The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Dental Pulp Response to Tooth Cutting with Dental Lasers
Koichi Shinkai
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2022 Volume 43 Issue 2 Pages 82-90

Details
Abstract

各種歯科用レーザーのなかで,Er:YAGレーザーとEr,Cr:YSGGレーザーは各種歯科治療へ幅広く適用され,歯の切削にも用いられる.当講座は,歯冠修復への各種歯科用レーザーの応用について20年ほど前から基礎研究を継続している.近年では,歯を効率的に切削できるEr,Cr:YSGGレーザーに注目し,このレーザーの切削歯面に対する接着改善,照射条件と切削効率,切削後の歯髄反応等について研究を行ってきた.本稿では,これまでの研究成果を基にして,歯のレーザー切削によって生じる歯髄反応をメインに,露髄面へのレーザー照射による歯髄反応についても解説する.

Translated Abstract

Er:YAG and Er,Cr:YSGG lasers, among various dental lasers, have been widely used in various dental treatments, including tooth cutting. Our department researched the application of various dental lasers in restoration from approximately 20 years ago and recently identified the Er,Cr:YSGG laser, which can efficiently cut teeth. Additionally, we have studied the improvement in tooth surface adhesion prepared using this laser, correlation between irradiation condition and efficacy of cutting, dental pulp response to tooth cutting, and so on. In this review, I primarily discuss the dental pulp response to tooth cutting with dental lasers as well as the response to laser irradiation of the exposed pulp.

1.  緒言

日常の歯科治療で歯の切削に一般的に使用されているのは,回転切削器械と切削器具である.歯の回転切削は,切削時に摩擦熱が生じるため歯髄を損傷する危険性があり,十分な冷却処置を施しながら歯を切削しなければならないことは周知されている.すなわち,歯の切削時の注水冷却,間歇的な軽圧切削,鋭利な切削器具の使用など,歯の切削面に温度上昇が生じないように配慮する必要がある.とくに,エアタービンハンドピースを用いた場合,300,000~500,000 rpmの高速回転で切削するので歯髄傷害を防止するために細心の注意が必要である.回転切削器械・器具は長い歴史をもち,改良は進められてきたが,歯の切削時における不快な振動や切削音をなくすことはほとんど不可能である.

近年,歯科用レーザーを用いた歯の切削が歯科治療に取り入れられている.回転切削と比較したレーザー切削の利点は,不快な振動や切削音が生じないことである1,2).硬組織の切削に利用できる歯科用レーザーは,組織表面吸収型のEr:YAGレーザーとEr,Cr:YSGGレーザーであり,臨床使用に関してともに厚労省から認可を得ている.CO2レーザーも組織表面吸収型であり,理論的には歯の切削も可能であるが,炭化作用が強いため歯の切削面は黒化してしまう3).また,切削効率が著しく低いので,ほとんど利用されていない.しかし,最近では,従来型に比べて波長を少し短くした新規炭酸ガスレーザーが開発され,歯の切削にも応用できるようになったと報告されている4)

効率的な歯のレーザー切削を行うには,レーザー照射と同時に照射面に対して水を吹き付ける必要がある.Er:YAGレーザーとEr,Cr:YSGGレーザーのハンドピースはヘッド先端に注水口をもち,レーザー照射時に水がスプレーされる.レーザーによる歯の切削は,レーザーの光エネルギーが歯の構成成分であるハイドロキシアパタイト内外の水分子に吸収されて微小水蒸気爆発が生じ,それによってハイドロキシアパタイトが粉砕されて生じる硬組織の蒸散現象であると推察されている5).したがって,レーザー照射時におけるウォータースプレーによって,レーザーの光エネルギーが水分子と反応してさらに強いエネルギーに変化するため,より効率的なレーザー切削が可能となる.このような切削機序は「Hydrokinetic theory」として報告されている6,7).さらに,「Rapid subsurface expansion of laser-heated water theory」として,歯質表層下に取り込まれた水分がレーザーにより加熱されて急激に膨張する結果,歯質表層が粉砕されるという切削機序が報告されている8).レーザー切削時の注水は,レーザーの発熱作用による切削面の温度上昇を抑制する効果も発揮していると思われるが,レーザーの熱エネルギーの影響が歯髄にどのような影響を及ぼすのか,不明な点も多く詳細については明らかにされていない.そこで,当講座では,20年ほど前から歯科用レーザーを用いた歯の切削が歯髄に及ぼす影響について動物実験を行っている.

