The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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ORIGINAL ARTICLE
Multi-layered Optical Phantom for Spectroscopic Measurements of Skin
Yoshihisa Aizu Takaaki MaedaIzumi NishidateTomonori Yuasa
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2020 Volume 40 Issue 4 Pages 331-338

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Abstract

ヒト皮膚組織の層状性構造を模擬した多層構造光学ファントムを開発した.多層構造皮膚モデルの各層における吸収体,散乱体,母材の体積分率を最適化することで,ヒト皮膚の可視領域分光反射率に類似した特性を実現した.また,作製したファントムの再現性と経時劣化を調べた.皮膚症例として慢性色素性紫斑を模擬した紫斑ファントムを作製し,その色合いの妥当性を確認した.

Translated Abstract

We developed a multi-layered optical phantom which models a layered structure of human skin tissue. Spectral reflectance similar to that of human skin was realized in the visible wavelength range by optimizing volume concentrations of absorber, scatterer, and base material in each of nine layers. We also investigated reproducibility and temporal deterioration property of fabricated phantoms. Finally, we tried to make a pigmented purpura-like phantom as an example of applications and confirmed its color characteristics.

1.  はじめに

生体の光計測は,医学や生命科学における重要な技術基盤の1つとして近年大きな発展を遂げている.光学顕微鏡,眼底カメラ,内視鏡,レーザー血流計,パルスオキシメーター,光トポグラフィ,光コヒーレンストモグラフィなど実用化された機器も多い.生体を組織レベルで考えた場合,光は生体組織内で散乱や吸収の影響を受け,光伝搬が光の波長によって特徴づけられる.一般に可視~近赤外波長領域の光はヒト生体内を1~3 mm程度の深さまで侵達すると考えられている1).ヒトの身体部位の中でも皮膚組織がちょうどこの領域に対応し,また外部からの照射・検出が直接的にアプローチ可能なことから,皮膚の光計測に関する研究が展開されている‍2-5).皮膚内の組織変性や生理学的変化は光の散乱や吸収の変化として光伝搬に影響を与え,表面で捉える色彩情報に変化をもたらす.これは皮膚の分光反射率の解析を通して調べることが可能であり,分光反射率から皮膚内メラニン色素,ヘモグロビン色素等の濃度を推定する手法も開発されている.

こうした手法の展開においては,皮膚内部における吸収・散乱の度合いと分光反射率変化の関係を定量的に理解することが必要であり,そのための手段として,モンテカルロ法等による数値計算6-9)と人工的な皮膚モデルである皮膚ファントムによる実験的アプローチがある.特に,実際のヒトを対象にした計測光学系を含む測定解析手法全体の検証を行う場合に,光学皮膚ファントムの存在が欠かせない.ヒト身体の種々の部位に対して様々な模擬ファントム10-16)が従来から報告されているが,スリガラス,アクリル板,ポリエステル母材等とインク溶液による極めて単純な模型が多かった.我々は,皮膚組織から得られる分光反射率に極力類似したスペクトルを実現可能な光学ファントムとして,皮膚の層構造に伴う組織学的知見に基づく多層構造光学ファントムを開発し,その有用性を確認したので報告する.

2.  皮膚組織と多層構造モデル

ヒトの皮膚組織内を光が伝搬するメカニズムを理解するには,皮膚組織の光学特性を考える必要がある.従来より,皮膚組織は一般に表皮と真皮の2層構造,または皮下組織を加えた3層構造でモデル化して考えられてきた.しかし,光の吸収要因となるメラニン色素やヘモグロビン色素は,実際にはそれぞれ,表皮,真皮内で一様かつ均一に分布している訳ではなく,また散乱要因と考えられる細胞形態や組織構造も同じく一様ではない.こうした条件を考慮した取扱いを可能にするため,我々は組織学的知見に基づき,従来よりさらに細分化した9層構造皮膚モデルを提案した17).この構造を従来の3層モデルと対比して示したものがFig.1である.皮膚組織の深さ方向にはその構造と機能が異なる複数の領域が重なり合い,水平方向には比較的同一の分布を有する形態をもつことに着目し,多層の平行層状構造を採用している.標準的な構造として,Layer 1(L1と表記,以下同様)は角層,L2,L3はそれぞれ表皮層を形成する顆粒層・有棘層,基底層,L4~L8が真皮層を形成する乳頭層,乳頭下層,上部毛細血管網,網状層,下部毛細血管網,L9が皮下組織を表す.Fig.1に示す各層の厚み値は,文献等に記載のあるヒト頬の代表的な値であり,部位によって値は異なる.

