The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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ORIGINAL ARTICLE
Reduction of the Side Effects of Photoinduced Cytosolic Dispersion of RNA (PCDR) Based on Photochemical Internalization
Akinari BandoKazunori WatanabeTakashi Ohtsuki
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2023 Volume 44 Issue 1 Pages 62-68

Details
Abstract

キャリアを用いた生体分子や薬物の細胞質内送達法において,積み荷物質(生体分子や薬物)がエンドソームに捉われてしまう問題がよく起こる.その解決法の一つとしてphotochemical internalization(PCI)と呼ばれる方法が知られている.この手法では,積み荷と共に光増感剤をエンドソーム内に局在させ,光照射することで,積み荷のエンドソーム脱出と細胞質内送達を引き起こすことができる.この手法では,必要最小限の光照射を行うことでほぼ細胞にダメージを与えずに積み荷を細胞質内輸送することができるが,光の強さに応じて細胞毒性や細胞死などの副作用が見られる.その原因が,PCI作用に不要な「細胞表面に吸着している光増感剤」であることが,我々の最近の研究結果から示唆された.そこで本研究では,光照射前の細胞に対する洗浄や,血清による処理,トリパンブルーによる消光,などにより,細胞表面の光増感剤の除去または不活性化を試み,PCI法の副作用を減らす効果を調べた.ここでは,PCI法に基づく光依存的細胞質内RNA導入を,副作用低減を検証するための題材として扱った.

Translated Abstract

A drawback to carrier-based cytosolic delivery of biomolecules and drugs is that endosomal entrapment of cargoes (biomolecules and drugs) often occurs. Photochemical internalization (PCI) can be used to solve this shortcoming. In PCI, a photosensitizer is encapsulated in the endosome together with the cargo. The photosensitizer can then be photoirradiated to induce endosomal escape and cytoplasmic dispersion of the cargo. This method can deliver the cargo into the cytoplasm with almost no damage to the cells by irradiating with minimum necessary light. However, side effects including cytotoxicity are observed with increasing light intensity. Our recent results suggest that the cause of side effects is “photosensitizers adsorbed on the cell surface,” which are not necessary for PCI. In this study, prior to photoirradiation, we attempted to remove or inactivate photosensitizers on the cell surface by washing the cells, treating with serum, and quenching with trypan blue. We investigated the efficacy of these treatments at reducing the side effects of PCI. We used PCI-based photoinduced cytosolic dispersion of RNA (PCDR) to verify reductions in side effects.

1.  緒言

各種キャリアを用いた動物細胞内へのタンパク質や核酸などの生体分子(キャリアに対する積み荷分子)の導入は,エンドサイトーシスを経由するケースが多く,その場合,キャリア/積み荷複合体がエンドソームに閉じ込められてしまう問題がしばしば起こる1,2).この問題の解決法の1つとして,光増感剤と光を用いてエンドソームにトラップされた物質をエンドソームから脱出させ細胞質内に導入する方法(photochemical internalization:PCI法)が知られている3-5).PCI法は,細胞に取り込まれ,エンドソームにトラップされた膜不透過性分子の光依存的細胞質内送達法として開発され,核酸やタンパク質,薬剤の細胞質内デリバリーに応用されてきた6,7).この方法は,送達したい分子のエンドサイトーシスが起こるとき,光増感剤も同時にエンドソームに局在するように設計されている.ここで,光を照射すると光増感剤により活性酸素種(主に一重項酸素)が生成し,一重項酸素によるエンドソーム膜の不安定化に基づいて,エンドソーム内の分子が細胞質内に放出される3)

本研究では,PCIに基づく光誘導RNA細胞質内導入法(photoinduced cytosolic dispersion of RNA:PCDR法)を用いる2).この手法は,細胞透過性ペプチドの一種であるTatとU1A RNA結合タンパク質と光増感剤(PS)複合体(TatU1A-PS)により,short hairpin RNA(shRNA)やpre-miRNAなどのRNAを光依存的に細胞質内に導入する方法である8,9).この方法で用いるRNAには9塩基のU1A結合配列を付加することで,キャリアであるTatU1A-PSに結合させる.このTatU1A-PS/RNA複合体はエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,エンドソームにトラップされる.その後,光照射を行うことにより,前述のPCI機構により,細胞質内にRNAが運ばれる.

PCI法の問題点は,光照射時に細胞が少々ダメージを受ける点である.光照射が足りなければPCIは起こらないが,光を当てすぎると細胞死が起こりはじめる.特に,一重項酸素量子収率の高い光増感剤や,紫外光に応答する光増感剤を用いた場合はダメージが大きくなる10).このダメージ(副作用)を低減できれば,細胞死を起こさず目的物の導入を起こすための光照射の加減が容易になり,PCI法はより使いやすくなる.

