The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Outcome of Photodynamic Therapy With Diode Laser and Indocyanine Green Modified Liposome in Animal Spontaneous Occurring Tumors
Yoshiharu Okamoto Masamichi YamashitaTomohiro OsakiKazuo AzumaNorihiko ItoYusuke MurahataTakeshi TsukaTomohiro ImagawaAkiko SuganamiYutaka Tamura
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2020 Volume 40 Issue 4 Pages 408-412

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Abstract

2010年,我々はインドシアニングリーン(ICG)をリン脂質成分に結合させたICG修飾リポソーム(ICG-lipo)を開発した.今回,動物の自然発症腫瘍38症例に対して治療成績を評価した.治療はICG-lipo(抗がん剤等内包)を点滴投与後,半導体レーザー装置を用いて患部に10~20分間光照射した.照射間隔は毎日~週3日で実施した.Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)に基づく判定結果は,CR(Complete response):3例,PR(Partial response):13例,SD(Stable disease):18例,PD(Progressive disease):4例,だった.奏効率(CRおよびPRの割合)および有効率(CR,PR,SDの割合)は,42.1%および89.5%だった.特にリンパ腫の奏功率は85.7%と高値を示した.2症例以上ある腫瘍で,リンパ腫,血管肉腫以外は有効率が100.0%を示した.本治療を実施することにより,約半数の獣医師が一般状態の改善を認めた.このことは本治療法の有効性を示すものと思われる.

Translated Abstract

We synthesized liposomally formulated phospholipid-conjugated indocyanine green (ICG-lipo) in 2010. Using the ICG-lipo and diode laser, we tried to treat in 38 cases of animal spontaneous tumors. Irradiation was performed for 10–20 min and its intervals were every day or 3 times per week after injection of the ICG-lipo. Due to Response Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST), outcome of response rate of 38 cases was as follows; CR (Complete response): 3 cases, PR (Partial response): 13 cases, SD (Stable disease): 18 cases, PD (Progressive disease): 4 cases. Response and Efficacy rates were 42.1% and 89.5%, respectively. In particular, Response rate of lymphoma was 85.7%. In the tumors which have more than two cases, efficacy rate was 100.0% except for lymphoma and hemangiosarcoma. Out of veterinarians who performed this therapy, about half of them recognaized improvement of general condition of patients. This evidence suggests efficiency of this therapy as a cancer therapy.

1.  緒言

2010年,千葉大の田村らは,細胞膜の脂質成分で作られた小さな気泡(小胞),すなわち“リポソーム”の膜にインドシアニングリーン(ICG)を結合させることに成功し,ICG修飾リポソーム(ICG-lipo)と称した1).ICG-lipoをセンチネル生検時に用いた場合,長期間リンパ節に滞在し,ICG単独に比べてリンパ節のイメージングとして有効であることを報告した2).その後,ICGの光特性,すなわち波長800 nmの光を吸収して発熱(温熱効果)3-5),波長600~800 nmの光を吸収して活性酸素を誘導(光線力学効果)する6)ことに注目し,ICG-lipoを光増感剤としたがんに対する光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)の可能性を検討した.動物実験での安全性,担癌マウスを用いた有効性を確認した後,それらの実験結果を踏まえ,2012年7月より犬猫の自然発症症例に対してICG-lipoを用いたPDTを開始した.また,同時に動物実験も継続して実施し,本剤は脳血管関門を通過し,脳腫瘍に対しても有効であることがわかった7).さらに,ヌードマウスを用いた実験では抗腫瘍効果が見られないことから,本治療法は免疫誘導が関与していることが示唆された.2014年,その結果の一部を本誌で報告した8).今回,ICG-lipoに内包する薬剤を追加し,治療効果を検討した.

2.  症例

2014年10月~2016年7月末までに,本学附属動物医療センターおよび提携病院でICG-lipoを用いたPDTを実施した犬猫の自然発症腫瘍38例を対象とした.

