The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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ORIGINAL ARTICLE
Immediate Effect of Pulse Irradiation with a 10-W Semiconductor Laser on Current Perception Threshold and Current Pain Threshold
Nobuyuki Takeuchi Masanao Matsumoto
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2020 Volume 40 Issue 4 Pages 309-313

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Abstract

出力10 Wの半導体レーザーのパルス照射が,電気知覚閾値と電流痛覚閾値に与える即時効果を,健常成人を対象に検討した.結果,レーザー照射群では,電流知覚閾値を反映する最小知覚電流値は変化しなかったが,電流痛覚閾値を反映する最小痛み電流値は有意な上昇を認めた.一方,対照群では最小知覚電流値,最小痛み電流値共に有意な変化を認めなかった.レーザー照射により痛覚閾値の上昇が生じたと示唆された.

Translated Abstract

The immediate effects of pulse irradiation with a 10-W semiconductor laser on current perception threshold and current pain threshold were examined. As a result, the minimum perceptual current value reflecting the current perception threshold did not change, but the minimum pain current value reflecting the current pain threshold showed a significant increase after laser irradiation in the irradiation group. However, there was no significant change in the minimum perceived current value and minimum pain current value in the control group. Hence, it was suggested that laser irradiation increased the pain threshold.

1.  緒言

現在,ペインクリニックや整形外科,リハビリテーションなどの領域において,疼痛緩和を目的とした低出力レーザー療法(Low level laser therapy: LLLT)が広く行われており,関連する臨床研究の報告は多い.森本1)は疼痛を有するスポーツ障害患者にLLLTを施行した結果,特にジャンパー膝,上腕骨外側上顆炎,アキレス腱炎での有効率が高く,スポーツ障害の疼痛管理に有用であると述べている.Chowら2)は,頸部痛に対するLLLTの効果に関する報告のシステマティックレビューを行った結果,急性頸部痛では治療直後から,慢性頸部痛でも治療開始後22週までに疼痛緩和効果が認められたと述べている.こうしたLLLTの作用機序として,神経伝導抑制,血流改善,抗炎症などが提唱されている3)が,疼痛緩和機序に関連する報告としては,侵害受容性神経活動に対する効果を検討した基礎研究がある.Tsuchiyaら4,5),Satoら6)は共にラットを用いた研究において波長830 nm,出力40 mWのレーザー光を照射した結果,求心性の神経活動が抑制されたと述べ,加えて通常の神経活動への影響は小さく侵害受容性神経活動を選択的に抑制することを報告している.また,大野7)はラットを用いた研究において波長830 nm,出力60 mWのレーザーを照射したところ,電気刺激によるサブスタンスPの増加が抑制されたことを示し,これはレーザー照射がC線維の興奮伝導を抑制した可能性があると述べている.こうした報告4-7)からレーザー照射は,求心性神経のうちAδ線維とC線維を介する刺激を遮断する3)ことがわかるが,これらの研究で使用されたレーザーは,生体組織に対して熱作用をほとんど発揮しない低出力のものであり,光刺激作用8)(光化学作用)によるものと考えられている.このように疼痛緩和を目的とする領域では,以前は熱作用のない低出力の機器が主に利用されていたが,近年は最大出力10 Wのレーザー光をパルス照射するLLLT機器も臨床応用され,関連する報告も増えつつある.大国ら9)は10 Wの半導体レーザー治療器を用いて慢性疼痛患者を治療した結果,37例中33例(89%)で有効であり,1 Wの機器(有効率74%)と比して治療成績が向上したことを報告している.山田10)は,10 Wレーザーのパルス照射と1 Wレーザーの連続照射を用いて疼痛治療を行った結果,有効率は10 Wレーザーが高かったものの統計学的有意差は認めず,共に治療成績は優れていたと述べている.この2つの報告をはじめ10 Wレーザーに関する報告は,臨床研究における治療成績に関するものが多く,その作用機序解明を目的とした基礎的研究の報告は見当たらない.さらに,出力10 Wのレーザー照射では,光化学作用に加えて組織に対する熱作用も含まれると考えられるが,両者を区別して作用機序を検討することは難しいのが実情であり,今後の研究成果の蓄積が必要である.今回,筆者らは電気刺激によって生じる知覚閾値(電流知覚閾値)および痛覚閾値(電流痛覚閾値)を定量的に分析する装置を用いて,10 W半導体レーザーのパルス照射が知覚および痛覚に与える即時効果を検討する機会を得た.その成果を報告する.

