2019 Volume 40 Issue 1 Pages 77-81
2005年9月から2018年4月までに当院で食道癌に対して光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)を行った症例のうち,PDT後遺残再発食道癌に対して再PDTを行った16症例を対象に検討を行った.これらの症例は全て(化学)放射線療法後再発例であった.初回PDT前の病変深達度は,T1(12例),T2(4例)であった.初回PDT後,T1症例7例は一旦完全奏功となった後に再発し,T1症例5例とT2症例4例は癌が遺残した.再PDT前の病変深達度は,T1(12例),T2(4例)で,再PDTによる局所完全奏功率は,T1(75%),T2(0%)で全体では56.3%であった.有害事象として拡張術を要する食道狭窄を37.5%(6/16)に認めた.以上より,PDT後の遺残再発病変でも,T1病変では再PDTにより完全奏功が期待できると考える.
光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)とは,癌患者に光感受性物質を投与し癌に集積させた時点でレーザー光照射することにより光化学反応を惹起させ,生成された一重項酸素により癌を選択的に破壊する低侵襲治療である1).消化管領域では,ポルフィマーナトリウム(フォトフリン2))とエキシマ・ダイ・レーザー(EDL)を用いた第一世代のフォトフリンPDTが1996年4月より表在食道癌や表在型早期胃癌で保険適用となっている.当院の前身となる大阪府立成人病センターでも積極的にフォトフリンPDTを行い良好な成績をおさめてきた.また2015年10月よりタラポルフィンナトリウム(レザフィリン3))と半導体レーザー(PDレーザー)を用いた第二世代のレザフィリンPDTが化学放射線療法(Chemoradiation therapy: CRT)後遺残再発食道癌に対して保険適用となった.当院でも治療選択肢の一つとしてCRT後遺残再発食道癌に対しレザフィリンPDTを用いて治療にあたっている.これらの経緯より当院では,2種類のPDTの治療経験があり,複数回PDT治療した症例も少数存在する.これまで食道癌に対し再PDT治療を行った症例の有効性,安全性の報告は少なく,本稿では当院での成績を報告する.
当院においてCRT後遺残再発食道癌に対する救済治療として,PDT治療を複数回行った症例の治療効果,有害事象を検討した.
当院において2005年9月から2018年4月までに食道癌に対してPDTを行った症例で,PDT後遺残再発食道癌に対して再PDTを行った16症例を対象とした.
症例の年齢,性別,CRT(RT)前病期,組織型,再発形態,初回PDT前深達度,再PDT前深達度,初回PDTと再PDTの間隔,再PDT治療効果,有害事象(食道狭窄,壊死物質による閉塞,皮膚炎,誤嚥性肺炎)について診療記録をもとに後ろ向き研究を行った.
局所完全奏功の判定基準は,内視鏡検査で治療部が瘢痕化し明らかな遺残再発を認めず,かつ生検で陰性が証明された場合とした.また生検はされていないが,年単位で治療瘢痕部に遺残再発を認めない症例も局所完全奏功とした.食道狭窄は,バルーン拡張術を要した症例を狭窄ありと判定した.壊死物質による食道閉塞は,壊死物質の除去を要した通過障害を閉塞ありと判定した.
今回の研究対象となる,複数回PDT治療を施行した症例は16例で,年齢中央値は72(47–85歳),男女比は7対1であった(Table 1).組織型は全て扁平上皮癌であった.これらの症例は,フォトフリンPDT治療例を含め全てCRTあるいはRT後再発例であった.CRT(RT)前のTNM(T stage)分類はT4(3例),T3(1例),T2(4例),T1(8例)でCRT(RT)後局所完全奏功率は14/16例(87.5%)であった.初回PDT前の病変深達度は,T1(12例),T2(4例)であった.初回PDT後,T1症例7例は一旦完全奏功となった後に再発し,T1症例5例とT2症例4例は癌が遺残した.再PDT前の病変深達度は,T1(12例),T2(4例)で,再PDTによる局所完全奏功率は,T1(75%),T2(0%)で全体では56.3%であった.PDT後一旦完全奏功なった症例に対する再PDTの局所完全奏功率は6/7例(85.7%),PDT後遺残した症例に対する再PDTの局所完全奏功率は3/9例(33.3%)であった.