ICG-lipoの調整は,バイアルにICG修飾体,コレステロール,DOPCを入れてメタノール・クロロホルム混合液を加え,溶解後減圧乾燥を行い,使用するまで凍結保存した1).その後,各バイアルにカルボプラチン(カルボプラチン点滴静注液50 mg/5 ml,日本化薬株式会社,東京)1 ml,ブレオマイシン(ブレオ注射用5 mg,日本化薬株式会社)0.2 ml,ビンクリスチン(オンコビン注射用1 mg,日本化薬株式会社,東京)0.2 ml,ドキソルビシン(アドリアシン注用10 mg,協和発酵キリン株式会社,東京)0.5 ml,アンサー20(ゼリア新薬,東京)100倍希釈液0.1 mlを加え,リポソーム作製器を用いてリポソーム化した.内包した各抗がん剤の濃度は,通常全身投与する量の1/10量とした.投与量は~7 kg:1バイアル,7~20 kg:2バイアル,21~40 kg:3バイアルとした.

治療は,ICG-lipo原液を10%ブドウ糖液で10倍希釈し,40~60分かけて点滴投与した後に半導体レーザー(波長:810 nm,最大出力:15 W,DL-15,飛鳥メディカル,京都)とロータリーハンドピースを用いて光照射した.出力は5 W時で2.2 W/cm2,10 W時で4.4 W/cm2だった.照射方法は,患部直上の皮膚にエコーゼリーを充填したビニールパック(エコーゼリーを充填しているため約5 mmの厚みあり.事前に冷蔵庫で冷却しておいた)を設置し,光源装置をビニールパックに接触させて患部に向かって光照射した.照射時,円を描くように光源装置をビニールパック上で動かしながら照射した.照射条件は,表在性腫瘍に対しては5 W,深部腫瘍(鼻腔,頭蓋骨内,胸腔,腹腔)に対しては10 Wとした.照射間隔は毎日~週3日で実施した.1クール(3週間)終了毎に判定を行った.

腫瘍体積の増減判定はResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)に基づき,CR(Complete response),PR(Partial response),SD(Stable disease),PD(Progressive disease)の4段階とした.判定は治療終了時に担当獣医師が実施した.また担当獣医師に対して,今回の治療についてのアンケート(一般状態,副作用,延命効果,総合評価)も併せて実施した.

3.  結果

38症例のRECISTに基づいた結果をTable 1に示した.38症例中,CR:3例,PR:13例,SD:18例,PD:4例だった.奏効率(CRおよびPRの割合)および有効率(CR,PR,SDの割合)は,それぞれ42.1%,89.5%だった.

Table 1  Summary of result
Evaluation* Number of case Percentage (%)
CR 3 7.9
PR 13 34.2
SD 18 47.4
PD 4 10.5
Total 38 100.0

*Evaluation was performed by Response Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST).

CR: Complete response, PR: Partial response, SD: Stable disease, PD: Progressive disease.

症例数が2例以上の各腫瘍の効果判定をTable 2に示した.3症例以上ある腫瘍のうち,リンパ腫では奏功率が85.7%だった.一方,悪性黒色腫の奏功率は0.0%と最も低かった.それ以外の腫瘍では33.3~60.0%であった.有効率では,リンパ腫は85.7%だったが,それ以外の腫瘍では100.0%だった.2症例しかなかった腫瘍では,肺腫瘍,鼻腔内腫瘍の奏功率は50.0%だった.有効率に関しては,血管肉腫は50.0%だったが,それ以外の腫瘍では100.0%だった.

Table 2  Summary of result of main tumors
Tumor Number of case CR PR SD PD Response rate (%)1) Efficacy rate (%)2)
Lymphoma 7 1 5 0 1 85.7 85.7
SCC3) 5 0 3 2 0 60.0 100.0
MGT4) 4 1 1 2 0 50.0 100.0
Melanoma 3 0 0 3 0 0.0 100.0
perianal tumor 3 0 1 2 0 33.3 100.0
Liver cancer 2 0 0 2 0 0.0 100.0
Lung cancer 2 0 1 1 0 50.0 100.0
Nasal cancer 2 0 1 1 0 50.0 100.0
Hemangiosarcoma 2 0 0 1 1 0.0 50.0

1) Response rate (%): Percentage of CR and PR, 2) Efficacy of rate (%): Percentage of CR, PR, and SD, 3) SCC: Squamous cell carcinoma, 4) MGT: Mammary gland tumor

体表,口腔,腹腔に発生した腫瘍について,その結果をTable 3に示した.奏効率は体表が50.0%と高く,口腔,腹腔は25.0%だった,有効率については,体表,口腔,腹腔はそれぞれ85.7%,100.0%,75.0%だった.

