The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
CO2 Laser Vaporization of The Inferior Turbinate for Allergic Rhinosinusitis
Yasutaka Yun Mikiya AsakoHiroshi Iwai
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 221-225

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Abstract

アレルギー性鼻炎は,本邦では有病率が50%に迫る疾患であり,大きな社会問題となっている.治療法としては,抗アレルギー剤を主とした薬物療法が第一選択として挙げられるが,治療効果が不十分な症例に対しては手術加療が選択される.その中でも,CO2レーザーを使用した下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術は低侵襲であり,患者への負担も少ないことから選択されやすい手術方法である.今回,下鼻甲介レーザー焼灼術の実際を,症例提示を含め報告する.

Translated Abstract

Allergic rhinitis has become a serious social problem in Japan, with a prevalence rate of close to 50%. The first choice of treatment is medication with anti-allergic drugs, but surgical treatment is also used for patients with poor response to medication. Vaporization of the inferior turbinate with CO2 laser was a minimally invasive surgical treatment that was often selected because it was less invasive on the patient. In this report, we describe CO2 laser vaporization of the inferior turbinate, and show a case report.

1.  はじめに

アレルギー性鼻炎は,くしゃみ・漿液性鼻汁・鼻閉を三主徴とする環境中のアレルゲン(抗原)に対するI型のアレルギー疾患と定義されている.本邦での有病率は約50%に迫り,2人に1人が罹患する“国民病”であると言われている.近年,患者数のさらなる増加と低年齢化,重症化が進んでおり大きな社会問題となっている1)

症状の出現時期やアレルゲンの種類によって,季節性のアレルギー性鼻炎と通年性のアレルギー性鼻炎に大別される.季節性アレルギー性鼻炎としては,春先に出現するスギ花粉症がよく知られており,その他のアレルゲンとしてはヒノキ花粉やイネ科花粉であるブタクサなどが挙げられる.通年性アレルギー性鼻炎のアレルゲンとしては,ハウスダストやダニなどが挙げられる.

アレルギー性鼻炎の発症機序としては2つの相に分けられる.環境中のアレルゲン(抗原)が,繰り返し体内に侵入し抗原提示細胞を通じて炎症細胞を活性化することにより,抗原特異的なIgE抗体が産生される.このIgE抗体が肥満細胞(マスト細胞)に付着することで抗原への感作が成立する.感作成立後に再度アレルゲンの暴露があれば,肥満細胞からヒスタミンを始めとした炎症性メディエーターが脱顆粒される.このヒスタミンが,血管内皮細胞や腺細胞,神経末端に存在するヒスタミン受容体を刺激することにより,鼻汁やくしゃみ,組織浮腫による鼻閉といった症状を発症する.

治療法としては鼻アレルギー診療ガイドラインにもあるように,抗原回避と除去,抗アレルギー薬や鼻噴霧用ステロイド薬などによる薬物療法,そしてアレルゲン免疫療法が基本治療となる.しかし,薬物療法に抵抗する例や鼻腔形態の異常を伴う重症例であれば,手術療法が適応となってくる1)

一概に手術療法といっても,種々の方法が存在する.観血的な手術として,粘膜下下鼻甲介骨切除や鼻中隔矯正術のような鼻腔形態改善手術,後神経切断術といった鼻漏改善手術があげられる.さらには,非観血的な鼻粘膜変性手術である下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術など多岐にわたる2,3).その中でも,下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術は,外来診療でも施行可能な低侵襲手術でもあり幅広く行われている治療方法である4).本手術の適応や機器選択,および実際例を提示し概説していく.

