2019 Volume 40 Issue 2 Pages 167-171
皮膚病変を合併する下肢静脈瘤や再発性下肢静脈瘤の原因が不全穿通枝(incompetent perforating vein: IPV)であることは多く経験する.IPVに対する治療は,様々な方法が施行されているが,血管内レーザー焼灼術の技術を用いた経皮的不全穿通枝焼灼術(percutaneous ablation of perforators: PAPS)について検討した.PAPSの有効性について,エコー検査でIPV径の変化と逆流の有無を観察し,症状に関しては静脈臨床重症度スコア(venous clinical severity score: VCSS)を用いた.全例でVCSSの数値は改善を認め,IPVは逆流を認めず,IPV径は術前平均5.83 ± 1.13 mmであったが,術後1カ月平均3.43 ± 0.40 mm(p = 0.01),術後3カ月平均2.90 ± 0.88 mm(p = 0.03)と術前と比較して有意に縮小していた(t検定,p < 0.05を有意とした).PAPSは,デバイスの革新により簡便な手技で治療を提供できることより,多様な病態を呈する下肢静脈瘤治療の手段として有用である.
Incompetent perforating vein (IPV) is often the cause of varicose veins with skin lesions and recurrent varicose veins. There are various treatments for IPV. We studied percutaneous ablation of perforators (PAPS) using the technique of endovenous laser ablation. The effectiveness of PAPS was measured by ultrasonography to determine the presence of IPV diameter change and reflux, and the symptoms were studied using venous clinical severity score (VCSS). The value of VCSS improved in all cases. All IPV backflow stopped. The IPV diameter is an average of 5.83 ± 1.13 mm preoperatively, 3.43 ± 0.40 mm (p = 0.01) one month after PAPS, and 2.90 ± 0.88 mm (p = 0.03) three months after PAPS (using t test). All IPV diameters were significantly reduced. PAPS has made it possible to provide treatment with simple procedures by device innovation. It is useful as a treatment for varicose veins showing various conditions.
不全穿通枝(incompetent perforating vein: IPV)による下肢静脈瘤は皮膚病変を伴い,病状としては重いことが多い.また,下肢静脈瘤に対する治療後の中期から遠隔期に再発の原因としてもIPVが同定されることが多い.
IPVに対する治療としては様々な方法で治療が行われてきたが,血管内レーザー焼灼術(endovenous laser ablation: EVLA)の技術を用いた治療方法である経皮的不全穿通枝焼灼術(percutaneous ablation of perforators: PAPS)について検討する.
使用した治療器具は波長1,470 nm半導体レーザー装置Ceralas E 1,470 nm Diode laser(CeramOptec GmbH, Bonn, Germany)と全周照射型ファイバーELVeS Radial 2ring fiber(CeramOptic GmbH, Bonn, Germany)および細径ファイバーELVeS Radial 2ring slim fiber(CeramOptic GmbH, Bonn, Germany)を使用した(Fig.1).照射エネルギー密度(linear endogenous energy density: LEED)は1 cmあたりの熱量で示す.
Fiber tip of ELVeS Radial 2ring fiber and slim fiber.
(This picture was provided by Integral Corporation.)
手術の有効性については,下肢静脈エコー検査でIPV径と逆流の有無を測定した.IPV径に関しては,統計ソフトStatView5.0を使用してt検定(p < 0.05で有意差あり)を行なった.
症状に関しては,慢性静脈疾患の臨床重症度を評価するため静脈臨床重症度スコア(venous clinical severity score: VCSS)1)を用い,術前後で評価したが,術前の評価時点では弾性着衣が未使用であることから本研究では「弾性着衣使用頻度」の項目は除外した.
下肢静脈エコー検査で深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)や深部静脈不全症を認めない一次性下肢静脈瘤症例において,静脈うっ滞性皮膚病変部分よりエコー検査で表在静脈の逆流源を検索してIPVが同定できた症例を治療対象とした.ただし,伏在静脈の逆流を合併するかIPVが逆流起源で伏在静脈に流出して伏在静脈が逆流している症例に治療を行なった.
2016年から2018年末までに施行して術後経過観察し得た,3例4カ所について検討した.平均年齢は63 ± 6.1歳(56歳~67歳)で全例女性であった.IPV部位は,Doddが1カ所,Boydが1カ所でCockettが2カ所であった.CEAP分類は全例で皮膚病変を認めることから臨床分類はC4aより重症であった(Table 1).
Case | Age | Location of IPV | CEAP |
---|---|---|---|
A | 66 | Boyd | C4aEpApPr |
B | 56 | Cockett | C4bEpAs,pPr |
C | 67 | Dodd | C4aEpApPr |
Cockett |
IPV; incompetent perforating vein, CEAP; Clinical-Etiology-Anatomy-Pathophysiology classification
焼灼したIPVは全て逆流を認めなかった.DVTや深部静脈への血栓進展(endovenous heat-induced thrombus: EHIT)に関しては認めなかった.エコー検査によるIPV径の変化であるが,術前は平均5.83 ± 1.13 mmであったが,術後1カ月で平均3.43 ± 0.40 mm(p = 0.01),術後3カ月で平均2.90 ± 0.88 mm(p = 0.03)と術前と比較して有意に縮小していた(Table 2).VCSSも術前と比較して術後は全例で改善していた(Table 3).
