The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Current Status and Future Perspectives of Sentinel Lymph Node Biopsy by Indocyanine Green Fluorescence Method in Early-Stage Breast Cancer
Manami TadaTomoharu Sugie
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 308-313

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Abstract

乳癌治療において臨床的腋窩リンパ節転移陰性症例に対してはセンチネルリンパ節生検が標準治療となり従来の腋窩リンパ節郭清を省略できるようになった.一方で,腋窩リンパ節転移は重要な予後因子であり,転移の有無の評価は正確かつ安全な方法で行う必要がある.世界的には色素法,RI法が多く用いられてきたが,精度の高いとされるRI法は被爆や施設要件の問題がある.わが国で開発されたICG蛍光法は,RI法に代わるセンチネルリンパ節の同定法として受け入れられている.ここでは,このICGを用いたイメージガイド下センチネルリンパ節生検の現状と展望について解説する.

Translated Abstract

Sentinel lymph node (SLN) biopsy is now the standard of care for patients with clinically node-negative breast cancer and completion of axillary lymph node dissection can be spared in patients who had negative-SLNs. Accurate and safe assessment of axillary lymph node status is required because lymph node involvement is accepted as the most powerful prognostic indicator The combined method using blue dye and radioisotope (RI) have been used worldwide. The RI method yield the high detection rate but has some drawbacks including radiation exposure and requirement of RI facilities and nuclear medicine. The indocyanine green (ICG) fluorescence method which was developed is accepted as an alternative SLN mapping to the RI method. Here we report the current status and perspectives on this image guided SLN biopsy using ICG.

1.  乳癌治療における腋窩手術

1.1  センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清

乳癌における腋窩リンパ節転移は独立した予後因子である1).そのため癌の完全制御を目的に外科的に原発巣を切除するとともに腋窩リンパ節郭清が行われてきた.しかし腋窩リンパ節郭清の後遺症としてリンパ浮腫や運動制限,神経障害が発生し,患者のQOLを大きく低下させてしまうことが問題となっていた.一方で乳癌検診の普及などにより早期発見が増えたことで診断時臨床的に腋窩リンパ節転移を認めない症例も増加し,全例に腋窩リンパ節郭清を施行することの意義が議論されるようになった.臨床的腋窩リンパ節転移陰性症例に対しての予防的腋窩リンパ節郭清の追加をランダム化比較したNSABP B-04試験2)では無遠隔転移生存および全生存率に差を認めなかった.そこでpN0を確認する方法としてセンチネルリンパ節生検が登場し,現在標準的な乳癌治療として確立している.

1.2  センチネルリンパ節生検の変遷

センチネルリンパ節とは原発巣から腫瘍細胞がリンパ流に沿って最初に到達する1個あるいは数個のリンパ節と定義される.1992年にMortonら3)により悪性リンパ腫に対してセンチネルリンパ節生検が応用され,乳癌領域においても1993にKragら4)によってradioisotope(RI)法が,1994年にGiulianoら5)により色素法の有効性が示された.これまでのセンチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清のランダム化比較試験により6,7)により両群間の無再発生存率および全生存率に有意差は認めず,センチネルリンパ節群で有意に合併症の発生率が低下した.これらの結果によりセンチネルリンパ節生検は安全で低侵襲な腋窩リンパ節の転移状況を把握する方法として定着してきたがその方法や適応については各施設間においても差があり未だに議論の残るところである.

