The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Sonodynamic Therapy Using Transcranial Focused Ultrasound for Malignant Gliomas
Hiroyuki Kobayashi
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2021 Volume 41 Issue 4 Pages 308-317

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Abstract

悪性神経膠腫は予後不良な原発性脳腫瘍である.本疾患の治療では外科的摘出率が予後を大きく左右するが,それは裏を返せば後療法に十分な腫瘍制御効果が無いことを意味している.つまり既存の治療とは全く異なる考え方,手法の開発が必須である.その中で個性的な存在を示してきたのが光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)で,当科においても5-aminolevulinic acid(ALA)によるPDTに関して,in vitroにてその効果を確認してきた.近年,国内における臨床試験の成績をもって実用化を果たし我々は新たな治療手段を一つ手に入れた.しかしPDTの問題は光線の組織深達度が限られていること,開頭術を必要とするという点である.一方で超音波照射による腫瘍の熱凝固の技術が進歩し,加えてポルフィリン代謝物をはじめ多くの光感受性物質が超音波照射によっても励起して活性酸素を発生することを示唆するデータが報告されたことから,PDTの組織深達度を克服に向け超音波照射と薬剤を組み合わせた熱凝固によらない新たな治療,音響力学療法(sonodynamic therapy: SDT)への取り組みが本格化していった.超音波と光がなぜ同じ効果をもたらすのかという理由は明らかになっていないが,超音波照射時に発生する気泡(microbubble)が急速に収縮,膨張するキャビテーションという現象が関与していると考えられている.さらに経頭蓋的に超音波を集束照射できる装置が実用化されたことで「開頭」というもう一つのPDTの問題点を解決できる可能性が出てきた.SDTの魅力は低毒性,低侵襲ゆえの治療継続性であると考えている.繰り返し行うことで腫瘍増殖をコントロールすることができれば治療のパラダイムシフトにつながる可能性を秘めている.現在超音波技術は急速に進歩し,日本でも本態性振戦に対しての経頭蓋超音波熱凝固療法が薬事承認され,脳腫瘍への応用の期待は高まっているが,解決すべき点は多い.そこで本稿ではSDT実現に向け超音波治療の現状を整理し,今後の展開について考察した.

Translated Abstract

Malignant glioma is the adult brain tumor with the poorest prognosis, and its median overall survival is around one year. In the treatment of this disease, the surgical removal rate has the most significant influence on the prognosis, which means that adjuvant therapy such as radiation or chemotherapy has not exerted sufficient effect. Therefore it is indispensable to develop totally different ideas and methods. Among the new attempts, photodynamic therapy (PDT) has been a unique presence. We focused on this and investigated its effect in vitro on PDT using 5-aminolevulinic acid (ALA) as a photosensitizer. In fact, in 2014, PDT was approved for glioblastoma treatment in Japan by the results of clinical trial by the Japanese research group. However, the major problems of PDT are that penetration depth of the light in brain tissue is limited and that craniotomy is necessary. To overcome issue of penetration depth, ultrasound has been expected as alternative energy source to excite the photosensitizer. Several research have shown that various photosensitizers are excited by ultrasound as well. This is so called sonodynamic therapy (SDT). Several studies have confirmed cytotoxic effect of SDT, although its mechanism has not been elucidated. Furthermore, the innovation of transcranial focused ultrasound presented the possibility to avoid craniotomy in SDT. Although there are a lot of problems to be solved, we expect that SDT can be a novel therapy. We think advantages of SDT are low toxic and minimally invasive profiles, hence sustainable treatment. If it is possible to control tumor growth by repeating SDT, we believe there is a possibility of leading to a paradigm shift of treatment of malignant gliomas.

