The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
Online ISSN : 1881-1639
Print ISSN : 0288-6200
ISSN-L : 0288-6200
CASE REPORT
Histological Changes of Feline Mammary Carcinoma Treated by NPe6 HVJ-E PDT
Masamichi YamashitaTomohiro Osaki Yuji SundenShouko SaitoMizuho InaiNorihiro HondaTakahiro NishimuraHisanao HazamaKunio AwazuYasufumi KanedaYoshiharu Okamoto
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 40 Issue 4 Pages 403-407

Details
Abstract

不活化センダイウイルス粒子(hemagglutinating virus of Japan envelope: HVJ-E)を悪性腫瘍組織へ局所投与することによって腫瘍特異免疫を誘導することが報告されている.今回,猫の乳腺癌症例に対して,taraporfin sodium(NPe6)を封入したHVJ-Eを腫瘍組織内に局所注入後,光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)(NPe6 HVJ-E PDT)によって免疫をより賦活させるための治療を試みた.局所の免疫誘導に関しては,組織学的に検討した.治療を行った結果,腫瘍組織の内部及び周辺にNPe6 HVJ-E PDTによる腫瘍細胞の壊死とそれによって誘導されたと思われるマクロファージが確認された.また,無治療の腫瘤と比較して腫瘤周辺にリンパ球浸潤が顕著に観察され,NPe6 HVJ-E PDTの免疫細胞誘導効果が確認された.

Translated Abstract

It was reported that tumor specific immunity is induced by local administration of hemagglutinating virus of Japan envelope (HVJ-E) to malignant tumor tissue. In the present case report, we tried to activate tumor specific immunity in feline mammary adenocarcinoma by NPe6 HVJ-E PDT where photodynamic therapy (PDT) was performed after local administration of HVJ-E containing taraporfin sodium (NPe6) into the tumor tissue. As a result of the treatment, necrosis of tumor cells and infiltration of macrophages in tumor tissue which were induced by NPe6 HVJ-E PDT were confirmed in and around the tumor. In addition, lymphocyte infiltration was remarkably observed around the tumor as compared with untreated tumor, and the immunity induction effect of NPe6 HVJ-E PDT was confirmed.

1.  はじめに

近年,従来の治療法では効果の低い難治性の腫瘍性疾患に対して,生体の免疫を利用した治療法が成果を上げている1).腫瘍に対する免疫治療の多くは腫瘍特異的な免疫反応を誘導することを目的としており,より効果的で副作用の少ない治療法が開発される可能性がある.不活化センダイウイルス粒子[hemagglutinating virus of Japan envelope: HVJ-E]は,従来,DNAやRNA,薬剤などの物質を細胞内へ導入するベクターとして研究されてきた2-4).さらに,このHVJ-Eは単体で悪性腫瘍組織へ局所投与することによって,樹状細胞や腫瘍特異的細胞傷害性T細胞を誘導し,効率的に腫瘍特異的免疫を活性化することが確認されている2,5).一方,光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)は光感受性物質が腫瘍細胞に集積した時点で,腫瘍局所にレーザー光を照射することで,活性酸素を発生させ,腫瘍細胞を死に至らしめる治療法である.さらに,壊死やアポトーシスを起こした腫瘍細胞の抗原を樹状細胞やマクロファージなどの免疫提示細胞が取り込むことによって,腫瘍特異的免疫反応が誘導されることも期待されている.両治療法はそれぞれ免疫賦活作用を持ち,併用することでより効果的に抗腫瘍効果が増強されることが期待される6,7)

女性の乳がんは罹患率が高く,性ホルモンがその発生に強く関わっている8).ホルモン治療や分子標的薬などの開発により,治療成績は向上しているが,ステージが進行している場合や,薬物治療抵抗性を有する乳がんに対しては,これらの治療に対して反応が乏しい9-11).そのため,これらの腫瘍に対してはより効果的な治療法が必要となる.近年,動物においても高齢化に伴って癌の発生率は増加してきている12).特に猫の乳癌においては,悪性度の高さ,転移率の高さ,ホルモンとの関連性は人の乳がんと非常に類似しており,自然発症モデルとして非常に価値があると考えられている13,14)

今回の報告では猫の自然発症乳腺腫瘍に対してHVJ-EによるNPe6(talaporfin sodium,レザフィリン®,Meiji Seikaファルマ株式会社,東京)の細胞内導入効率向上によるPDTの治療効果の増強と,PDTとHVJ-Eによる免疫賦活作用の増強を目的とした複合治療(NPe6 HVJ-E PDT)を行い,治療後の腫瘍体積変化ならびに11日目における腫瘤の病理組織学的な変化について観察を行った.