2.  レーザー下鼻甲介粘膜焼灼術の適応

手術療法の適応は,重症例のうち鼻閉型で形態異常を伴うものや薬物療法に抵抗を示す症例に適応があると,鼻アレルギー診療ガイドラインでは推奨されている.手術加療の中でも,各種レーザーを用いた下鼻甲介粘膜焼灼は比較的低侵襲であり,小児や高齢者,妊婦などに対しても施行しやすいといった特徴がある5,6).レーザー発振器を用いて人工的に作られた光をレーザー光と定義するが,実際に実用化されたのは1960年代と比較的最近である.その後,レーザー光の特性を活かした医療現場への応用・導入が進み,治療や検査などへ非常に広範囲に適応されるようになった.鼻科領域での医療用レーザーの使用としては,1977年にLenzにより血管運動性鼻炎に対するアルゴンレーザーによる鼻粘膜焼灼が報告されたことが初めである7)

レーザーを用いた下鼻甲介粘膜焼灼術は,本邦では当科の須藤・山下らが,1980年代前半にCO2レーザーを用いた下鼻甲介粘膜焼灼の有用性を報告して以来,継続的に臨床応用をおこなっている8).その後,1990年代より低侵襲手術として一般的に広く認知され始め,2012年には下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術として保険収載された.

3.  レーザー下鼻甲介粘膜焼灼術の機器

使用されるレーザー光の種類は,アルゴン,Nd:YAG,KTP,Ho:YAG,半導体,CO2など多くの種類が臨床応用されている.そのなかでもCO2レーザーは臨床現場にてよく使用されている.CO2レーザーは組織中の水と反応し,蒸散することで組織の変調を引き起こすが,熱深達度が浅い(最大0.05 mm)といった特徴がある(Table 1).凝固能は低く,止血には向かないとされているが,生体への吸収率が高いため周囲への熱変性によるダメージが少なく,他のレーザー種と比べ低侵襲であるといわれている9).各社よりCO2レーザー照射器が販売されており,機器に装着したハンドピース先からレーザー光が放出されるという構造が基本となっている(Fig.1A, B).

Table 1  Characteristics of Laser devices
Ho:YAGレーザー ダイオードレーザー KTPレーザー CO2レーザー
媒体 ホルミウム 半導体素子 ネオジウム 炭酸ガス
波長 2,100 nm 632~980 nm 1,064 nm 10,600 nm
吸収 組織中の水 暗赤色 暗赤色 組織中の水
適応 切開・凝固・蒸散 切開・凝固 切開・凝固 切開・蒸散
熱深達度 浅い(最大0.5 mm) 深い(最大4 mm) 深い(最大4 mm) 浅い(最大0.05 mm)
組織の熱変性 少ない 比較的多い 比較的多い 少ない

(文献9より一部改変)

Fig.1 

CO2 Laser Equipment

A. Lezawin II (Morita Corporation. Osaka. Japan) B. Guide light was emitted from the front of the tip attached to the handpiece C. Various angled tips. The tips were angled at 0, 45, and 90 degrees from the tip in the upper section.

4.  レーザー下鼻甲介粘膜焼灼術の方法

施行は局所麻酔下におこなう.鼻内には,気流を整流する棚状の構造物である甲介があるが,その中でも下鼻甲介がアレルギー反応の首座でありレーザーでの焼灼部位となる(Fig.2A).下鼻甲介粘膜を表面麻酔するために,5,000倍アドレナリンと4%キシロカインの等量混合液をガーゼに染み込ませたものを,鼻腔内に約15分間留置する.麻酔が深達するとアドレナリンの作用で血管収縮し粘膜浮腫が消退していることが確認できる.そののちにレーザー照射をおこなっていく.

Fig.2 

Structure of the nasal cavity and the vaporization area

A. * indicated the inferior turbinate. Yellow mark indicated the nasal septum, and blue mark indicated the middle nasal turbinate. B. Vaporization of the inferior turbinate with CO2 laser. The area was discolored brown.

焼灼は,まず前鼻孔から確認できる下鼻甲介粘膜前方を直視下にておこなう.次に内視鏡下に機器のハンドピースを操作してレーザー照射を施行していく.下鼻甲介は,鼻腔の前方から後方にかけて存在する棚状の構造物であり,後方までしっかりと焼灼をおこなっていく.焼灼すると,表面の色調が茶色に変化し組織が凝固される(Fig.2B).ハンドピースを適宜交換しレーザー放出角度を変えることが,広範囲かつ十分に焼灼するために重要である(Fig.1C).術中術後ともに出血および疼痛は極軽微であり,所要時間は両側で15分程度と短時間である.