1.  はじめに

悪性脳腫瘍,特に膠芽腫に代表される悪性神経膠腫は極めて予後不良な原発性脳腫瘍でありその5年生存率は10%に満たない.悪性神経膠腫に対する治療は手術,放射線化学療法が主体であり,手術での摘出度が予後に大きくかかわるという事実は現在も変わらない1,2).手術も技術的な革新と神経生理学的な進歩に伴いその精度が高まってきているが,機能温存と摘出率との折り合いが手術の限界を規定する.特に基底核や脳幹といった脳深部腫瘍では機能温存の観点から切除が困難である.放射線治療,分子標的を含む化学療法に関しては正常組織への晩期的な障害と蓄積毒性から長期間継続することが難しい.免疫療法などは萌芽的な脳腫瘍治療であるが3),効果に関しては未知であり治療費も非常に高額である.それゆえに,低侵襲性と継続可能性を保ちつつ,患者負担を抑えた新規治療の開発が必要である.その中で個性的な存在を示してきたのが光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)である.本邦では東京女子医大脳神経外科を主体としたすばらしい臨床試験4)の成績をもって2013年9月に原発性悪性神経膠腫に対するレザフィリン®(Talaporfin sodium)を利用したPDTが海外に先駆け認可,実用化された.本治療法は光エネルギーにより腫瘍細胞選択的に取り込まれた光感受性物質を励起させ,これが基底状態に戻る際に発生する活性酸素(reactive oxygen species: ROS)が腫瘍細胞のみに酸化的損傷を引き起こし細胞死に誘導するという正常組織にとってはきわめて低毒性の画期的な治療法で,臨床試験の結果も大いに期待できるものであった.しかし本法の問題は治療が開頭を要することから繰り返すことが困難であることと,光線深達度から表在性の病変に限られていることである.これらを解決する方法として注目されたのが超音波を用いてPDTと同様の効果を狙う音響力学療法(sonodynamic therapy: SDT)である.

本稿では脳腫瘍治療に対する超音波治療,特にSDTの背景と我々研究グループのSDTに関しての取り組みに関して紹介したい.ただし,筆者は臨床医であり物理学や化学的事象の解説には限界があることお許しいただきたい.

2.  SDT研究

SDT研究は1989年,日本の研究グループから超音波と光感受性物質であるヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)の組み合わせがマウス肉腫細胞に殺細胞効果を発揮したと報告されたことからはじまったとされる5).以来,同グループをはじめ多くの研究チームがPDTで用いられる各種のポルフィリン代謝産物系の光感受性物質が超音波下で同じ効果を発揮することが確認された6-10).現在一般的に生体毒性の低い(音響)感受性物質を比較的低い強度の超音波で照射することで殺細胞効果を発揮する方法がSDTとされている.

3.  SDTの機序

PDTは光,感受性物質,酸素の直接的な関係から成り立っているとされる.感受性物質は特定の波長をもつ光線にて励起され,そのエネルギーが光とROSに変換されることで細胞に酸化的損傷を引き起こし細胞死に誘導するとされ,ROSの主体となるのが一重項酸素(1O2)と考えられている.SDTの機序もPDTと同様ROSの発生が機序とされているが,実はまだはっきりと証明されていない.

4.  キャビテーション・爆縮崩壊・ソノルミネセンス

超音波照射は,様々な分野で用いられてきたエネルギー源の一種である.超音波照射は他の一般的エネルギー源,例えば熱,光または放射線とは性質が相違する点が多い.超音波の化学的効果は分子との直接相互作用からもたらされるものではなく,音響キャビテーション(cavitation)に由来すると考えられている.液体に強力な超音波を照射すると多数の気泡の生成とその崩壊現象がみられこれをキャビテーションとよんでいる.キャビテーションは液体中における蒸気気泡の形成(nucleation),成長(growth),収縮(compression)および爆縮崩壊(implosive collapse)の相からなる.これによって誘発される気泡は収縮時には気泡内部が数千度,数百気圧になるとされ,その結果,気泡が崩壊する際に周囲にショックウェーブと呼ばれる高エネルギー現象を引き起こす11).またキャビテーションは気泡周囲にマイクロストリーミングという現象を引き起こすことも知られている(Fig.1).SDTではこれらのエネルギーが細胞構造に直接ダメージを与える,または感受性物質を励起しROSを発生させるのではないかと推測されている12).さらにソノルミネセンス(sonoluminescence)という非常に興味深い現象が報告されてきた.キャビテーションで発生した気泡が収縮の極限に達すると気泡内部の高温高圧が主要因となりにより気体のプラズマ化が生じ非常に短時間ではあるが発光する(実際の発光をとらえた動画が公開されているのでご参照いただきたいhttp://acoustics-research.physics.ucla.edu/sonoluminescence/).SDT研究開始当初,この光をエネルギー源としてPDT同様にヘマトポルフィリンのような感受性物質が励起するのではないかと考えられてきた.光感受性物質が超音波に反応する説明として非常に合理的な現象である10).しかしながらソノルミネセンスが感受性物質を活性化するという証明はいまだなされていない.さらに光線感受性のないポルフィリン製剤を用いた実験でSDT効果が確認されており13)必ずしもソノルミネセンスがSDTの機序ではないという考えもある.

