The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Clinical Application of Fluorescence Technology Using Indocyanine Green and 5-Aminolevulinic Acid
Tsutomu Namikawa Keiji InoueTakayuki SatoKazuhiro Hanazaki
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 314-319

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Abstract

肉眼では捉えることができない生体情報を可視化する手段として,インドシアニングリーン(ICG)蛍光法と,5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いた光線力学診断(PDD)は幅広い臨床分野でその有用性が期待されている.ICG蛍光,5-ALA-PDD観察を併用した蛍光ガイド下手術は,手術の安全性,治療成績の向上に貢献しており,今後の薬剤開発とともに照射装置の発展により,さらに低侵襲で診断能の高い画像システムの開発が望まれている.

Translated Abstract

New diagnostic techniques, such as near-infrared fluorescence using indocyanine green (ICG) dye and photodynamic diagnosis (PDD) using 5-aminolevulinic acid (5-ALA), are useful in various clinical fields for visualizing biological information that cannot be detected by the naked eye. Fluorescence-guided surgery combined with ICG fluorescence and 5-ALA-PDD improves surgical safety and treatment results. The evolution of irradiation equipment along with future drug exploitation is expected to lead to accurate diagnosis with minimally invasive methods and development of a high-quality image system.

1.  緒言

我々は日常生活から産業全般にわたるまでX線,光,電波などの「電磁波」を様々な形で活用している.放射線や内視鏡を用いた医療はもちろんのこと,それぞれの電磁波の波長帯の特性を活かして,日常診療において光線技術を用いた診断,治療が行われるようになってきており,消化器外科領域においても光を用いた新規診断技術が開発応用されてきている1).ここでは,インドシアニングリーン(Indocyanine green: ICG)を用いたICG蛍光法と,5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid: 5-ALA)を用いた光線力学診断(Photodynamic diagnosis: PDD)に焦点を当てて,我々の施設での経験を踏まえて概説し,今後の展望にも触れたい.

2.  ICG蛍光法

ICGは生体透過性の高い波長である近赤外光が照射されるとICG分子のエネルギー状態が高くなり,照射した近赤外光よりも若干波長の長い近赤外蛍光を発するという蛍光特性を有している.ICG蛍光観察ではこの近赤外蛍光を捉えて,対象とする生体構造の表面から10 mm程の範囲内で深部構造を可視化することが可能であり,蛍光ガイド下手術に応用されている1,2).HyperEye Medical System(HEMS)は,カラー画像としてICG蛍光を可視化するシステムで,血管,血流,リンパ管,リンパ流,リンパ節などの情報をカラーイメージングとして認識することができるため臨床医療において幅広く使用されている2-6)

ICGは血管及び組織の血流評価をするための蛍光血管造影剤及びセンチネルリンパ節同定薬としての効能・効果が認められており,2018年には術中血管等描出撮影加算として500点(K939-2)が新設されている.肝機能検査及び循環機能検査において,ICG投与に伴う副作用は0.17%で,主な副作用はショック症状0.02%,悪心・嘔気0.08%,血管痛0.04%,発熱・熱感0.02%等が報告されており,その使用に際しては低頻度ではあるがこれらの副作用に配慮して観察を十分に行い,異常が認められた場合には必要に応じ適切な処置を行う必要がある7)

3.  ICG蛍光観察システム

現在,Photodynamic eye(PDE,浜松ホトニクス),LIGHTVISION(島津製作所),Medical Imaging Projection System(MIPS,三鷹光器),HyperEye Medical System(HEMS,ミズホ)などのICG蛍光観察システムが使用可能である.いずれの機器も近赤外線を可視光と同時にカラー画像として描出し,リアルタイム動画として近赤外光で励起したICGが発する蛍光の可視化を可能としている.つまり,術野においてターゲットとなる組織と周辺組織との位置関係が視認できるようになることで,ICG蛍光ガイド下手術を可能としている1,8).近赤外蛍光部と可視光画像をカラーで同時合成描出できるので,画像からその手術で目的とする部位を特定することが容易となり,解像度も高く微細な組織構造の動態観察が可能となる.