Table 3  Summary of result of tumors which developed at skin, abdomen, and oral cavity
Site Number of case CR PR SD PD Response rate (%)1) Efficacy rate (%)2)
Skin 16 2 6 6 2 50.0 87.5
Abdomen 8 1 1 4 2 25.0 75.0
Oral 8 0 2 6 0 25.0 100.0

1) Response rate (%): Percentage of CR and PR, 2) Efficacy of rate (%): Percentage of CR, PR, and SD

Fig.1に一般状態の評価を示した.本治療法を実施したことにより,一般状態が改善したと回答した獣医師は50.0%,変化なし:39.5%,悪化は10.5%であった.約半数の獣医師が本治療を行うことにより,一般状態が改善したと回答した.

Fig.1 

General condition.

Fig.2および3に副作用および延命効果の評価を示した.副作用は3例(8.1%)でみられた.主な副作用としては,投与直後のアナフィラキシー様症状(呼吸速迫,かゆみ,ふるえなど)が報告された.延命効果については約8割で延命効果がみられたとの評価であった.

Fig.2 

Side effects.

Fig.3 

Survival advantage.

Fig.4に総合評価を示した.その結果,著効:10.5%,有効:71.1%,無効:15.8%,判定不能:2.6%であった.

Fig.4 

Overall judgement.

4.  考察

今回の結果から,半導体レーザーとICG-lipoを用いた本治療は安全で有効な治療法であることが確認された.2014年10月までは内包する抗がん剤は2種類(カルボプラチン,ブレオマイシン)だった.それまでの症例に関しては,奏効率53%,有効率62%だったことから,より効果を期待して2剤から4剤に増やした.その結果,奏効率は42%に減少したが,有効率は82%に上昇した.また,PDは37%から19%に減少した.このことは化学療法で言われている多剤併用の利点が表れたものと思われる.また,2014年9月までは1クールで治療を中止していた割合が70%を占めていたが,2014年10月以降は49%に減少し,各獣医師が治療の継続が重要であることを理解していただいたことも大きな要因としてあげられる.しかし,CRの割合はまだ全体の8%と低く,今後,CRを如何に増やすかが課題だと考える.

今回,リポソームに内包する抗がん剤を2剤から4剤に増やしたことに加えて,免疫増強を期待して結核菌抽出物(以下SSMと称する)であるアンサー20を100倍希釈した液を追加した.SSMは人医学領域では,「丸山ワクチン」として現在も有償治験が行われている物質である.筆者らも過去にSSMを動物の自然発症腫瘍に人医療同様のプロトコルで投与を試みたことがある.その結果,症例によっては,SSMを定期的に皮下投与するだけで腫瘍の消失がみられることを経験している.SSMに関してはまだ基礎的なデータが不足している現状にある.今後,SSMの有効性を実験的に証明していく必要がある.

本治療では,光照射パワーを2.2または4.4 W/cm2で実施した.通常PDTを行う照射条件に比べると約100倍近く大きいパワー密度である.ICGは600~800 nmの光を吸収して活性酸素を誘導することが知られている.しかし市販されている光増感剤(例えばレザフィリンなど)と比べると活性酸素量はかなり少ないことも明らかとなっている6).一方,ICGは800 nmの光を吸収して熱を発生することは以前から知られている3-5).いわゆる温熱療法の補助剤として使用が可能であり,筆者らはその基礎的検討および獣医臨床応用をこれまでに行ってきた9-12).その効果は照射量が大きいほど温熱効果は増強される.

今回,PDTと温熱効果の両方を期待してリポソームにICGを結合させた.そのため,より腫瘍効果が期待できる温熱効果に重点をおくため,照射パワーを通常のPDTに用いる照射パワーより強くした.

