2019 Volume 40 Issue 1 Pages 62-66
光感受性物質タラポルフィンナトリウム(レザフィリン®)を用いた光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)(以下,タラポルフィンナトリウムPDT)は,その高い腫瘍集積性や,使用するPDレーザ®(波長664 nm)の良好な組織透過性によりすぐれた治療効果が報告されている.タラポルフィンナトリウムPDTは既に保険収載されている早期肺癌,原発性悪性脳腫瘍に続き,化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残・再発食道癌に対する有用性が示され2015年10月に保険収載された.PDTの最大の問題点は光感受性物質投与後に太陽光など高照度の光に曝露されると皮膚に紅斑,水疱,色素沈着等の光線過敏症をきたすことである.タラポルフィンナトリウムは従来使用されてきたポルフィマーナトリウム(フォトフリン®)と比較し,より光線過敏症の発生頻度が低く,推奨される遮光管理期間も大幅に短縮されている(2週間vs 1カ月間).しかしタラポルフィンナトリウムによる光線過敏症の合併症はこれまでの臨床試験においても少なからず(0–14.8%)報告されており,光線過敏症への対策は必須である.本稿ではタラポルフィンナトリウムPDT施行後の光線過敏症対策に関し,当院における遮光管理や光線過敏性試験の具体例を呈示し概説する.
光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)は腫瘍親和性光感受性物質が有する腫瘍組織への特異的な集積性と,そこに特定波長の光線を照射することにより励起されて生じる一重項酸素などの活性酸素による細胞障害作用を利用した治療法である1).1978年にDoughertyらにより皮膚がんに対するPDTの有効性が報告されて以来2),数多くの研究が行われている.本邦でもこれまでポルフィマーナトリウム(フォトフリン®)とエキシマ・ダイ・レーザ®(レーザ照射装置)を用いたPDTの臨床試験が行われ,早期の肺癌,食道癌,胃癌,子宮頸部癌において有用性が証明され3-7),1996年に保険収載された.一方でポルフィマーナトリウムによる光線過敏症(紅斑,水疱,色素沈着等)の副作用の頻度が高い(20.3%)ことが問題視されてきた8).その後,第2世代のPDTとしてタラポルフィンナトリウム(レザフィリン®)と半導体レーザ(PDレーザ®)を用いたPDTが開発され,2003年に早期肺癌に対し保険収載された9,10).原発性悪性脳腫瘍に対しても有効性が示され,2013年に保険収載されている11).特筆すべき点として,ポルフィマーナトリウムで課題とされていた光感受性物質による光線過敏症の発生頻度がタラポルフィンナトリウムでは軽減された12)ことが挙げられる.通常,臨床現場では光感受性物質投与後の光線過敏症リスクを評価するために,手掌背部に直射日光を曝露して光線過敏反応の有無を評価する光線過敏性試験を実施する.これまでポルフィマーナトリウムを使用する際は,光線過敏症の予防のため投与後1カ月は遮光が必要で,その後,光線過敏性試験を施行することが推奨されていた.一方,早期肺癌に対するタラポルフィンナトリウムPDTの国内臨床試験では,33 例中28例(84.8%)においてタラポルフィンナトリウム投与後2 週までに光線過敏反応の消失が確認されている10).原発性悪性脳腫瘍におけるタラポルフィンナトリウムPDTの国内臨床試験でも薬剤投与後4 日目までに55.6%,薬剤投与後8日目までに77.8%,薬剤投与後2 週目までにすべての被検者において反応の消失が確認されている11).これらの臨床研究の結果からタラポルフィンナトリウム投与後に推奨される遮光期間は2週間に設定され,ポルフィマーナトリウムの遮光推奨期間(1か月)に比べ大幅に短縮されることとなった.
食道癌においては,武藤らの行った医師主導治験の結果,化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残・再発食道癌に対するタラポルフィンナトリウムPDTの高い奏効率および安全性が証明され,2015年10月に保険収載された13).早期食道癌に対し従来のポルフィマーナトリウムを用いたPDTを行った際の光線過敏症の合併頻度は32%と報告されているが14),先述のタラポルフィンナトリウムPDTの医師主導試験ではタラポルフィンナトリウム投与後15日目には全ての被験者において光線過敏反応の消失が確認されており,光線過敏症の合併は認められなかった13).しかし早期肺癌,及び原発性悪性脳腫瘍に対するタラポルフィンナトリウムPDTの国内臨床試験においては光線過敏症の合併頻度がそれぞれ6.1%,14.8%と報告されており9,10),タラポルフィンナトリウムの使用にあたっても光線過敏症に対する対策は必須であると考えられる.