本稿では,当講座が行ってきた研究データの一部を提示しながら,歯のレーザー切削によって生じる歯髄反応について解説したい.

2.  Er:YAGレーザーを用いた歯の切削によって生じる歯髄反応

田中ら9)は,カニクイザルの歯をEr:YAGレーザーを用いて窩洞形成し,歯面処理後,コンポジットレジンで修復した歯の歯髄反応を病理組織学的に評価した.

Er:YAGレーザー装置(DL-ER,長田電機工業)を用い,エナメル質に対して200 mJ-10 pps,象牙質に対して200 mJ-5 ppsの照射条件で窩洞形成を行った.窩洞はセルフエッチングプライマーシステム(歯質接着システム)で歯面処理した後,コンポジットレジンを塡塞した.また,エアタービンハンドピースとダイヤモンドポイントで窩洞形成し,同様に修復した歯をコントロールとして用いた.短期群(3日後)と長期群(90日後)について歯髄反応を評価した.なお,歯髄反応は,象牙芽細胞層の変化,炎症性細胞浸潤および修復象牙質の形成について評価した.評価結果を総括したものをFig.1に示す.レーザー切削による象牙芽細胞層の変化は,3日後ではタービン切削より若干強い傾向を示したが,90日後ではタービン切削と同程度であった.炎症性細胞浸潤は,いずれの切削法を用いた場合でも,3日後と90日後において認められなかった.90日後における修復象牙質の形成は,レーザー切削の方がタービン切削より顕著であった.

Fig.1 

Overview of the results of the histopathological evaluation at 3 and 90 days postoperatively.

PTD: Pulp tissue disorganization, ICI: Inflammatory cell infiltration, TDF: Tertiary dentin formation

以上の結果から,Er:YAGレーザーを用いた歯の切削は,回転切削より歯髄刺激性が若干強いことが伺える.これは,歯質に対して作用した高反応レベルレーザー治療(HLLT)によって生じた熱作用による歯髄への影響と考えられる.しかし,レーザー切削は回転切削より歯髄の回復が早く,かつ修復象牙質の形成が顕著であったことから,歯のレーザー切削時に切削面から少し離れた歯髄組織には低反応レベルレーザー治療(LLLT)による光化学作用すなわち細胞活性化作用が同時に生じていたことが推察される.Er:YAGレーザーを用いたレーザー切削と回転切削に関して歯髄反応の違いを動物実験で比較した研究では,両者ともに象牙芽細胞層に顕著な変化を認めたが,レーザー切削された歯髄にのみ強いアルカリフォスファターゼの免疫活性が認められたと報告されている10).アルカリフォスファターゼは硬組織の石灰化促進機構に関与していることからLLLTが修復象牙質の形成を促進したと考えられる.

また,この種の研究では,Er:YAGレーザーの照射条件,切削窩洞の深さや歯髄との距離,および切削されたエナメル質や象牙質に対するコンポジットレジンの接着強さすなわち修復窩洞の辺縁封鎖性も歯髄反応に影響を及ぼすと考えられる.そこで,この研究では,レーザーの照射条件としてチップ先端の照射エネルギーが200 mJになるように本体の設定エネルギーを調節し,窩洞形成時に照射エネルギーが一定になるように配慮された.また,窩底部残存象牙質の厚さは切削法の違いにかかわらず,歯髄に影響する重要な因子であるため実験群間に差がないことが望ましい.そこで,この研究では,残存象牙質の厚さが0.4~0.6 mmの試料のみ評価対象としたことで,可及的にこの因子の影響が排除されている.さらに,コンポジットレジン修復物の辺縁封鎖性は,細菌漏洩による歯髄刺激を回避する上で重要である.レーザー切削面に対する接着は,とくに象牙質の場合,熱変性層の存在により接着強さが低いこと11)が知られている.しかし,この研究で用いた歯質接着システムは接着性が良好で,90日後の試料でも細菌侵入は全く認められなかった9).これらのことから,本研究結果は,回転切削と比較したレーザー切削の歯髄に及ぼす影響について的確に評価していると思われる.

