The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Laser Bowel Anastomosis for Dogs and Cats
Eiichi YamadaHiroshi Sumiyoshi
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2020 Volume 40 Issue 4 Pages 393-398

Details
Abstract

獣医療におけるレーザー技術の発展を目的として,半導体レーザーを使用した新しい腸管溶接法を考案した.この研究のためにlaser welding鉗子(LW鉗子)と呼ばれる特別な腸鉗子を作成した.基礎研究において,犬および猫のレーザー腸管溶接は,LW鉗子と接触型プローブを使用して可能であることが確認され,臨床症例に適用できるものと考えた.猫巨大結腸症および小型犬の重篤な腸閉塞症に対して,レーザー腸管吻合術を施行した.短期および長期の臨床結果として,重度の術後合併症がみられず,すべての症例で良好な回復が得られた.

Translated Abstract

For the purpose of development of the laser technique in veterinary medicine, the new bowel welding method using a diode laser were devised. A special intestinal clamp was developed for these studies, and it was named laser welding intestinal clamp (LW clamp). In fundamental researches, laser welding of bowel in dogs and cats was confirmed to be possible using the LW clamp and the contact probes under a diode laser. Therefore, we expected that this method is applicable to clinical cases. Laser bowel anastomoses were performed for cats with megacolon and toy-breed dogs with severe bowel obstruction. As short- and long-term clinical results, any severe postoperative complications were not found, and all cases revealed favorable recovery.

1.  はじめに

レーザーは生体組織において加熱,凝固および蒸散を引き起こして,組織同士を融合・溶接させること(tissue welding)が可能である.医療分野において,レーザーによるtissue weldingを利用して腸管,血管および尿路系などの生体組織を吻合・縫合するために多くの基礎研究が行われた.血管外科領域では,一部の研究者および機関でレーザーによる微小血管吻合術が患者に対して適応され1,2),臨床応用の普及に向け発展しつつある.

腹腔外科領域においてもレーザーによる腸管吻合の検討が行われた.縫合糸を用いた従来の吻合やステープルによる器械吻合は,機械的損傷および異物反応が引き起こされることがあるため,吻合部に縫合糸やステープルがないまたは出来るだけ少なくしたいとの考え,いわゆるsuturelessな腸管吻合法の開発を目的に実験動物を用いた研究3-11)が行われた.これらの研究結果より,レーザーによるsuturelessな吻合が行えたことのみならず,吻合部における優れた密着性,殺菌および創傷治癒促進効果も報告され4,5,11),小口径の小児腸管の吻合,胆管-小腸吻合などに臨床応用が可能であることが示唆された11).しかしながら,医学においてレーザー腸管吻合術は現在も臨床応用されていない.

一方,獣医療においても次第にレーザー装置が導入されてきたが,その用途の多くは出血の少ない切開・切除を目的としたメスの代用であった.著者らは,比較的早期に小動物獣医療現場で半導体レーザー装置を取り入れ,獣医外科領域でどのような臨床応用が可能であるか検討し,レーザー腸管吻合(溶接)術に着目した.基礎的研究12)および臨床症例に応用した結果13)について解説する.

2.  レーザー腸管溶接法:基礎的研究

2.1  目的

1)医学における実験的レーザー腸管吻合術では,ウサギまたはラットが対象となっていて,犬および猫のレーザー腸管溶接が実際に可能であるかを確認する.

2)この研究当時,ほとんど報告のなかった半導体レーザーによる腸管溶接条件の決定:犬と猫,小腸と大腸で至適出力,溶接部の耐圧能などに違いがあるか検討する.

3)実験的レーザー腸管吻合術の報告では,利用されたプローブはほとんど非接触型プローブであったが,本研究では2種類の直接接触型プローブ(Laser Bipolar Dissector(LBD)とSuper Scalpel Dissector(SSD))を用いた腸管溶接を行い,溶接力の強さの比較やその使い勝手などを検討する.

4)医学および獣医学で,これまで報告のなかったレーザーを使用した腸管の側々吻合は可能であるか確認する.

2.2  対象および方法

対象:犬16頭および猫16頭の死体より採取した腸管(回腸および結腸)を用いた.

