The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
Online ISSN : 1881-1639
Print ISSN : 0288-6200
ISSN-L : 0288-6200
REVIEW ARTICLE
Photobiomodulation Therapy in Plastic Surgery and Dermatology
Eiko Nakayama Toshihiro KushibikiYoshine MayumiMasato TsuchiyaRyuichi AzumaTomoharu KiyosawaMiya Ishihara
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 41 Issue 4 Pages 370-384

Details
Abstract

Low-reactive Level Laser Therapy(LLLT)としても知られるPhotobiomodulation therapyについては,これまでに創傷治癒の促進や炎症の緩和など様々な生物学的効果が報告されている.本稿では,Photobiomodulation therapyのメカニズムについてこれまでの報告を振り返るとともに,どのような臨床的効果が得られるのか,形成外科・皮膚科領域を中心に紹介する.

Translated Abstract

As for photobiomodulation therapy, also known as low-reactive level laser therapy (LLLT), various biological effects have been reported, including the promotion of wound healing and alleviation of inflammation. In this article, we will look back on previous reports on the mechanisms of photobiomodulation therapy and describe the clinical effects that can be achieved, with a focus on plastic surgery and dermatology.

1.  はじめに

Photobiomodulation therapyは,レーザー,LEDなどの光源を,可視および赤外の波長域で使用する光線療法の一種である.熱ではなく光の作用によって効果を得る治療法であるため,下限は特に決められていないが,およそ数100 mW/cm2未満の低い照射密度で行われる1).なお,地表に降り注ぐ太陽光の波長域は500 nm付近をピークに300~2,500 nmと広く分散しているため,目的に応じて特定の狭い波長領域のみを照射するPhotobiomodulationとは使用される波長の範囲に違いがある.さらに,太陽光の照射からは通常,温熱効果も得られるため,Photobiomodulationと,いわゆる日光浴は別物である.

PhotobiomodulationはLow-reactive Level Laser Therapy(LLLT)としても知られているが,近年,より安価な発光ダイオード(Light Emitting Diode: LED)が医療用レーザーと同等に機能するという報告もよく見られるようになってきており2),レーザー以外の光源を用いた,いわゆる「LLLT」が増えてきている.そのため,国際的にもPhotobiomodulation therapyという用語を使用する研究者が多くなってきている.

Photobiomodulation therapyの効能については,創傷治癒効果,抗炎症効果,抗浮腫効果,骨折治癒効果,慢性疼痛の改善,卵巣機能の改善など,多岐にわたるものが報告されている3).しかしPhotobiomodulation therapyは,未だ一般的な治療法として浸透しているとは言い難い.その理由としては,①Photobiomodulationの生物学的効果に関与する分子的および細胞的メカニズムが完全に解明されていない.②照射に関するパラメーター(波長,照射密度,パルス構造,コヒーレンス,偏光,フルエンス,照射時間など)が機械メーカーや研究者・施術者によって多岐にわたっている.③照射機器が高価なものもある.④ガイドラインが存在せず,定型的な治療が行いにくい.など,さまざまなものが考えられる4).だが近年では,分子生物学的なメカニズム解明も進み,臨床研究でもランダム化比較試験やプラセボ対照試験による報告,メタアナリシスも数多く行われ,Photobiomodulationの有用性が着々と示されている5-17)

本稿では,光・レーザーを照射することによって,何が光エネルギーを受容し,引き続いてどのような生理作用が起きているのかなど,メカニズムについてこれまでの報告を振り返り,さらにはそれによってどういった臨床的効果が得られるのか,形成外科・皮膚科領域を中心に記述していく.

2.  Photobiomodulationの基本的メカニズム

Photobiomodulationのメカニズムはまだ完全には解明されていないが,これまでの研究から,Photobiomodulationは分子レベル,細胞レベル,組織レベルと広範囲に効果を有すると考えられている18).そして,照射する光の波長によってPhotobiomodulationのメカニズムは違い,それは大きく,赤~近赤外領域光と青色領域光に分けることができる.赤~近赤外領域光は主に,創傷治癒促進や発毛促進などに使用され,細胞増殖や成長促進を期待するものが多く,Photobiomodulationの中でも特に研究が盛んな領域である.一方,青色領域光は,尋常性痤瘡や乾癬などの治療に用いられ,活性酸素種増加による殺菌効果や細胞アポトーシス誘導のようなメカニズムでその効果を得ようとすることが多い.

ここでは,まず細胞レベルでどのような反応が起きているか,代表的なものを抜粋し解説する.なお,Fig.1には赤~近赤外領域光照射におけるPhotobiomodulationのメカニズムをシェーマで示した.

Fig.1 

Cell signaling pathways induced by Photobiomodulation in the red-near infrared region

2.1  チトクロームcオキシダーゼ

光によって生物学的効果を得るためには,光子が組織内にある何らかの分子(発色団)によって吸収されなければならない2).その光受容体として,チトクロームcオキシダーゼやNADHデヒドロゲナーゼ,ポルフィリン,フラボタンパク質などが報告されている19).その中でもチトクロームcオキシダーゼは,赤~近赤外領域光によって活性化される,最も代表的な光受容体とされている20-22)

チトクロームcオキシダーゼはミトコンドリア呼吸鎖の電子伝達を触媒する複合体IVとも呼ばれるタンパク質成分であり,代謝燃料の酸化によって生じた電子を処理する最後の酵素である.チトクロームcオキシダーゼは,2つの異なる銅中心CuAとCuB,および2つのヘム中心heme-aとheme-a3を含み,4つの還元型チトクロームc分子を酸化すると同時に酸素を水に還元する.その際,4個のプロトンがマトリックスから排出され,それによって形成されたプロトン勾配が,ATP合成酵素の活性を促進する23)

2.2  一酸化窒素

生体内で血管拡張作用や神経伝達物質としての働きを持つ一酸化窒素(Nitric oxide:NO)は,チトクロームcオキシダーゼのCuBに結合することによって,上記のミトコンドリア呼吸鎖のプロセスを阻害できると考えられている24).しかし赤色または近赤外線はこの結合したNOを解離させるため,結果的にミトコンドリア呼吸およびATP産生の速度を増大させることができるとされている2,25).なお,NOとペルオキシ亜硝酸(NOとスーパーオキシドとの反応物質peroxynitrite: ONOO)は活性窒素種(Reactive Nitrogen species: RNS)と呼ばれている.どちらも高濃度では生体に有害であるものの,後述の活性酸素種(Reactive oxygen species: ROS)とともに重要な生体内シグナル伝達物質であると考えられている26)