2.  インドシアニングリーン(ICG)蛍光法によるセンチネルリンパ節生検

2.1  ICG蛍光法によるセンチネルリンパ節生検の開発

ICG蛍光法ではICGと近赤外線(Near infrared: NIR)イメージグシステムを用いてリンパ流を可視化する方法である.ICGはもともと肝機能評価に用いられ,経静脈的に投与すると,血中のリポ蛋白に結合して肝に輸送され類洞を通過する間に肝細胞に摂取されて抱合を受けることなく胆汁に排泄されるため肝臓の色素排泄機能を観察することができる.また,ICGは蛍光眼底造影検査などで知られるように蛍光を惹起することも古くから検査に利用されてきた.センチネルリンパ節生検ではそれと同様にタンパクと結合しリンパ管内にとどまったICGが近赤外線を吸収することにより惹起され蛍光を発する原理を利用している.この蛍光の検出には760 nmの光を放射するlight emitting diode(LED)光源と820 nm以下の光を遮断するフィルター付きcharged-coupled device(CCD)カメラから構成されているNIRイメージグシステムが必要となる.ICGはNIRイメージグシステムからの赤外光760 nmを吸収し波長の異なる赤外蛍光830 nmを発し,これを蛍光のみ透過する光学フィルターを通してCCDにより映像化している.生体内での他の蛍光波長とも外れた波長であり組織内での観察に優れている.

従来のRI法と色素法の併用法は高い同定率と低い偽陰性率を示し広く普及した一方で,被曝や核医学を扱える施設に限定されるなどの問題点もあった.そこで,RIの代替となるトレーサーの開発が進められ,ICG蛍光法による乳癌センチネルリンパ節生検が2005年Kitai8)らによって世界で最初に報告され,わが国ではTagaya9)やHojo10)らによって,高いセンチネルリンパ節の同定率が報告された.さらに海外ではMurawa11),Wishart12)らによるRI法との比較試験によって,ICG蛍光法はRI法に匹敵する高い同定率を示すことが報告された.その後,国内外でさまざまな検討が進められ,安全性と有効性が確立されわが国でも広く普及し診療報酬での加算も認めるようになった.

2.2  手技(Fig.1
Fig.1 

Sentinel lymph node biopsy by indocyanine green fluorescence method

乳癌でのセンチネルリンパ節生検は原発巣切除と同時に行われることが多いため通常全身麻酔下で行い,術中迅速病理診断で転移の有無を確認する.病理医が常駐していないなどの問題で永久組織標本を用いて転移の有無を評価する場合には,原発巣手術前に局所麻酔下で行われることもある.以下に当院でのNIRイメージグシステムとしてPDE(Photodynamic Eye: PDE,浜松ホトニクス社製)を使用したICG蛍光法センチネルリンパ節生検の手順を示す.

まずICG 25 mgを注射液5 mLで溶解しシリンジと27 G皮内針を用いて乳輪真皮内に1 mL注入し2~3分間マッサージを行い,直ちにPDEによりICGの流れを確認する.ICGの濃度は過去の臨床試験でも一定の見解は無く,メタアナリシスでは5 mg/mL未満が最も感度が高く偽陰性率が低いと報告されている11).ICG注入直後は静脈内に流入したICGも観察されるが速やかにwash outされるためリンパ流との区別は容易である.リンパ流は数本観察されることがあるが,腋窩のセンチネルリンパ節群に向かって収束する.このリンパ流をペンで皮膚にトレースしていくと,リンパ節に流入するあたりで腋窩腔に入るため流れが途絶するように見える.その先にセンチネルリンパ節が存在するため,マーキングし皮膚割線に沿って3,4 cmの皮膚切開を加える.リンパ管を損傷しないように大胸筋筋膜外側縁から連続する浅胸筋膜の層まで鈍的に剥離し,膜を切開すると皮下よりも柔らかい脂肪層のある腋窩腔に到達する.筋鈎で腋窩腔の視野を鈍的に広げ,再度PDEで蛍光を観察すると経皮的に見るよりも強い蛍光が観察できる.リンパ管の先にある柔らかい脂肪組織を鉗子等で手前に引き出すことによってよりリンパ節の陰影を明瞭に観察することができる.摘出したセンチネルリンパ節には緑色の色素を確認できることがあるが,再度PDEによって蛍光の有無を確認する.最後に切除後の腋窩腔をPDEで観察し,残存したセンチネルリンパ節がないかを確認する.

2.3  臨床成績

これまでICG法と色素法やRI法の成績がさまざま比較され報告されてきた(Table 1).色素とICGを併用したTagayaら9)の報告では,色素法の同定率が92%であったのに対してICG法は100%であり,偽陰性率は色素法25%に対してICG法は0%だった.

