両者間の紛争のために用意されている解決手段がウィズコロナ・ポストコロナ時代に適応したものとなっているか,という問題意識の下,保険契約者等との「対話」を意図して生命保険会社の側から民事調停を申し立てた事例を手掛かりに,生命保険を巡る紛争の解決のあり方について考察し,今後への示唆を得る。手掛かりとして取り上げた複数の民事調停事例を考察した結果,「対話」の結果(調停成立か調停不成立か)には差異が見られたものの,一定の条件の下で,生命保険会社の側から進んで民事調停の場における「対話」を模索したことには一定の意義が認められた。こうした手法は,生命保険を巡る紛争の解決手段の大半を占めてきた訴訟や金融ADRたる裁定審査会が「対話」の場として機能しにくい現状との差別化という点で有意であり,生命保険を巡る紛争に係る「対話の重要性・価値」を実現する手段という意味において,1つの仮説に行き着く。そして,この仮説は,我が国の民事調停制度の歴史及び将来予測を踏まえた総論としても,さらに,我が国の生命保険契約に基づく保険給付が一般にall or nothingの考え方を採用していることを踏まえた各論としても,正当性を有すると考えられる。特に,保険給付を巡る(保険金受取人にとって不利な)決定に対し合理的な異論が差し挟まれる余地がある場合,「顧客本位の業務運営に関する原則」の「顧客の最善の利益の追求」という観点からも,生命保険会社の側から民事調停を申し立てるという形で積極的に「対話」を持ちかけることには,実際上の有用性が認められる。

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