レーザー発振装置,レーザープローブおよび補助器具:発振波長810 nm半導体レーザー装置(PDL-Pulse Diode Laser)ならびに2種類の直接接触型プローブ(ピンセット形のLBDとメス形のSSD)を使用した.また,補助器具として,通常の非挫滅性腸鉗子の組織把持面に3 × 40 mmの有窓部を有するように加工したレーザー溶接用腸鉗子(laser welding腸鉗子(LW鉗子),Fig.1a, b)を特別注文で作製し,使用した.

Fig.1 

Laser welding intestinal clamp (LW clamp)

a) A 3 × 40 mm opening was equipped to the pinching side.

b) The pinching side was non-crush injury clamp.

2.2.1  レーザー腸管溶接法

2本の腸管の漿膜面が密着するようにLW鉗子にて把持した.次にLW鉗子の有窓部からLBDまたはSSDプローブを用いてレーザー照射を行った.このレーザー照射によって,腸管は切断と同時に溶接された.腸管吻合の形態は側々吻合となった.

腸管溶接に必要な時間は,プローブ,レーザー出力,動物種および腸管の種類の組み合わせにより異なったが,プローブ冷却時間を含め1~4分であった.

事前の予備実験において,溶接終了後LW鉗子を取り外す際に腸管壁が鉗子に付着し,溶接された部分がはがれる場合があった.従って,本研究時では溶接部位を保護するためにLW鉗子と平行に通常の腸鉗子2本を装着し,LW鉗子を慎重に取り外す必要があった.

2.2.2  破裂圧を指標としたレーザー至適照射条件の検討

溶接された腸管分節の両端を閉鎖し,その管腔内に生理食塩水注入用ならびに内圧測定用カテーテル設置した.溶接部分が破綻するまで生理食塩液を注入し,破綻した時点での腸管内圧を破裂圧(bursting pressure: BP)とした.BP(mmHg)は溶接部位における物理的強度の指標とした.

BP測定は,動物(犬または猫),腸管の種類(回腸または結腸)とレーザープローブのタイプ(LBDまたはSSD)の各組合せのために,レーザー出力(6,8,10および12 W)ごとに計8回行われた(n = 8).

2.2.3  レーザー溶接部の組織学的検討

同一のレーザー照射条件(LBDプローブを用いて,8 W出力で照射)により腸管溶接が行われた検体(犬と猫の回腸および結腸)を常法通りホルマリン固定した.すべての検体は,腸管溶接部分に対して垂直に切り出したHE染色標本として,光学顕微鏡を用いて組織学的に検討した.

2.3  結果

2.3.1  犬および猫における半導体レーザー腸管溶接の至適条件

測定されたBP値はレーザー出力による変化が大きく,12 W以上の高出力ではBP値が低下する特徴があった.本研究において,LBDを用いた至適レーザー出力が犬と猫の回腸で6~10 Wであること,犬と猫の結腸で8~10 Wであること,ならびにLBDによる腸管溶接に必要な時間は1~4分であった.また,SSDを用いた至適レーザー出力は,犬回腸で6~8 W,犬結腸で8~10 W,猫回腸で10 Wと猫結腸で6~8 Wであり,SSDによる溶接所用時間は1~3分であった.

LBDとSSDのいずれを使用する場合でも,回腸と結腸の間に大きな差違は観察されず,同じ出力におけるBPは,SSDよりLBDでわずかに高い傾向であった.しかし,有意差は認められなかった.

2.3.2  犬および猫における半導体レーザー腸管溶接部の組織学的所見

いずれの検体標本においても溶接部位が完全に密封されていることを確認した.凝固壊死はレーザー照射を受けた部分自体で認められ,非照射部分の粘膜は強く付着していた(Fig.2a, b).

Fig.2 

Histological findings (laser welded cat’s ileum experimentally, HE stained)

a) Low magnification.

b) Middle magnification. Black bar shows laser irradiated site.

2.4  まとめ

以上の基礎研究結果より,犬と猫における半導体レーザーによる腸管の溶接は,LW鉗子を用いて,LBDまたはSSDプローブを組み合わせたレーザー出力約8 Wで,50~80秒の照射で,可能であることが確認された.また,これまで報告のなかった側々吻合の形態で腸管吻合を完成させた12).このレーザー腸管溶接法を臨床応用した術式をレーザー腸管吻合術とした.

3.  レーザー腸管吻合術:臨床応用

3.1  レーザー腸管吻合術の手技および手順

以下にレーザー腸管吻合術の手技を模式図および術中写真で示した(Fig.3a, b, c).