3.  Er,Cr:YSGGレーザーを用いた歯の切削によって生じる歯髄反応

高田ら12)は,ラットの歯をEr,Cr:YSGGレーザーで窩洞形成し,各種方法で歯面処理後,コンポジットレジンを塡塞した歯の歯髄反応を観察した.

雄性SD系ラット(8~9週齢)の上顎第一臼歯近心咬頭部にEr,Cr:YSGGレーザー装置(Waterlase MD, Biolase)を用いて窩洞形成を行った.ラット歯の切削に適したレーザーの照射条件として,40 Hz,Water 30%,Air 50%,2.5 W(エナメル質)あるいは2.0 W(象牙質)とした.照射距離は約1.5 mmとした.各窩洞に対してTable 1に示す各々の方法で歯面処理を行った後,コンポジットレジンを塡塞した.修復してから24時間あるいは14日間の観察期間を経た後,ラットに対して全身麻酔下で4% PFA溶液による経心的灌流固定を行った.摘出試料(ラット上顎骨)は,通法に従い,10% EDTA溶液で脱灰後にパラフィン包埋を行い,連続薄切切片を作製した.H-E染色あるいはグラム染色を施した薄切切片を光学顕微鏡で観察し,歯髄組織の変化,炎症性細胞浸潤,第三象牙質の形成および細菌侵入について病理組織学的に評価した.さらに免疫組織化学染色(酵素抗体法:HSP25,蛍光抗体法:MMP3,CD146)を施した薄切切片を光学顕微鏡あるいは蛍光顕微鏡を用いて,免疫組織学的に評価した.各項目の評価結果について,実験群の間の有意差はKruskal-Wallis testを用いて,観察期間の間の有意差はMann-Whitney U testを用いて統計学的に検定した.

Table 1  Experimental group.
Group Bonding procedures Filling materials
Group 1 SBP application (20 s)→air blowing→SBB application→light curing (10 s) Clearfil Majesty LV
Group 2 Etching (30 s)→rinse and dry→SBP application (20 s)→air-blowing→SBB application→light curing (10 s)
Group 3 Etching (30 s)→rinse and dry→AD-Gel application (90 s)→rinse and dry→SBP application (20 s)→air-blowing→SBB application→light curing (10 s)
Group 4 TSB application→air-blowing (5 s)→light curing (10 s)
Control None (Fuji VII was placed into the cavity without pretreatment) Fuji Ⅶ

SBP: Clearfil SE Bond/Primer, SBB: Clearfil SE Bond/Bond, TSB: Clearfil Tri-S Bond ND Quick

各実験群におけるラット歯の歯髄反応を病理組織学的に評価した結果をFig.2に示す.実験群の比較では,どの観察期間についてもすべての評価項目において有意差は認められなかった(p > 0.05).一方,観察期間の比較では,歯髄組織の変化の評価項目に関しては,Group 1,Group 3およびGroup 4において有意差を認め(p < 0.05),24時間後にみられた象牙芽細胞層を含む歯髄表層の変化は14日後にはほとんど消失していた.また,第三象牙質の形成の評価項目に関しては,すべての実験群において有意差を認め(p < 0.05),14日後に顕著な修復象牙質の形成が認められた.また,どの観察期間でもすべての試料において細菌侵入は認められなかった.

Fig.2 

Overview of the results of the histopathological evaluation at 24 h and 14 days postoperatively.

