The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Future Perspective of Clinical Application of the Minimally Invasive Laser Therapy Using Composite-type Optical Fiber for Endometrial Lesions
Kana Iwai Kiyoshi OkaEmiko NiiroYuki YamadaYasuhito TanaseRyuji KawaguchiHiroshi Kobayashi
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2020 Volume 40 Issue 4 Pages 386-391

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Abstract

子宮体部病変の診断には,これまで超音波検査や子宮体部細胞診が用いられてきた.しかし,超音波や細胞診では病変を直視下に観察できず,診断には限界がある.複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置では,子宮体部が鮮明な画像にて観察することが可能であり,直視下に目的とする組織へのレーザー焼灼が可能である.本技術が臨床応用できれば,早期子宮体癌への新たな治療戦略となる可能性がある.

Translated Abstract

Ultrasonic testing and cytodiagnosis have been used for the diagnosis of endometrial disease. However, lesions can not be observed under direct view with these techniques. Laser therapy facilitates observation and treatment of the uterine body. The images produced by the minimally invasive laser therapy system are of high quality, and it is easier to irradiate a laser beam on target lesions. This technology may provide a new treatment strategy of early endometrial cancer.

1.  はじめに

子宮体部病変には,子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫,子宮内膜増殖症,子宮体癌などがある.子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫は不正出血や過多月経などの症状を来し,貧血や不妊症の原因となり,女性のQOLを低下させる.子宮体部病変の診断は主に超音波検査にて行われるが,その正診率は低いのが現状である.

子宮体癌は近年罹患数が増加傾向にあり,生活様式の欧米化に伴い,今後本邦でもさらに増加していくことが予測される.しかし,子宮体癌の検診としては,内膜細胞診が施行されているが,その正診率は頸部細胞診と比較すると低いのが現状である.また,近年,少子高齢化ならびに結婚年齢の晩婚化により生殖年齢で子宮体癌に罹患する症例が増加している.その多くが治療のために子宮を摘出し妊孕能の喪失をきたしている.そのため子宮内膜を直接観察し診断,治療する機器の開発は喫緊の課題である.我々は原子力研究開発機構とともに,複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置の開発を行ってきた1).今回,これまでの研究結果および今後の展望について解説する.

2.  複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置

子宮体部病変の診断率の向上には,直視下に子宮内膜を観察できるシステムの開発が必要である.また近年,癌治療においてPDT治療や焼灼療法等の低侵襲なレーザー治療が注目を集めており,子宮体癌の初期病変への治療にレーザー治療が応用できると考え,原子力研究開発機構とともに,複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置の開発を行った.

複合型細径ファイバは径が1 mmであり,画像処理技術の向上とともに鮮明な画像を取得することが可能となっている.また細径であるため,従来の子宮鏡とは異なり,子宮頸管の拡張処置などが不要となっており,患者への侵襲が少なく子宮内膜を観察することが可能である.

複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置は,子宮口からの挿入が可能な極細(直径1.1 mmあるいは0.8 mm)の内視鏡の先端にレーザー照射装置が組み込まれたものである.複合型細径ファイバは,外子宮口から容易に挿入でき,子宮腔内を観察することができる(Fig.1).従来のレーザー装置は,内視鏡の鉗子口からレーザー導光用のファイバを挿入し患部にレーザーを照射する形態をとることが多いため,スコープによる観察方向とレーザー照射方向が必ずしも一致せず,病変部に的確にレーザーを照射するには熟練の技術を要する.しかし,複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置は,従来のように子宮鏡とレーザー照射装置を別々に挿入する必要がなく,直視下に病変を確認しながら,そのままレーザー焼灼が可能となっている(Fig.2).このレーザー内視鏡手術を応用すれば,直視下に初期病変をレーザー治療し,子宮の温存も可能になると考えられる.今回,この複合型細径ファイバの臨床応用にむけてレーザー照射のex vivo実験および生体における子宮内腔の観察を行った.

Fig.1 

Composite-type optical fiber

Fig.2 

The minimally invasive laser therapy system

3. レーザー照射のex vivo実験

レーザー焼灼治療器の非臨床試験として,摘出された子宮に対する複合型細径ファイバ内視鏡の挿入,観察およびレーザー照射試験をex vivo実験として行った.基礎データ取得を目的としたレーザー焼灼領域の定量的評価を行った.

