The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Development of Novel Photosensitizers for Highly Tumor-selective Photodynamic Therapy and Diagnosis
Hiroaki Horiuchi
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2023 Volume 44 Issue 1 Pages 24-29

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Abstract

光増感剤はガンの光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)や光線力学診断(PDD)への応用が期待されている.PDTやPDDを発展させるためにガン選択性の向上は重要な課題であり,その解決手法の一つとして活性制御型の光増感剤が数多く研究されている.多くの活性制御型の光増感剤では励起状態の消光機能を制御することにより量子収率を制御できるものであったが,近年では光吸収効率を制御できる光増感剤の研究例も注目されている.本総説ではこれらの報告例を紹介する.

Translated Abstract

Improving cancer selectivity of photosensitizers is an important issue in developing photodynamic therapy and diagnosis, and an extensive investigation on activatable photosensitizers, as a solution to improve cancer selectivity, have been carried out. The results revealed that the quantum yield of conventional activatable photosensitizers could be controlled by varying the quenching efficiency of the excited state. However, researches on photosensitizers that can control light absorption efficiency have attracted much attention recently. This review presents an overview on the recent activatable photosensitizers.

1.  序論

ガンの光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)は患者への身体的な負担の少ない治療法として期待されている.光線力学療法の主要なメカニズムとして,ガン組織にある程度選択的に集積する光感受性薬剤(光増感剤)を患者に投与し,光増感剤をガン組織に集積させる.その後,ガン組織に光を照射することにより光増感剤が励起され,一重項酸素(1O2)などの活性酸素種(ROS)の発生や電子移動反応によりガン細胞にダメージを与え,死滅させる1).一方,多くの光増感剤は蛍光を発することから,この蛍光を利用した光線力学診断(photodynamic diagnosis: PDD)も可能である.さらに光増感剤の光励起によって生じる熱を利用した光熱療法や2),光音響イメージング3)などへの応用も期待されている.

光線力学療法の長所の一つは正常細胞へのダメージが少ない低侵襲性であるが,一部の光増感剤は正常組織にも分布してしまう.治療・診断中においてガン細胞にのみ光を照射することは技術的に困難で,治療中にはガン組織の周辺の正常組織に分布した光増感剤も光励起され,1O2などを発生させて光副作用を生じてしまう(Fig.1a).また治療後には日常的な光によっても光副作用を生じてしまうため,正常組織中の光増感剤が排出されるまで遮光が必要とされている.一方,PDDにおいてもガン組織周辺の正常組織中の光増感剤の蛍光によりバックグラウンドシグナルが増加し,診断精度の低下を引き起こしてしまう.PDT,PDDの長所をさらに伸ばし,一般的なガン治療・診断法として普及させていくために,正常組織中の光増感剤の作用を抑制することは重要な課題の一つである.

Fig.1 

Schematic diagram of the conventional photosensitizer (a) and activatable photosensitizer (b) for photodynamic therapy and diagnosis. PS and Flu. represent photosensitizer and fluorescence, respectively.

正常組織中の光増感剤の作用を抑制するための手法の一つは,正常組織への光増感剤の分布を抑制することであり,光増感剤を抗体やナノ粒子,ガン細胞特異的なリガンドなどのドラッグデリバリーシステムと組み合わせた研究が数多く報告されている1).一方,近年では別の手法として光増感剤の光機能を正常組織とガン組織で変化させる活性制御型の光増感剤が大きな注目を集めつつある(Fig.1b)4,5).活性制御型の光増感剤では光増感剤が正常組織中に分布している場合には,光を照射しても1O2を生成せず,蛍光も発しないOFF状態としておく(Fig.1b,左).これにより正常細胞への光ダメージや正常細胞中でのバックグラウンド蛍光を抑制できる.一方,活性制御型の光増感剤がガン組織に分布した時にのみガンに特異的なトリガーによって光増感剤の性質が変化し,光照射によって1O2を生成し,蛍光も発するON状態へとスイッチングさせる.これにより治療や診断が可能となる(Fig.1b,右).この様な光増感剤による1O2の生成や蛍光のON/OFFスイッチングにより,高い光線力学効果と弱い光副作用を両立させること,そして高い精度で光線力学診断を行えると期待されている.