タラポルフィンナトリウムは植物クロロフィル由来の光感受性物質であるクロリン骨格を持つ分子量799.69の単一物質であり15),ヘモグロビンの吸収帯を避ける664 nmに吸収のピークを有する16,17).タラポルフィンナトリウム投与後に腫瘍部位に波長664 nmのレーザ光を照射すると,腫瘍細胞内に取り込まれたタラポルフィンナトリウムは励起状態となり,腫瘍組織内の酸素と反応し活性酸素種である一重項酸素を生成する.タラポルフィンナトリウムの抗腫瘍効果はこの一重項酸素による傷害作用と腫瘍血管の内皮傷害により血流を阻害する作用により発揮される18,19).
タラポルフィリンナトリウムは経静脈的に投与された後,腫瘍組織以外の皮膚など他臓器へも集積する20).一般的に太陽光の波長はおよそ300~3,000 nmとされており21),皮膚中の光感受性物質が太陽光のエネルギーを吸収して光増感反応を起し,紅斑,水疱,色素沈着等の皮膚の異常反応を引き起こす.タラポルフィンナトリウムは水溶性で,早期に胆汁中へ排出され,血漿中の半減期は134時間と,ポルフィマーナトリウムの250時間と比べ短い22).さらにラットを用いた検証で,ポルフィマーナトリウム及びタラポルフィンナトリウムの皮膚組織内の残存濃度が比較され,投与後14日目においてポルフィマーナトリウム投与群では大部分が皮膚内に残存するのに対し,タラポルフィンナトリウム投与群では最高濃度の10%以下まで皮膚内濃度が低下することが示された20).このように正常組織から早く排泄される特性をもつことも,タラポルフィンナトリウムがポルフィマーナトリウムに比べて光線過敏症の副作用の頻度が低い理由の一つと考えられる.
タラポルフィンナトリウム投与時は,光線過敏を助長しうる薬剤及び食品の摂取に注意が必要である.特にテトラサイクリン系薬剤,スルホンアミド系薬剤,フェノチアジン系薬剤,スルホニルウレア系血糖降下剤,チアジド系利尿剤,ニューキノロン系抗菌剤,非ステロイド系消炎鎮痛剤,フルオロウラシル系抗悪性腫瘍剤,メトトレキサート,グリセオフルビン,メトキサレン等の薬剤20,23),またクロレラ加工品,ライム,レモン,オレンジ,セロリ,パセリ,イチジク,ドクダミ等の食品の摂取に注意が必要である20,24).タラポルフィンナトリウム投与後に上記のような医薬品を併用する場合は,光線過敏症を避けるため慎重な管理が推奨されている.また光線過敏症のリスクを上昇させる食品についても患者に情報提供することが必要である.またタラポルフィンナトリウムは大部分が肝臓で代謝されるため,肝機能低下症例への投与にあたっても排泄が遅延し光線過敏症のリスクが遷延することが懸念される.加えて高齢者では一般に生理機能が低下しているため,同様にタラポルフィンナトリウム投与後は慎重な遮光管理を行うことが推奨されている.
光線過敏性試験はタラポルフィンナトリウム投与後1週間以降に,晴天時の正午前後に照度計を用い,照度が20,000ルクス以上に保たれている日に実施している.光線過敏性試験では予め2 cm四方の穴を手背に形成した遮光性手袋を装着し,同部を5分間日光に曝露させる.太陽光への曝露が終了した直後に手袋を外し,曝露部位の発赤,水疱など光線過敏反応の有無を確認する.光線過敏反応を認める場合,光線過敏性試験「陽性」と判断し,遮光管理を継続したのち,2–3日後の晴天時に再度光線過敏性試験を行う.光線過敏性反応の消失が確認されるまで遮光管理を継続し,同様に2–3日おきに光線過敏性試験を繰り返す.光線過敏性試験にて発赤を生じても,ほとんどの場合翌日には消退するため,2–3日おきに光線過敏性試験を施行することが可能である.光線過敏性試験で光線過敏反応を伴わない場合は光線過敏性試験「陰性」と判断する(Fig.1).
