The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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ORIGINAL ARTICLE
Photothermal Effect Induced by Contact Laser Vaporization of Porcine Prostate Tissues Using XCAVATOR Fiber
Yu Shimojo Takahiro NishimuraKunio Awazu
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2022 Volume 42 Issue 4 Pages 219-227

Details
Abstract

本研究では,接触式レーザー前立腺蒸散術用の新規ファイバーであるXCAVATORファイバーによる治療の熱影響を評価するために,ブタ前立腺組織を用いた照射実験にて蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を既承認のTwisterファイバーと比較することを目的とする.同一光源装置を用いて2つのファイバーから出射される波長980 nmレーザー光の照射対象面での空間分布と光拡がり角を計測し,ブタ前立腺組織を用いて蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を測定した.Twisterファイバーと比較し,XCAVATORファイバーは出射光数が多く,光拡がり角で36°広範囲に光照射された.蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅の最大値は,それぞれXCAVATORファイバーで 1.9 ± 0.4,4.0 ± 0.7,8.1 ± 1.6 mm,Twisterファイバーで2.7 ± 1.5,4.3 ± 1.5,5.0 ± 1.5 mmであった.XCAVATORファイバーはTwisterファイバーと比較して広くて浅い蒸散をしながら同等な損傷深さとなった.以上より,XCAVATORファイバーを用いた接触式レーザー前立腺蒸散術の熱影響解析を基に,治療におけるXCAVATORファイバーの特性を明らかにした.

Translated Abstract

This study evaluates the photothermal effects induced by contact laser vaporization of the prostate (CVP) using XCAVATOR fiber by comparing the vaporization and damage depths and vaporization width with Twister fiber approved for clinical use. Spatial distributions on an irradiation target surface and light spreading angles were measured by irradiating 980-nm laser light through the two kinds of fibers using the same light source, and the vaporization and damage depths and vaporization width were measured in porcine prostate tissues. XCAVATOR fiber had a larger number of emitted laser beams than Twister fiber and a larger light spreading angle than Twister fiber by 36°. The maximum vaporization and damage depths and vaporization width were 1.9 ± 0.4, 4.0 ± 0.7, and 8.1 ± 1.6 mm for XCAVATOR fiber and 2.7 ± 1.5, 4.3 ± 1.5, and 5.0 ± 1.5 mm for Twister fiber, respectively. XCAVATOR fiber obtained similar damage depths with Twister fiber, while the vaporization area was broader and shallower than Twister fiber. The experimental analysis of the photothermal effect induced by CVP using XCAVATOR fiber revealed the characteristics of XCAVATOR fiber in laser vaporization.

1.  背景

レーザー前立腺蒸散術は,前立腺肥大症に対して標準的な外科的治療法である経尿道的前立腺切除術より低侵襲な術式として臨床応用されている1).波長532 nmのLBO(Lithium triborate)レーザーを用いた光選択的前立腺蒸散術は,前立腺肥大症に対する主要なレーザー治療法であり,その有用性と安全性が確立されている2).近年では,波長980 nmの半導体レーザーを用いた接触式前立腺蒸散術も実施されており,良好な臨床成績を示している3,4).レーザー前立腺蒸散術は,蒸散によって腺組織を除去することで治療効果を得る.使用するレーザー光には腺組織を効率よく除去するための蒸散能とともに,術中の出血を抑制するための凝固能が求められる.前立腺組織は水分と血液を多く含むため,その吸収特性に基づいて治療光の波長が選択される.波長532 nmの光はヘモグロビンに強く吸収されるのに対し,波長980 nmの光は波長532 nmの光ほど顕著ではないが水およびヘモグロビンの両者に吸収される5).波長980 nmの光侵達深さはヒト前立腺組織に対して2 mm以上あり,波長532 nmの光より深部まで到達する6).これとレーザー光源の高出力化が伴って,波長980 nm半導体レーザーの利用による前立腺組織の優れた蒸散能と凝固層形成による高い止血能を兼ねた治療が可能となった5,7)