対象は,当院において子宮摘出が必要と診断され,子宮全摘術を行った症例である.検体は5例であり,子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮脱,初期子宮体癌,初期子宮頸癌の症例であった.摘出した子宮を37°Cの生理食塩水で満たした恒温槽につけて固定し,37°Cの生理食塩水で子宮腔内を還流しながら同時に低侵襲レーザー治療システム内視鏡を挿入し,子宮内膜から5 mmの距離で一定の条件でレーザーを照射した(Fig.3).

Fig.3 

Ex vivo experiment of observation and laser irradiation test of the minimally invasive laser therapy system to the removed uterus

実験に用いたファイバは直径1.1 mmであり,子宮体部細胞診の採取時に使用するエンドサイトよりも細いため,子宮内の挿入は容易であった.またファイバの挿入による,子宮頸管や内膜への損傷などもなく,出血をきたすことがないため鮮明な子宮内の画像を取得することができた.

子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮脱,子宮頚癌の正常子宮内膜症例では子宮底部から卵管開口部が描出された(Fig.4A).子宮頚管内の画像も鮮明で,腫瘍性病変がないことが確認できる(Fig.4B).子宮頸管内や内膜の性状,卵管開口部など従来の子宮鏡と遜色のない画像が得られた.今回の子宮頸癌症例では初期であり肉眼病変が認められず,ファイバでも病変は指摘できなかった.

Fig.4 

The images produced by the minimally invasive laser therapy system

初期子宮体癌症例では,子宮内腔より隆起する多発性の表面平滑なポリープが描出されている(Fig.5A).内膜に一部不整および異型血管を認めた(Fig.5B).スコープ映像は現時点で十分診断に応用できると考えられた.

Fig.5 

Endometrial cancer

さらに画像を確認しながら,正常内膜症例のうち子宮筋腫症例に対してレーザー照射実験を行った.ファイバ画像では中央の円形部位からレーザーが照射されることになる.レーザー照射の方向と観察方向が一致しており,目的とする組織への照射が容易であった(Fig.6).焼灼した部分の組織切片を作成し実際の組織変性効果を確認した.組織切片からは,子宮内膜が焼却されていることが確認できた.しかし焼灼範囲は直径3 mm,深さは1 mm程度であり,もう少し出力をあげていく必要があると考える(Fig.7).

Fig.6 

Laser irradiation

Fig.7 

Macroscopic and microscopic findings after laser irradiation of endometrium tissue

4.  生体における子宮内腔の観察

次に複合型細径ファイバを用いて,生体においても子宮内腔の観察が可能か検討を行った.当院において,2015年1月から2017年8月までに子宮鏡検査が必要な症例を対象とした.対象症例は子宮鏡検査前に,ソフトサイトに挿入した複合型細径ファイバ内視鏡を子宮内に挿入し,生理食塩水で子宮腔内を還流しながら内腔を観察した(Fig.8, 9).内腔観察後に頸管拡張を行い,子宮鏡検査をカールストルツ社製HOPKINS II®の直径5 mmの直視鏡を用いて行った.本研究は奈良県立医科大学の倫理委員会にて承認を得て行った(倫理審査番号:874,承認日:平成26年5月10日).

Fig.8 

The minimally invasive hysteroscope

Fig.9 

Insertion of the minimally invasive hysteroscope

症例は15例であり,年齢の中央値は44歳であった.閉経前の症例が11例,閉経後の症例が4例であった.疾患としては,子宮体癌が4例,子宮内膜ポリープが4例,子宮筋腫が5例,その他が2例であった.15例のうち未経産婦は3例あったが,いずれの症例も複合型細径ファイバの挿入・観察は問題なく可能であり,挿入による合併症などは認めなかった.

内視鏡映像は子宮内膜の色調,異常血管の有無,両側卵管開口部などを明瞭に描出することができた.子宮体癌症例においては異型血管の確認が可能であった(Fig.10).また子宮内膜ポリープ症例や粘膜下筋腫症例では腫瘤の部位や起始部の同定が可能であり,既存の子宮鏡と遜色ない観察が可能であった(Fig.11, 12).また,前述の摘出された子宮での観察とも遜色ない観察が可能であり,生体においても複合型細径ファイバによる子宮内腔が観察可能であることが確認できた.