2.3  活性酸素

Photobiomodulationにより,ミトコンドリア由来のROSの増加が報告されている21,27).このROSはミトコンドリアの単なる有害な副産物ではなく,細胞内シグナル伝達の重要な因子として細胞内の酸化還元電位の上昇を引き起こす21,28)

この酸化還元状態の変化は,核酸合成やタンパク質合成,酵素活性化,細胞周期進行など,多数の細胞内シグナル伝達経路の活性化を誘導する29).そしてこれらの反応はNF-kBやAP-1などの転写因子を誘導する18,19,27).NF-kBを例にとると,これは転写因子としてinterleukin (IL)-1,IL-2,IL-6,IL-8,IL-12やTumor Necrosis Factor (TNF)-α,Interferon (IFN)-γなどの炎症性サイトカインを誘導し,様々な刺激に対する細胞の免疫応答や炎症応答,ストレス応答,増殖応答,アポトーシス応答を調節することがわかっている30).実際,マウス胚線維芽細胞に対するダイオードレーザー(波長810 nm,0.3 J/cm2)の照射では,ROS産生の増加とNF-kBの活性化が確認されている.さらにこの研究では,ROSを抑制する抗酸化剤の添加により,このNF-kBの活性化は抑制されている.これはROSがNF-kBの活性化に深く関与しているという理論の裏付けであるとされている27)

つまり,Photobiomodulationよる酸化還元状態の変化は,成長因子の分泌や細胞外マトリックスの沈着,細胞増殖などが刺激される一因と考えられている31).他にもPhotobiomodulationにより,Table 119,32)に示すような分子が調整されることがわかっているが,その詳細なメカニズムは明らかになっていないものが多く,今後,光エネルギーの受容からこれらの分子の発現までを系統的に説明するような研究が求められている.

Table 1  Modulation of expression and secretion of molecules by Photobiomodulation19,32)
分類 分子 Photobiomodulationの生物学的効果
成長因子 BDNF,bFGF,GDNF,NGF,IGF-I,HGF,SCF,KGF,MSH,PDGF,TGF-β,VEGFなど 細胞増殖,細胞分化,骨結節形成,血管新生,創傷治癒など
サイトカイン IL-1α,IL-1β,IL-2,IL-4,IL-6,IL-8,IL-10,PGE 2,COX-2,TNF-α,IFN-γなど 細胞増殖,細胞遊走,免疫賦活作用,炎症促進/抑制効果など
小分子 ATP,cGMP,ROS,Ca2+,NOなど 細胞機能の正常化,鎮痛,創傷治癒,細胞活動の仲介,細胞遊走,血管新生など

BDNF: brain derived neurotrophic factor, bFGF: basic fibroblast growth factor, GDNF: glial derived neurotrophic factor, NGF: nerve growth factor, IGF-I: insulin-like growth factor, HGF: hepatocyte growth factor, SCF: stem cell factor, KGF: keratinocyte growth factor, MSH: melanocyte-stimulating hormone, PDGF: platelet-derived growth factor, TGF-β: transforming growth factor-β, VEGF: vascular endothelial growth factors, PGE 2: prostaglandin E2, COX-2: cyclooxygenase-2, TNF-α: tumor necrosis factor α, IFN-γ: Interferon-γ, ATP: adenosine triphosphate, cGMP: cyclic guanosine monophosphate, ROS: reactive oxygen species, NO: Nitric oxide

また,ROSは特に青色領域光の照射で大量に発生することが過去に報告されているが,その種類までは不明であった33).そこで筆者らは,青色レーザー照射によって生じるROSやRNSの種類を特定するため,波長405 nmの青色レーザーを用いた実験を行った.それは,マウスの線維芽細胞に特定のROSやRNSに反応する蛍光プローブ(Table 2)を取り込ませ,レーザー照射による細胞の蛍光輝度変化をフローサイトメトリーで計測してROS・RNSの発生状況を観察するというものである.結果,青色レーザー照射(波長405 nm, 100 mW/cm2, 180 seconds)によって,次亜塩素酸(Hypochlorous acid: HClO)を検出するHySOx(五稜化薬,日本)と,スーパーオキシド(Superoxide: O2)を検出するDihydroethidium(Thermo Fisher Scientific, USA)を取り込ませた細胞群の平均蛍光輝度は,いずれも非照射のそれと比較して2倍以上に上昇した.さらに,同じレーザーの照射でも,より少ないフルエンスでは蛍光輝度の上昇率は小さくなり,HClOとO2は用量依存的に発生する傾向がみられた.また,この実験ではNOとONOOは検出されなかったが,より長い波長の光やより長い照射時間では発生した可能性がある34).今回の実験で観察されたROSの発生が,どのようなメカニズムでPhotobiomodulation効果につながっていくのかは今後の研究課題である.

Table 2  Fluorescent probe responsive to reactive oxygen species and reactive nitrogen species, and their target
Fluorescent probe Target
OxiORANGE OH , HClO
HySOx HClO
Dihydroethidium O2
Nitrixyte Red NO
NiSPY-3 ONOO

hydroxyl radicals: OH

hypochlorous acid: HClO

superoxide: O2

nitric oxide: NO

peroxynitrite: ONOO

3.  Arndt-Schultzの法則

Photobiomodulation において重要な概念の1つにArndt-Schultzの法則がある.これは,薬物や毒物に関して昔から知られる法則で,“For every substance, small doses stimulate, moderate doses inhibit, large doses kill.”というものである.Photobiomodulationにおいても,照射された光が適正量を超えて過剰になると,かえって抑制効果を示すことが知られている4,35).この現象においては,in vitroin vivoともに多数報告されているが,そのメカニズムについては明確には解明されていない.現在報告されているのは,Photobiomodulationによって発生するROSには2種類ある,というものである.これは,低いフルエンスで産生されるROSはミトコンドリア膜電位やATP産生を増加させ,NF-κBなどの転写因子の活性化を促すが,高いフルエンスで発生させるROSはミトコンドリアを損傷し,活性酸素媒介シグナル伝達経路を介してさまざまな細胞のアポトーシスを誘導する,というものである36,37).ただし,これらのROSが同一種で用量依存性の作用なのか,それとも別種なのかはわかっていない.上述のように,ROSやRNSは細胞内シグナル伝達の重要な因子であるため,光照射によるそれらの発生の制御がPhotobiomodulationの効果を左右すると言っても過言ではない.