PDEは,ハンディタイプのカメラユニットで目的とする領域を手軽に観察することが可能で,手元のスイッチを操作することにより観察しながら容易に画像調整もできる.LIGHTVISIONは可動性と自由度の高いアームにより目的とする術野にアプローチし易く,高解像度の画像が得られる.MIPSは,プロジェクションマッピングによる直感的なリアルタイムガイドと状況に応じて自在に装置を的確に患部に向ける事ができるアームシステムを使用する事で,より高い精度の手術が可能となっている.HEMSは高知大学とミズホ株式会社との産学共同で開発されたシステムで,LEDライトを装備したCCDカメラ,画像処理を行う制御盤,モニター,そしてそれらを適切な位置に固定できるアームから構成されている9,10)

4.  ICG蛍光法を用いた血流評価

ICG蛍光法は乳癌や胃癌,大腸癌等のセンチネルリンパ節の術中同定(センチネルリンパ節生検),臓器切除における血管の術中同定,肝細胞癌・腎癌における部分切除術,冠動脈バイパス手術での血流評価や大動脈瘤手術の臓器血流評価への応用が試みられ,その臨床的有用性が検証されて,急速に普及してきている1,2-6,11-13)

食道癌に対する食道切除後,再建臓器としては多くの場合胃管が用いられているが,食道・胃管吻合に際して胃管の血流状態は縫合不全発生率に大きく関わってくる.我々は,食道癌手術において縫合不全の少ない再建を行うために,HEMSを用いて胃管の血流状態を明瞭に可視化し,胃壁内血管網を損傷しない胃管を作成している(Fig.1).胃の大彎と小彎からの血流の描出程度を評価し,再建部位として至適な領域を確認後,自動縫合器で胃管を作成するようにした症例においては縫合不全を認めていない14)

Fig.1 

Near-infrared (NIR) fluorescence imaging using indocyanine green (ICG) in esophagectomy for esophageal cancer

Blood flow in the stomach is mobilized as an esophageal substitute cannot be seen under normal white light, but ICG fluorescence visualizes the gastric wall vessels perfused by the right gastroepiploic artery in NIR-ICG under color imaging (arrow).

また腹部緊急手術例においてもHEMSは併用可能であり,上腸間膜動脈瘤破裂症例の緊急手術で血腫を除去しながら動脈瘤を切除し,HEMSを用いて血流評価すると動脈瘤の存在していた部位の遠位腸管には十分な蛍光が見られ腸管温存可能であった15).また絞扼性腸閉塞に対する手術時にICG蛍光法を用いて腸間膜および腸管の血流評価を行い,腸管切除が必要とされるか否かの判断にも有用である(Fig.2, 3).このように,HEMSによるICG蛍光法は簡便に施行可能で血流のカラー画像化を可能とし,消化器関連の手術において臓器の切除,温存を判断するために有用であり,他領域の手術においても使用用途の拡大が期待される.

Fig.2 

Near-infrared (NIR) fluorescence imaging using indocyanine green (ICG) in emergency surgery for strangulated bowel obstruction

Blood flow in the small intestine and mesentery is evaluated during surgery using NIR-ICG. Strong fluorescence is visible in the healthy small bowel and mesentery after ICG injection, but it is not observed in the strangulated area, which is resected (arrow).

Fig.3 

Near-infrared (NIR) fluorescence imaging using indocyanine green (ICG) in emergency surgery for strangulated bowel obstruction

Strong fluorescence is visible in the mesentery after ICG injection. Fluorescence is also observed in the strangulated area, which is not resected (arrow).

肝臓手術においては,ICG蛍光法を用いた術中ナビゲーションに関する臨床応用が試みられている.ICG蛍光法は支配グリソン(門脈)を確保し,肝区域の血流をクランプ後にICGを静脈注射することで切除領域と温存領域の境界が描出されるため,切除領域との境界(demarcation line)が明瞭化されることで系統的切除が容易となる.我々の研究でも,系統的肝切除術において,demarcation lineの同定の際に術中ICG蛍光法を併用し,術中ICG蛍光法は肉眼的demarcation lineが不明瞭な症例全てに有用であった.特に先行して肝臓の完全授動ができない右葉系肝切除症例は肉眼的demarcation lineが不明瞭となりやすく,良い適応となる可能性がある(Fig.4).

Fig.4 

Visualization of the segmental boundaries by near-infrared (NIR) fluorescence imaging using indocyanine green (ICG) in right lobectomy of the liver for hepatocellular carcinoma

Fluorescence imaging after intravenous injection of ICG reveals the boundaries between right anterior left medial segments. ICG fluorescence clarifies the demarcation line for the excision area of the target lesion (arrow).