それでは副作用の原因は何なのか.PCIに必須な「エンドソーム内の光増感剤」の光照射に起因するなら,PCIの原動力と,副作用の原動力が同一ということになるので,副作用は避けられない.しかし,最近,PCIに伴うカルシウムイオン(Ca2+)の細胞内移入が,PCIに必須な「エンドソーム内の光増感剤」ではなく,PCIに不要な「細胞膜に吸着している光増感剤」に由来していることが示唆された11).この証拠として,エンドサイトーシスを阻害した条件(光増感剤が細胞表面だけに付着し,エンドソーム内に取り込まれない条件)で,PCI操作を行っても光依存的なCa2+濃度上昇が起きたことが挙げられる11).細胞質内のCa2+濃度上昇は細胞死の直接の原因ではないかもしれないが,PCIの副作用の1つであることは間違いない.そこで,本研究では,細胞膜に吸着した光増感剤を取り除くか,働かなくすることができれば,PCI法の副作用としての細胞のダメージを防げる可能性があると考え,副作用低減法を検討した.具体的には,PCIに基づく上述のPCDR法を用い,TatU1Aに付加したPS(光増感剤)部分としてeosinを用いて,PCIの副作用低減に関する検討を行った.

2.  目的

Tat-U1A-光増感剤コンジュゲート(具体的には,Tat-U1A-eosin)を用いたPCIに基づく細胞質内RNA導入において,光照射時のRNAの導入を減らすことなく,副作用を減らす方法を見い出す.

3.  対象と方法

3.1  対象

本研究では,培養動物細胞(Chinese hamster ovary: CHO)を対象として,光増感剤を含むRNAキャリアを用いたRNAの光化学的内在化実験を行った.CHOは汎用的な培養動物細胞であり,筆者らの従来のPCI実験においても代表的に用いてきた細胞である.

3.2  TatU1A-eosinの調製

C末端にCys残基を持つRNAキャリアタンパク質TatU1A-Cは,以前に記載した方法で調製した12).精製したTatU1A-Cとeosin-5-maleimide(Invitrogen)を50 mM HEPES-KOH(pH 7.6),100 mM (NH4)2SO4,400 mM imidazole,20% glycerolを含むバッファ中で混合し,25°Cで1時間インキュベーションした.得られた反応物(TatU1A-eosin)は,T buffer[20 mM HEPES-KOH(pH 7.6),115 mM NaCl,5.4 mM KCl,1.8 mM CaCl2,0.8 mM MgCl2,13.8 mMグルコース]で平衡化したMicro Bio-Spin 6 Columns(BIO-RAD)を用いて精製した.精製したTatU1A-eosinのタンパク質濃度はプロテインアッセイCBBキット(Nacalai tesque)を用いて測定し,eosinの濃度を524 nmの吸光度より測定することでTatU1Aに対するeosinの付加率を求めた.すべての実験において,標識効率は別途調製した非標識キャリアタンパク質を用いて30%に調整した.

3.3  PCIに基づく細胞質内RNA導入操作と,それに基づく副作用の検討

TatU1A-eosin/shRNA複合体による細胞の処理は,以下のように行った.shRNAは細胞内に標的を持たない配列(anti-luciferase; 5'-GAU UAU GUC CGG UUA UGU ACA UUG CAC UCC GUA CAU AAC CGG ACA UAA UCdT dT-3')を用い,日本バイオサービス社から購入した.TatU1A-eosin(2 μM)とshRNA(200 nM)をT buffer中で混ぜ,37°Cで10分インキュベートした.その後,この溶液を96ウェルプレート上のCHO細胞(1日前にウェル当たり15,000細胞を播種)に対して投与し,2時間インキュベートした.上清を取り除き,Cell Counting Kit-8(CCK-8)(Dojindo)を無血清のHam’s F-12培地(以下,培地と略)で20倍希釈した溶液を各wellに100 μlずつ添加し,1時間インキュベートし,細胞生存度を調べた.この後,下記の(1)~(3)の何れかの処理を行った.

(1)培地100 μlで1回,4回,または7回,細胞を洗浄後,100 μlの培地を各wellに添加した(Fig.1a).

Fig.1 

Total procedures of cell treatments and assays to verify effectiveness in reducing side effects by cell washes (a), the treatment with serum (b), and the treatment with trypan blue (TB) (c). M and GM represent medium and growth medium, respectively.

(2)血清中のプロテアーゼにより細胞表面のTatU1A-eosinの分解・除去が起こることを期待して,0~20%血清入り培地中で細胞を30分間培養した.その後,培地で2回洗浄後,100 μlの培地を各wellに添加した(Fig.1b).