本邦では,2016年に波長980 nmの半導体レーザー光を利用した医療機器であるCeralas HPDレーザー装置およびTwisterファイバー(CeramOptec GmbH, Germany)が承認された3).本照射システムの導入により,他波長を用いたレーザー前立腺蒸散術で使用される側射型ファイバーでは困難であった接触照射が可能となった.側射型ファイバーでは,非接触照射のために前立腺組織が十分に過熱されず,蒸散効率が低下する8).一方,Twisterファイバーでは,組織と接触させて光エネルギーを伝達するため,照射光が組織に到達するまでに減衰されず,効率よく腺組織を蒸散できる8,9).これは,レーザー光照射による蒸散効率が,レーザー光の波長だけでなく,ファイバーの光出射特性によっても影響を受けることを意味する.臨床応用には,ファイバーの設計に応じたレーザー照射光分布を基に組織への熱影響を評価することが重要となる.

広範囲に前立腺組織を蒸散するための新規ファイバーとして,プローブをシャベル形状にして組織との接触面積を大きくしたXCAVATORファイバー(CeramOptec GmbH)が臨床応用されている10).XCAVATORファイバーはプローブの形状がTwisterファイバーと異なるため,照射対象面におけるレーザー照射光分布が変化する.これに伴い,蒸散深さおよび蒸散後の組織表面に形成される凝固層の厚みが変化する.しかし,XCAVATORファイバーに対しては,臨床実験によるIPSS(International prostate sympom score),QoL(Quality of life),Qmax(Maximumurinary flow rate)などの統計データをエビデンスとした評価に留まっているのが現状である10).XCAVATORファイバーから出射されるレーザー光が前立腺組織に与える熱影響を定量評価することが求められる.

2.  目的

本研究の目的は,本邦で既承認のTwisterファイバーとの比較から,XCAVATORファイバーを用いた接触式レーザー前立腺蒸散術の熱影響を評価することである.XCAVATORファイバーから照射される波長980 nmレーザー光の相対光強度分布を測定し,Twisterファイバーとの照射対象面でのレーザー照射光分布の差異を評価する.また,臨床を模擬した照射実験系にてXCAVATORファイバーを用いて光照射したブタ前立腺組織の蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を測定し,Twisterファイバーと比較する.XCAVATORファイバーを用いた接触式レーザー前立腺蒸散術の詳細な熱影響解析を基に,治療におけるXCAVATORファイバーの特性を明らかにする.

3.  対象と方法

3.1  レーザー照射光分布の測定

高出力半導体レーザー(Ceralas HPD, CeramOptec GmbH)に接続された,XCAVATORファイバー(XCAVATOR, CeramOptec GmbH)およびTwisterファイバー(Twister,CeramOptecGmbH)から照射される波長980 nmレーザー光を対象とした.Fig.1にXCAVATORファイバーおよびTwisterファイバーのプローブの形状を示す.XCAVATORファイバーでは,ガイドされたレーザー光がファイバー内で分波されて出射端内部で散乱し,プローブ端面の複数箇所から出射すると想定した.各ファイバーから出射されたレーザー光の照射対象面での空間分布を測定して比較評価した.Fig.2に照射対象面でのレーザー照射光分布を測定するために構築した光学系を示す.治療での使用の際は水中でレーザー照射するため,水中を伝搬するレーザー照射光分布を測定した.ファイバーから出射されたレーザー照射光分布を測定するために,透過スクリーンとしてオパール光拡散ガラス(#83-389, Edmund Optics, USA)を設置した.スクリーンには照射対象面でのレーザー照射光分布を投影させた.投影されたレーザー照射光分布を,カメラレンズ(EC915225 L25F1.9 25mm f/1.3 C-Mount Objective Lens, Electrophysics, USA)を用いてビームプロファイラ(LaserCam-HR, Coherent, USA)面へ結像して測定した.また,レーザー照射光分布の最大強度に合わせて,NDフィルタ(NEK01, Thorlabs, USA)を設置し,露光時間を調整した.ファイバーの向きはFig.2に示すように測定方向を合わせて,マイクロステージ上に固定した.照射面とプローブ端面の距離dは,プローブとスクリーンが接触した状態から1,3 mm離した地点とした.