Table 1  Clinical trials comparing ICG with RI and BD
著者 症例数 トレーサー 摘出リンパ節個数 同定率(%) 偽陰性率(%)
Kitai8) 2005 18 ICG 2.8 94
Tagaya9) 2008 25 ICG 5.4 100 0
BD 2.3 92 25
Murawa11) 2009 20 ICG 1.75 100 7.6
BD 1.35 85 23
Hojo10) 2010 group 1
113
ICG 3 100
BD 1.9 92.9
group 2
29
ICG 3.0 93.1 0
RI 2.0 100 42
Abe19) 2011 128 ICG 3.1 100
BD 1 65.4
Wishart12) 2012 100 ICG 100 1.93
BD 99 1.84
RI 91.3 1.5
Palom20) 2012 28 ICG 2.0 96.4
RI 2.0 100
van der Vorst21) 2012 24 ICG + RI + BD 1.5 ICG 100
RI 100
BD 84
1.5
BD 1.6 1.6
Ballardini22) 2013 134 ICG 99.3
RI 100
Verbeek23) 2014 95 ICG 1.9 (ICG or RI) 98.9 1.0 (ICG or RI)
RI 97.9
Samorani24) 2015 301 ICG 2.0 98.7
RI 2.0 95.3
Sugie13) 2016 821 ICG 2.3 97.2
RI 1.7 97.0
Agrawal25) 2020 207 ICG + BD 3.2 96
RI + BD 2.7 97

RI: radioisotope, ICG: indocyanine green, BD: blue dye

RI法とICG法を比較したMurawaら11)の報告では,ICG法によるセンチネルリンパ節の同定率は100%とRI法が85%で,Wishartら12)は,RI,色素,ICGの3者を併用しセンチネルリンパ節の同定率を比較した結果,RI法91.3%,色素法 99%,ICG法 100%とICG法は他の2法にくらべて同定率は高かったが,摘出リンパ節個数は,RI法1.5,色素法1.84,蛍光法 1.93とICG法で多い傾向にあった.これらの報告はいずれも単施設で小規模なものだったがSugieら13)により821人の早期乳癌患者を対象とした前向き多施設コホート試験10)が報告されている.この報告ではICG法とRI法で同定率に差は認めず(97.2% vs. 97.0%, P = 0.88),転移陽性センチネルリンパ節の同定率に関して有意差はなかったが,ICG蛍光法の同定率はRI法に比べて高い傾向にあった(93.3% vs. 90.0%, P = 0.18).このことから癌の転移によりリンパ流が途絶したリンパ節でもICG法が同定できる可能性がある.これらのシステマティック・レビュー14)によると,ICG蛍光法を用いたSNBは1,362例の乳癌患者に対して実施され,SLN同定個数は1.5~5.4個,同定率は93.1~100%であった.さらに2021年のメタアナリシス15)でもICGの同定率はRI法と色素法に比べて同定率が優れていることが示されている(オッズ比4.22,95%信頼区間(CI)2.17~8.20,p < 0.001).

安全性についてはICG注射用25 mgの添付文書によれ ば,ICGの副作用としてまれにショック(0.02%),悪心・嘔吐(0.08%),発熱・熱感 0.02%が報告されているが通常の肝機能検査などで使用する量にくらべ,センチネルリンパ節生検に使用する量は1回あたり5 mg程度と少なく,過去の臨床試験においてもグレード3以上の重篤な有害事象は報告されていない.ただし,ICGにはヨウ素を含有しているため,ヨード過敏症既往や妊娠授乳期の使用は注意が必要である.

3.  問題点と課題

手技の問題点としては,まずリンパ節を同定する前にリンパ管を損傷するとICGが漏出し周囲にも発光してしまう.そのため,他の方法に比べて術者に一定の経験と技術が必要となる.また,無影灯下では蛍光が確認できないためPDEで確認する際に室内を暗転化する必要があり,ライトの操作やカメラの持ち替えなど動作が煩雑になる.現在使用できるNIRイメージグシステムはTable 2に示すように複数あり小型軽量化されたものやアーム固定型があるがどれも無影灯下では蛍光を確認できない.そこでTakadaら16)によりProjection mapping技術を応用し術野に蛍光画像を投影するmedical imaging projection system(MIPS)が開発された.その同定率は100%,摘出リンパ節個数の中央値3(1~7)と報告されている.この直接投影できるシステムにより操作の煩雑性が改善され,real-timeに蛍光画像を術者と助手が共有しやすくより精度の高い手技になることが期待できる.