Fig.1 

Schematic illustration of ultrasound cavitation.

5.  経頭蓋集束超音波照射の開発と進歩

光に比較して超音波が治療において有利な点はその組織進達度であるが,さらに超音波を集束させることでその焦点の深達度をコントロールすることができることである.しかし,脳腫瘍に対する超音波照射では頭蓋骨という固有の問題があり軟部組織ほど容易ではない.経頭蓋超音波集束(Transcranial focused ultrasound: TcFUS)の研究は60年以上前から取り組みが始まっている14-17).当初,TcFUSは腫瘍を熱凝固し治療することを目的としていたが,その後SDTを含む様々な治療法に展開していくことになる18)

さて,人間の可聴域を超える高い周波数を持つ音が超音波とされ,おおよそ20 kHz以上とされている.医療でも広くこの技術が応用され診断,治療に役立っている.超音波発生には多くの場合電圧を力学的な圧(音波)に変換するピエゾ素子(piezoelectric: PE)が使われていて,この装置をPE変換器(PE transducer)とよび医療では目的に応じて200 kHzから4 MHzの波長帯が用いられている.また,超音波の指向性を出すために様々な工夫がなされていて,超音波を集束することは1930年台から可能であったとされている.超音波は発熱,キャビテーションによりもたらされる発光や機械的な力など様々な機序で組織に影響を及ぼすことは前述のとおりである.発熱は超音波エネルギーや組織の吸収度によってさまざまな程度でもたらされる現象で,意図的に組織温度の上昇をコントロールすることで治療に応用されてきた.さらに超音波を集束させることで,特定部位にさらなる温度上昇による組織変化,熱凝固を引き起こすことが可能となる.たんぱく質の変性の境界温度を考えると組織が57°Cから60°C以上になると凝固壊死を起こすとされ,90年台後半には超音波と組織の状況次第では十数秒で熱凝固が可能となった19).この技術を利用して腹部軟部組織,特に前立腺,子宮,肝臓に対する熱凝固を用いた治療法が脳に先駆けて確立していった20,21).一方で脳に対するFUS開発も歴史は古く,1942年Lynnらによって最初の動物実験が報告されている22).彼らは,さらに湾曲したPE変換器を使い頭皮から5.5 cmの深度に焦点を設定し照射を行った.この時用いた超音波は835 kHzであった.脳への効果は期待通りで照射部分の変性を引き起こすことが確認された.しかし同時に頭皮,頭蓋骨,硬膜に重篤な障害をきたした.原因は頭蓋骨の発熱によるものであろうと考察した.彼らは一連の研究から,表層の熱ダメージを減らし,焦点部への効果を上げるためには835 kHzよりも短い波長を用いるべきだろうと示唆した17,22).その後Fry兄弟ら研究グループもLynnらの研究の問題は頭蓋骨による超音波の反射や吸収が原因であろうと考え,開頭にて頭蓋を取り除き直接硬膜上から脳に照射する実験を実施した.彼らは4つのPE変換器から発生する超音波ビームを定位手術の技術を応用し一点に集束することでより深部で,かつ周囲に影響を及ぼすことなくピンポイントに熱変性を与えることに成功した14,15).