Skin photosensitivity test
Skin photosensitivity test should be conducted under the illuminance at 20,000 lux or more. Patients wear a glove with 2 cm square hole, and then they expose their hand to sunlight for 5 minutes. When redness or blister formation is observed in sunlight exposed part, it is judged to be “positive” in a skin photosensitivity test. When there is no change in sunlight exposed part, it is judged to be “negative”.
光線過敏性試験の実施にあたり晴天時に照度が20,000ルクス以上保たれていることを確認する必要があるが,季節によっては天候に恵まれないこともあり,検査実施が困難となり退院が遅延することも少なからず経験する.また光線過敏性試験の陰性化が2週間以上に遅延する症例も在り,入院前の治療内容説明時に退院時期の遅延の可能性についても患者へ十分説明しておくことは重要である.
光線過敏症の発症を予防するため,タラポルフィンナトリウム投与後2週間は,直射日光を避け,照度500ルクス以下に調整した室内で管理する.化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残・再発食道癌に対するタラポルフィンナトリウムPDTの医師主導治験では,タラポルフィンナトリウム投与後2週間よりも早い時点から光感過敏性試験を実施し,タラポルフィンナトリウム投与後7日目までに69.2%(18例/26例),15日目までに100%(26例/26例)の症例で光線過敏反応の消失が確認された13).
以上のことを踏まえ当院では,タラポルフィンナトリウム投与後から暗幕を用いて確実に直射日光を避けるため,個室の場合は,室内の照明も必要最低限とし500ルクスを十分に下回る照度に保つ部屋で管理している.患者が大部屋に入院する場合は,直射日光が差し込まない廊下側のベッドを用意し,カーテンで間仕切りを行い,個室を暗幕で遮光するのと同程度の低い照度になるよう配慮している.タラポルフィンナトリウムの添付文書には,タラポルフィンナトリウム投与後2週間は500ルクス以下の部屋での遮光管理が勧められている.室外に出る場合,長袖・長ズボン・サングラス・手袋・スカーフ・帽子などによる遮光を行い(Table 1),行動範囲も病棟内に制限する.室外でも窓際以外の大部分の場所で照度が500ルクス以下に保たれているが(Table 2),病棟外では思いのほか高照度の光に曝露される可能性も懸念されるため,光線過敏性試験の陰性化が確認できるまでは原則室内で過ごし,行動可能範囲も広げないよう指導している.タラポルフィンナトリウムPDT施行後1週間から光線過敏性試験を施行し,陰性化を確認したのち,暗幕を外し院内の移動を可能とするが,500ルクス以下の環境で過ごすように管理する.光線過敏性試験の陰性化が確認できれば,タラポルフィンナトリウム投与後2週間目以降に退院可能とするが(Fig.2),退院後もタラポルフィンナトリウム投与後4週間までの外出に際しては帽子,手袋,長袖等の衣類やサングラス,日焼け止めクリーム(SPF50以上)・ファンデーションなどを使用して直射日光への曝露を避ける.
目的 | 物品 | |
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入院時に患者が持参 | 光線過敏症予防 | 日焼け止めクリーム |
サングラス | ||
帽子 | ||
マスク | ||
マフラー | ||
長袖シャツ | ||
長ズボン | ||
手袋 | ||
足袋 | ||
病棟で準備 | 暗幕 | |
光線過敏性試験 | 照度計 | |
穴を開けた手袋 |
場所 | 照度(ルクス) | |
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病棟(室外) | 窓際(晴天時) | 20,000–50,000 |
廊下 | 300–400 | |
廊下(詰所前) | 500–600 | |
食堂 | 400–500 | |
トイレ | 150–200 | |
室内 | 大部屋(廊下側・カーテンによる間仕切りあり) | 50–500 |
個室(暗幕による遮光) | 50–500 |
Shading management after administration of talaporfin sodium
A skin photosensitivity test should be performed every 2–3 days from one week after administration of talaporfin sodium. Patient is permitted to discharge at 2 weeks or laterif the skin photosensitivity disappears. Shading management should be continued as long as skin photosensitivity test is positive even at 2 weeks after administration of talaporfin sodium.
またパルスオキシメーターなどの光を測定原理とする検査測定機器を長時間にわたり継続的に装着すると,装着部位に水泡等の症状があらわれることがありうる25).そのため内視鏡検査,治療中でも継続的にパルスオキシメーターを装着することは可能な限り避け,検査が必要な場合の一時的な使用に限るように留意する.
タラポルフィンナトリウム投与後の光線過敏症の発症予防は,PDT治療における患者管理において特に重要であり,その対策を十分に行うことが必要である.
利益相反なし.