Table 2  Currently available near-infrared imaging systems
製品名 Pde-neo PDE HyperEye Medical System Handy MNIRC-501 LIGHTVISION MIPS
製造元 浜松ホトニクス 浜松ホトニクス 瑞穂医科工業 島津製作所 三鷹光器
構成品 カメラユニット
コントローラーユニット
リモートコントローラー
(ディスプレイ・録画機器除く)
カメラユニット
コントローラーユニット
リモートコントローラー
(ディスプレイ・録画機器除く)
カメラユニット
コントローラーユニット
架台
モニター
本体
リモコン
本体
フットスイッチ
ハンドコントローラー
モニター
レコーダー
大きさ(幅×奥行×高さmm) カメラ80 × 182 × 80
コントローラー322 × 283 × 55
リモートコントローラー65 × 190 × 25
カメラ 80 × 181 × 80
コントローラー322 × 283 × 55
カメラ100 × 185 × 100
コントローラー300 × 360 × 100
本体611 × 850 × 1960 本体使用時2080 × 770 × 2330
重量(Kg) コントローラー0.5
カメラ2.8
リモートコントローラー0.3
コントローラー0.5
カメラ2.8
カメラ0.6
コントローラー5.4
本体225 290
電源入力(VA) 50 50 135-53 500 1100
光源 LED LED LED LED LED
励起波長(nm) 760 760 760~780 780~850 780
撮影画像(nm) 800~855 800~855 800~850 800~850 830
撮影方法 ハンディタイプ
アーム固定可能(オプション)
ハンディタイプ
アーム固定可能(オプション)
ハンディタイプ アーム固定タイプ バランシングアーム固定タイプ
補助照明 搭載 非搭載 搭載 搭載 搭載
映像 カラー映像
白黒蛍光
白黒蛍光着色
白黒蛍光 カラー映像
カラー蛍光映像
白黒蛍光
可視画像
近赤外蛍光画像
可視+近赤外蛍光画像
プロジェクションマッピングによる蛍光情報を直接幹部に投影
カラー・白黒
フォーカス/ZOOM フォーカス調整可能 非搭載 フォーカス調整可能 フォーカス/ZOOM調整可能 調整不要
撮影距離 5~30 cm程度 20 cm程度固定 10~30 cm程度 50~70 cm程度 100 ± 10 cm
蛍光強度着色 搭載 非搭載 非搭載 非搭載 搭載

またICG法によるセンチネルリンパ節生検症例の予後に関して最も規模の大きいMaeshimaら17)によるコホート研究では,1,132例,観察期間中央値41カ月(21~117カ月)での腋窩リンパ節再発は6例(0.53%)と,センチネルリンパ節生検陰性乳癌の腋窩再発率 0.6%18)と同様の成績ではあったものの,いまだ長期予後のデータは十分ではない.

4.  今後の展望

ICG法によるセンチネルリンパ節生検は施設の設備によらず使用可能であり,わが国でも広く普及してきているが,世界的にまだまだ普及途中であり,特に前述のような予後や安全性に関する長期データは少なく,今後のさらなる症例蓄積により明らかになることが期待される.

また,cN0症例に対するセンチネルリンパ節生検は標準治療としてコンセンサスを得ているが,術前化学療法施行後でのセンチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清の省略はトレーサーや方法にかかわらず,精度が確立されていない.しかし,トリプルネガティブ乳癌やHER2陽性乳癌など術前化学療法施行例が増加し,術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検の意義について議論が必要となってきている.診断時cN0症例に対するセンチネルリンパ節精度は示されつつあるが,cN+症例が術前化学療法によりcN0になった場合の偽陰性率はまだ高く予後も不明である.このような症例において偽陰性率を下げるため,他の方法に比べて同定率や摘出個数の多いICG法の方がより予後に影響を与えず侵襲の少ない治療となることが期待される.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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