これら研究結果をもとにFryら研究グループとMeyersらアイオワ大学脳神経外科がパーキンソン病の振戦と固縮に対して世界初のFUS治療に成功した23).しかしこの治療は開頭術を行うものでありその後登場する定位的手術にくらべ侵襲度が大きかったため期待されたほど普及しなかった.開頭なしに経頭蓋的に超音波を脳内に照射するという取り組みは地道に継続され,1970年代には頭蓋骨による超音波の吸収や拡散などのデータが報告,蓄積されるようになる24-26).これら研究成果をきっかけに80年台初頭になり経頭蓋照射が脳内に集束できる可能性が示されるようになってきたが,やはり周囲組織ダメージのコントロールと正確な照射の両立は困難であった27,28).一方で周囲組織,特に皮膚や頭蓋骨の温度上昇を抑制するため局所を水に浸して冷却する方法がとられ一定の効果が得られるようになった25).またこのころ診断用超音波では,複数のPEを実装する変換器を用い個々のPEから発生する超音波の位相を制御することで骨による信号のゆがみを補正し発熱を防止しようとする技術が開発されてきた29).90年代になるとHynynenを中心とした研究グループがついにレンズ状(半球状)に多数のPEを配列した照射装置を考案30,31).またこれにハイドロフォンを装着することで位相差を制御する方法を開発し実用化に向け一気に進歩していった32,33).2000年台に入るとCTスキャンで得られた頭蓋骨の情報をもとに超音波の反射,吸収,ゆがみ,位相差などを計算しより正確に最大限の効果を発揮するよう個々の素子を自動的にコントロールすることが可能となったことで,ついに開頭なしに頭蓋内に超音波を集束する技術が確立した34,35).さらに,もう一つの大きな課題であった,照射部位の正確性と組織温度をリアルタイムにモニタリングするという技術に関しては,軟部組織のFUS治療の分野にて開発が進んでいった.術中にMRIを用いて組織の温度上昇を計測する方法が90年前後に考案され,まもなく脳に対するFUSにも応用されるようになった36-38).MRIを用いてリアルタイムに温度測定することで,組織を40度から42度の範囲で可逆的に加熱することが可能となり,温度上昇部位と解剖学的な位置情報を照合することで正確性を把握,修正することが可能になった39).これらの技術を積み重ねた結果2004年には大型動物をもちいたFUSに成功40),InSightec社のFUS装置であるExAblate neuroの試作機が完成しこれを用いた動物実験にも成功した41).ついに2010年にはボストンのJolesz,トロントのHynynenらが本機を用いて3例の再発膠芽腫患者に対して,病変の熱凝固効果に関する臨床試験を実施するに至った42).しかしながら本試験から2つの大きな問題が生じた.一つは,温度上昇が目標に達しなかった症例があったことであった.さらに4例目に原因不明の致死的術中出血が発生したため試験は中止となった.原因究明およびその対策,改良を行ったうえで本態性振戦に対する病変熱凝固効果の臨床試験を再開,大きな成果を上げ43),FDAの承認をうけることになった.昨年わが国でも本態性振戦の治療機器として薬事承認が得られている.