4.  Photobiomodulation therapyの形成外科・皮膚科領域の臨床的効果とそのメカニズム

形成外科・皮膚科領域の臨床的効果について紹介する.また,現在までに報告されている論文の中で特に興味深いものを,Table 3にはin vitroによる研究,Table 4には動物モデルによる研究,Table 5には臨床研究と分けてまとめた.

Table 3  In vitro studies on Photobiomodulation therapy
応用分野 著者・出版年 対象 光源・照射方法(nm:波長,mW/cm2:照射密度,J/cm2:フルエンス) 結果
創傷治癒 Chenら27) 2011年 マウス胚線維芽細胞 ダイオードレーザー
810 nm,0.3 J/cm2
照射によりROSとATPが増加し,NF-kBは有意に活性化された.また,抗酸化剤の添加により照射によるNF-kB活性化は無効化されたが,ATPは減少しなかった.
創傷治癒 Yuら39) 1996年 ヒトケラチノサイト He-Neレーザー
632 nm,1.5 J/cm2
IL-1αとIL-8が有意に増加した.
創傷治癒 Gavishら40) 2004年 HaCaT細胞(不死化角化細胞) チタン・サファイアレーザー
780 nm,2 J/cm2
IL-1α,IL-6,KGFの増加した.IL-1βは抑制された.
創傷治癒 Khooら41) 2014年 糖尿病マウスの皮膚繊維芽細胞 GaAlAsレーザー
810 nm,10 mW/cm2,1 J/cm2
光照射後の線維芽細胞増殖因子(FGF)の発現が有意に増加した.
創傷治癒
炎症後色素沈着
Poonら42) 2005年 ヒト線維芽細胞 Nd:YAGレーザー
532 nm,0.8 J/cm2
b-FGF,SCF,HGFを増加させ炎症後色素沈着を強めた.
創傷治癒 Huら43) 2007年 黒色腫細胞株A2058細胞 He-Neレーザー
632.8 nm,0~2.0 J/cm2
A2058細胞内のチトクロームcオキシダーゼ活性・ATP含有量・cAMPレベルの増加,JNKのリン酸化やAP-1活性の増加,細胞増殖が認められた.
A2058上清中のIL-8,TGF-は大幅に増加した.
心血管障害 Kipshidzeら44) 2001年 ヒト平滑筋細胞・線維芽細胞・内皮細胞 He-Neレーザー
632 nm,0.10~6.3 J/cm2
平滑筋細胞・線維芽細胞からのVEGF分泌を有意に増加させた.
内皮細胞を増殖させた.
創傷治癒 Almeida-Lopesら45) 2001年 ヒト歯肉線維芽細胞 ダイオードレーザー
670 nm,780 nm,692 nm,786 nm全て2 J/cm2
同フルエンスの場合,赤外レーザーは可視レーザーよりも細胞増殖を促進した.
同じ出力の場合,波長に関係なく細胞増殖を促進した.
創傷治癒 Songら101) 2009年 網膜色素上皮細胞 パルス色素レーザー
590 nm,5.0~2550 mJ/cm2
PDGF,TGF-β1,bFGF,EGF,インスリン様成長因子,熱ショックタンパク質のmRNAを増加させた.
創傷治癒 Shingyochiら46) 2017年 ヒト皮膚線維芽細胞 CO2レーザー
10,600 nm,0.1~5.0 J/cm2
Akt,ERK,およびJNKが活性化されヒト皮膚線維芽細胞の移動と増殖が促進された.
尋常性痤瘡 Kawadaら64) 2002年 ニキビ患者から単離された5つのCutibacterium acnesの菌株 Lmetal halide lamp
407~420 nm,90 mW/cm2,324 J/cm2
照射直後と照射後60分で,それぞれ15.7%と24.4%減少した.
乾癬 Liebmannら73) 2010年 ヒトケラチノサイト,皮膚由来内皮細胞 LED
412 nm(87 mW/cm2)~940 nm(32 mW/cm2
フルエンスをそれぞれ変化させた
632~940 nmでは細胞生存率および増殖能力に影響はなかった.
高フルエンスの412~453 nmは細胞傷害性があった.
453 nmまでの青色光照射はケラチノサイトの分化を誘導した.
453 nmまでの青色光はT細胞にアポトーシスを引き起こした.
ケロイド Leeら86) 2017年 ヒトケロイド線維芽細胞 LED
①410 nm,205 mW/cm2
②630 nm,172 mW/cm2
③830 nm,50 mW/cm2
フルエンスは10 J/cm2で固定
24時間ごとに2回照射
波長410 nmでI型コラーゲンの発現は有意に抑制された.
ケロイド Bonattiら102) 2011年 ヒトケロイド線維芽細胞とケロイド隣接皮膚線維芽細胞 LED
470 nm,100 mW/cm2もしくは125 mW/cm2
より多くの総エネルギー量(J)を照射した群でケロイド隣接線維芽細胞数が減少した.
ケロイド線維芽細胞には変化がなかった.
Table 4  Photobiomodulation therapy performed on animals
応用分野 著者・出版年 対象 光源・照射方法(nm:波長,mW/cm2:照射密度,J/cm2:フルエンス) 結果
創傷治癒 Medradoら47) 2003年 ラットの全層皮膚欠損創 GaAlAsレーザー
670 nm,4 J/cm2もしくは8 J/cm2
術直後1回のみ照射
レーザーは炎症反応を減少させ,コラーゲンの沈着と筋線維芽細胞の増殖を促進した.
創傷治癒 Leiteら48) 2014年 栄養不良ラットの全層皮膚欠損創 LED
660 nmと890 nmの組み合わせ3 J/cm2
週に3回,2週間照射
LED照射は,栄養不良ラットの創傷治癒を有意に促進した.
創傷治癒 Yuら49) 1997年 糖尿病マウスの全層皮膚欠損創 Argon Dye laser
630 nm,20 mW/cm2,5 J/cm2
術後6時間後から4日目まで毎日照射
レーザー単独,bFGF単独,レーザーとbFGF併用で効果を比較
レーザー照射により創傷治癒が促進された.
創傷治癒 Demidova-Riceら50) 2007年 Male BALB/c, C57BL/6-1J, and SKH1 hairless miceの背部全層皮膚欠損創 ①non-coherent light
635 ± 15 nm,80~100 mW/cm2においてフルエンスを1~50 J/cm2に変化させた
②He-Neレーザー(632.8 nm, 1 mW/cm2, 1 and 2 J/cm2
③キセノンアークランプ(670 ± 15,720 ± 15,820 ± 15 nm,どれも1 J/cm2)術後30分に1回のみ照射
BALB/cおよびSKH1無毛マウスでは有意に創傷治癒が促進されたが,C57BL/6マウスでは刺激されなかった.
光源①ではフルエンスは2 J/cm2で最良の結果であった.
光源③波長820 nmを照射した群が最も治癒が早かった.
光源①と②でコヒーレント・非コヒーレントに関して比較したが,結果は同じだった.
創傷治癒 Keshriら103) 2016年 ヒドロコルチゾン誘発免疫抑制ラットにおける全層切除型皮膚欠損創 ダイオードレーザー
810 nm,40 mW/cm2,22.6 J/cm2
パルス幅10 Hzと100 Hzで効果の比較
術後1時間から1日1回,7日間照射
100 Hzと比較すると10 Hzのパルスモードがより創傷治癒を促進した.
創傷治癒 Sanatiら104) 2011年 健康な雄のSprague-Dawleyラットの背部全層皮膚欠損創 ①He-Neレーザー
632.8 nm,31.7 mW/cm2,2 J/cm2
②Ga-Asレーザー
904 nⅿ,20.6 mW/cm2,2 J/cm2の比較
手術後24時間から,1日おきに21日目まで照射
Ga-Asレーザーの方が治癒効果は高かった.
skin rejuvenation Liuら105) 2008年 マウスの脱毛後の背部 ①パルス色素レーザー(PDL)
595 nm,
②Nd:YAGレーザー1,320 nm
③Nd:YAGレーザー1,064 nmQスイッチ(5 ns)および長パルス(0.3 ms)モード
真皮層の厚さ,コラーゲン線維密度,線維芽細胞数,ヒドロキシプロリン含有量の顕著な改善をもたらした.
円形脱毛症 Wikramanayakeら106) 2012年 円形脱毛症マウス HairMax LaserComb®
655 nm,ビーム径<5 mm;発散57 mrad;9つのレーザー毎日20秒間,1週間に3回,合計6週間照射