前回の報告時にも腫瘍の種類によって本治療法の効果に差があることを示した.今回も同様であった.今回,奏効率が50%以上だったのは,リンパ腫,扁平上皮癌,乳腺腫瘍,肺腫瘍,鼻腔内腫瘍で,逆に奏効率が0%だったのは悪性黒色腫,肝臓腫瘍,血管肉腫だった.このうち血管肉腫以外の腫瘍に関して有効率は100.0%であり,本治療によって腫瘍の増殖を抑制することができたものと考えられた.しかし,CR,PRを得るためには,今後これらの腫瘍に対して他の治療法の併用,内包する薬剤の再検討をする必要がある.

このような腫瘍による効果の差の原因として,腫瘍組織へのICG-lipoの集積性の違いがあることが予想される.リンパ腫については7例中1例が著効,5例が有効であり,奏効率が85.7%と非常に高かった.その原因を考えると,元来,ICG-lipoはセンチネル生検時に長期間リンパ節に滞在することを目的に開発されたものであるため2),リンパ節が腫瘍化したリンパ腫組織に対しても抗がん剤を内包したICG-lipoが高濃度集積し,光照射によって内包された薬剤が解放され,抗腫瘍効果を発揮するのではないかと考えられる.また,各腫瘍の症例数が少ないことも腫瘍間の効果の差異が生じた原因の一つと考える.今後,さらに症例を集積していくことが需要であると考える.

現在,リンパ腫の治療は化学療法が唯一の治療法である.しかし,その効果は約7割であり,効果がない症例もある.さらに,抗がん剤による副作用がみられることがある.今回の結果は,本治療がリンパ腫の治療法として極めて有効であることが示唆された.

発生部位別での効果を比較すると,口腔,腹腔に発生した腫瘍に比べて体表腫瘍に対して本治療法は有効であることが判明した.本治療の原理を考えると,十分量な光エネルギーが必要である.体表腫瘍に対しては十分な光エネルギーが確保できたと推察される.いっぽう,口腔内,腹腔への光照射は経皮的でおこなうため,体表腫瘍に比べて光エネルギー量が十分に腫瘍組織に到達していない可能性がある.今後,この点に関してさらなる基礎的検討が必要である.

本治療法を実施することにより,約半数の獣医師が一般状態の改善を認めたことは本治療法の有効性を示すものであると思われる.一般状態の評価は抗腫瘍効果の結果と関連していた.すなわち,抗腫瘍効果判定でPD(悪化)と判定した症例は一般状態でも悪化と判定された.

副作用については3例(8%)に認められた.そのほとんどが投与直後のアナフィラキシー様症状(呼吸速迫,かゆみ,ふるえなど)であった.これは本治療法がリポソーム製剤を使用しているため,リポソームに対する補体の活性化が原因と考えられる.また,2014年10月以降,抗がん剤の種類を2種類から4種類に変更したが,それによる副作用の割合の上昇はみられなかった.今回製造したICG-lipoに関しては,内包されている薬剤濃度とICG-lipo外の薬剤濃度は同一である.しかし,ICG-lipo外の各抗がん剤が通常量の1/10量であるため,抗がん剤の種類を増やしても生体に影響を及ぼさなかったと考えられる.

延命効果については約8割で延命効果がみられたとの評価であった.これは抗腫瘍効果の有効率とほぼ一致していた.腫瘍が縮小あるいは進行が抑制されることは,延命を示唆するものと思われる.近年,医学領域ではQOLを維持しながら寿命を全うすることが大事であると言われている.この流れは獣医領域でも徐々に浸透してきている.現時点での本治療は腫瘍を消失させることは厳しいが,腫瘍の進行を抑制することは確認できた.腫瘍が進行しなければ,生体は腫瘍と共存可能であることが推察される.

5.  結論

半導体レーザーと抗がん剤を内包したICG-Lipoを用いたPDTを行った結果,奏効率(CRおよびPRの割合)は,42.1%,有効率(CR,PR,SDの割合)は89.5%だった.特にリンパ腫の奏功率は85.7%と高値を示した.2症例以上ある腫瘍で,リンパ腫,血管肉腫以外は有効率が100.0%を示した.本治療を実施することにより,約半数の獣医師が一般状態の改善を認めた.このことは本治療法の有効性を示すものと思われる.

利益相反

利益相反なし.

引用文献
 
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