FUSに用いられる超音波の周波数に関しても変遷が見られる.1940年代から黎明期では800 kHzから1 MHzが主体であった.頭蓋骨による問題を克服するための様々な研究の中でClementらは700 kHzが正常組織ダメージを小さくし,集束部分へのエネルギー集中する至適周波数であろうと報告した44).以降この周波数を中心に機器の開発が進んでいくことなり,FDAで認可されたInSightec社ExAblate 4000(Fig.2)は650 kHzを採用している.近年,開発の方向はさらに低周波数での照射に向かっており,220 kHzに関しての検討が報告されはじめている45-47).低周波超音波の利点の一つは頭蓋骨を通過しやすくなり脳内への集束が効率的になること.それに伴い高周波に比べて大きな体積に十分なエネルギー量を与えることができる点である48).ところが一方では低周波になるほど組織内に有害なキャビテーションが生じやすくなることが問題とされる49).安定したキャビテーション(stable cavitation)は周囲にマイクロストリーミングという現象を引き起こすことで細胞膜の透過性を変えることができるとされ,これはソノポレーション(sonoporation)と呼ばれ,細胞内への薬物移行性を向上させることで治療に有効と期待されている50).しかし有害とされる不安定なキャビテーション(inertial cavitation)は気泡の爆宿崩壊を引き起こし,この際生じる高エネルギーが組織破壊につながることが示唆され51,52),実際に低周波FUS(300 kHz)での検討にて致死的な出血性の組織破壊が生じることが報告されている53,54).この問題に対しての解決策として近年,これらの異なるキャビテーションを音響的な特徴で判別する方法が確立され危機的な気泡崩壊を予防することが可能となってきた55,56).低周波FUSの確立には欠かせない技術と考えられている.(Fig.3)XuらはExAblateのPE変換器を650 kHzから220 kHzに変更,さらにキャビテーション検出器を実装した試作機にて大型動物での実験を行い,不安定なキャビテーションの強度が出血の程度に相関することを組織学的に確認している57).これらの実験結果をもとに220 kHz-FUS用い脳血液関門破綻(BBB disruption)を行い抗がん剤の組織浸透性を向上することを目的とした臨床試験が悪性神経膠腫5例に対して行われた.出血性の合併症は発生せず,また,造影剤透過性,抗がん剤の組織内濃度にも変化が確認され,安全性と効果の両面で十分臨床応用可能ではないかと期待されている58)

Fig.2 

ExAblate Neuro 4000 system (InSightec, Haifa, Israel).

Fig.3 

MR thermometry (left) and cavitation detector (right).

TcFUS開発の目的は当初は熱凝固であり,すでに臨床にてその効果を発揮している.さらにその開発経緯で見いだされたソノポレーションと呼ばれる組織(細胞膜)透過性の変化を引き起こす作用,特に脳においては脳血管関門(BBB)を開くことを用いる治療法の研究が熱凝固に次いで急速に進歩している.実際,BBB開放も実用化が迫っている状況である.一方でSDT開発はまだまだ発展途上といえるが,PDTの成功を考えると,実現化は決して夢ではないと考えている.

6.  音響感受性物質(sonosensitizer)

SDTにとって感受性物質は必須の要素でありこれまで様々な物質がその可能性を検討されてきた.現在,感受性物質はいくつかのカテゴリーに分類される.まずポルフィリン系物質(porphyrin),キサンテン系物質(xanthene),そして抗がん剤が主要となるが,金属ナノパーティクルなどその他様々な物質が報告されている6,7)

中でもポルフィリン系は長年にわたりPDTでの実績があり,UmemuraやYumitaら5,9,10)の報告以来,第一世代の感受性物質として研究対象となってきた.ポルフィリン系ではHematoporphyrin(Hp)をはじめ,国内におけるPDT治療に認可を受けたphotofrin4),hematoporphyrin monomethyl ether(HMME),protoporphyrin IX(PpIX),ATX-70などが代表である.さらに広義においてはPpIXの前駆物質となる5-aminolevulinic acid(5-ALA)もポルフィリン系と考えてよいだろう.HMMEは腫瘍特異的に集積し,正常組織へ蓄積しないため毒性が低いとされている.C6 glioma細胞を用いたSDTにて著明な抗腫瘍効果を発揮したと報告されている59,60).また,Bax,caspase-3,caspase-9の発現が増強され,一方でBcl-2とFas-1の発現が抑制されることから,細胞障害がミトコンドリアの伝達系に影響を及ぼすことで引き起こされることが示唆された61).Gliomaに対する腫瘍選択性という観点においては5-ALAは傑出した物質であり,これまでに術中蛍光診断62)ならびにPDTにおいて多くの実績がある63).SDTではOhmuraら64)がC6 glioma細胞でのin vivo実験で抗腫瘍効果を報告し一気に新規治療への可能性が膨らんだ.その後も立て続けに同様のin vivoでの実験結果が報告されgliomaに対するSDTにおける5-ALAの有用性が期待されている65).その後も様々な癌種でSDTの機序が検討されているが,多くはROSの発生によるミトコンドリア障害によるアポトーシスであると報告している66,67).我々のC6およびU87 glioma細胞を用いた検討でもアポトーシスが背景にあること,また細胞株によって感受性物質の取り込みが異なること,さらに感受性物質の細胞内濃度がSDT効果に影響することが示唆された68).これまでgliomaに対してはin vitroin vivoをまとめた報告が無かったが最近SuehiroらがU251細胞を頭蓋内移植した脳腫瘍モデルにて,その抗腫瘍効果と,ROSによるアポトーシス誘発がその機序であることを見事に証明し報告した69)