PTD: Pulp tissue disorganization, ICI: Inflammatory cell infiltration, TDF: Tertiary dentin formation

*A statistically difference between the connected groups (p < 0.05)

実験結果から,レーザー切削窩洞への各種歯面処理方法による歯髄反応には有意差がないことが明らかとなった.レーザーで切削された象牙質はスミヤー層が形成されず象牙細管が開口していることからリン酸処理による歯髄への影響が懸念されたが,リン酸処理の併用群と非併用群の間には統計学的に有意差はなかった.この結果は,リン酸が,歯髄内圧の影響で象牙細管内の歯髄近くまで浸透しなかったことや応用後の水洗で処理面から十分に除去されたことによって,リン酸処理の影響が歯髄に及ばなかったためと推察される.また,この研究で用いられた歯面処理材には酸性モノマーのMDPが含有されているが,MDPモノマーの歯髄への刺激はほとんどないことが明らかとなっている13-15).さらに,古くからコンポジットレジン修復後の歯髄刺激は修復物辺縁からの細菌漏洩によるもの16)と認識されており,この研究ではすべての試料において細菌侵入は観察されなかったことから,いずれの歯面処理方法でもレーザー切削窩洞のコンポジットレジン修復において優れた辺縁封鎖性が得られた結果,実験群間に歯髄反応の有意差はみられなかったと推察される.

H-E染色した薄切切片を光学顕微鏡で観察した代表的組織像をFig.3とFig.4に示す.24時間後では,象牙芽細胞の消失や配列不正および比較的大きな水腫が,窩底部直下の象牙細管の走行に沿った象牙芽細胞層内に認められ,それらに近接した歯髄内に若干の炎症性細胞浸潤が認められた(Fig.3).しかし,14日後では,象牙芽細胞層の変化と炎症性細胞浸潤は消失し,窩底部直下の象牙細管の走行に沿った部位に顕著な修復象牙質の形成が認められた(Fig.4).

Fig.3 

Representative photomicrographs of the histology of each group at 24 h. (a) Group 1, (b) group 2, (c) group 3, (d) group 4, and (e) control group.

A basophilic heat-denatured layer was observed on the laser-irradiated dentin surface. At 24 h postoperatively, nearly all specimens showed various degrees of odontoblastic layer disorganization.

Various sizes of edematous formations (*) were observed in the odontoblastic layer, which is apically positioned from the odontoblastic layer connecting the cavity wall with the dentinal tubules. Inflammatory cells, including neutrophils, were observed around the edema present in the specimens at this time point. (Mayer’s HE staining, original magnification: ×40)

Fig.4 

Representative photomicrographs of the histology of each group on day 14. (a) Group 1, (b) group 2, (c) group 3, (d) group 4, and (e) control group.

At this time point, all experimental groups had a normal-appearing odontoblastic layer with no evidence of an inflammatory response. However, all groups displayed tertiary dentin formation at the pulpal dentin wall (*). (Mayer’s HE staining, original magnification: ×40)

免疫組織化学染色を施した薄切切片を光学顕微鏡で観察した代表的組織像,ならびに免疫蛍光染色を施した薄切切片を蛍光顕微鏡で観察した代表的組織像をFig.5とFig.6に示す.24時間後では,HSP25とCD146に対する強い陽性反応が,髄角部の細胞,窩洞直下の象牙細管の走行に沿った象牙芽細胞層あるいは水腫の周囲に隣在する歯髄内細胞に認められた(Fig.5).一方,14日後では,髄角部の細胞あるいは修復象牙質の周囲の細胞にHSP25とCD146に対する陽性反応が認められたが,24時間後に比べて非常に弱い反応であった(Fig.6).しかし,MMP-3に関しては,24時間後,14日後のいずれにも陽性反応がほとんど認められなかった.

Fig.5 

Representative photomicrographs of HSP25 immunostaining and CD146 immunofluorescent staining at 24 h (group 3). (a) HE, (b) HSP25, (c) CD146, and (d) DAPI + CD146.

At 24 h postoperatively, all groups showed strong HSP25 staining in the odontoblastic layer connected to the cavity bottom through the dentinal tubules, along with edema. Positive CD146 staining was present in the odontoblastic layer connected to the cavity wall through the dentinal tubules, along with edema. Original magnification: (a) ×40; (b-d) ×200

Fig.6 

Representative photomicrographs of HSP25 immunostaining and CD146 immunofluorescent staining on day 14 (group 3). (a) HE, (b) HSP25, (c) CD146, and (d) DAPI + CD146.