Fig.1 

Light emitting ends of (a) XCAVATOR and (b) Twister fibers. Scale bars indicate 5 mm.

Fig.2 

Optical setup to measure the distributions of 980-nm laser light emitted through XCAVATOR and Twister fibers (d = 1 and 3 mm).

各ファイバーにおいて,レーザー光の主要な出射光の強度が最大となる点を通る直線上の強度プロファイルを取得した.取得したプロファイルをプロットし,各レーザー照射光分布を比較した.また,プローブから出射されるビーム光の直進性を利用して光拡がり角を算出した.d = 1,3 mmにおける主要出射光の照射対象面での空間分布において,その最大強度点の座標からビーム光の方向ベクトルを求め,空間的に最も離れた位置関係にある主要出射光が成す角度を算出し,光拡がり角とした.解析には画像処理ソフトウェア(ImageJ)を使用した.

3.2  ブタ前立腺組織試料

ブタは内臓諸器官など解剖,生理的所見がヒトと類似していることに加え,飼育数が多く入手しやすいため,ヒト前立腺組織の模擬試料としてブタ前立腺組織(Tokyo Shibaura Zouki, Japan)を使用した.検体を採取してから48時間以内に照射実験を実施し,前立腺試料は使用するまで4°Cで冷蔵保存した.ブタ前立腺組織は,1回の照射実験につき1検体を使用した.

3.3  光の拡がりと照射痕の関係

光の拡がりと照射痕の関係を評価するために,XCAVATORファイバー(XCAVATOR, CeramOptec GmbH)およびTwisterファイバー(Twister, CeramOptec GmbH)を用いて波長980 nmレーザー光を前立腺試料に照射し,照射痕幅を測定した.光源には高出力半導体レーザー(Ceralas HPD, CeramOptec GmbH)を使用した.ファイバーと前立腺試料との接触角度,硬性鏡のチャンネル径,生理食塩水中での照射という点で臨床を模擬した照射実験系をFig.3に示す6).プラスチック製ケースの側面に穴を開け,内径4 mmのジョイントを取り付けた後,ジョイント内に硬性鏡のチャンネルを模擬した内径9 mmのステンレスチューブ(SP100-9, As One, Japan)を挿入した.前立腺試料をコルク板上にピンで固定した後,生理食塩水(1325, Otsuka Pharmaceutical Factory, Japan)で満たしたケース内に重りを用いて沈めた.コルク板の高さを調節できるように,分解能0.5 mmのマイクロメーターヘッドを搭載したz軸ステージを使用した.ステンレスパイプ内にファイバーを挿入し,前立腺試料とプローブ端面の距離が接触した状態から1 mm離れるよう,前立腺試料表面の高さを調節した.設定出力180,300 W,照射時間2 sとした波長980 nmのレーザー光を連続波モードで照射した.試料数はn = 3とした.照射実験は室温23°Cで実施した.光照射後,試料の照射痕を実体顕微鏡(YS02Z2, Micronet, Japan)とカメラ(OM-DE-M5, Olympus, Japan)を用いて真上から撮影し,画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて画像スケールとピクセル数の関係から照射痕幅を測定した.照射痕幅は試料表面で凝固が生じた範囲の最大幅と定義した.プローブと試料表面の距離(1 mm)およびプローブ中心を基準とした際の照射痕幅に基づく熱影響角度を算出し,光学系を用いて計測した光拡がり角と比較した.

Fig.3 

(a) Schematic illustration and (b) photograph of experimental setup for laser irradiation of porcine prostate tissue.