発毛が確認され,毛包の増加が認められた.
脱毛症 Shuklaら94) 2010年 通常アルビノマウスおよびテストステロン投与アルビノマウス He-Neレーザー
632.8 nm,5 mW/cm 2,1~5 J/cm 2
通常マウスは1 J/cm2の照射で成長期の毛包率が増加し,5 J/cm2の照射では有意に減少した.
テストステロン処理マウスは1 J/cm2の照射で発毛率は有意に増加し,5 J/cm2の照射では成長期の毛包率に変化は無く,休止期の毛包率が倍に増加した.
Table 5  Clinical studies on Photobiomodulation therapy
応用分野 著者・出版年 対象 n 光源・照射方法(nm:波長,mW/cm2:照射密度,J/cm2:フルエンス) 結果
褥瘡 Taradajら51) 2018年 仙骨部および骨盤部褥瘡 67 GaAlAs半導体レーザー
①940 nm②808 nm③658 nmで比較(どれも4 J/cm2で統一)
1日1回週5日1か月照射
波長658 nmのレーザー照射で最も治癒が促進された.
熱傷 Kazemikhooら12) 2018年 III度熱傷潰瘍 9 潰瘍に赤色レーザー(650 nm, 0.6 W/cm2, 2 J/cm2)を,周囲には近赤外レーザー(808 nm,6 J/cm2)を7日間毎日照射 移植皮膚の生着を改善した.
擦過創 Hopkinsら52) 2004年 前腕の擦過創 22 GaAlAsレーザー820 nmとLED(660~940 nm)46個のクラスタヘッドを持つ機器
8 J/cm2
1日1回10日間照射
レーザー照射群の創は有意に創収縮が早かった.
skin rejuvenation Leeら10) 2007年 photoaged skin 112 LED
①830 ± 5 nm 55 mW/cm2,66 J/cm2
②633 ± 6 nm,105 mW/cm2,126 J/cm2
①もしくは②の単独と①②併用の比較
週2回4週間照射
しわが減少し,皮膚弾力性が増加した.
skin rejuvenation Weissら54) 2005年 photoaged skin 90 LED
590 nm,0.1 J/cm2
48時間ごとに4週間照射
MMP-1は減少した.
きめ・しわが改善し紅斑や色素沈着は減少した.
skin rejuvenation Weissら55) 2005年 photoaged skin 900 LED
590 nm,0.1 J/cm2
単独で週2回4週間照射(n = 300)とIPL・PDL・KTPなどの直後に併用(n = 600)の比較
アブレーション治療後のLED照射は治療後の紅斑を抑制した.
skin rejuvenation Sadickら107) 2008年 photoaged skin 22 LED
①830 nm,55 mW/cm2,66 J/cm2
②633 nm,70 mW/cm2,126 J/cm2
①もしくは②を週2回4週間照射
しわ,透明度,なめらかさが改善した.
尋常性痤瘡 Leeら56) 2007年 顔面尋常性痤瘡 24 LED
①415 ± 5 nm,40 mW/cm2
②633 ± 6 nm,80 mW/cm2
①②を交互に週2回4週間照射
炎症性病変が78%減少し,非炎症性病変は34%減少した.
尋常性痤瘡 Sadickら62) 2008年 顔面尋常性痤瘡 21 携帯型LED
①415 nm,40 mW/cm2,48 J/cm2
②633 nm,70 mW/cm2,126 J/cm2
①②を週2回4週間交互に照射
炎症性病変が69%減少した.
尋常性痤瘡 Papageorgiouら65) 2000年 顔面尋常性痤瘡 177 蛍光灯
①415 nm単独
②415 nmおよび660 nmの混合光
①②の比較.毎日12週間照射
青色+赤色光照射療法が最も良い結果(炎症性病変76%減少,非炎症性病変 58%減少)であった.
尋常性痤瘡 Goldbergら66) 2006年 顔面尋常性痤瘡 24 LED
①415 nm,48 J/cm2
②633 nm,96 J/cm2
①②を交互に週2回4週間照射
12週間で81%減少した.
尋常性痤瘡 Azizら67) 2012年 顔面尋常性痤瘡 28 ①InGaAsレーザー(630 nm, 12 J/cm2
②GaAlAsレーザー(890 nm, 12 J/cm2
①もしくは②を週2回6週間照射
630 nmで著しく改善(活動性病変が77%減少)した.890 nmは変化がなかった.
尋常性痤瘡 Arrudaら68) 2009年 顔面尋常性痤瘡 60 青色光
407~420 nm,40 mW/cm2と過酸化ベンゾイル5%製剤の比較
週2回4週間照射
青色光照射と過酸化ベンゾイル塗布の治療効果は同等であった.副作用は青色光の方が少なかった.
尋常性痤瘡 Tzungら108) 2004年 顔面尋常性痤瘡 21 青色光
420 ± 20 nm,40 J/cm2
週2回4週間照射
炎症性病変が52%減少した.
乾癬 Kleinpenningら11) 2012年 尋常性乾癬 20 LED
①420 nm,100 mW⁄cm2
②630 nm,50 mW⁄cm2
①もしくは②を1回20分,週に3回4週間照射
どちらの波長でも局所乾癬重症度指数(LPSI)スコアは有意に改善した.420 nmでより有効であった.
乾癬 Weinstablら77) 2011年 尋常性乾癬 40 LED
①420 nm
②453 nm
①もしくは②をどちらも100 mW/cm2,90 J/cm2で毎日15分4週間自宅で照射
どちらの波長でも局所乾癬重症度指数(LPSI)スコアは有意に改善した.
乾癬 Ablon78) 2010年 尋常性乾癬 9 LED
①830 nm,60 J/cm2
②633 nm,126 J/cm2
①②を交互に48時間ごと4~5週間照射
治療を2セット行う患者が5/9人いた.最終的に病変は60~100%消失した.
乾癬 Pfaffら6) 2015年 尋常性乾癬 47 LED
①453 nm 200 mW/cm2
②453 nm 100 mW/cm2
どちらも90 J/cm2
①もしくは②を週5~7回,4週間照射した後,週3回以上,8週の合計12週間照射
どちらの波長でも局所乾癬重症度指数(LPSI)スコアは有意に改善した.
ケロイド Baroletら87) 2010年 左右対称にケロイドのある患者 3 LED
805 nm,30 mW/cm2,27 J/cm2
毎日自宅で30日間照射
LEDを照射した方の瘢痕が有意に改善した.
ケロイド Carvalhoら9) 2010年 鼠径ヘルニア術後患者 28 GaAlAsレーザー
830 nm,40 mW/cm2,13 J/cm2
術後4回照射
照射群で有意に瘢痕が薄く,痛みが少なかった.
脱毛症 Jimenezら13) 2014年 男性型脱毛症
女性型脱毛症
男:146
女:188
HairMax LaserComb®
①red laser beams(655 nm ± 5%)7 or 9ビームモデル
②6 beams at 635 nm(±5%)and 6 beams at 655 nm(±5%)の合計12ビームモデル
①もしくは②を週に3回26週間照射8~12分照射
26週で,平均末端毛髪数が20.2~25.7本/cm2増加した.
脱毛症 Munckら95) 2014年 男性型脱毛症
女性型脱毛症
男:11
女:21
HairMax LaserComb®の複数のモデルが混在
655 nm
週3回2~24か月の間,単独照射もしくは局所ミノキシジルまたは経口フィナステリドとの併用での照射
8人が有意に改善,20人が中等度に改善,4人が無効.単剤療法および併用療法の両方で改善が見られた.
脱毛症 Lanzafameら109) 2013年 男性型脱毛症 44 Laser(20.5mW 655 ± 5 nm)と30個のLED(655 ± 20 nm)がついたヘルメット型装置
1日おきに16週間(60回照射の総量は 67.3 J/cm2
プラセボ群と比較して毛髪数が35%増加した.
脱毛症 Lanzafameら110) 2014年 女性型脱毛症 47 Laser diode(21.5mW 655 ± 5 nm)と 30個のLED(655 ± 20 nm)がついたヘルメット型装置
1日おきに16週間照射(1回あたり2.9 J,60回照射の総量は67 J/cm2
プラセボ群と比較して毛髪数が37%増加した.