2.  NPe6 HVJ-Eの調製

HVJ-E溶液(GenomONE-Neo GN004)は石原産業(大阪)から,NPe6(レザフィリン®)はMeiji Seikaファルマからご提供いただいた.HVJ-E溶液147 μLに生理食塩水853 μLを加えた後,4°C,20,000 × gで10分間遠心し,上清を吸引除去した.生理食塩水を溶媒として作製した濃度15 mMのNPe6溶液44 μLをHVJ-Eに加えて攪拌し,4°C,20,000 × gで10分間遠心した後,上清を吸引除去した.ここへ生理食塩水1,250 μLを加えて再懸濁させることにより,HVJ-EにNPe6が封入されたNPe6 HVJ-E溶液を作製した.

3.  症例報告

症例:12歳,雑種猫,雌,体重4.7 kg.既往歴はなく,胸腺部のしこりが大きくなってきたという主訴で来院した.右第1および第2乳腺付近に,4個の腫瘤が認められ,周辺には微小な腫瘤が多数認められた.胸部レントゲン検査では明確な肺転移は認められず,体表リンパ節の腫脹も認められなかった.飼い主からNPe6 HVJ-E PDTの臨床試験実施の了解が得られたため,翌日から治療を開始した(臨床試験承認番号:H29-004).

治療計画と解析:4個の腫瘤に対して,下記の処置を行った;①無処置(NC腫瘤),②波長664 nmの半導体レーザー(基礎実験用レーザー装置CT-003および直射プローブF830090,Meiji Seikaファルマ,東京)を用いた光照射のみ(Laser腫瘤)(Fig.1A),③光照射を行わず,NPe6 HVJ-E局所投与のみ(NPe6 HVJ-E腫瘤),④NPe6 HVJ-Eを局所投与した後,光照射(NPe6 HVJ-E PDT腫瘤).光照射は第0病日に105 J/cm2(140 mW/cm2,12分30秒)とした.光照射の条件はレザフィリンのインタビューフォームに準じて実施した.NPe6 HVJ-E局所投与は,第0病日に腫瘤の実質内に上記の手順で調整したNPe6 HVJ-E溶液を,局所投与した(Fig.1B).その後,NPe6 HVJ-E腫瘤とNPe6 HVJ-E PDT腫瘤では第4および第6病日にHVJ-Eのみを腫瘍組織に局所投与した.NPe6 HVJ-E PDTを行った腫瘤では,第0病日にNPe6 HVJ-Eの局所投与を行い,直後にレーザー光を105 J/cm2照射した.その後,第4および第6病日にHVJ-Eのみ腫瘍組織に局所投与をした.第11病日に全身麻酔下ですべての腫瘤を摘出し,ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色およびIba-1,CD3およびCD20に対する免疫染色によって,病理組織学的検査を行った.

Fig.1 

Laser irradiation and local administration

Laser irradiation is carried out to the laser mass and NPe6 HVJ-E PDT mass (A). Local administration of NPe6 HVJ-E is carried out to NPe6 HVJ-E mass and NPe6 HVJ-E PDT mass (B). Furthermore, in NPe6 HVJ-E mass and NPe6 HVJ-E PDT mass, HVJ-E was administered locally in same manner following administration of NPe6 HVJ-E.

治療成績:レーザーを照射した領域の皮膚の傷害は肉眼的に観察できなかった.Fig.2は各腫瘍体積の推移を示している.NC腫瘤およびNPe6 HVJ-E腫瘤の体積はほとんど変化しなかった.一方,Laser腫瘤およびNPe6 HVJ-E PDT腫瘤の体積は増大し,特に後者で約8倍の体積まで増大した.

Fig.2 

Volume changes of each breast tumor

Untreated mass: NC, only laser irradiation mass: Laser, only administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E mass: NPe6 HVJ-E, administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E and PDT mass: NPe6 HVJ-E PDT. The volumes are measured at 0, 4, 6 and 11 days after treatment start. The tumor volume is calculated by (major axis × minor axis × minor axis / 2).

病理組織学的解析結果:NPe6 HVJ-E腫瘤とNPe6 HVJ-E PDT腫瘤の中心部では,NPe6 HVJ-Eの局所投与後に形成されたと思われる壊死領域が認められた(Fig.3).壊死領域を観察するとNPe6 HVJ-E腫瘤では,ほとんど細胞が認められないのに対して,NPe6 HVJ-E PDT腫瘤の中心部には,壊死した腫瘍細胞とマクロファージと思われるIba-1陽性細胞が多数認められた.また,その壊死と免疫細胞の領域は腫瘤の外側まで及んでいた.NPe6 HVJ-E およびNPe6 HVJ-E PDTでは腫瘤の辺縁において他の腫瘤よりも免疫系細胞の浸潤が強くIba-1,CD3,CD20陽性細胞が混在し,強い浸潤が認められた(Fig.4).