従来の主な活性制御型の光増感剤の分子設計戦略は,既存の光増感剤に対して何らかの消光機構を導入することによってOFF状態にしておく.多くの場合,最低励起一重項(S1)状態を消光するメカニズムが採用されるため,項間交差による三重項(T1)状態の生成を抑制することにより1O2生成の量子収率ΦΔの低いOFF状態としておく(Fig.2a).また,S1状態が消光されることから蛍光量子収率Φfも低い(OFF状態).これにより正常組織内での1O2の生成や蛍光を抑制する.

Fig.2 

Major mechanism of the conventional activatable photosensitizers.

一方,ガン特異的なトリガーによって消光機構を解除することによりΦΔやΦfを元の状態に回復させてON状態にスイッチングさせる(Fig.2b).これにより治療や診断が可能となる.S1状態のクエンチングを制御する系の多くは1O2の生成と蛍光を同時にON/OFFスイッチングできる分子として期待できる.

消光機構としては電荷移動消光,自己消光などが用いられている5).また,ON/OFFスイッチングのためのガン特異的なトリガーとして,ガンに過剰発現している酵素6),低pH環境7),H2O28),などが提案されている.

光増感剤の発色団には様々な骨格が開拓されているが,実用化された光増感剤の多くはポルフィリン類縁体である.ポルフィリン類縁体に低pH応答機能を導入した化合物群が報告されている9-14)。これらの中でも低pH応答性の消光剤であるアニリン誘導体を導入し,かつ電荷移動消光を促進させるためにポルフィリン中心にリン(V)を配位させた化合物であるP(V)Por-NEt2は非常に高いON/OFFスイッチング機能を有することが報告されている(Fig.313)。P(V)Por-NEt2のS1状態はアニリン部位からポルフィリン部位への分子内電荷移動(ICT)励起状態であり,速い内部変換(ic)によって蛍光や1O2の生成が抑制され,ΦΔとΦfが共に低いOFF状態である(Fig.3a).一方,酸性溶液中ではアニリン部位がプロトン化したP(V)Por-NEt2-H+が生成し,アニリン部位の電子ドナー性が失われることにより,S1状態はポルフィリンの局所励起状態となる(Fig.3b).これによりICT励起状態からの消光が解除されるため,P(V)Por-NEt2-H+は通常のリン配位したテトラフェニルポルフィリンと同様に蛍光を発し,1O2も生成するON状態へとスイッチングする.ΦΔとΦfの酸濃度依存性が対応していたことから,ΦΔとΦfが同時にスイッチングできる分子系であると言える.なおP(V)Por-NEt2では中性条件において1O2のシグナルが観測されなかったことから,ΦΔのON/OFFスイッチング比(ΦΔONΔOFF)は400以上と報告されている.この様な低pH応答性光増感剤はガン細胞内の低pH環境であるリソソームやエンドソームに選択的に集積させることにより,ガン選択的な治療や診断が可能になると期待されている.

Fig.3 

A typical low pH activatable porphyrin derivative P(V)Por-NEt2 for ON/OFF switching of ΦΔ and Φf.13)

2.  量子収率と吸収効率を同時制御可能な光増感剤

活性制御型の光増感剤では,1O2の生成量N1O2や蛍光強度IfをON/OFFスイッチングさせることによりガン選択性の向上を目指している.従来の主なアプローチは光増感剤の励起状態の消光を制御することにより量子収率をON/OFFスイッチングさせるものであった.しかし1O2の生成や蛍光放出は,光増感剤が光を吸収して励起状態を生成した後に起こる現象であるため,N1O2と蛍光強度Ifはどちらも光吸収効率である分子吸光係数εにも依存する.そのため,1O2の生成量N1O2のON/OFFスイッチング比(N1O2ON/N1O2OFF)や蛍光強度IfのON/OFFスイッチング比(IfON/IfOFF)はそれぞれ式1および式2で記述でき,分子吸光係数εのON/OFFスイッチング比(εON/εOFF)と量子収率ΦのON/OFFスイッチング比(ΦΔONΔOFFあるいはΦfONfOFF)の積で表すことができる.そのため,分子吸光係数εと量子収率Φを同時にON/OFFスイッチングが可能であれば,非常に高いON/OFFスイッチング比を実現できると期待できる.

  

N1O2ONN1O2OFF=εONεOFF ΦΔONΦΔOFF(1)

  

IfONIfOFF=εONεOFF ΦfONΦfOFF(2)

この様な分子吸光係数εと量子収率Φを同時にスイッチング可能な代表的な報告例を紹介する.