本研究は,本庄総合病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号20180914).また,全対象に本研究の目的と方法を説明し,書面にて同意を得て実施した.

2.  目的

10 W半導体レーザーのパルス照射が,健常成人の知覚および痛覚に与える即時効果を明らかにすることを目的とする.

3.  対象と方法

対象は,健常成人11人の左右上肢22肢であった.この11人全員に,レーザー照射を行う照射群とsham照射を行う対照群の両群に参加してもらった.照射群または対照群に,どちらか一方の上肢で参加してもらい,その後,別の群として参加してもらう際は反対側の上肢を対象とした.全ての測定と介入は同一日に連続して実施した.照射群および対照群への参加順序と,それぞれの群で左右どちらの上肢を対象とするかは無作為に決定した.加えて,対象には照射群と対象群の参加順序は知らせなかった.照射群(または対照群)として1回目の介入を行う際は,後述の方法で最小知覚電流値と最小痛み電流値を測定し,直ちにレーザー照射(またはsham照射)を行った.照射後,直ちに最小知覚電流値と最小痛み電流値を再度測定した.その後,連続して対照群(または照射群)として,2回目の介入を反対側の上肢に行った.測定,照射,測定は1回目の介入時と同様に連続して行った.対象の除外基準は,左右上肢に特記すべき疾患の現病歴や既往歴がある,知覚および痛覚に影響を与える可能性のある疾患や外傷の現病歴や既往歴,薬剤投与などがあるものとした.

レーザー照射およびsham照射部位は前腕掌側としたが,これは後述の知覚・痛覚定量分析装置(以下,定量分析装置)の刺激電極装着部と同一部位とした.照射群には,波長830 nmの半導体レーザー治療器(Sheep,ユニタック製)を用いて,出力10 W,on20ms-off180msのパルス照射(5 Hz),照射口径14 mm,全照射時間2分30秒の条件で,検者の手持ちによる移動法で照射した(Fig.1).対照群には出力0 Wで2分30秒間のsham照射を行った.sham照射中においても,機器の照射音や冷却ファン,操作画面などは全て作動させ,レーザー光照射の有無以外の点は,照射群と同一条件で実施した.なお,本レーザー治療器は安全装置として赤色のガイド光が照射プローブ外側に点灯しており,この赤色光が実際のレーザー照射の有無を視覚的に認知しづらくしているため,照射の有無を判断しにくいという特徴がある.両群共に照射プローブ先端が皮膚に軽く接触するように照射し,過度な圧迫および触刺激が入力されないように配慮した.

Fig.1 

(a): Quantitative measurement device for magnitude of perception and pain sensation (Pain vision PS-2100, NIPRO, Japan), (b): Laser treatment equipment (Sheep, UNITAC, Japan).

本研究では,定量分析装置(PainVision PS-2100,ニプロ製,Fig.1)を用いて,電流知覚閾値の指標として最小知覚電流値を測定し,同じく電流痛覚閾値の指標として最小痛み電流値を測定した.電流を0 Aから漸増させた際に対象が電流を知覚した最小の値を最小知覚電流値,さらに漸増し続けた際に痛みを感じる最小の値を最小痛み電流値として測定した.