Fig.3 

H.E. staining histological imaging of four mammary tumors

Untreated mass: NC, only laser irradiation mass: Laser, only administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E mass: NPe6 HVJ-E, administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E and PDT mass: NPe6 HVJ-E PDT. In NPe6 HVJ-E and NPe6 HVJ-E PDT, large necrosis area is formed in the tumor. In NPe6 HVJ-E PDT, strong infiltration of immune cells is observed around the tumor. Scale is 2,000 μm.

Fig.4 

H.E. and immunostaining imaging of four mammary tumors

H.E. staining and immunostaining against Iba-1, CD3 and CD20 of Untreated mass: NC, only laser irradiation mass: Laser, only administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E mass: NPe6 HVJ-E, administration of NPe6 HVJ-E and HVJ-E and PDT mass: NPe6 HVJ-E PDT are indicated. In NPe6 HVJ-E and NPe6 HVJ-E PDT, it is observed that stronger infiltrations of Iba-1, CD3 and CD20 positive cells around the tumors in NPe6 HVJ-E and NPe6 HVJ-E PDT as compared with NC and Laser.

4.  考察

本症例の腫瘍体積の推移を比較すると,NPe6 HVJ-E腫瘤では体積がほとんど変わらなかったのに対して,NPe6 HVJ-E PDT腫瘤では体積の増大が認められた.摘出後の腫瘍組織を観察すると,NPe6 HVJ-E PDT腫瘤では壊死細胞が腫瘤の外側でも認められ,その壊死細胞を取り巻くように腫瘍組織の周辺に免疫細胞が強く浸潤して組織を形成している.Fig.2で示した体積は皮膚を介して測定しており,腫瘍周囲の固形組織を含めた腫瘍体積として計測しているため,腫瘍組織のみの体積ではない.また,Fig.3の組織切開ラインでは腫瘤の約半分の領域を浸潤した免疫細胞組織が占めていることが分かる.免疫治療では,治療効果が認められる前段階で腫瘍体積が増大する事例が報告されており,今回の腫瘍の増大も腫瘍細胞に対する免疫反応によるものと考えられる15).免疫細胞の構成では,特にNPe6 HVJ-E PDT腫瘤において腫瘍の壊死と,その細胞を処理するために誘導されたと思われるIba-1陽性マクロファージが多く認められた.また,NPe6 HVJ-E腫瘤とNPe6 HVJ-E PDT腫瘤の周辺ではリンパ球,特にBリンパ球の浸潤が顕著であった.HVJ-Eはリンパ球を誘導する作用があり,今回の症例でもHVJ-Eの免疫誘導作用が観察されたと思われる2,5).本症例ではTリンパ球の種類やそれぞれの免疫細胞の腫瘍特異性などの観察は行わなかったが,腫瘍へ浸潤している免疫細胞が腫瘍特異的な免疫活性を得ることで,抗腫瘍効果を発揮する可能性があると考えられた.

今回,猫の乳腺腫瘍に対してNPe6 HVJ-E PDTによる臨床試験において,腫瘍細胞への傷害と免疫細胞の局所誘導が示唆された.猫の乳腺腫瘍は遠隔転移や手術後再発率が高いためNPe6 HVJ-E PDT単独での寛解は難しい可能性があるが,腫瘍が小さい症例,心疾患や腎疾患等の既往により全身麻酔下での外科的切除を適応とするのが難しい症例などで有用性が高いと考えられる.また,すでに遠隔転移が認められ根治的な摘出手術が適応とならない症例では,乳腺の腫瘍自体の局所コントロールとして有用となる可能性がある.HVJ-EはNPe6のキャリアとしての役割以外にも,直接的な腫瘍細胞特異的なアポトーシスの誘導と,多彩な抗腫瘍免疫が活性化されたことが考えられ,NPe6 HVJ-E PDTを行うことによって,死細胞から放出された腫瘍抗原をHVJ-Eにより,誘導された免疫細胞に効率的に取り込ませられる可能性があると考えられた.今後は,さらに長期の観察により抗腫瘍効果が発現することを確認していく予定である.

謝辞

本臨床試験を行うにあたって,レザフィリン®および基礎実験用レーザー装置をご提供いただいたMeiji Seika ファルマ株式会社の山田新様,峰久次郎様,HVJ-Eをご提供いただいた石原産業株式会社の福島寛隆様,黒田賢聖様,宮田敬三様に感謝申し上げます.

利益相反の開示

この研究の一部は石原産業(株)奨学寄附金及び大自然研究所からの支援によって行った.

引用文献
 
© 2020 Japan Society for Laser Surgery and Medicine
feedback
Top