Fig.3 

Laser bowel anastomosis technique

a) The LW clamp was inserted into bowel lumens.

b) Laser exposure through LBD or SSD probes was performed along the opening of the LW clamp.

c) Unified openings of the bowel lumen were made. The side-to-side bowel anastomosis using a diode laser was completed, and it was the same as the stapled functional end-to-end anastomosis.

a)2つの腸管の対腸間膜側を合わせ,LW鉗子を挿入して鉗子を閉じる.鉗子周辺の漿膜に支持縫合を行う.

b)LW鉗子有窓部よりプローブでレーザー照射行う.この時レーザーの誤照射防止のためメス柄を対側有窓部に置く.

c)2つの腸管は溶接され,新たな腸管開口部が作成される.半導体レーザーを用いた腸管の側々吻合が完成した.これは,ステープルによる機能的端々吻合と同様である.

注目すべき点はLW鉗子の役割で,最大約40 mmまで腸管開口部(レーザー溶接部)の長さを調節することができる.

3.2  臨床症例に対する半導体レーザーを用いた腸管吻合術

3.2.1  猫巨大結腸症

猫巨大結腸症18例に対して,機能不全を起こした回盲弁を含む大部分の結腸を切除した後,回腸と残存結腸のレーザー腸管吻合術を行った13).レーザー溶接条件は,基礎研究結果12)より半導体レーザー出力8 W,LBDプローブを多用し,溶接部の長さ35 mm以上となるようにLW鉗子を装着し,鉗子有窓部よりおよそ60~80秒間レーザー照射を行った.

すべての症例の手術中所見において吻合部の出血および漏出が認められなかった.術後の臨床経過でも,吻合部漏出による腹膜炎などの合併症はなく,術後吻合部狭窄については,再手術を必要した症例は1例もなかった.18例中2例に軽度の便秘再発が認められたが,特別な処置は必要なく便秘症状は1~2日で解消した.術後2年で交通事故死した猫の剖検所見では,外貌上において回腸-結腸接合部の屈曲を認めず,接合部の直径は23 mmを保持していた(Fig.4a, b).

Fig.4 

Macroscopic findings in anastomosed ileocolic junction

Feline (mix breed, castrated male, 9 years old, BW 5.8 kg) with megacolon

a) The appearance of postoperative 2 years.

b) The inside opening.

3.2.2  小型犬の重度腸閉塞

体重2.5 kg未満の小型犬2例の異物性腸閉塞において,異物停滞のため壊死している小腸を部分切除した後,健常部の空腸―回腸および回腸―回腸を吻合するためレーザー腸管吻合術を行った.レーザー溶接手技は,溶接部の長さ30 mmに設定した以外は,上記の猫症例と同様の条件であった.

術中および術後に吻合技術に関連した漏出・出血・狭窄の三徴候はまったく認められず,いずれの症例も食欲・元気などの臨床徴候は速やかに回復した.1症例における術後4および60日の造影X線検査画像をFig.5に示した.吻合部位における狭窄,バリウムの漏出ならびに通過障害は,まったく認められなかった.

Fig.5 

X-ray barium image examination

Papillon (toy-breed dog, male, 8 months old, BW 2.4 kg) with foreign body ileus.

a) At 4 days postoperatively.

b) At 60 days postoperatively.

Black arrow shows bowel junction.

4.  考察

4.1  使用したレーザー光の選択ならびに基礎研究に至る背景

レーザーによる腸切開の閉鎖7-11)および切り離された腸管の吻合3-6)についての研究は,1980年代後半より盛んとなった.使用されたレーザー光の種類では,Nd-YAG3-7,9-11)が多く,CO28,9),Argon8,9)などが用いられている.これら3種のレーザー光は,はやくから医療応用されたレーザーであり,その特性も十分理解されていた.これに対して半導体レーザーは,外科的用途に耐えうる高出力半導体レーザーの出現普及が遅く,使用実績があまりなかったこと,および半導体レーザーの発振波長800 nm近傍の光は,ほぼNd-YAGレーザー同等の機能特性であることから,これらの医学における基礎研究では主にNd-YAGが用いられたものと考えられた.しかしながら,獣医療においては,むしろ高出力・小型化された半導体レーザー装置の出現により普及が進み,著者らも90年代中頃に医療用半導体レーザーを導入した.また,それまで非接触型プローブ3-10)によるレーザー照射が主流であったものが,接触型プローブ11)も普及してきたことから,半導体レーザーおよび接触型プローブを用いたレーザー腸管溶接法を考案した.