3.4  蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅の測定

高出力半導体レーザー(Ceralas HPD, CeramOptec GmbH)に接続された,XCAVATORファイバー(XCAVATOR, CeramOptec GmbH)およびTwisterファイバー(Twister, CeramOptec GmbH)を用いて波長980 nmレーザー光を前立腺試料に照射し,蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を測定した.Fig.3と同様の照射実験系を使用した.前立腺試料とプローブを接触させるために,z軸ステージを用いて前立腺試料表面の高さを調節した.設定出力を180,300 Wとした波長980 nmのレーザー光を連続波モードで照射した.先行文献6)から,臨床では術者がファイバーを動かしながら光照射し,前立腺組織のある地点における照射時間は1秒以内と想定される.そのため,本実験では照射時間を0.5,1 sと設定した.また,過剰に光照射した場合を想定して,照射時間2 sを設定した.試料数はn = 5とした.照射実験は室温23°Cで実施した.

レーザー照射後の試料を10%ホルマリン(20181, Muto Pure Chemicals, Japan)によって固定した後,薄切を行い,ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)した.組織標本の作製と解析は株式会社新組織科学研究所に依頼して行った.組織表面からの法線に対して,組織表面から蒸散領域と凝固組織の境界までの長さの最大値を蒸散深さ,組織表面から凝固組織と正常組織の境界までの長さの最大値を損傷深さと定義した.また,蒸散が生じた試料表面の幅を蒸散幅と定義した.画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて,組織標本画像のスケールとピクセル数の関係から蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を測定した.

4.  結果

4.1  レーザー照射光分布

Fig.4にXCAVATORファイバーおよびTwisterファイバーの照射対象面にて測定した際のプローブの位置とd = 1,3 mmにて取得したレーザー照射光分布を示す.また,Fig.5d = 1 mmにて取得したXCAVATORファイバーおよびTwisterファイバーの照射対象面での光強度プロファイルを示す.光強度分布はバックグラウンドを差し引いた後,それぞれの最大値で規格化した.XCAVATORファイバーによる光照射時の主要な出射光は5方向あった.また,Twisterファイバーによる光照射時の主要な出射光は1方向であった.XCAVATORファイバーは,Twisterファイバーと比較して主要出射光の数が多いことから,トータルの出射光パワーが同じ場合,主要出射光のそれぞれのパワーは小さくなる.また,XCAVATORファイバーの光拡がり角は65°であった.Twisterファイバーの光拡がり角は先行文献11)より29°であった.Twisterファイバーと比較し,XCAVATORファイバーは,広範囲へ照射されることがわかった.

Fig.4 

(a) Light emitting ends of (i) XCAVATOR and (ii) Twister fibers and (b) spatial distributions of 980-nm laser light emitted through the fibers measured at d = (b) 1 and (c) 3 mm. Scale bars indicate 1 cm.

Fig.5 

Profiles of 980-nm laser light emitted through (a) XCAVATOR and (b) Twister fibers in the (i) horizontal and (ii) vertical directions (d = 1 mm).

4.2  光の拡がりと照射痕の関係

Fig.6に波長980 nmレーザー光による前立腺試料の照射痕像と照射痕幅を示す.全ての光照射条件において,凝固による照射痕が確認できた.XCAVATORファイバーでは,照射痕幅は設定出力180 Wで9.1 ± 1.3 mm,300 Wで9.4 ± 1.1 mmであった.Twisterファイバーでは,照射痕幅は設定出力180 Wで6.0 ± 0.3 mm,300 Wで6.9 ± 0.7 mmであった.180 Wでは有意差が生じたが,300 Wでは生じなかった.光学系を用いて計測した光拡がり角との比較から,光の拡がりと照射痕の関係を評価するために,プローブと試料表面の距離(1 mm)およびプローブ中心を基準とした際の照射痕幅に基づく熱影響角度を算出した.XCAVATORファイバーでは,照射痕幅に基づく熱影響角度は設定出力180 Wで155 ± 26°,300 Wで156 ± 22°であった.Twisterファイバーでは,照射痕幅に基づく熱影響角度は設定出力180 Wで143 ± 7°,300 Wで148 ± 15°であった.照射痕幅に基づく熱影響角度は,光学系を用いて計測した光拡がり角より大きくなった.