Uranoらの研究グループは,ある種のガンに過剰発現しているγ-glutamyltranspeptidaseをトリガーとして分子吸光係数ε1O2生成の量子収率ΦΔ,蛍光量子収率Φfを同時にON/OFFスイッチングできるローダミン誘導体gGlu-HMDiEtSeRを報告している(Fig.46).gGlu-HMDiEtSeRはローダミン骨格の片方のアミノ基にグルタミンを結合させた化合物であり,グルタミンが結合した状態ではpH 7付近においてシクロ環化体として存在する.シクロ環化体では可視光を殆ど吸収しないため,分子吸光係数εが低い.また蛍光は観測されず,1O2の生成も観測されない.そのため,gGlu-HMDiEtSeRはε,ΦΔ,Φfが全て低いOFF状態にあると言える.一方,γ-glutamyltranspeptidase存在下では酵素反応によりグルタミン部位が切断されたHMDiEtSeRが生成する.HMDiEtSeRはpH 7付近では開環体として存在し,567 nm付近に強い吸収を示す.またHMDiEtSeRではローダミン骨格の酸素原子がセレンに置換されているため,高いΦΔ(0.74)を示す.さらにHMDiEtSeRは蛍光も示すことから(Φf = 0.007),ε,ΦΔ,Φfが全てON状態へとスイッチングしたと言える.gGlu-HMDiEtSeRは可視光全域を殆ど吸収せず,しかも分子吸光係数εと量子収率Φを高いON/OFF比で同時に制御が可能であることから理想的なON/OFFスイッチング特性を有する系であると言える.UranoらはgGlu-HMDiEtSeRを担ガンCAMモデルを用いて腫瘍選択的なPDTが可能であることを明らかにしている.

Fig.4 

Activatable rhodamine derivative which can activate molar absorption coefficient ε, quantum yield of 1O2 formation ΦΔ, and fluorescence Φf simultaneously.6)

分子吸光係数のON/OFFスイッチングを議論する上で,その吸収帯が生体組織の光透過性の高い赤色~近赤外光に対応していることは重要である.TaroniらやWeisslederらの報告に従うと最も透過率の高い波長は720~740 nm付近とされている15,16)

近赤外光を利用でき,かつ分子吸光係数と量子収率を同時にON/OFFスイッチングが可能な系として,Zhengらの研究グループは12個のアミノ基を導入したフタロシアニン誘導体ZnPc(TAP)4を報告している(Fig.517).ZnPc(TAP)4は中性水溶液中では疎水性が高いため会合体を形成している.そのため近赤外領域のQ帯はブロードになるため,特定波長における分子吸光係数εは単量体に比べて低い値を示す.また,会合体はgGlu-HMDiEtSeRとは異なり近赤外~可視光を吸収してしまうが,S1状態から自己消光が起こり,蛍光強度は非常に弱く,またROSの生成効率も低い.これに対して水溶液のpHを低下させるとアミノ基がプロトン化されることにより親水性が向上し,単量体へと変換される.ZnPc(TAP)4が単量体に変換されることにより680 nmにおける分子吸光係数εは約4倍程度に増加することから分子吸光係数εのON/OFFスイッチングが可能な系であると言える.また単量体になることにより蛍光強度は200倍,ROSの生成効率は2倍程度に増加することから,ZnPc(TAP)4は近赤外光(680 nm)に対応し,かつ分子吸光係数,ROSの生成量子収率,蛍光量子収率の3つを同時にON/OFFスイッチング可能な分子であると言える.総合的なROS生成のON/OFFスイッチング比は8程度,総合的な蛍光強度のON/OFFスイッチング比(IfON/IfOFF)は800程度と見積もることができる.ZhengらはZnPc(TAP)4を人血清アルブミンHASと複合化したナノ粒子を調製し,小動物を用いてその有用性を明らかにしている.

Fig.5 

pH activatable phthalocyanine derivative ZnPc(TAP)4.17)

一方Fig.6に示すポルフィリン誘導体であるAI4Pは最も生体組織透過性の高い波長である740 nmの近赤外光に対応し,さらにε,ΦΔ,Φfの3つを高いON/OFF比で同時にスイッチングできることが報告されている18).AI4Pは消光部位としてジエチルアミノインドール(AI)をポルフィリン環に連結した化合物であり,S1状態は4つのAI部位からポルフィリン部位に電荷移動したICT励起状態である.