4.1  創傷治癒

Photobiomodulationは,各種サイトカインや増殖因子の誘導によって,局所血流や炎症,細胞増殖,血管新生,創収縮などを刺激することで創傷治癒を促進すると考えられている.また,矛盾するようではあるが,Photobiomodulationは,強力な抗炎症効果も持ち合わせていることがわかっており,これもまた創傷治癒を促進するとされている23,38)

4.1.1  In vitroでの研究報告

各種レーザーの照射により,創傷治癒を促進するような,basic fibroblast growth factor(bFGF),transforming growth factor (TGF)-β,ケラチノサイト増殖因子(KGF),幹細胞因子(SCF),肝細胞増殖因子(HGF)などの成長因子の増加や,IL-1αやIL-1β,IL-6,IL-8,TNF-α,INF-γなどのような炎症誘発性サイトカインの調整が報告されている39-42)

ヒトケラチノサイト(HaCaT細胞)を用いた実験では,チタン・サファイアレーザー(波長780 nm),2 J/cm2の照射により,IL-1α,IL-6,KGFの遺伝子発現の増加と,IL-1βの遺伝子発現の抑制が観察されている40).IL-1αは細胞増殖,遊走,およびコラーゲン合成を刺激し,IL-6はケラチノサイトの増殖と上皮の移動を促進する.KGFはin vitroでケラチノサイトの増殖および分化を,そしてin vivoで創傷の再上皮化を選択的に誘導する成長因子である.また,IL-1βはプロスタグランジンやコラゲナーゼの産生を刺激するサイトカインである.つまり,この実験はPhotobiomodulationによる細胞増殖や遊走の活性効果と抗炎症効果を反映していると考えられる.しかしその詳細なメカニズムについては不明である.