レーザー腸管溶接法において,著者らが最も注目した点は,半導体レーザーを使用するという選択,至適条件および使用プローブなどではなく,最終的に腸管が吻合される形態である.これまでの実験的レーザー腸管吻合術3-6)では,その吻合形態はすべてend-to-end anastomosis(端々吻合)であり,吻合時に管内ステントが挿入されている.すなわち,ここでのレーザー使用目的は,手縫いによる端々吻合または端々吻合用ステープラーの代用であり,吻合部に縫合糸やステープルといった異物が残らない吻合を目標としたものである.しかし,異物であるステントを短期間腸管内に留置する必要があった.一方,筆者らが目標とした吻合形態は,胃腸管吻合用ステープラー(GIAステープラー)による“機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis: FEEA)”である.FEEAの吻合形態は側々吻合ではあるが,吻合された腸管は機能的に端々吻合と同様の順行性ぜん動が得られる.FEEAを施行するGIAステープラーは,直線型カッティング・ステープラーとも呼ばれ,腸管の直線的な切断と同時に切断縁のステープル縫合を行う.このGIAステープラーの吻合機構は,まさに腸管の切断と同時に溶接を行う筆者らの考案したレーザー腸管溶接法とまったく同様である.レーザー腸管溶接によりFEEAを施行できれば,吻合部に管内ステントを置く必要もなく,完全に異物のない腸管吻合が可能であるとの仮説を立てた.この仮説に基づき基礎研究12)では,報告のなかった半導体レーザーの至適腸管溶接条件の設定およびFEEAを施行するための補助器具LW鉗子の開発に主眼を置き研究を行った.

4.2  レーザー腸管吻合術の臨床応用

医学においてレーザー腸管吻合術は,現在も臨床応用されていない.消化器外科領域では,自動吻合器による腸管吻合が1970年代以降急速に普及し,レーザー腸管吻合術の基礎研究が行われた80年代には多種の器機による様々な器械吻合テクニックが臨床応用され,短時間の内に漏出,狭窄および出血などの術中術後合併症が少ない腸管吻合を成し遂げることが可能となった14).さらに90年代に入り内視鏡(腹腔鏡)手術が普及してくると,より細径・小型化した吻合操作部をもつ内視鏡手術用吻合器(Endo-GIA)が適応され,さらなる進化をみせている15).したがって,レーザー腸管吻合術が,この器械による腸管吻合を上回る臨床的メリットをもたなければならず,臨床応用に向けた研究・試験が進んでいないものと考えられた.

獣医学臨床においては,胃腸管悪性腫瘍が動物ではまれであることから腸管吻合が必要な症例そのものが医学臨床に比べ圧倒的に少ない.また,消化器外科専門獣医師は存在せず,十分な卒後教育が行われているわけでもないため,小動物獣医療では未だに手縫いによる腸管吻合が一般的であり,器械吻合もほとんど普及していない.こうした背景下で著者らは,腸管吻合が最も適応される機会の多い猫巨大結腸症に着目した.先行してGIAステープラーによる機能的端々吻合を施行した結果,良好な手術成績を得ることが出来た16).しかし,ステープラーのアンビルを猫の回腸に挿入する際,一部の症例で腸管内径が狭いため粘膜面に裂傷がみられた.この粘膜裂傷が予後経過に影響を与えることはなかったが,術中合併症として機械的損傷が確認された.この事象から犬猫の腸管径サイズに左右されず,異物反応および機械的損傷のない腸管吻合法としてレーザーを利用することを考案した.すなわち,臨床現場における必要性によって,基礎研究において機能的端々吻合の形態で接合可能であるということを確認後,すぐに臨床応用を行った.GIAステープラーの代用に半導体レーザーとLW鉗子を使用したレーザー腸管吻合法においては,短期および長期的合併症がほとんど認められない非常に良好な手術結果であった13).しかしながら,半導体レーザーを用いた腸管吻合術は,従来からの手縫い吻合や器械吻合に取って代わるような技術ではない.著者らは猫および小型犬に限定して適用した.腸壁組織が薄くもろく,腸管径が狭い猫や小型犬の腸管吻合では,高度な縫合テクニックが必要であり,吻合ステープラーそのものが腸管に挿入困難である場合もあることから,第三の方法としてレーザーを用いても腸管吻合が可能であることを示した.