Fig.6 

(a) Photographs of laser-irradiated scars on sample surfaces and (b) comparison of the scar widths between XCAVATOR and Twister fibers. Data are expressed as means, and the error bars represent the standard deviations (n = 3; *P < 0.05).

4.3  蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅

Fig.7に波長980 nmレーザー光を接触照射後の前立腺試料の断面をHE染色した組織標本を示す.黄線は,ファイバーで照射した面から蒸散が生じた部分と凝固組織の境界を示す.青線は,凝固組織と正常組織の境界を示す.XCAVATORファイバーでは,180 Wの0.5 s照射の条件では蒸散は見られなかったが,それを除く他の光照射条件において組織の蒸散および損傷が確認できた.180,300 Wともに照射時間が長いほど,組織の蒸散および損傷範囲が大きくなった.Twisterファイバーでは,各光照射条件において組織の蒸散および損傷が確認できた.180,300 Wともに照射時間が長いほど,組織の蒸散および損傷範囲が大きくなった.

Fig.7 

Histological images of hematoxylin-eosin-stained porcine prostate tissues. Scale bars indicate 2 mm. Yellow lines show boundaries between the vaporized regions and coagulated tissues, and blue lines show boundaries between the coagulated and normal tissues.

Fig.8(a)にファイバー種類,設定出力,照射時間および蒸散深さの関係を示す.XCAVATORファイバーでは,蒸散深さの平均値は設定出力180 Wの0.5 s照射で蒸散は見られず,300 Wの2 s照射で1.9 mmであった.Twisterファイバーでは,蒸散深さの平均値は設定出力180 Wの0.5 s照射で0.9 mmであり,300 Wの2 s照射で2.7 mmであった.両ファイバーともに,設定出力および照射時間の増加に伴って蒸散深さが大きくなった.Fig.8(b)にファイバー種類,設定出力,照射時間および損傷深さの関係を示す.XCAVATORファイバーでは,損傷深さの平均値は設定出力180 Wの0.5 s照射で1.7 mmであり,300 Wの2 s照射で4.0 mmであった.Twisterファイバーでは,損傷深さの平均値は設定出力180 Wの0.5 s照射で2.1 mmであり,300 Wの2 s照射で4.3 mmであった.蒸散深さと同様に,設定出力および照射時間の増加に伴って損傷深さが大きくなった.

Fig.8 

Comparisons of (a) vaporization and (b) damage depths between XCAVATOR and Twister fibers. Data are expressed as means, and the error bars represent the standard deviations. There are significant differences in the vaporization depths when the laser irradiation was conducted for 0.5, 1, and 2 s at a power of 180 W and for 0.5 s at a power of 300 W (n = 5; *P < 0.05).

Fig.9にファイバー種類,設定出力,照射時間および蒸散幅の関係を示す.XCAVATORファイバーでは,設定出力180 Wの0.5 s照射で蒸散は見られず,300 Wの2 s照射で8.1 mmであった.Twisterファイバーの蒸散幅の平均値は設定出力180 Wの0.5 s照射で1.7 mmであり,300 Wの2 s照射で5.0 mmであった.両ファイバーともに,設定出力および照射時間の増加に伴って蒸散幅が大きくなった.

Fig.9 

Comparisons of vaporization widths between XCAVATOR and Twister fibers. Data are expressed as means, and the error bars represent the standard deviations. There are significant differences when the laser irradiation was conducted for 0.5 s at a power of 180 W and for 1 and 2 s at a power of 300 W (n = 5; *P < 0.05).