他にも線維芽細胞や内皮細胞をはじめとする様々な細胞で,Photobiomodulationによる増殖や分化の促進が確認されている43-47).Huらは,He-Neレーザー(波長632.8 nm)の照射による細胞増殖のモデルとして黒色腫細胞株A2058細胞を用いた実験を行った43).その中では,チトクロームcオキシダーゼが光受容体として機能してミトコンドリア膜電位が上昇する結果,細胞内ATP含有量やcAMPレベルの増加が起き,最終的にはJNK/AP-1経路が活性化されて細胞増殖が引き起こされる,という反応経路が提案されている.なお,この実験では黒色腫細胞株A2058細胞より,細胞増殖を促進するIL-8およびTGF-βの放出も観察されており,これもJNK/AP-1経路が活性化されたことによるものと考えられている.

4.1.2  動物モデル

マウスやラットを用いた実験では,Photobiomodulation therapyの効果は正常な個体ではあまり明らかではなく,糖尿病モデルや免疫抑制モデル,栄養不良モデルなど,全身状態に何か問題を有するモデルで特に効果が高いとする報告が多い41,48).これは,正常な個体では,既に成長因子などが最適な状態で働いているためと考えられる49)

また,Photobiomodulation therapyのパラメーターである波長,パルス幅,フルエンスなどを変化させることで,創傷治癒効果にどのような影響があるかという実験が多数行われている.

例えば,Demidova-Riceらは,マウスの背部全層皮膚欠損創に対し,①非コヒーレント光(波長635 ± 15 nmにおいてフルエンスを 1,2,10,50 J/cm2に設定),②He-Neレーザー(波長632.8 nm)または③キセノンアークランプ(波長を670 ± 15,720 ± 15,820 ± 15 nmに設定)を照射し,創傷治癒効果を比較した.その結果,光源①ではフルエンスは2 J/cm2で,光源③では波長820 nmを照射した群が最も治癒が早かった.さらに光源①と②でコヒーレント・非コヒーレント光の効果に関して比較したが,結果は同じだった50).ちなみに,③で創傷治癒を最も促進したとする820 nmの波長はチトクロームcオキシダーゼの最大の吸収ピーク830 nmに対応している22)

4.1.3  臨床研究

臨床においては,褥瘡,熱傷,擦過傷などでPhotobiomodulationの創傷治癒促進効果が報告されている12,51,52).Hopkinsらは,健康な被験者22人の前腕に2か所擦過創を作成し,その片方にレーザーを照射したところ,照射創では非照射創と比較して有意に創収縮が早かったと報告した52).これは,レーザー照射により線維芽細胞から筋線維芽細胞への変換が促進されたこと示唆するとしている.

なお,Woodruff らが2004年に統計的メタアナリシスを行い,Photobiomodulation therapyは創傷治癒を促進する有効な手段であると結論付けている53)

4.2  skin rejuvenation

光老化によって引き起こされる皮膚の組織学的変化の特徴として,コラーゲンの量の減少,コラーゲン線維の断片化,弾性線維の変性,表皮の萎縮,Matrix metalloproteinase(MMP),特にMMP-1およびMMP-2の増加,皮膚血管の拡張などがある18)

そこで,Photobiomodulation therapyによるbFGFなどの成長因子の増加やそれに伴う線維芽細胞の増殖・コラーゲン合成促進,細胞のミトコンドリア呼吸鎖の活性化による皮膚の微小循環の促進は,老化に伴うしわや,たるみ,血管拡張などに効果があると考えられている10)

4.2.1  臨床研究

Leeらは,波長830 nmと633 nmのLEDを用いて二重盲検法で皮膚の若返りに対するLED光線療法の臨床的有効性を調査した.LED照射後には,組織学的に,全ての治療群においてコラーゲンと弾性線維の量の著しい増加が観察された.また,採取された組織のRT-PCRが行われ,IL-1β,TNF-α,intercellular adhesion molecule (ICAM)-1,Connexin (Cx) 43のmRNAレベルの増加とIL-6のmRNAレベルの減少が認められた.LEDによって皮膚に非熱性,非外傷性の“quasi-wound”が生じ,IL-1βおよびTNF-αが誘導され,創傷治癒過程として新しいコラーゲンが合成されると考えられた10).また,Cx43の発現増加は線維芽細胞間のコミュニケーションを強化し,光刺激効果に対する細胞応答を増加させることで,照射されていない周囲の組織にも新しいコラーゲンを産生させている可能性があるとしている.

またWeissらは波長590 nmのLEDを用いてPhotobiomodulation therapyを行ったところ,90%の患者において眼窩周囲のしわや,皮膚の紅斑,色素沈着の改善があり,組織学的には,MMP-1の減少を認めた54).この結果は,Photobiomodulation therapyによってコラーゲン産生の刺激が行われると同時に,コラーゲンの分解を抑制していると考えられた.

他にもIPLやPDL,KTP後にPhotobiomodulation therapyを行うと,抗炎症効果により治療後の紅斑が抑えられるという報告があり55),他の治療との併用も有効であると考えられる.