4.3  レーザーによる組織の接合と獣医療における将来展望

レーザーによる組織溶接(laser tissue welding)は,異物反応がなく,すき間のない優れた密着性を有し,短時間で組織接合を行うことが可能である.しかし,主な欠点として溶接された直後から早期の接合力が弱いことと再現性が低いこと4-6),および熱による組織損傷の影響が大きいこと17,18)が指摘されている.この接合力を強化し,安定したレーザー接合を行うことを目的として,アルブミンなどの生体内タンパク質を接着材料(ハンダ)として使用したレーザーによる組織ろう接(laser tissue soldering)の研究が進行し,さらに特定のレーザー波長に対して選択的に吸光度を高めることができる色素剤の添加,例えばインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)は,吸光スペクトルのピークが800 nm付近であり半導体レーザーの発振波長800~810 nmと合致することから,ICGを生物学的ハンダに添加して半導体レーザーと併用することにより,より効果的なレーザー組織ろう接が可能となった19,20).尿管吻合において,ICGを添加したアルブミン・ステントおよび液体アルブミンハンダを用いた半導体レーザーろう接により尿管の溶接力はかなり強化され19),同じ方法によるin vivo研究20)においても短い吻合時間で漏出率の低い安定したレーザー尿管吻合術が行えた.

レーザー組織接合では,接合組織の熱による損傷もまた克服すべき重要な課題である.レーザー血管接合において,血管壁の熱損傷は血栓形成を誘発し,最終的には血管開存率の低下を引き起こす17,18).この熱損傷を低減するためにレーザー照射時の組織表面温度をリアルタイムに測定し,コンピューターを介して一定の温度設定を維持するためにレーザー出力を制御するシステムとICG・生物学的ハンダを組み合わせたレーザー組織ろう接(temperature-controlled laser tissue soldering)の研究が報告されている18,21,22).ICG添加ヒアルロン酸ハンダを適用し,50~65°Cに温度制御された半導体レーザー血管ろう接を行ったin vivo研究18)において,術後90日の血管開存率は100%であり,従来の縫合糸による吻合に比べ,組織学的にも血栓症,炎症,内膜過形成,石灰化などの指数は著しく低く,熱損傷による影響はほとんど認められなかった.このような接合力の強化および熱損傷の低減は,再現性の高いレーザー組織接合を実現させた.

腸管吻合術においても,ICGおよびアルブミンハンダを用い60°Cで維持制御された半導体レーザー腸管ろう接によって,吻合直後の平均破裂圧は通常の縫合糸による吻合術に比べ2倍以上高かった21).著者らが犬猫に対して応用したレーザー腸管吻合術にこの温度制御レーザーシステムやICG・タンパク質ハンダを適用することにより,短時間で確実性が高い手術が行えることと考えられるが,前述のように対象となる症例自体は少なく,実用的ではない.犬猫で比較的症例数の多い胃腸および膀胱の小切開閉鎖などには,ICGと半導体レーザーの組み合わせだけでも効率がよい組織接合が可能であると考えられる.また,マウスを用いた温度制御半導体レーザーろう接による皮膚接合では,縫合糸による皮膚縫合に比べ,コラーゲン形成の有意な活性化がみられ,より速く,より効果的な創傷治癒が認められた22).獣医外科臨床で日常的に行われる閉腹時の皮膚接合にこれらのレーザー組織接合の技術を応用することはより現実的である.

いずれにしても,医学における多数の基礎実験では,対象として実験動物が用いられ十分なデータが蓄積されている.このような基礎データを上手に活用することにより,獣医臨床における治療成績の向上に貢献できるものと考える.

5.  結論

半導体レーザーと接触型プローブの組み合わせ,および使用する鉗子の工夫による新しい腸管溶接法を実験的に確立した.その後,獣医療において初めて犬と猫の症例にレーザー腸管吻合術として臨床応用した.術中および術後における合併症はほとんど認められず,すべての症例は良好な回復をみせた.従って,比較的腸管径の狭い小動物に対して,安全に実施可能な腸管吻合の一方法であることが示唆された.

利益相反の開示

利益相反無し.

引用文献
 
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