Fig.1 

(a) Schematic illustration of human skin tissue, (b) nine-layered skin tissue model, and (c) three-layered skin tissue model.

このような多層構造にした根拠は,光学特性を左右する吸収および散乱の分布を,組織学的に異なると考えられる境界で区分けすることで表現できると考えたからである.もし,疾患部位等で予想される標準状態以外の組織構造を考える時には,適宜,層数を増減できることがこの多層構造モデルの特長である.一方,このモデルでは血管,皮膚表面の凹凸(皮溝,皮丘),および表皮基底層(L3)と乳頭層(L4)の境界にみられる起伏(undulation)18)については考慮していない.血管の存在は,それを含む各層のヘモグロビン濃度に反映させることで調整し,表面及び層境界の起伏については,光の散乱に由来する進行方向のランダム性を考えることで,実質的な影響は小さいとの仮定に基づき,現時点では取り入れていない.

3.  光学ファントムの開発

3.1  構成成分と構造

我々は,すでに3層構造の光学皮膚ファントム4)を開発してきたが,今回新たに9層構造皮膚ファントムを開発するために,より薄い層の作製を試みた結果,最小0.1 mmの厚みまで可能になった.また,9層の各層に含ませる散乱体と吸収体の成分量の調整を試み,最適化を行った.Table 1に各層の成分量を体積分率で示す.各層の厚みはFig.1に示したヒト皮膚の代表的な各層の厚みと比べると,L9を除き大略一桁大きいことが分かる.これはヒト皮膚におけるL1,L3の厚みが0.015 mmであるところを,ファントムで作製可能な最小厚0.1 mmで代用させるための措置であり,厚みの増加分を吸収体と散乱体の溶液量を希釈調整することで,最終的な皮膚表面からの反射率がヒト皮膚とファントムで同程度のレベルになるよう調整している.

Table 1  Components used for a nine-layered skin tissue phantom.
Layer Thickness Scatterer Absorber Base
[mm] Intralipid 20% sol. [%] Coffee sol. [%] Horse blood [%] Agar sol. [%]
L1 0.1 6.0 94.0
L2 0.5 6.0 1.5 92.5
L3 0.1 12.5 15.0 72.5
L4 0.3 25.0 1.0 74.0
L5 1.0 26.0 1.0 73.0
L6 0.5 25.0 6.0 69.0
L7 4.0 25.0 1.5 73.5
L8 0.5 25.0 2.0 73.0
L9 4.5 10.0 1.0 89.0

散乱体は大豆油を精製して作られるIntralipid 20%溶液(フレゼニウス・カービ・ジャパン)を用いた.Intralipid溶液の濃度は層毎に調整してあるが,溶液の光散乱特性を示す散乱係数μsと非等方性散乱パラメーターgは波長が長くなるにつれて減少する性質があり,この特性が生体組織の散乱特性に類似することが知られている19).吸収体には,L2とL3のメラニン色素の代替成分としてライト~ミディアム焙煎の中細挽きコーヒー豆(モカ)20 gよりコーヒーメーカーで抽出したコーヒー200 mlを原液とし,この原液と生理食塩水を1:3に混合した溶液をコーヒー溶液として用いた.Fig.2に示すように,可視領域におけるコーヒー溶液の吸収スペクトルは,公開されているメラニン色素の吸収スペクトル20)と比較的良好な類似性を示していることが分かる.なお,コーヒー溶液の吸収スペクトルは使用する豆の種類,焙煎と挽き具合に依存することから,極力条件を定めておくことが重要である.我々の経験では,酸味が強いと言われるモカまたはキリマンジャロが比較的油が浮きにくく,濁りの少ない透明度の高い溶液として得られることが分かっている.もう一つの主要な吸収体として,L4~L9のヘモグロビン色素には市販の保存用ウマ血液(日本バイオテスト研究所)用いた.遠心分離器で細胞成分と血漿を分離した上で,細胞成分のみをあらためて生理食塩水(大塚製薬)を用いてヘマトクリット値(Hct)44%に調整した.ファントムの母材には4 gの食用寒天パウダー(伊那食品工業)を温めた生理食塩水500 mlに溶かしたものを用いた.Table 1に示したこれらの数値は,文献に基づく9層各層の散乱と吸収の強弱に関する定性的な記述を手掛かりに作製したファントムの分光反射率と,我々が開発した9層構造皮膚モデル用モンテカルロ・シミュレーション17)による分光反射率との比較を繰り返すことで,両者が極力類似するよう最適化した結果として得られた経験値である.L9は最下層にあることから,その光学特性の影響が上部の層に比べて小さいと考えられる.そこで,9層全体の厚みのハンドリングの容易さを考慮して不必要に厚みを増大させないよう,その厚みを4.5 mmとした.