5.  考察

光学系を用いて計測した光拡がり角と比較して,照射痕幅に基づいて算出した熱影響角度は大きくなった.これは,治療では光照射範囲よりも広範囲に熱影響が及ぶことを意味する.ブタ前立腺組織に入射した光は散乱によって拡散され,光熱変換後には熱が拡散されるからである.臨床を模擬した照射実験において,ある一点に設定出力300 Wで2 s照射した場合,蒸散深さはXCAVATORファイバーで最大1.9 ± 0.4 mm,Twisterファイバーで最大2.7 ± 1.5 mmであり,損傷深さはXCAVATORファイバーで最大4.0 ± 0.7 mm,Twisterファイバーで最大4.3 ± 1.5 mmであった.他の光照射条件も考慮すると,XCAVATORファイバーの蒸散深さは,Twisterファイバーに対して有意差が生じない条件があるものの,平均値は小さくなる傾向にあった(Fig.8(a)).これは,XCAVATORファイバーはTwisterファイバーより光拡がり角が大きく広範囲に光照射できるため,トータルの出射光パワーが同じ場合,パワー密度が小さくなるからである.本実験で用いた光学系では,XCAVATORファイバーとTwisterファイバーによる光照射範囲を計測しており,ファイバーから出射されるレーザー光のパワー密度分布の絶対値を測定していない.そこで,XCAVATORファイバーとTwisterファイバーは前立腺組織に接触させて光照射することを想定し,ファイバー出射口の面積に対する光照射量を計算すると,設定出力が300 Wの際,XCAVATORファイバーで3 × 10 W/mm2,Twisterファイバーで1.1 × 103 W/mm2であった.蒸散深さが浅いことにより,腺組織が過剰に蒸散されてしまうリスクが低減され,不意に出血する可能性は低くなる.また,両ファイバーで損傷深さに有意差はなかった(Fig.8(b)).Twisterファイバーでは,XCAVATORファイバーと比較して,パワー密度が高く,蒸散深さが大きくなった(Fig.8(a)).一方,凝固深さはXCAVATORファイバーの方が大きくなった(損傷深さの定義より).これは,Twisterファイバーで蒸散に利用されたエネルギーの多くがXCAVATORファイバーでは凝固に利用されたためと考えられる.損傷深さは,蒸散深さと凝固深さにより定義されるため,今回の光照射条件では,損傷深さに差異がなかったと考えられる.これより,XCAVATORファイバーを用いた接触式レーザー前立腺蒸散術の熱影響はTwisterファイバーを用いた場合と同等であると考えられる.臨床では,損傷領域の残留組織は術後に大部分が剥離するため12),術者は損傷領域がどの程度かを考慮して光照射する必要がある.両ファイバーで損傷深さは同程度であったことから,術中の蒸散および術後の剥離により除去される腺組織領域は同程度になると考えられるため,治療効果は同等になると推測できる.蒸散幅は,ある一点に設定出力300 Wで2 s照射した場合,XCAVATORファイバーで最大8.1 ± 1.6 mm,Twisterファイバーで最大5.0 ± 1.5 mmであり,XCAVATORファイバーの蒸散幅はTwisterファイバーより有意に大きかった.これは,XCAVATORファイバーは,Twisterファイバーと比較して光拡がり角が大きく広範囲に光照射できるからである.XCAVATORファイバーを用いることで,蒸散表面積の観点から蒸散効率が向上した.臨床では,術者は良好な蒸散を続けるためにファイバーをスイープさせながら光照射する13).Twisterファイバーと比較してXCAVATORファイバーの蒸散表面積が大きくなることから,スイープ幅が低減されると考えられる.

本照射実験では前立腺試料としてブタ前立腺組織を使用した.ブタ前立腺組織に対する波長980 nmの光侵達深さを評価するために,双積分球光学系と逆モンテカルロ法を用いて吸収係数と換算散乱係数を計測した14).吸収係数は0.11 ± 0.01 mm−1,換算散乱係数は1.66 ± 0.28 mm−1であった.光侵達深さ6)は1.30 ± 0.08 mmであった.ヒト前立腺組織の光侵達深さは2.4 mmと報告されているため6),ブタ前立腺組織の光侵達深さはヒト前立腺組織の約半分であった.本研究では,同一試料を用いてXCAVATORファイバーによる熱影響をTwisterファイバーと比較評価しているため,本比較結果に影響を与えないが,蒸散深さなどの数値をヒト前立腺組織に外挿するには,ヒト前立腺組織と同等な吸収係数・換算散乱係数をもつ試料を用いて照射実験を行う必要がある.