Case | Location of IPV | diameter of IPV (mm) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
Pre | 1 m | 3 m | 6 m | 12 m | ||
A | Boyd | 6.2 | 3.8 | 2.3 | 1.9 | |
B | Cockett | 4.3 | 3.6 | 3.4 | ||
C | Dodd | 7 | 3.5 | 3.7 | ||
Cockett | 5.8 | 3 | 2 |
IPV; incompetent perforating vein, PAPS; percutaneous ablation of perforators
Case | VCSS | ||||
---|---|---|---|---|---|
Pre | 1 m | 3 m | 6 m | 12 m | |
A | 7 | 1 | 1 | 1 | |
B | 6 | 5 | 4 | ||
C | 9 | 4 | 3 |
VCSS; venous clinical severity score, PAPS; percutaneous ablation of perforators
それぞれの治療方法と術後経過の詳細を述べる.
症例A(右:C4aEpApPr)2)はBoydから大伏在静脈(great saphenous vein: GSV)への逆流を認め(Fig.2A),その末梢側に静脈瘤を認めていたので(Fig.2B),静脈瘤を穿刺してIPV流出部から穿刺部までのGSVを焼灼(IPV流出部LEED:200 J/cm)して逆流を止めた(transpassing)(Fig.2C).術前はIPV径6.2 mmでVCSSは浮腫や色素沈着などを認めていたため7点であったが,術後1カ月時はIPV径3.8 mm(Fig.2D)でVCSSは1に改善して,術後1年時ではIPV径1.9 mmでVCSSは1で色素沈着の拡大は認めなかった.
A: Color doppler ultrasonogram (a long axis view). The reflux signal from the IPV to GSV.
B: The cross mark indicates the IPV (Boyd).
C: Transpassing laser ablation of the GSV at the outflow part of the IPV.
D: The diameter of the IPV reduced to 3.8 mm after PAPS.
症例B(左:C4bEpAs,pPr)はGSV逆流およびIPVを合併する症例で,IPVはCockett(足底部から19.8 cm中枢内側)で周囲に皮膚硬化を伴う色素沈着を認めたため,正常皮膚部分から穿刺してIPV内にシースを挿入して焼灼(LEED: 157.5 J/cm)して逆流を止めた(transluminal).術前はIPV径4.3 mmでVCSSは皮膚炎による皮膚硬化などを認めていたため7点であったが,術後3カ月時はIPV径3.6 mmでVCSSは5に改善して,術後6カ月時点ではIPV径3.4 mmでVCSSは5で色素沈着の拡大は認めず皮膚硬化は改善した.
症例C(左:C4bEpApPr)はDoddからGSVへの逆流およびCockett(足底部から23 cm中枢内側)を認め,下腿に浮腫,色素沈着および炎症を認めた(Fig.3).本例はslim fiberを用いて施行した.DoddはGSVを穿刺してIPV内に挿入して焼灼(LEED: 70 J/cm)して逆流を止めた(transluminal)(Fig.4A).同時に治療したCockettはIPV内に挿入して焼灼(LEED: 56.5 J/cm)して逆流を止めた(transluminal)(Fig.4B).術前はIPV径7.0 mmでVCSSは浮腫や皮膚炎などを認めていたため9点であったが,術後1カ月時はIPV径3.5 mmでVCSSは4に改善して(Fig.5),術後3カ月時点ではIPV径3.7 mmでVCSSは3で色素沈着の拡大は認めず皮膚炎は改善した.経過は,術前径5.8 mm,術後1カ月径3.0 mm,術後3カ月径2.0 mmと縮小を認めた.
The cross mark indicates the IPV(Dodd) in case C.
Direct (transluminal) laser ablation of the Dodd (A) and the Cockett (B).
The skin lesion of the left leg has improved one month after PAPS.
術後の圧迫療法は,皮膚病変を合併しているため3カ月以上の長期間にわたって着用するように指導した.
EVLAは伏在静脈不全に対する治療法として本邦でも行われている3).しかし,下肢静脈瘤の病態は様々であり,IPVが原因であれば皮膚病変を合併することが多い4).IPVに対する治療の必要性は,IPV起源による症状を認めることが条件であるが,IPVを同定するにはエコー検査が有用である4).2011年に米国で発表されたガイドラインによると,CEAP分類でC5かC6の原因がIPVであり,IPVが径3.5 mm以上で0.5秒以上の逆流時間を認めることが治療推奨(2B;弱い推奨,エビデンスレベル中)5)であるとされている.CEAP分類による適応に関しては,本邦で保険収載されている内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術(subfascial endoscopic perforator surgery: SESP)はC4bより重症例での施行を認可されている6).しかし,C2からC4a症例でも治療することで症状改善が見込めるのであれば,施術することは問題ないと考える.しかし,病状の重症度に対する手術侵襲を考慮して行うべきである.