Fig.6 

OFF→ON switching of AI4P induced by protonations.18)

AI4Pの第一吸収帯は680 nm付近に観測され(Fig.7a (blue)),最も生体組織の透過性の高い740 nm付近の光を吸収しない.一方,AI4PはgGlu-HMDiEtSeRとは異なり可視光を吸収してしまうが,P(V)Por-NEt2と同様にICT性のS1状態から基底状態への内部変換が非常に速いため,1O2のリン光スペクトルを測定してもシグナルを観測できず,ΦΔは0.002未満であり,ΦΔはOFF状態であると言える(Fig.7b (blue), Table 1).また,Φfも低く(0.002, Table 1),ΦfもOFF状態であると言える(Fig.6, 7c (blue)).これに対してAI4P水溶液に酸を加えると,吸収スペクトルは大きく変化し,740 nmの近赤外領域に強い吸収帯が出現する(Fig.7a (red)).この酸性水溶液中での化学種は4か所のアミノ基とポルフィリン中心の2か所ピロール部位がプロトン化されたAI4P-H66+と帰属されている.このAI4P-H66+の生成により,ΦΔは0.49(Fig.7b (red), Table 1),Φfは0.035(Fig.7c (red), Table 1)に上昇したことから,ΦΔとΦfがpH変化によりON/OFFスイッチングできていると言える.

Fig.7 

(a) Absorption spectra of AI4P, (b) phosphorescence of 1O2 sensitized by AI4P, (c) fluorescence spectra of AI4P in water at pH 7.4 (blue) and pH 3.0 (red). (d) pH response curves of absorbance at 740 nm, fluorescence intensity at 800 nm, and quantum yield of 1O2 production.18)

Table 1  ON/OFF switching properties of AI4P18)
ε740 nm/104 M−1 cm−1 ΦΔ Φf
AI4P (OFF) 0.00 <0.002 0.002
AI4P-H66+ (ON) 4.23 0.49 0.035
ON/OFF ratio >400 >200 18

多くのPDTやPDDでは光増感剤の光吸収特性に合わせた単色光を励起光として用いるため,AI4Pを用いる場合にはAI4P-H66+の第一ピーク波長である740 nmを採用することになる.この場合,AI4Pは全く励起光を吸収せず,分子吸光係数ε740 nmはOFF状態と言える.これに対して,酸性環境で生成するAI4P-H66+は740 nmの近赤外光を効率良く励起光を吸収できるため,分子吸光係数ε740 nmはON状態と言え,AI4Pは近赤外光の吸収効率をON/OFFスイッチングが可能な分子系であると言える.Fig.7dは740 nmにおける分子吸光係数ε740 nm,800 nmにおける蛍光強度,1O2生成の量子収率ΦΔのpH依存性を示しており,3つの曲線がほぼ一致していることからAI4Pは近赤外光励起に対応し,かつε,ΦΔ,Φfの3つを同時にON/OFFスイッチングできる系であると言える.次に定量的な面に注目すると,分子吸光係数のON/OFFスイッチング比であるε740 nmON/ε740 nmOFFは400以上と見積もられ,さらに1O2生成の量子収率ΦΔのON/OFFスイッチング比(ΦΔONΔOFF)は200以上と見積もられたことから(Table 1),総合的な1O2生成のON/OFFスイッチング比(N1O2ON/N1O2OFF)は式1に従うと80,000以上と見積もられる.蛍光強度のON/OFFスイッチング比(IfON/IfOFF)についても式2に従い7,200以上と見積もられ,分子吸光係数εと量子収率Φを同時制御できることにより著しく高い比でON/OFF比を実現できたと言える.またON状態であるAI4P-H66+の吸収波長は生体組織の透過率が最も高い740 nmに位置すること,また分子吸光係数も4.23 × 104 M−1 cm−1であり(Table 1),実用化されている光増感剤であるNPe6と同等な値を示すことから,高い治療効果も期待できる.

3.  結論

現実の動物ではON/OFFスイッチングのトリガーとなる分子や環境がガン細胞のみに存在するということはなく,正常細胞中にもある程度存在している.そのため,現実の生体内でのON/OFFスイッチング比は,溶液中での理想的な環境におけるON/OFFスイッチング比にくらべると小さくなることが予想される.そのためPDTやPDDにおいて高いガン選択性を実現するためには活性制御型の光増感剤自身のON/OFFスイッチング比を極限まで高めておくことは,極めて重要である.今回紹介したような分子吸光係数εと量子収率Φを同時制御可能な光増感剤は高いガン選択性を実現するために高いポテンシャルを持つと期待できる.

利益相反の開示

利益相反なし

引用文献
 
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