Fig.2 

Absorption spectra of typical melanin component and coffee solution.

3.2  作製プロセス

9層の各層の厚み毎にアクリル板で構成した9種の型を準備した.大きさは60~76 mm × 26 mmであり,上面と底面にサポート部材として用いるスライドグラスの形状にほぼ合わせてある.9層の各層毎に,Table 1に示す比率であらかじめ混ぜ合わせた液体状試料を注射器を用いて各層の型に流し込む.その後,冷蔵庫にて約5°Cの状態で30分間冷やすことによりゲル化させる.底面のスライドガラスの上に,型から取り外した単層ファントムをL9からL1の順に重ね,最後に上面にスライドガラスを載せることで9層ファントムが完成する.実際に作製した9層ファントムの断面と上面の写真をFig.3に示す.現時点で作製可能な最小厚みの0.1 mmは,主に母材である寒天のゲル状態での強度とそのハンドリングに依存して制限されている.0.1 mmより薄い層を型により作製しようとすると,ハンドリング中に層が裂け易く成功率が極めて低いのが現状である.また,薄い層において目標とするヒト皮膚の光学特性を実現するためには,Table 1で示した数値より高い濃度の散乱体と吸収体が必要となるが,所望の濃度の試料溶液を実現することが難しい問題もある.Fig.4に0.1 mm厚の単層ファントムの断面写真を示す.ほぼ設計値通りの厚みが実現できていることが確認できる.

Fig.3 

Images of cross-section and top surface of a nine-layered skin tissue phantom.

Fig.4 

Cross-sectional image of a single layer (L1) having thickness of 0.1 mm.

L4~L9については血液を含むため,その酸素化状態を考慮する必要がある.通常環境下で作製すると血液中のヘモグロビン色素はほぼ100%の酸素化状態となる.脱酸素化状態を作るために,我々はハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)を生理食塩水で重量比20%に設定した溶液を作製しておき,各層に上部から注ぐように降りかけて浸潤させる手立てを講じた.十分に暗赤色に変化したことを目視で確認後,生理食塩水をかけて洗浄し,すぐにファントムに重ねていく.空気に露出する時間を極力短くしながら,最終的に9層を重ね終えてスライドガラスを載せて完成させる.このようにして作製した脱酸素化状態の皮膚ファントムは時間とともに酸化が進むため,短時間での活用に制限される点が短所である.

作製した各単層毎のファントムの吸収係数,散乱係数を知る必要がある場合は,個別に分光光度計による分光反射率と分光透過率を計測し,逆モンテカルロ法により推定する方法がある.

3.3  分光反射率

作製した皮膚ファントムの分光反射率をFig.5に示す光学系で測定した.ハロゲン光源からの光を6インチ反射測定用積分球(Labsphere, RT-060-SF)のサンプル窓に置いたファントムに対して,直径4 mmの円形スポット状にて照射する.サンプル窓の直径22 mmの範囲から得られる反射光を積分球を介してファイバープローブにより導光し,分光光度計(Ocean Optics, USB4000)により380~780 nmの可視領域分光反射率を計測する.また,比較のために従来型の2層ファントムをTable 2の条件と成分量に基づき作製した.この条件はヒト皮膚に似た肌色を呈するよう試行錯誤を繰り返して見出した数値であるが,2層で実現できるかなり良好なものであり,9層ファントムを開発する以前まで我々が用いていた条件となっている.さらにヒト実測値の例としては,研究室内の27歳男性の上腕内側部を対象に,ファントム計測と同様の光学系条件にて5回測定した分光反射率の平均値を採用した.