IPVの治療方法であるが,目的はIPVの逆流を停止することにある.1938年にLintonが報告7)した皮膚と筋膜を切開してIPVを筋膜下で結紮する方法,いわゆるLinton手術が有名である.1953年にCockettらが筋膜上でIPVを結紮する方法を報告8)したが,両手技とも皮膚切開部位に皮膚病変があると治療困難なことがある.エコーガイド下硬化療法が報告9)され,最近では液状硬化剤を空気や炭酸ガスと混和して泡状硬化剤10)として行われており,良好な成績を得ている.1985年にHauerはSEPSを報告11)し,皮膚病変合併例に対しての有用性が認められ,2009年5月には厚生労働省から先進医療認可を受け,2014年4月には保険収載されるに至った6).しかし,SEPSはデバイスが必要であり認可された施設での施行が義務付けられているのが現状である.
IPVに対する血管内焼灼術であるPAPSは12,13),IPVもしくはIPV周辺部位にレーザー照射をして血管壁を加熱してIPVから表在静脈への逆流する血液を遮断することとなるが,焼灼方法が,①transluminal;IPV内にファイバーを挿入してIPV自体を焼灼する,②transpassing;IPVが表在静脈に流出する部位を焼灼してIPVからの逆流を停止する,③transfixting;IPVを串刺しにして焼灼してIPVを閉鎖する,3種に分類される.いずれも有効な治療方法ではあるが,transluminalやtransfixtingはIPV周辺の動脈等を損傷する可能性があるため,IPV周囲への低濃度大量局所浸潤麻酔(tumescent local anesthesia: TLA)液浸潤は十分な量を注入すべきである.なお,transpassingでは動脈損傷は少ない.しかし,transpassingではIPV自体は加熱してはないので静脈圧上昇等で再発する可能性が危惧される.
2014年に発売されたファイバーが径1.8 mmであったが,2018年に径1.27 mmの細径ファイバーが発売されたことより,16G留置針のみでファイバーを挿入することができるようになったためtransluminalが容易に施行できるようになった.1,470 nmのレーザー波長は水特異性波長であり,全周照射型ファイバーは照射面積が広く,過剰な焼灼やファイバーの血管壁付着が少ないため14),PAPSには有用なデバイスと考える.
焼灼条件に関しては,PAPS成功にはエネルギー量が重要との報告15)やZerweckらの経験からは高エネルギーが必要との報告16)がある.症例Aはtranspassingで施行したが,文献を参考にLEED:200 J/cmの高エネルギーで治療した.症例Bおよび症例Cはtransluminalで治療したが,焼灼中のエコー画像から血管壁の変化を認めるまでの照射を行なったため,LEEDが低値となったが,治療効果には影響がなかったためLEEDは70 J/cm程度でも十分だと推察するが,今後の症例累積で明らかになることと考える.また,transfixtingは経験がないため言及できないが,transpassingは通常の伏在静脈焼灼と同様であるのでLEEDは70 J/cmでも問題ないと考える.実際の手技で注意したことは,焼灼時にファイバーがstickingを起こさないように振動させるようにしたが,LEEDが70 J/cmのエネルギー密度であればstickingを起こすことは少なく,さらに細径ファイバーであればstickingの発生は考慮しなくても良いと考える.また,焼灼部位となるIPV周囲やIPV流出口周囲には十分なTLA液浸潤が必要不可欠である.
治療効果に関しては,VCSSとエコー検査におけるIPV径およびIPVから表在静脈や静脈瘤への血流の有無について検討した.VCSSとは,「痛み」「静脈瘤存在部位」「静脈性浮腫の範囲」「皮膚色素沈着の範囲」「炎症の範囲」「皮膚硬結の範囲」「活動性潰瘍の数」「活動性潰瘍の期間」「活動性潰瘍の大きさ」「弾性着衣使用頻度」の10項目に対して,4段階(0~3)に数値化した合計を評点する1).VCSSは全例で改善を認めたが,術後に色素沈着は残存するものの,皮膚硬化や炎症所見が改善することが見られたことによると考える.エコー検査ではIPVからの逆流が停止できており,IPV径自体も有意に縮小しているため,PAPSは有用な治療方法と考えるが,さらなる症例集積と経過観察は必要である.PAPS施行後に再疎通を認めた場合は,PAPS再施行や他治療法施行などを病状に合わせて選択することになるが,PAPS再施行は容易にでき,transluminal以外の方法でも有効な方法となり得る.
レーザーを用いたIPVに対する治療経験を検討し,PAPSは有用であった.EVLAはデバイスの革新により様々な病態に対して有用で簡便な治療を提供できる手段である.ただし,下肢静脈瘤の病態を十分に理解した上でエコー検査による適切な診断,適切な治療法選択および確実な治療施行が重要である.
本論文において,著者全員申告すべき利益相反はない.