キサンテン系ではerythrosin B(EB)やrose bengal(RB)が代表的な感受性物質であり超音波によるSDT効果は高いとされる.実際RBによるSDTがgliomaでも抗腫瘍効果を発揮することが報告されている70).しかしキサンテン系は腫瘍特異的な集積能に乏しいのが弱点とされる.

抗がん剤系で最も研究が進んでいるのはドキソルビシン(doxorubicin: DOX)である7).その作用機序として,DNA損傷,アポトーシス誘導,活性酸素特にヒドロキシラジカルの産生などが挙げられている.また,DOXの存在がキャビテーションをより増強するのではないかとも言われている71,72)

その他様々な物質に関して超音波感受性が検討されている.ナノ粒子(nanoparticle)もその一つとして注目されている.特に酸化チタン(TiO2)ナノ粒子は紫外線や超音波を吸収しROSを発生することが知られていることから73,74),PDT/SDTの有用性が示唆されている75-78).我々もTiO2にPEG(polyethylene glycol)を付加することで水分散性をもたせPDT,SDTの効果を検討した.PDT,SDTともその殺細胞効果がin vitroで確認されたが,その効果に関してはPDTではROSによるアポトーシスが機序と考えられたが,SDTではROS産生にはそれほど依存していないことが示唆され興味深い結果となった79,80).残念ながら生体毒性に関しては検討が不十分であり薬品として投与可能な段階にはなっていない.また,最近では酸化ケイ素(SiO2)ナノ粒子も超音波感受性を持ちSDT効果が報告されている81)

7.  我々の研究結果とSDTの今後

前述の経頭蓋MRIガイド下集束超音波装置(ExAblate Neuro;インサイテック社製)は開頭することなく超音波(650 kHz)を脳深部の責任病巣に集束することで熱凝固することを可能にした.本装置はすでに本態性振戦やパーキンソン病に対して米国などで臨床試験に成功しFDAの認可を受け43,82-86),本邦でも本態性振戦に対する薬事承認を得てすでに実臨床に導入された.しかし本装置は「高エネルギー」照射による温熱凝固が目的であり,広範に浸潤する悪性脳腫瘍治療においては周囲正常細胞への障害が避けられない.我々が目指すSDTは,熱凝固ではなく,腫瘍細胞選択性を持つ音響感受性物質に「低エネルギー」の超音波を照射することで非温熱的な腫瘍細胞死を誘導し,正常組織への障害を最小限に抑えた脳腫瘍治療である65,68)