前立腺肥大症に対するレーザー治療の発展はレーザー医療機器の進化に伴うため,新規レーザー医療機器の迅速な臨床応用は前立腺肥大症治療の高度化につながる.レーザー治療では,光エネルギーを生体組織に注入して治療効果を得るため,新規レーザー医療機器の承認には,非臨床試験・臨床試験によって生体組織への安全性・有効性を立証する根拠を提示することが必須となる.本邦では,平成28年6月29日に通知「レーザ医療機器の承認申請の取扱いについて」が発出され,新規レーザー医療機器の認可に必要となる試験が決定木によって規定されている15).新規レーザー医療機器の承認申請において,使用目的および作用原理が同一の既承認品が存在し,性能および使用方法に既承認品との同等性が認められない場合,既承認品との差分にかかる臨床的な影響を非臨床試験によって評価することで臨床試験成績の提出が不要となる.XCAVATORファイバーの使用目的および作用原理は,Twisterファイバーと同様に,前立腺肥大症に使用し,腺組織に波長980 nmのレーザー光を照射して切除(蒸散と凝固)することである.しかし,XCAVATORファイバーでは,照射対象面でのレーザー照射光分布がTwisterファイバーと異なるため,波長980 nmのレーザー光に対する前立腺組織の光熱応答が変化する.XCAVATORファイバーの臨床応用には,Twisterファイバーとの差分にかかる臨床的な影響を評価することが求められる.異なるファイバーの差分にかかる臨床的な影響をex vivo実験やファントム実験にて評価すれば,使用するファイバー以外の実験条件を揃えられるため,ファイバーによる治療効果の差異を理解する際に有用となる.レーザー医療機器の性能評価には,「外科的な処置を使用目的とするレーザー機器の性能評価指針」15)において,実際の手技を反映した使用方法により,機器の設定可能なモード及び出力全体にわたって行うことが求められている.臨床と同等な照射実験系を用いてレーザー医療機器やその光照射条件に応じた蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を解析することが肝要になる.このような解析に対して,計算機的手法の導入が注目されている16-19).計算機上に臨床を模擬した光照射モデルの構築と光照射パラメータの設定のみの簡便な操作で,迅速に蒸散深さや損傷深さなどの熱影響を計算できるため,光照射パラメータに対する網羅的な解析に有用になる.レーザー照射による蒸散深さや蒸散面積の計算機的解析では,計算結果とex vivo実験結果との同等性が確認されており11,20),計算機的手法の有効性が実証されている.今後,計算機的手法の活用によって,蒸散効率を向上させる光照射パラメータを設計し,合併症を抑制した効果的なレーザー前立腺蒸散術を実現することが期待される.

6.  結論

本研究では,既承認のTwisterファイバーとの比較からXCAVATORファイバーを用いた接触式レーザー前立腺蒸散術の熱影響を解析するために,ブタ前立腺組織を用いた照射実験にて蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を評価することを目的とした.同一光源装置を用いてXCAVATORファイバーおよびTwisterファイバーから出射される波長980 nmレーザー光の照射対象面での空間分布と光拡がり角を計測し,ブタ前立腺組織を用いて蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅を測定した.Twisterファイバーと比較し,XCAVATORファイバーは広範囲に光照射できパワー密度が小さくなるため,広くて浅い蒸散をしながら同等な損傷深さとなった.以上より,接触式レーザー前立腺蒸散術におけるXCAVATORファイバーの特性を明らかにした.蒸散深さ,損傷深さ,蒸散幅は,プローブの形状,光波長や出力,照射時間などの光照射パラメータ,プローブと組織表面の距離,前立腺組織の光学特性値によって変化する.計算機的手法を利用した網羅的な解析をすることで,光照射条件に応じた蒸散深さや凝固深さを取得できるため,レーザー前立腺蒸散術に対する安全かつ有効な治療条件の決定を支援することにつながる.

利益相反の開示

本研究は,株式会社インテグラルより研究費の提供および実験装置の貸与を受けた.

引用文献
 
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