4.3  尋常性痤瘡

尋常性痤瘡の発生メカニズムは完全には解明されていないが,角化異常や,アンドロゲンホルモン分泌による皮脂分泌の増加,Cutibacterium acnesの定着および炎症が主な原因とされている56)

尋常性痤瘡の治療としては,アダパレンや過酸化ベンゾイルの外用,抗菌薬の外用や内服療法などが一般的であるが57),Photobiomodulation therapyにおいても複数のランダム化比較試験が行われており,その有効性が多数報告されている.そして既にアメリカでは,尋常性痤瘡の治療としてLEDを照射することをFood and Drug Administration(FDA)も承認しており15),携帯型タイプの照射機器も数多く市販されている58)

尋常性痤瘡に対するPhotobiomodulation therapyの作用メカニズムとして言われているのは,Cutibacterium acnesの代謝によって生成されるコプロポルフィリンIIIが光増感剤として作用し,活性酸素やフリーラジカルを発生させて細菌を破壊する光線力学的反応を起こす,というものである56,59-61)

コプロポルフィリンIIIは吸収ピークの1つを415 nmに持つため,多くの研究者は青色光を用いてその有効性を報告している.

また,赤色光は,Cutibacterium acnesの代謝には影響を及ぼさないが,青色光よりも深く組織に浸透し,マクロファージを含む様々な細胞からのサイトカイン放出を刺激して炎症を軽減すると考えられている62,63)

4.3.1  In vitroでの研究報告

Kawadaらが,ニキビ患者から単離された各5つのCutibacterium acnesの菌株に対して,メタルハライドランプ(波長407~420 nm,90 mW/cm2)を60分照射し(324 J/cm2)その殺菌能力を評価した.結果,Cutibacterium acnes数は照射直後と照射後60分で,それぞれ15.7%と24.4%減少したと報告した64)

4.3.2  臨床研究

青色光(波長420 ± 20 nm)を単独で使用したTzungらは,週に2回4週間の照射で炎症性痤瘡病変を52%減少させたと報告した.また,Papageorgiouらは,軽度から中等度の顔面痤瘡を有する患者177人に対しランダム化比較試験を行い,青色光(波長415 nm)単独照射や,青色光(波長415 nm)と赤色光(波長660 nm)の併用照射,5%過酸化ベンゾイルクリームによる治療効果などについて比較した.結果,青色光と赤色光の混合光を照射した群の改善度が最も高かった(炎症性病変が76%減少)と報告した65)

その他にもPhotobiomodulation therapyの尋常性痤瘡に対する治療効果は数多く報告されているが56,62,66-68),使用する光源とその波長や出力,照射スケジュールなどについての結論は出ていない.

ただし,一般的に狭帯域の青色光(波長405~420 nm)を用いた治療は,1度に8~20分,週に2回,4週間にわたって照射されることが多く,炎症性痤瘡病変数を60~70%の範囲で減少させるとされている69)

なお,Photobiomodulation therapyは面皰よりも炎症性痤瘡病変に効果が高かったとする報告が多い.そのため,アダパレンなどの面皰溶解性を有する薬剤と組み合わせるとより効果的な治療が達成され得ると考えられる.

4.4  乾癬

乾癬は,先天性免疫細胞,T細胞,およびケラチノサイト間の異常な相互作用によって引き起こされ,1型ヘルパーT細胞/17型ヘルパーT細胞(Th1/Th17)免疫軸および関連サイトカイン(TNF-α,IL-17,IFN-γなど)が活性化され引き起こされる疾患である70,71)

乾癬に対する光線療法には,紫外線B(UVB),ソラレン紫外線A(PUVA),パルス色素レーザー(PDL),光線力学療法(PDT),intense pulsed light(IPL),発光ダイオード(LED)等を用いた様々なものが存在する72).その中でも,主に行われているのは,ナローバンドUVB療法(波長308~313 nm)やブロードバンドUVB療法(波長290~313 nm),PUVA療法(波長320~400 nm)であるが,紫外線療法は皮膚の老化および発癌性の危険性があり,それに代わる治療が求められている.

Photobiomodulation therapyが尋常性乾癬に有効とする報告があり,その作用メカニズムには複数の説がある.Liebmannらは,青色光(波長453 nm)はニトロソ化タンパク質より光分解的にNOを放出させることを確認した.そして,そのNOはケラチノサイトの分化を促進する一方,増殖活性を低下させた73).その理由は,細胞分化の活性化により,増殖のためのエネルギーが枯渇するためと考えられた.このため,青色光は乾癬のような過剰増殖性皮膚疾患の治療に有効であり得る.また,同じくLiebmannらは,青色光(波長453 nm)の照射により,Tリンパ球がアポトーシスを起こすことを確認した.これにより免疫状態が調整され,乾癬が改善する可能性がある73)

その他の説として,光増感剤であるプロトポルフィリンIX(PpIX)は乾癬の皮疹に内因的に存在するため74),Photobiomodulation therapyは5-aminolevulinic acid(ALA)の塗布を行うことなく,ケラチノサイトの増殖活性を抑制し免疫応答を調整する,というものがある11).なお,PpIXの吸収スペクトルは,410 nmに最大ピークがあるため,青色光が効率よく乾癬を治療できるということである75).ただし乾癬に対するPpIXを用いた,光線力学療法(PDT)に関しては,効果がないとする報告もある76)

4.4.1  臨床研究

尋常性乾癬に対するPhotobiomodulation therapyの臨床研究では,様々な光源が試され,その効果が検討されている.Kleinpenningらは,LEDの青色光(波長430 nm,100 mW/cm2)と赤色光(波長630 nm,50 mW⁄cm2)でその効果を比較した.その結果,どちらも乾癬重症度指数を有意に改善し,特に紅斑のスコアにおいては,青色光で治療した方がより有効な結果が得られた11).ただし,青色光で治療された群では,多くの患者の照射部位周囲に過剰な色素沈着が認められ,赤色光で治療された群では,そのような副反応は認められなかった.また,Weinstablらは,尋常性乾癬の患者に4週間,自宅で携帯用のLED(波長420 nmもしくは453 nm)を照射させたところ,皮疹の完全な消失は得られなかったものの,どちらの波長の照射でも有意な改善を認めたと報告した77).さらにAblonらは,治療抵抗性の尋常性乾癬患者に,LED の近赤外光(波長830 nm,60 J/cm2)および赤色光(波長633 nm,126 J/cm2)を48時間ごとに4~5週間照射したところ,皮疹の面積を60~100%消失させたと報告した78).なお,近赤外光は,強い抗炎症効果と内因性オピオイドの産生促進効果を持つため,乾癬の掻痒感を抑制するとされている79).尋常性乾癬に対するPhotobiomodulation therapyとしては,海外では前述のWeinstalらが使用したような家庭用デバイスも開発されている上80),副作用の少なさから他の治療法との併用もしやすいため,本邦でも今後の活用が期待される.