定量分析装置の刺激電極貼付部位は,瀬野ら11)の方法を参考に,前腕掌側の肘窩中央部と手関節中央を結ぶ線の中点で尺側1 cmのところに電極の中心部を合わせて貼付した.さらに電極周囲の皮膚にマーカーペンでマーキングし,再貼付時はその位置に合わせて装着した(Fig.2).測定肢と反対側の手に分析装置のハンドスイッチを把持させた.本定量分析装置の刺激電流は,パルス幅0.3 m秒,周波数50 Hzの微分波状のパルス電流で,この電流を0 Aから開始し漸増させた.最小知覚電流の測定では,上昇電流の最大値を256 μArms,上昇電圧の最大値を200 V,電流上昇時間を60秒に設定した.最小痛み電流の測定では,上昇電流の最大値を256 μArms,上昇電圧の最大値を200 V,電流上昇時間を50秒に設定した.最小知覚電流測定時は「電流を感じたら,あるいは何かチクチクするような感覚がしたら直ちにスイッチを押してください」と指示し,3回測定し平均値を算出した.最小痛み電流の測定時は「痛みを感じたら,またはこれ以上我慢できないくらいの不快な感覚を感じたら直ちにスイッチを押してください」と指示し,3回測定し平均値を算出した.なお,本研究では刺激電極の脱着に伴う測定信頼性の低下が生じることが考えられたため,事前に健常成人10人を対象として測定再測定信頼性を確認した.前述の測定方法と同じ方法で最小知覚電流値と最小痛み電流値を測定し,電極を外した後にマーキングに合わせて再貼付し,再び両電流値を測定した.その結果,級内相関係数(1, 3)は最小知覚電流値が0.953(p < 0.001),最小痛み電流値は0.929(p < 0.001)で高い測定信頼性を認めたため,この方法で本研究を行うこととした.

Fig.2 

Laser irradiation area and stimulation electrode mounting site of quantitative measurement device.

Four sites on the circle in the figure were irradiated (Each site was consecutively irradiated for 3 sec, and this procedure was repeated for 2 min 30 sec).

統計解析は,統計解析ソフトウェアSPSS(ver. 23.0J,IBM製)を用いて行った.両群の照射前における最小知覚電流値および最小痛み電流値について,対応のあるt検定にてベースライン値の群間差の有無を確認した.レーザー照射の効果判定として,対応のあるt検定により照射前後の各電流値を群内比較した.加えて,効果量rを算出して検討に用いた.有意水準は5%とした.

4.  結果

Table 1に対象者情報,Fig.3に最小知覚電流値の測定結果,Fig.4に最小痛み電流値の測定結果を示した.記載の数値は平均値(95%信頼区間 Confidence interval,以下CI)で示した.

Table 1  Subject characteristics
Total (n = 11) Irradiation group (n = 11) Control group (n = 11)
Age (y) 31.9 (25.4–38.4)*
Height (cm) 165.8 (160.8–170.8)*
Body weight (kg) 58.2 (52.5–63.9)*
Sex (Male/Female) 7/4
Intervention side (Right/Left) 11/11 5/6 6/5

*: mean (95%Confidence interval)

Fig.3 

Change in minimum perceived current value.

ES: Effect size, M: Medium, S: Small.

Fig.4 

Change in minimum pain current value.

ES: Effect size, L: Large, M: Medium.

両群の照射前における最小知覚電流値(p = 0.372)および最小痛み電流値(p = 0.136)は,共に統計学的に群間差を認めなかった.

最小知覚電流値は,照射群の照射前が9.15(CI 7.32~10.98)μArms,照射後が10.48(CI 8.11~12.86)μArmsで,照射前後に有意な差を認めなかった(p = 0.325).対照群は照射前が8.35(CI 7.01~9.68)μArms,照射後が9.16(CI 7.61~10.74)μArmsで,照射前後に有意な差を認めなかった(p = 0.367).

最小痛み電流値は,照射群の照射前が73.32(CI 44.73~101.91)μArms,照射後が88.64(CI 52.50~124.79)で照射前に比して照射後に有意な高値を認めた(p = 0.041).一方,対照群は照射前が59.69(CI 39.72~79.65)μArms,照射後が67.28(CI 42.37~92.19)μArmsであり照射前後で有意な差を認めなかった(p = 0.153).

効果量はChoen12)の基準によると,0.1 < r < 0.3で“小(Small)”,0.3 < r < 0.5で“中(medium)”,0.5 < rで“大”(Large)と判断される.最小知覚電流値の効果量は,照射群が“中”(r = 0.31),対照群が“小”(r = 0.29)であった.最小痛み電流値の効果量は,照射群が“大”(r = 0.59),対照群が“中”(r = 0.44)であった.”