Fig.5 

Apparatus for spectral reflectance measurements of a skin tissue phantom.

Table 2  Components used for a two-layered skin tissue phantom.
Layer Thickness Scatterer Absorber Base
[mm] Intralipid 10% sol. [%] Coffee sol. [%] Horse blood [%] Agar sol. [%]
L1 1.0 10.0 20.0 70.0
L2 5.0 10.0 0.4 89.6

Fig.6に測定結果の例を示す.(a)は従来の2層ファントムの結果を示しており,ヒト皮膚実測結果である実線のスペクトルと比べて誤差が大きいことが分かる.2層タイプで用いた吸収・散乱成分量をほぼそのまま流用して作製した最初の9層ファントムの結果がFig.6(b)の×印で示したタイプ1である.9層へ細分化した特性を活かせず実質的に2層タイプと大差のない成分条件であったため,ヒトの分光反射率に対する誤差が改善されていないことが分かる.次に,Table 1に示した成分比で試作した9層ファントムの結果がFig.6(b)の○印で示したタイプ2である.最適化した成分比で作製することにより,ヒト皮膚の分光反射率に類似したスペクトル特性を実現できていることが分かる.

Fig.6 

Comparison of spectral reflectance curves between (a) human skin and two-layered phantom and (b) human skin and nine-layered phantoms, types 1 and 2.

ここで,2層ファントムあるいは3層ファントムにおいても,条件を最適化することでヒト実測値に近い分光反射率を実現できるのではないかという可能性が残る.この点に対して,我々が試みた製作の範囲では,その実現は極めて難しいという経験的な結論を有している.ヒト実測で得られる独特なスペクトル形状は皮膚組織内の深さ方向に異なった条件で分布する散乱と吸収の不均一な光学特性の寄与による結果であるからと考えられる.この解釈の可能性を裏付けるもう一つのアプローチとして,平行層状皮膚モデルに対する光伝搬モンテカルロシミュレーションによる分光反射率形状の考察17)がある.数値シミュレーションにおいて3層モデルでは層の厚み,散乱,吸収の様々な条件を組み合わせてもヒト実測に近い形状を生成することはなかなか困難であるが,9層に細分化することで平均二乗誤差が1~2%以内に収まる程度のヒト実測値に近似したスペクトル形状が生成できることが分かっている.皮膚組織の深さ方向に沿った光学特性の不均一性を極力実現することが数値シミュレーションにおいても,ファントム作製においても最も重要なことであると考えられる.

Fig.7は同一成分条件の9層皮膚ファントムを10回作製し,その分光反射率を計測した結果を示している.反射率が低い短波長側(480 nm以下)で変動がやや大きくなっている.標準偏差は波長400 nmにおいてσ = 2.7%であり,全体として良好な再現性が確認できた.Fig.8は,作製した9層皮膚ファントムの分光反射率の時間経過に伴うスペクトル形状の変化を調べた結果である.これより,380~420 nm,480~540 nm,590~680 nm付近の波長領域において経時的な分光反射率の低下が観測される.410 nm付近では血液中のポルフィリンがプロトポルフィリンIXに変性し,520 nm,および630 nm付近では血液中のヘモグロビンがメトヘモグロビンへと変性したことによる吸収の増加により,共に分光反射率が低下したものと考察される.また,各層の界面では浸透圧による吸収体成分と散乱体成分の物質移動が生じると思われるが,短時間の使用であれば,その影響はほとんど無視できると考えられる.こうした結果から,本ファントムは作製後5分程度以内に必要な計測を行うことが望ましいと考えられる.

Fig.7 

Reproducibility of spectral reflectance curves in ten fabrications (1st to 10th) of a nine-layered skin tissue phantom.