我々の研究開始当初は照射範囲や程度を定性・定量化する手段がなく,新規治療実現のための基礎実験としては信頼性や再現性が大きな問題となっていた.そのためには超音波照射の「質と量」を可視化しうる照射装置が必要であったが,今回220 kHzの超音波を発生するExAblateを用いて実験することでこれまで報告してきたSDTの基礎研究成果68,79)を検証し実現化に向けた研究をする機会を得た(Fig.4).音響感受性物質としてその腫瘍選択性の高さから5-ALAを選択した.5-ALA自体に感受性物質としての作用はないが,投与後に腫瘍細胞内のミトコンドリア内に取り込まれ代謝される際にプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PpIX)が生成される.PpIXは正常細胞では即座に代謝されるが,悪性腫瘍細胞,特に悪性神経膠腫ではPpIXを代謝する酵素が欠損していることから,PpIXが腫瘍細胞内に蓄積するとされる.これが腫瘍細胞選択性の要因と考えられている87,88).臨床では悪性神経膠摘出の際に蛍光診断薬として広く使用され62),ヒトへの安全性と腫瘍選択性は十分証明されている.さらに我々のこれまでの研究でも音響感受性物質としての可能性を有していることが示唆されている68).以上から音響感受性物質として5-ALAが妥当であると考えた.今回の研究では,最新型220-kHz MRIガイド下FUS装置を用いた超音波照射に5-ALAを併用することで,腫瘍細胞選択的に悪性神経膠腫の増殖を抑制できるか細胞および動物実験を通して検討した.詳細は論文をご参照いただければ幸いである89).まず,SDTの効果を検討するうえで我々が重要だと考えたのは温度であった.熱凝固を起こさないだけでなく,温熱療法と同様の効果を排除するために,抗腫瘍効果が得られるといわれる42°C以上の温度90-92)に達しないよう,かつ超音波の照射領域をMR thermometryを用いて正確に把握するため,最高温度が40~42°Cに収まるように照射条件を最適化した.細胞実験を通してSDTの抗腫瘍効果が安定して得られる総エネルギーや強度などの照射条件を検討し,ラット脳腫瘍モデルに対する5-ALAによるSDTを行った(Fig.4).結果としてin vitroでは殺細胞効果,in vivoにて腫瘍の増殖と浸潤,血管新生を抑えることが示された.さらに,照射中に発生するキャビテーションを監視することで爆宿崩壊を起こさないよう条件を設定したところ,in vitroin vivoとも殺細胞効果がアポトーシスを介していることが示唆された.また,in vivoの実験では上昇温度が低いため正常脳組織の障害は確認されなかった.以上の結果から,SDTが新たな神経膠腫治療として期待できることが示唆された.

Fig.4 

Pictures showing in vitro (left) and in vivo (right) experimental settings.

現在,本態性振戦やパーキンソン病に臨床使用されているFUS装置の周波数は650 kHzであり,安全に治療できる領域は脳中心部の非常に狭い領域に限られている.220 kHz FUS装置は650 kHzのそれに比べ治療(熱凝固)可能領域がより大きいことが知られている57,93-95).さらに,我々が目指すSDTの条件は,標的組織の最高温度が42°C未満であるため照射強度,エネルギーとも非常に低くなることが予想される.つまり220-kHz FUS装置を用いて臨床でSDTを行う場合,熱凝固にくらべ一回の照射で治療可能な領域が拡大し,さらに組織障害(出血)のリスクとなる不安定なキャビテーションの発生頻度が下がることが期待される.以上から,今後SDTにおいては低周波超音波による低エネルギー照射が主流になるのではないかと考えている.課題として殺細胞効果のさらなる改善が望まれる.この要因が超音波側にあるのか5-ALAにあるのかは明らかではないが,少なくとも照射条件については調整すべきパラメーターが多く,最適化にはまだまだ検討が必要であろうと考える.また大型動物での検証も必須である.5-ALAは低毒性,腫瘍選択性に関しては素晴らしい特性を有しているが,この長所を生かした新たな音響感受性物質の開発が望まれる.

8.  おわりに

もともと集束超音波の技術はSDTのために進歩してきたものではない.超音波開発側から見れば新たな応用分野でありようやく注目されるようになったと言ってよい.よってSDTが発展するためにはPDTで得た知識,経験,ノウハウが欠かせない.この点において光の専門家の皆様にも是非SDTに興味を持っていただき研究開発へのご協力,ご参加をいただければと考えている.事実,実現化に向けては解決すべき点も多く,最も重要なSDT効果という点においても,これまでの研究データでは放射線治療や化学療法を凌駕するほど殺細胞効果,即効性は示されていない.しかしSDTが低毒性,低侵襲性を長所として生かすことができれば,長期継続可能な治療となる.つまり腫瘍を治癒できなくとも長期間増大や浸潤が抑制することができれば,「病気の駆逐」から「病気との共存」というこれまでにない考え方をもたらし,脳腫瘍治療におけるパラダイムシフトになるのではないかと期待している.

最後に北海道大学脳神経外科脳腫瘍研究グループのメンバー,医療法人北斗病院,InSightec社他,SDT研究に協力いただきました皆様に御礼申し上げます.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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