5.  考察

両群の照射前における最小知覚電流値および最小痛み電流値は,共に統計学的な群間差を認めなかったことから,照射前のベースライン値は同等であり,群間に偏りの無い状態でレーザー照射およびsham照射を行うことができたと考えられた.また本研究では,全対象に照射群および対照群としての介入と測定を同一日に連続して実施した.照射群と対照群の介入側(右上肢,左上肢)は異なるが,ベースライン値に有意差を認めなかったことから,相互の影響は無い,あるいは最小限にとどめた状態でレーザー照射の効果を検討できたと示唆された.

最小知覚電流値は照射群,対照群共に照射前後で統計学的有意差を認めなかったことから,今回の照射条件によるレーザー照射では,電流知覚閾値に影響を与えないと示唆された.ただし,照射群の最小知覚電流値の効果量は“中”であった.先行研究4-6)では,レーザー照射は侵害受容性神経活動ではない通常の神経活動には影響しないと報告されているが,これらは40 mWのレーザーを用いた研究である.つまり,組織への熱作用は無く,光化学作用によるものと推察される.本研究で用いたレーザー治療器は,出力10 Wであり,光化学作用に加えて熱作用も生じていると考えられる.さらに本研究では,照射プローブ先端を皮膚に軽く接触させて照射した.過度の刺激が入力されないように配慮したが,触刺激あるいは軽度の圧刺激が作用した可能性は否定できない.このように皮膚への熱刺激や触(圧)刺激が,求心性のAβ線維やAδ線維に影響した可能性が推察され,こうした作用によって中等度の効果量を示したものと考えられた.一方,対照群の照射前後の最小知覚電流値も有意差を認めなかったものの,効果量は“小”であった.その理由として,sham照射によるプラセボ効果が生じたことや,照射群と同様に触(圧)刺激の入力が影響したことが示唆された.

最小痛み電流値は,照射群において照射前に比して照射後に有意な高値を認めた.加えて効果量は“大”であった.一方,対照群は照射前後の値に統計学的有意差を認めなかったが,効果量は“中”であった.一次求心性感覚神経のうち痛みに関わるのはAδ線維とC線維で,Aδ線維は一次痛,C線維は二次痛に関係するが,Aβ線維は触覚やしびれの感覚などに関係する13,14).今回用いた定量分析装置の刺激電流はパルス幅0.3 ms,基本周波数50 Hzの矩形パルスで50~2,000 Hzに相当する刺激である15,16).Aβ線維を効率よく刺激する周波数は2,000 Hz前後,Aδ線維は200 Hz前後,C線維は5 Hz前後17)であることから,この定量分析装置ではC線維を興奮させずに主にAβ線維とAδ線維を刺激する15,16,18)という特徴がある.前述のように,レーザー照射によって求心性神経のうちAδ線維とC線維の興奮を抑制する3)ことがわかっているが,この知見と定量分析装置の特徴から考えると,今回,照射群の最小痛み電流値が上昇した要因として,レーザー照射によりAδ線維の興奮が抑制され,その変化を捉えることができたと考えられた.また,今回用いた10 Wのレーザー治療器においても,先行研究3-7)と同様にC線維に対する作用も期待できると推察されるが,本研究の方法ではC線維の興奮抑制作用を検討することはできず,言及することもできない.この点は,今後の検討課題である.

なお,対照群の照射前後における最小痛み電流値に有意な変化を認めなかった一方で,中等度の効果量を示した要因としては,sham照射によるプラセボ効果の影響や,触(圧)刺激の入力によるゲートコントロールセオリーに基づく作用が影響したことが示唆された.

6.  結論

10 W半導体レーザーのパルス照射による即時効果として,電流知覚閾値には影響を与えずに,電流痛覚閾値を上昇させる作用が得られると示唆された.これは動物を用いた先行研究で報告されている知見と同様の結果を,本研究においてヒト生体で確認できたものと考えられた.また,レーザー照射によりAδ線維とC線維の興奮抑制作用が報告されている.本研究結果から,レーザー照射によってAδ線維に対する興奮抑制作用が期待できると示唆された.C線維に対する作用は,本研究では検討できない段階である.今後はC線維に対する作用や,実際の疼痛を有する対象によりレーザー照射の効果検証を継続していく予定である.

利益相反の開示

開示すべき利益相反なし.

引用文献
 
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