On day 14, all groups showed weak positive HSP25 staining in the tertiary dentin that formed adjacent to the cavity. Positive CD146 staining was slightly present beneath the cavity wall and in the tertiary dentin that formed adjacent to the cavity. Original magnification: (a) ×40; (b-d) ×200

HSPは熱や化学物質のようなストレスが加えられた時に発現する多機能性蛋白質として知られており,ストレスで変形した蛋白質の構造を回復するシャペロンとして機能する17,18).Er,Cr:YSGGレーザーを用いた歯の切削は注水下とはいえ,切削時におけるレーザーの光熱作用が象牙質・歯髄複合体に影響を与えて多量のHSPが発現したものと推察される.また,HSP25は,アクチンフィラメントの安定性やアポトーシスの抑制に関連している17,18)ので,熱作用による歯髄細胞のダメージを抑えている可能性がある.

MMPsはサイトカインとそのレセプターの活動をコントロールし,血管内皮前駆細胞や幹細胞の分化などさまざまな機能を有しており,結合組織のリモデリングを行う19,20).MMPsは正常細胞ではほとんど観察されないが,細胞外基質蛋白質のリモデリングの最中は増加したという報告17)がみられる.また,歯髄の創傷治癒過程におけるMMPsの活性も報告されている21,22).MMP-3は歯髄内のマトリックス成分を分解するため,過度な歯髄組織の破壊原因にもなる23-25).本研究では,24時間後においてすでにMMP-3の陽性反応がみられなかったことから,HLLT効果で熱損傷を受けた歯髄内基質が,LLLT効果で発現したMMP-3によって早期に分解され,その後MMP-3は内在性インヒビターによって速やかに不活性化されたと推察される.

CD146は多器官から分離された間葉系幹細胞のマーカーとして使われており26),CD146の発現は間葉系幹細胞の分化に関連していると推測されている27).本研究では24時間後にCD146の強い陽性反応が認められたことから,歯髄幹細胞から分化した象牙芽細胞様細胞が,浮腫が生じた領域における修復象牙質の形成に寄与したと思われる.

以上の結果を総括すると,Er,Cr:YSGGレーザーを用いて窩洞形成したラット歯の歯髄は,窩洞形成直後に象牙芽細胞層の変化や軽度の炎症性細胞浸潤が生じたが,いずれの接着システムにおいてもコントロールと同様に,14日後では修復象牙質の形成とともに治癒していた.したがって,Er,Cr:YSGGレーザーを用いた歯の切削は,HLLTの熱作用によって歯髄表層の象牙芽細胞層を損傷し,その程度が強い場合には水腫が形成されるが,その後LLLT効果によって歯髄幹細胞から象牙芽細胞様細胞への分化や血管新生が生じ,いずれ修復象牙質を形成しながら歯髄は治癒することが示唆された.

4.  CO2レーザーを露髄面に応用した場合の歯髄反応

レーザー切削による歯髄反応とは異なるが,関連事項なので露髄面にCO2レーザーを照射した場合の歯髄反応についても当講座の研究成果を示したい.CO2レーザーを露髄面に照射すると,組織表層の炭化作用によって露髄部からの再出血や組織液の滲出を抑制することが可能であり,臨床では直接覆罩処置においてCO2レーザーが応用されている.

鈴木ら28)は,ラットの歯を切削して意図的に露髄させ,露髄面にCO2レーザーを照射してからセルフエッチングプライマーシステムで直接覆髄を行い,その後コンポジットレジン修復を行った歯の歯髄反応について経時的変化を観察した.