No. | Age | Sex | Location | Baseline TNM |
CRT response |
Pre-PDT TNM |
Size (mm) |
Macro | PDT 1st→2nd |
PDT response |
Stricture 1st→2nd |
Obstructon 1st→2nd |
Photosensitivity |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 69 | M | Lt | T1bN0M0 | PD | T1bN0M0 | 15 | IIc | P→P | CR→CR | 0→1 | 0→0 | 0 |
2 | 71 | M | Mt | T1aN0M0 | CR | T1aN0M0 | 30 | IIc | P→P | PD→PD | 0→0 | 0→0 | 0 |
3 | 68 | F | Mt | T4N4M0 | CR | T1bN0M0 | 10 | IIc | P→P | CR→PD | 0→1 | 0→0 | 0 |
4 | 72 | F | Mt | T4N1M0 | CR | T2N0M0 | 15 | SMT | P→P | PD→PD | 1→1 | 1→1 | 0 |
5 | 73 | M | Lt | T1bN0M0 | CR | T1bN0M0 | 15 | IIc | P→P | CR→CR | 0→0 | 0→0 | 0 |
6 | 53 | M | Ce | T1bN0M0 | CR | T1bN0M0 | 15 | IIa | P→P | PD→PD | 0→0 | 0→0 | 0 |
7 | 80 | M | Ut | T2N1M1b | CR | T1bN0M0 | 15 | SMT | P→P | PD→CR | 0→0 | 0→0 | 0 |
8 | 78 | M | Ut | T1aN0M0 | CR | T1bN0M0 | 10 | IIa | L→P | CR→CR | 0→1 | 0→0 | 0 |
9 | 65 | M | Lt | T4N1M0 | CR | T1bN0M0 | 10 | IIc | L→P | CR→CR | 1→1 | 0→1 | 0 |
10 | 85 | M | Ut | T1bN0M0 | CR | T1bN0M0 | 18 | SMT | L→P | PD→CR | 0→0 | 0→0 | 0 |
11 | 53 | M | Mt | T2N1M0 | CR | T1aN0M0 | 30 | IIa | P→L | CR→CR | 0→1 | 0→0 | 0 |
12 | 70 | M | Mt | T3N0M1 | CR | T2N0M0 | 20 | SMT | P→P | PD→PD | 1→1 | 1→1 | 0 |
13 | 47 | M | Mt | T2N0M0 | PD | T1bN0M0 | 15 | SMT | P→P | PD→CR | 0→1 | 0→0 | 0 |
14 | 64 | M | Mt | T1bN0M0 | CR | T1aN0M0 | 15 | IIa | L→P | CR→CR | 0→0 | 0→0 | 0 |
15 | 68 | M | Mt | T1bN0M0 | CR | T2N0M0 | 15 | I | P→P | PD→PD | 0→0 | 1→0 | 0 |
16 | 81 | M | Mt | T2N2M0 | CR | T2N0M0 | 20 | SMT | P→P | PD→PD | 0→0 | 0→0 | 0 |
CR: complete response. PD: progressive disease. P: Photofrin PDT. L: Laserphyrin PDT. I: Elevated lesion. IIa: Slightly elevated lesion. IIc: Slightly depressed lesion. SMT: Submucosal tumor type. 1: Positive. 0: Negative.
フォトフリンPDT後フォトフリン再PDT例は11例,フォトフリンPDT後レザフィリン再PDT例は1例,レザフィリンPDT後フォトフリン再PDT例は4例であった.初回治療と再PDTの間隔は,最短30日,最長で2,170日(5年11ヶ月)であった.長期例の詳細を確認すると,長期間完全奏功を保っていた訳ではなく,その間に内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection: EMR),内視鏡的切開剥離術(Endoscopic sudmucosal dissection: ESD),アルゴンプラズマ凝固療法(Argon plasma coagulation: APC)焼灼等の集学的加療を随時行なっている症例が3例存在した.有害事象は,食道狭窄8例(50%),壊死物質による閉塞4例(25%)で,皮膚炎,誤嚥性肺炎は認めなかった.
200X年食道癌(Ut T1a (M3) N0M0)に対してCRTを行いCRとなったが,9年後内視鏡検査で切歯列より23 cmに再発を指摘され当院に紹介となった.
EUSでは1/4周SM癌の診断であった.Ut 0-IIa,10 mmに対して治験によるレザフィリンPDT(100 J)を行なった.2ヶ月後に治療部位は瘢痕化を呈し生検でも癌を認めず局所完全奏功の判断となった.