4.5  ケロイド

ケロイドは,皮膚線維芽細胞の過剰増殖成長および真皮における過度のコラーゲン沈着(主にI型とVI型)によって特徴付けられ,IL-6経路や,TGF-β,表皮増殖因子(EGF),b-FGF,PDGFなどのさまざまな増殖因子がその発病に関与しているとされている81-83).また,ケロイド組織中のMMPの減少やアポトーシス機構の乱れも要因の1つとされている84,85).Photobiomodulation therapyは,創傷治癒を促進する作用と,各種因子の調整により,ケロイドの発生を抑制すると考えられる.

4.5.1  In vitroでの研究報告

Leeらは,患者のケロイド病変部から採取したケロイド線維芽細胞に対し,LED光3種類(①波長410 nm,205 mW/cm2 ②波長630 nm,172 mW/cm2 ③波長830 nm,50 mW/cm2)をそれぞれ10 J/cm2照射した.結果,I型コラーゲンのmRNA発現が波長410 nmのLED照射で有意に減少した86).これは,創傷治癒の初期段階でのPhotobiomodulation therapyが,ケロイド予防に効果的であることを示唆している.

4.5.2  臨床研究

Baroletらは,フェイスリフト手術後など,左右対称性にケロイドを有する患者に対して,手術またはCO 2レーザーによる瘢痕修正の後,30日間LED(波長805 nm,30 mW/cm2)を照射させた.1年後に経過を観察したところ,照射した方の瘢痕が有意に改善されたと報告した87).この治療は自宅で行われており,瘢痕修正術後の補助治療としてのPhotobiomodulation therapyの活用が期待される報告である.

4.6  脱毛症

いくつか種類のある脱毛症の中でも,多くを占めるのは,男性型脱毛症(Androgenetic alopecia: AGA)もしくは女性型脱毛症(Female Pattern Hair Loss: FPHL)である.AGAは,テストステロンおよびその誘導体であるジヒドロテストステロン(DHT)などのアンドロゲンが,男性ホルモン感受性毛包に作用し,休止期にとどまる毛包を増やすことで頭髪が薄くなる現象である.また,女性の更年期以降に増加する,頭頂部のびまん性の薄毛,いわゆるFPHLもアンドロゲンが関与しているとされるが,遺伝的要因や環境要因も言われており,そのメカニズムは完全には解明されていない88,89).AGA,FPHLの治療にはフィナステリドやデュタステリドの内服(どちらも男性患者のみ)や,局所ミノキシジルの外用,植毛術などが一般的であるが90,91),どれも全ての患者に有効とは言えず,さらなる治療の選択肢が求められている.Photobiomodulation therapyは,既にAGAやFPHLに対して複数のランダム化比較試験が行われてその有効性が示され,日本皮膚科学会の発行する「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」において,推奨度Bとして掲載されている.また,円形脱毛症(Alopecia Areata: AA)などの他のタイプの脱毛症にも使用できて副作用も少ないことから,注目を浴びつつある92)

Photobiomodulation therapyによる正確な発毛メカニズムは不明であるが,光線照射による①DNAやタンパク質の合成,ミトコンドリアの電子伝達,ATP生成などの細胞代謝の活性化.②抗炎症効果.③テストステロンからDHTへの変換酵素である5-reductaseの調整.④VEGFの発現の調整.などが,毛包幹細胞や毛包ケラチノサイトを活性化することで休止期にいる毛包を成長期に導き,その期間を延長し,さらには毛包の細胞増殖速度を促進すると考えられている93)

4.6.1  動物モデル

Shuklaらは,テストステロンを投与したアルビノマウスにHe-Neレーザーを照射し,その毛包成長サイクルにおける影響を調べた.その実験では,テストステロン非投与マウスにHe-Neレーザーを1 J/cm2照射すると,非照射群と比較して成長期の毛包率が有意に増加(60→70%)した.しかし同様にテストステロン投与マウスにレーザーを照射すると,成長期の毛包率はさらに顕著に増加(27→85%)した94).これは,より遅く,ストレス下で成長する細胞にPhotobiomodulation therapyがより有効である可能性を示唆している.

4.6.2  臨床研究

Jimenezらは,AGA患者146人,FPHL患者188人に対し,市販のコーム型レーザー照射機器(波長635 nmもしくは655 nm)を用いて多施設共同無作為化二重盲検試験を行った.結果,26週経過時点で,平均末端毛髪数が20.2~25.7本/cm2増加し,偽機器と比較して有意に脱毛症を改善した13).これは6か月5%ミノキシジル溶液を外用した結果に匹敵している14).他にもフィナステリドやミノキシジルとの併用でもPhotobiomodulation therapyは有効であったという報告がある95)

Photobiomodulation therapyが遊離植皮や遊離歯肉移植の生着率を向上させるという報告もあることから12,96),植毛術との併用も有効である可能性がある.

ただし発毛促進における最適な波長やその他のパラメーターについては不確定であり,さらなる追加試験が期待される.

5.  終わりに

形成外科・皮膚科領域に関するPhotobiomodulation therapyについて代表的なものを紹介したが,他にも,ヘルペスウイルス感染症97),アトピー性皮膚炎98),白斑99),熱傷12)に対する治療効果や,皮弁の血流増加作用100)なども報告されており,その応用範囲はとても広い.

Photobiomodulation therapyは非侵襲的で副作用も少ないことから,他の治療法との併用もしやすく,うまく使いこなすことができれば非常に便利な治療手段と考えられる.

まずはそのメカニズムの解明が進むことでPhotobiomodulation therapyへの信頼が確かなものとなり,さらには,より多くの大規模比較試験等が行われることで治療プロトコルが確立されることを期待している.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
© 2021 Japan Society for Laser Surgery and Medicine
feedback
Top