Fig.10 

Endometrial cancer

Fig.11 

Endometrial polyp

Fig.12 

Submucosal leiomyoma

5.  子宮体癌診断の問題点

子宮体癌の75%以上が閉経後の症例であり,性器出血を契機に発見されることが多い2).しかし早期発見のためには無症状のものに検診を行う必要がある.子宮頸癌においては,その自然史,疫学,検出法,発生要因が明らかになってきており,異形成,上皮内癌を目標とした早期発見のための検診がなされ,着々と成果を挙げている.しかしながら,子宮体癌検診は日本において広く行われているが,検診の有効性は実証されていないのが現状である3).子宮体癌の一次検診としては,子宮内膜細胞診が行われている.子宮内膜細胞診の子宮体癌の検出感度はおよそ90%と報告されているが,単回の内膜細胞診では11.2%が子宮体癌を診断できなかったと報告もされている4,5).2次検査として,子宮内膜生検を行うが,その操作は盲目的である.高分化癌では病変が小さく,正常内膜や増殖症と共存している場合があり,盲目的な細胞診や組織診では見逃される可能性があり,直視下の検査が可能な子宮頸癌と比べて検診の有効性が低い原因となっていると考えられる.

子宮内腔の直接的な観察を行う方法としては子宮鏡検査が挙げられる.近年の子宮鏡の開発進歩により子宮鏡検査の重要性は増してきている.しかし,子宮鏡検査はその径の太さから挿入困難例,疼痛,出血によって観察に支障をきたすことがある.外来で行う子宮鏡検査では重篤な合併症は少ないが,気分不良や疼痛などにより検査継続が困難となる症例がある6)

今回我々の用いた複合型細径ファイバは外径が0.8~1.1 mmであり,子宮頸管拡張を必要せずに挿入することができる.そのため,頸管拡張などの前処置などが不要となり,外来診療などにおいても円滑に使用できる.また外径が細いため,挿入時の出血や疼痛などの軽減することができる.今回の検討でも症例数は少ないが,検査不能例はなかった.

6.  子宮体癌治療の問題点

子宮体癌の治療は子宮全摘術が行われる.しかし近年妊娠年齢が高齢化しており,挙児希望時に子宮体癌に罹患する患者が増加している.そのため妊孕性温存のための治療が求められている.子宮体癌の妊孕性温存療法としては,子宮内膜に限局する類内膜癌(Grade 1相当)および子宮内膜異型増殖症に対して,黄体ホルモン療法が行われている.しかし,黄体ホルモン療法では,奏効率は78%であり,再発率は子宮内膜異型増殖症で23%,類内膜癌で35%と報告されている7).黄体ホルモン療法は再発率が高く,新たな治療方法が求められている.

その新たな治療方法をしてレーザー治療が応用できる可能性がある.今回の我々の検討では,ex vivo実験ではあるが,子宮内腔を観察しながらレーザー焼灼を行うことができた.しかし,焼灼領域の広さや深さに関してはまだ不十分であり,今後レーザー出力など改善が必要である.

7.  今後の展望

複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置の臨床応用できれば,外来にて容易に子宮内腔を観察でき,子宮体癌や子宮内膜ポリープ,子宮粘膜下筋腫の診断率の向上が期待できる.現時点でファイバ画像は子宮内膜の色調や病変の同定,異常血管の有無など,従来の子宮鏡と遜色のない観察が可能であった.患者への負担や痛みがほとんどない状態で,外来にて容易に子宮内腔を観察できるようになれば,子宮鏡を超音波検査のようなルーチン検査とすることができる可能性がある.外来にて検査を行うには光源装置やモニターの小型化を行い,利便性を高める必要がある.

また,子宮体癌のレーザー治療を確立できれば,子宮全摘しか治療法のなかった患者に新たな治療法の選択肢を増やすことができる.しかし,まだ焼灼範囲や深度が不足しており,現状では広範囲の子宮体癌病変や増殖症などの治療には長時間を要してしまう.レーザー出力を上げることは今後の課題である.

8.  おわりに

子宮体部病変に対する複合型細径ファイバを用いたレーザー治療装置の開発は,外来診療に応用可能な技術である.子宮内腔の観察が,外来にて容易に行えるようになれば,子宮体癌や子宮内膜増殖症,子宮内膜ポリープなどの発生の機序などについての新たな知見が得られる可能性がある.また子宮体癌に対するレーザー治療は,妊孕性温存希望のある子宮体癌患者の新たな選択肢となる可能性がある.

利益相反

開示すべき利益相反なし.

引用文献
 
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