3ヶ月後に生検で扁平上皮癌を認め遺残再発を確認した.初回PDT4ヶ月後にフォトフリンPDT(140 J)による再治療を行なった.再PDT2ヶ月後の内視鏡像で瘢痕狭窄が明らかとなりバルーン拡張を複数回繰り返した.
再PDT7年後に行なった内視鏡検査では軽度狭窄を認めるもののスコープの通過は可能で,再発なく経過している(Fig.1).
Representative case who was treated with repeated photodynamic therapy. (A) Local recurrence for esophagus after definitive CRT (B) Unstaind area was present after iodine staining. (C) Pre PDT marking: Marking for the outside of the lesion. (D) Post PDT day1 (E) Post PDT day 3 (F) Post PDT day 48 (G, H, I) Post PDT day 76 Complete response was achived (J) Post PDT day 104 Showing locally recurrent esophageal cancer in the scar after initial PDT. (K) Esophageal stricture was present after 2nd PDT. (L) It is under observation without recurrence.
食道癌に対するCRTは臓器温存が可能な治療方法であるが,遺残再発を認めた場合,追加外科手術は侵襲が大きく,化学療法では治癒が望めない状態となる.Mutoらによると,CRT後局所再発例に対しEMRで局所コントロールを試みた結果,5年生存率は観察期間中央値54ヶ月で49.1%4)と高く,局所のコントロールが救済外科手術の5年生存率(25–38%)5-9)を上回る結果を示した.これらの結果をもとにPDTで局所コントロールができれば,EMR同様侵襲が少なく治癒が期待できると考えられた.Hatogaiらによる報告では,CRT後遺残再発食道癌に対するフォトフリンPDTの局所治癒率は58.4%,5年生存率は22.1%(95%CI, 14.3%–30.0%)10)で救済外科手術と同等であることを示した.
しかしながらこれまでCRT後遺残再発食道癌に対し再PDT治療を行った症例の有効性,安全性の報告は少ない.Tamakiらによる再PDTを行なった報告では,7症例(T1:5例,T2:2例)で再PDTが行われ局所完全奏功率は42.9%(T1: 60%, T2: 0%)11)であった.我々の結果は,局所完全奏功率は56.3%(T1: 75%, T2: 0%)で類似していた.ここで局所完全奏功とならなかった症例を検討する.T1病変は合計3例あった.1例は,T1aではあるが3 cm大で管腔の半周以上を占める大きな病変であり大きさが遺残の一因と考えられた.残る2例は,T1bであった.1例は3回目のPDTで局所完全奏功となった.もう1例は,舌癌が発見され舌癌の治療を優先し食道癌は放置となったが舌癌死された.T2病変では局所完全奏功率は0%(0/4例)であった.3例は粘膜下腫瘍様の立ち上がりを呈しMP浸潤部までレーザー光が届かなかったと推測する.もう1例はI型の形態を呈しEMRを先行した.しかし深部断端陽性を認め追加でPDTを行うこととなったが治癒しなかった.治療後の潰瘍面へのレーザー光照射は深部へ届きにくいか,T2まで浸潤した癌細胞は増大速度が早い可能性が示唆された.
PDT後一旦完全奏功なった症例に対する再PDTの局所完全奏功率は6/7例(85.7%),PDT後遺残した症例に対する再PDTの局所完全奏功率は3/9例(33.3%)であった.初回PDTで完全奏功となる病変はT1症例が多く,定期的な内視鏡検査により再発病変もT1で発見し再PDTした結果と考える.初回PDTで遺残する症例は,T2病変が多く元々治癒の可能性が低い症例である.年齢や耐術能などの患者背景からPDTしか選択肢がない症例が多い,T2病変では初回PDTで局所完全奏功が得られない場合は,再PDTを行なっても治癒困難となる可能性が考えられた.一方T1病変は再治療で治癒となる可能性があり再PDTを検討すべきである.
拡張術を有する食道狭窄を8例(50%)に認めたが,6/8例(75%)は再 PDT後に狭窄を認めた.壊死物質による閉塞は4例(25%)であったが,再PDT後に閉塞を認めた症例は,1/4例(25%)であった.PDTはレーザー光照射部位及びその近辺に生じた潰瘍が瘢痕化することで食道狭窄をきたすと考えられているが,さらに治療を繰り返すと結果的に照射面積が広がり瘢痕狭窄を来たしやすくなると推測される.しかしいずれの症例も拡張術で対処できる範囲であった.また今回検討した16例中,2例で3回,3例で4回PDTを繰り返したが,狭窄以外に重篤な有害事象を認めなかった.また,胃癌の再PDTも含めると多くの症例で複数回治療を経験したことになるが,複数回治療に伴う重篤な有害事象はみられなかった.