Fig.8 

Temporal change of spectral reflectance curves.

皮膚ファントムの酸素飽和度は通常の作製環境下ではほぼ100%であるが,還元剤(Na2S2O4)の使用により脱酸素化状態を模擬した場合の計測を行った.血液50 mlに対して0.1 mlのNa2S2O4溶液を加えた場合の分光反射率は,Fig.9に示すように通常条件で作製した場合に比べて明確なスペクトル形状の差異が見られる.長波長側の650 nmから700 nm付近においては脱酸素化ヘモグロビンの吸収係数に対して酸素化ヘモグロビンの吸収係数がおよそ1桁小さい.それに由来してFig.9のSaO2 100%の反射率はSaO2 0%の場合に比べて高い値を示しているが,その差異が1桁には達していない.この領域ではメラニン色素による吸収がヘモグロビン色素の吸収と同程度に影響を及ぼしているため,酸素化と脱酸素化での差異が抑制されているためと考えられる.なお,Na2S2O4の量を調整することで中間の酸素飽和度状態を設定することは難しいため,現時点ではほぼ100%に近い酸素飽和度状態での利用に制限される.ヒト皮膚組織の血液の酸素飽和度は動脈で95%前後,静脈で60~80%であることから,今後これらの条件を実現できる手法を開発することが必要である.

Fig.9 

Spectral reflectance curves of nine-layered skin tissue phantoms in oxygen saturation of nearly 100% and 0%.

4.  症例模擬ファントム

皮膚組織のヘモグロビン色素由来の症例として,紫斑のファントムを試作した.慢性色素性紫斑の病理組織画像を見ると,紫斑は赤血球が真皮上層に漏出することで生じていることが分かる21,22).そこで,9層モデルにおける乳頭層(L4)と乳頭下層(L5)における血液濃度を増加させた皮膚ファントムを作製した.Fig.10(a)に作製した正常ファントムと紫斑ファントムの各個体の写真を示す.赤みの増した仕上がりとなっている.Fig.10(b)には血液濃度変化に応じた円形状紫斑部分を埋め込んで比較したファントムの例を示す.血液濃度の増加に伴い,赤みが増していることが容易に確認できる.

Fig.10 

Photographs of (a) nine-layered skin tissue phantoms fabricated in normal and purpura conditions and (b) top view of purpura regions in four different blood concentrations.

Fig.11に試作した紫斑ファントムの分光反射率,およびLAB表色系におけるa*値の変化を示す.Fig.11(a)において血液濃度の増加に伴い,分光反射率は全体に低下することが分かるが,特に500~600 nmの波長帯域での低下が明確である.そのため,580 nm付近から長波長測にみられる反射率の増加の度合いは,相対的に血液濃度が高い程より顕著になっている.この効果は視覚的には赤みが増す特性であり,実際にFig.11(b)に示すa*の値が血液濃度の増加に伴い増加していることと対応する.また,この色合いは文献における紫斑のダーモスコピー画像22)とも類似していることが確認できた.

Fig.11 

(a) Spectral reflectance curves and (b) a*-values of a pigmented purpura-like phantom with different blood concentrations.

5.  おわりに

皮膚の層状性組織を光学的に扱うことのできる9層構造皮膚モデルに基づき,寒天を母材とした多層構造光学皮膚ファントムを開発した.従来から広く扱われてきた2層構造,あるいは3層構造に比べて,皮膚組織内の散乱・吸収の変化をより詳細に制御できる点で検証実験等に有利である.作製にある程度の熟練を要するが,同一製作者による繰り返し製作の再現性は良好であり,十分に実用的であると考えられる.一方,ウマ保存血液のヘモグロビン酸素化,脱酸素化の調整方法が未開発である.また,製作後に経時劣化を伴うことも明らかとなった.長期間の利用については,別途シリコーン材を用いる皮膚ファントム23)を開発中であるが,まだヒト皮膚の分光反射率に近いスペクトルを実現できていない.寒天タイプとシリコーンタイプのファントムはそれぞれ特徴があり,状況や用途において使い分けることで,光学皮膚ファントムとして有効に活用できると考えられる.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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