雄性SD系ラット(8~9週齢)の上顎第一臼歯近心咬頭部に#440SS球状ダイヤモンドポイントを用いて窩洞形成を行い,#1/2球状スチールバーで露髄させた.止血した露髄面に対し,CO2レーザー装置(Opelaser 03S II SP,ヨシダ)を用いて出力0.5 W,照射時間3秒,スーパーパルス・リピートモードおよびデフォーカス(照射距離20 mm)の条件でCO2レーザーを空冷下で照射した.次に,セルフエッチングプライマーシステムで露髄面を含めた窩洞全体を歯面処理した後,コンポジットレジンを塡塞した.また,露髄面にレーザーを照射しない2つの実験群(水酸化カルシウム製材で薄く被覆してからセルフエッチングプライマーシステムで窩洞を歯面処理する群と水酸化カルシウム製材で被覆せずにセルフエッチングプライマーシステムで露髄面を含めた窩洞全体を歯面処理する群)をコントロールとした.修復してから1,3,7,14および28日間の観察期間を経た後,前述した方法で連続薄切切片を作製し,同様に染色した後,歯髄組織の変化,炎症性細胞浸潤,第三象牙質の形成および細菌侵入について病理組織学的に評価した.さらに免疫組織化学染色(酵素抗体法:TGF-β1,HSP25およびDMP1)を施した薄切切片を用いて露髄面の治癒状態を免疫組織学的に評価した.各項目の評価結果は,観察期間ごとにKruskal-Wallis testを用いて実験群間の有意差を検定した.

1,3および28日後における各実験群の歯髄反応について病理組織学的に評価した結果をFig.7に示す.すべての評価項目は,いずれの観察期間においても実験群間に有意差を示さなかった(p > 0.05).術後初期の炎症性変化に関しては,CO2レーザー照射群が,有意差はないものの,CO2レーザー非照射群と比較しやや強い傾向がみられたが,それらはいずれも経時的に消退した.修復象牙質形成に関しては,CO2レーザー照射群がCO2レーザー非照射群と比較して遅れる傾向がみられたが,最終的には象牙質橋を形成し露髄部を閉鎖した試料がCO2レーザー照射群においても観察された.また,細菌侵入は,いずれの観察期間でもすべての試料において観察されなかった.

Fig.7 

Overview of the results of the histopathological evaluation at 1 day, 3 and 28 days postoperatively.

PTD: Pulp tissue disorganization, ICI: Inflammatory cell infiltration, TDF: Tertiary dentin formation

CO2レーザー照射群の3日後と28日後の代表的組織像をFig.8に示す.3日後の所見では,レーザーを照射した露髄面に変性層と炭化した象牙質片が存在し,変性層直下の歯髄は約250 μmの深さまで歯髄細胞の減少が認められる.また,露髄箇所周辺の象牙芽細胞層には,ほとんど象牙芽細胞が認められない.28日後の所見では,露髄面に新生象牙質を認めるが,炭化層の残存によって完全な象牙質橋による露髄箇所の閉鎖は認められない.また,露髄箇所周囲の象牙質壁には厚い修復象牙質が認められ,窩洞内への歯髄の突出も認められるが,全体的に歯髄組織の状態は正常である.したがって,露髄面へのCO2レーザー照射は炭化作用により再出血を抑制できるが,炭化層の存在が象牙質橋形成による露髄面の閉鎖を遅延させる原因となる可能性が考えられる.

Fig.8 

Representative histologic images of the laser irradiation group on day 3 and 28. (a) On day 3, (b) On day 28.

On day 3, irregularly shaped denaturation tissue (DT) and carbonized dentin chips (CC) can be seen at the exposed surface. The number of pulpal cells decreased at the range of approximately 200-250 μm beneath the denaturation tissue. Odontoblast layer disorganization can be recognized. On day 28, newly formed reparative dentin (ND) can be seen at the pulp exposure site, but there is no evidence of complete dentin bridge formation. A quantity of RD deposition can be seen at the dentin wall around the exposed area. Pulp protrusion into the cavity can be seen. Pulpal morphology is normal. (Mayer’s HE staining, original magnification: ×100)

5.  結語

当講座の研究成果を提示しながらレーザー切削による歯髄反応について解説したが,レーザー切削時の照射条件や切削深度が歯髄反応に及ぼす影響など,解明すべき課題は数多く残されている.また,LLLT効果が修復象牙質の形成を促進する可能性が示唆されたため,象牙芽細胞や歯髄幹細胞に対するレーザーの光化学作用に関して細胞レベルにおける詳細な検討が必要であり,当講座では現在研究を進めている.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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