PDTは,腫瘍親和性光感受性物質(photosensitizer: PS)とレーザーによって生じる光化学反応により癌を選択的に壊死に陥らせる方法である.本邦では,PSとレーザー装置は対で厚生省の認可を受けている.ポルフィマーナトリウム(フォトフリン2))には,630 nmのEDLとYAG-OPOレーザーで認可され,タラポルフィンナトリウム (レザフィリン3))には664 nmのPDレーザーで認可されている.食道癌に対するPDTは,いずれの方法でもPSを静脈投与して,癌に取り込まれた時期に内視鏡で癌を確認しながらレーザーを照射する.食道は筒状の管腔臓器であり癌に対して効果的にレーザーを照射するには幾つかのポイントがある.一つは内視鏡の先端にフードを装着することである.食道の蠕動に対して安定してレーザーを照射するにはフードで一定の距離を置く必要がある.またレーザー装置からレーザーを送る石英ファイバーの先端部は,血液などの体液が付着すると炭化し出力が弱まるため,フードを利用して先端部が癌や食道粘膜に触れないように注意する必要がある.次に内視鏡を操作し癌を12時方向に固定することで,限りなく垂直方向でレーザー照射が可能となる.さらにレーザーの照射面積が10 mmぐらいになるようにスコープあるいは石英ファイバーでの微調整が肝要である.
フォトフリンPDTとレザフィリンPDTを比較すると,ポルフィマーナトリウムは630 nm,タラポルフィンナトリウムは664 nmにQ帯吸収波長が存在する.タラポルフィンナトリウムの方が長波長でヘモグロビンの吸収が少ないため理論上はタラポルフィンナトリウムを用いたレザフィリンPDTの方がより深部領域まで治療可能と予測される12).Usudaらによる肺癌に対するPDTの報告で,フォトフリンPDTは病変の厚さが10 mm以下では,奏功率が92.8%,10 mm以上では58.1%であったが,レザフィリンPDTでは,10 mm以下の奏功率が93.6%,10 mm以上では95.6%であった13).肺癌では10 mm以上の病変でもレザフィリンPDTが高い奏功率を示した.またNaraharaらの胃癌に対するフォトフリンPDTの報告によると,治療前にEUSで癌巣の厚さを測定しフォトフリンPDTを行った33例では,10 mm厚以上(2/33)は治癒例を認めなかった.4 mm厚まで(5/33)は全て治癒したが,5–9 mm厚は治癒例(16/33)と非治癒例(10/33)が混在する結果となった1).癌の組織型や臓器の違いにより一概に当てはめることは出来ないが,食道癌に対するPDTの治癒の目安は,厚み10 mm位と考えるべきであろう.今回の検討では,EUSによる深達度の評価は可能であったが,癌の厚みにつては情報が乏しく今後の課題としたい.
ESDに熟練する以前,当院では表在食道癌や表在型早期胃癌の一部に対してフォトフリンPDTを行なっていた.高齢者,外科手術困難例,手術拒否例,EMR困難例が適応であった.当時は,外科手術もEMRも困難な症例では,PDTが唯一の治癒を見込める救済治療であった.しかしESDの普及に伴い治療経験の豊富な施設では,CRT後遺残再発食道癌が粘膜下層に浸潤していても摘除可能となってきた.当院におけるCRT後遺残再発食道癌に対する治療方針は,EMR,ESDが可能と判断すればまずは摘除を試み,病理結果で深部断端が陽性であれば追加でPDTを行っている.EMR,ESDが困難な広範囲な瘢痕例やMP浅層浸潤例では,最初からレザフィリンPDTを選択している.CRT後遺残再発食道癌に対してPDTがEMR/ESDに勝る点は,広範囲な瘢痕病変や固有筋層浅層までのより深い深達度の病変に対して治療効果が望めることであろう.またESDの件数が少ない施設でも,容易に治療ができる可能性がある.
我々の経験した遺残再発食道癌に対する再PDTの局所完全奏功率はT1病変では9/12(75%),T2病変では0/4(0%)であった.有害事象は,食道狭窄8/16(50%)と壊死物質による閉塞4/16(25%)を認めた.T1病変では,再PDTにより完全奏功が期待できる.
利益相反なし.