5.  5-ALAを用いた光線力学診断

5-ALAはミトコンドリア内でスクシニルCoAとグリシンから5-ALA合成酵素によって合成される分子量131の内因性アミノ酸である.5-ALAは細胞質内で代謝され,ミトコンドリア内で光感受性物質であるプロトポルフィリンIX(Protoporphyrin IX: Pp lX)に生合成される16,17).その後,正常細胞では細胞内鉄が挿入され,速やかにヘム,ビリルビンへと代謝される.しかし,癌細胞では細胞膜やミトコンドリア膜のトランスポーター活性異常や酵素の異常によりPp IXが癌細胞内に特異的に蓄積する.細胞に375~445 nmの青色可視光線を照射するとPp IXは励起され600~740 nmの赤色蛍光を呈するため,この性質を利用して,病変を観察することができる1).この光化学反応を応用した診断技術が,PDDである1,3).5-ALAを用いたPDD(ALA-PDD)は,光感受性物質が癌特異性に集積することを利用した癌に共通する生物学的特性に基づく技術で,視覚的に腫瘍の局在を明瞭にすることができるため脳腫瘍や膀胱癌の検出や切除範囲の決定などに用いられている16,18-20)

6.  胃癌に対する5-ALA-PDD

5-ALA-PDDは脳外科領域では悪性神経膠腫の腫瘍摘出術中における腫瘍組織の可視化として薬事承認され日常臨床で実用化されており,泌尿器科領域では膀胱上皮内癌の診断率の向上と切除の際に残存腫瘍の減少による再発率の低下が期待され先進医療として行われた後に薬事承認されている16,18-20).一方,消化器領域においては腹膜播種やリンパ節転移診断の向上に向けて臨床研究の取り組みがなされてきている21-25).PDD専用腹腔鏡HOPKINSII Straight Forward Telescopeには青色光を遮断し赤色の蛍光観察が可能となるLong pass filterが装着されており,従来の白色光と蛍光での観察が即時に切り替えができるようになっており,同一病巣の観察を円滑にしている21,22)

胃癌の腹膜播種や遠隔転移は非治癒因子とみなされ,薬物治療が中心に行われているが,腹膜播種の診断は従来の画像診断では困難であり,審査腹腔鏡検査が行われるようになってきている.腹膜播種が疑われる進行胃癌に対して5-ALA-PDDを用いた審査腹腔鏡を施行し通常観察では発見できなかったが,PDDで確認することができた(Fig.5A)15).また漿膜から所属リンパ節に向かって微小な癌浸潤部位も描出可能であった(Fig.5B).5-ALA投与に伴う光線過敏症,肝機能障害等は認めておらず,5-ALA-PDDを併用することで審査腹腔鏡検査における腹膜播種診断の精度を高められる可能性が示唆されている.

Fig.5 

Laparoscopic examination by photodynamic diagnosis (PDD) using 5-aminolevulinic acid (5-ALA) for gastric cancer

A small PDD-positive peritoneal dissemination lesion emitting red fluorescence is visible by 5-ALA-PDD (A, arrow), but not by conventional normal white light. Red fluorescence is visible in the perigastric area adjacent to the cancer location (B, arrow).

胃癌の内視鏡的診断において,面順次方式でなく同時方式の高画素拡大電子内視鏡と半導体レーザー装置からの青紫色(波長405 nm)照射により赤色蛍光が内視鏡的に観察可能とする報告や26,27),レーザー光を活用して自色光観察と同時に狭帯域光観察が可能な内視鏡システムを用いた報告があり,分化度により蛍光性の差異があったことが示されている28)

7.  今後の課題と展望

ICG蛍光観察により蛍光ガイド下手術が可能となったが,ICG血管造影法による血流評価基準は未だ確立されておらず,定量評価を可能にすることがICG蛍光画像診断の今後の課題である.蛍光輝度の時間推移や分布の画像解析ソフトを利用してICG蛍光輝度を数値で定量的に測定する試みも行われており,今後のさらなる開発が期待される.

5-ALAは腫瘍に親和性のある光感受性物質の前駆体であり,今後の薬剤開発とともに技術革新による照射装置の発展により,さらに低侵襲で診断能の高い画像システムの開発が期待される.基礎研究においては,分子レベルでの5-ALAの細胞内への取り込み,排出に関わるトランスポーターや代謝酵素の発現,機能の解析が進むことにより,臨床研究との相補的進捗が望まれる.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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