術後に一過性の粘膜腫脹が出現し鼻閉を訴えることもあるが,1~2週間で改善する.当科では単回照射ではなく,2~3週間後に再度同様に施術し複数回照射を施行している.複数回の照射を施行することで,粘膜固有層の変性を十分におこない長期治療効果を高めている.また,単回照射では前方の粘膜腫脹が強い症例では,下鼻甲介の後端や下面の照射が不十分になるためである10)

5.  作用機序と治療効果

下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術の病理学的組織変化として,鼻粘膜の扁平上皮化生と固有層表層の瘢痕形成が認められる11).これにより下鼻甲介容積が減少し腫脹が軽減される.また,抗原物質の侵入減少,粘膜上皮の胚細胞や固有層の分泌腺の減少による鼻汁分泌の抑制など,総合的な変化により効果が組み合わさっていると報告されている12).特に,レーザー焼灼後の瘢痕組織形成により,長期間にわたり粘膜腫脹を抑制していると考えられている.

諸家により治療効果に関して,良好な成績が報告されている.治療前と比べて,治療後には約60~80%の患者で,アレルギー性鼻炎の三主徴であるくしゃみ,鼻汁,鼻閉の消失,もしくは著明な改善が報告されている13).効果の持続に関して,通年性アレルギー性鼻炎患者に対する術後7年以上の経過報告では,概ね50%以上の患者に効果が持続しているという結果であった14).長期経過では術後早期と比べて各症状が再増悪する割合が増えるという結果ではあったが,鼻閉症状に関しては,術後早期と比べて長期経過後でも治療効果が持続していると結果であった12).季節性アレルギー性鼻炎に対する治療効果としては,スギ花粉症などでは毎年の花粉飛散量に症状は左右されるが,有効率は概ね70%以上であると報告されている10)

6.  症例提示

10代後半,男性.以前からの鼻閉と鼻汁,くしゃみを主訴に当科を受診.血液検査によるアレルギー検査にて抗原非特異的IgE 24 IU/mlmg/mL,抗原特異的IgE検査にてスギclass 3,ヒノキclass 2との結果であり,季節性アレルギー性鼻炎と診断した.鼻内の視診所見では,両側下鼻甲介粘膜の蒼白浮腫状変化による総鼻道の狭窄と漿液性鼻汁を認めた(Fig.3A).まず薬物療法として,抗アレルギー剤および点鼻ステロイド剤を処方として治療をおこなったが,症状は軽快するも鼻閉症状が残存した.そのため,両側の下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術を選択し,外来での局所麻酔下での処置をおこなった.初回処置後に2週間の期間をあけて,合計2回処置を施行した.2回目の焼灼施行前には,鼻閉症状はほぼ消失しており,漿液性鼻汁も消失している結果であった.2回目の焼灼施行後の鼻内所見を提示するが(Fig.3B),鼻粘膜の蒼白浮腫は消失し,総鼻道の狭窄は改善している結果であった.施行後,2年経過しているが症状の再燃はなく,経過良好である.

Fig.3 

A Case report

A. Before CO2 Laser vaporization of the inferior turbinate. The mucosa of the inferior turbinate was pale and swollen, and the nasal cavity was severely narrowed. B. After CO2 Laser vaporization of the inferior turbinate, the same area as in A was shown. The pallor and swelling of the mucosa of the inferior turbinate had disappeared and the stenosis was lifted.

7.  まとめ

下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術は,短時間の施行時間および軽微な患者への身体的負担にて効果が期待できる手術方法である.しかし,施行の実際や効果は術者や各患者の鼻腔形態によってばらつきがあると思われる.

近年,めざましい内視鏡技術の進歩とともに様々な手術方法が耳鼻科領域に出現してきた.手術の適応に対してはガイドライン上で言及が乏しく,各診察医の判断と技量,医療機関での機器保有の有無にて選択されている.下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術は選択しやすい方法ではあるが,鼻腔形態の異常が強い場合などには観血的手術を第一に選択するべきだと考える.十分な患者の評価のもとに下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術を選択し,施行することが重要であると我々は考えている.

利益相反

本論文に関して,報告すべき利益相反関連事項なし.

引用文献
 
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