(3)トリパンブルーによる細胞表面の光増感剤(eosin)の消光を期待して,各wellを培地で2回洗浄後,20~320 μMのトリパンブルーを含む培地100 μlを添加した(Fig.1c).

(1)~(3)の何れかの処理後,蛍光顕微鏡(Olympus)を用いて細胞への光照射を行った.光照射は,MWIGミラーユニット,4×対物レンズ(Olympus UPlanFLN 4×),100%NDフィルターを通して,100W水銀ランプ(Olympus U-LH100HG)を用いて行った.この光の波長は530~550 nmであり,照射エネルギーは60 J/cm2(光強度:400 mW/cm2,照射時間:150 s)にした.光照射後,10%血清を含んだ培地(以降growth medium:GMと略)に置換して21時間培養ののち,副作用の度合を知るために,細胞生存度と細胞毒性の測定を行った.細胞生存度はCCK-8を用いて調べた.光照射後の培養における細胞増殖の度合については,Fig.1a~cにおける2回目のCCKアッセイの値を1回目のCCKアッセイの値で割ることで評価した.

また,Fig.1cに示す時点のGMの上清を用いて,細胞毒性を測定するためのラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイを行った.LDHアッセイはCytotoxicity Detection Kit(LDH)(Roche)を用いて,製品のプロトコルに従って行った.

3.4  トリパンブルー存在下での光照射による細胞質内RNA導入

TatU1A-eosin/shRNA複合体による細胞の処理は,以下のように行った.TatU1A-eosin(2 μM)とFam標識shRNA(200 nM)のCHO細胞への投与は3.3と同様に行った.培地で2回洗浄後,培地で希釈した100 μlの320 μMトリパンブルーを添加した.共焦点レーザー走査型生物顕微鏡FV1000(Olympus)で細胞への光照射を行った.515 nmのレーザー照射によりeosinの励起を行い,Fam像を撮影した.

TatU1A-Alexa546/shRNA複合体による細胞の処理は,以下のように行った.TatU1A-Alexa546(2 μM)とFam標識shRNA(200 nM)への投与は3.3と同様に行った.培地で2回洗浄後,培地で希釈した100 μlの80 μMトリパンブルーを添加した.蛍光顕微鏡で細胞への光照射を3.3と同様に行なった.ただし照射エネルギーは10 J/cm2にした.その後,培地で2回洗浄したのち,100 μl培地を添加し,Fam像を撮影した.フローサイトメトリーについては,上記と同様に光照射および洗浄を行ったのち,96-wellプレートの1 well分の細胞を20 μlのトリプシン-EDTA溶液によりはがし,180 μlの1 × PBSを加えて懸濁し,マイクロプレートメッシュシール(CS CRIE)を通した細胞溶液を用いて行った.解析した細胞数は2,500細胞以上であった.フローサイトメーターはGuava EasyCyte(Merck Millipore)を用いた.

4.  結果

4.1  細胞洗浄回数の細胞生存度への影響

ペプチド/タンパク質に付加したeosinによりPCIを行う際,細胞にダメージを与えない程度に光照射する場合,通常10 J/cm2の照射を行っているが13),本研究では,細胞へのダメージを顕在化させる(わざとダメージを見やすくする)ための条件として60 J/cm2の照射を行った.その結果,光照射前の洗浄を1回だけにしてTatU1A-eosin存在下で光照射すると,eosin(−)のときと比べて細胞生存度(光照射後の増殖の度合)が0.10になった(Fig.2).つまり,光と光増感剤による増殖阻害が顕著に現れた.

Fig.2 

Effect of number of washes on cell viability. Cell viability was normalized to the cells treated without TatU1A-eosin and light. Data are presented as the mean ± SEM (n = 3).

これに対して,Fig.1aの工程に従い,単純に細胞洗浄回数の増加により,細胞表面に付着している光増感剤(TatU1A-eosin)を取り除くことで,細胞生存度を高めることはできないかと考えた.しかしながら,細胞洗浄回数の増加による細胞生存度の有意な差は見られなかった.

4.2  血清処理の細胞生存度への影響

単純に洗浄回数を増やすだけでは効果がなかったため,次に,細胞を光照射前に血清中でインキュベートした場合(Fig.1b)の効果を調べた.血清内のプロテアーゼ等の分解酵素が作用して,細胞膜に付着しているTatU1A-eosinを分解・除去してくれることを期待した.結果として,Fig.3に示すように,細胞生存度は,血清濃度依存的にわずかに増加する傾向が見られた.しかしながら,血清0%と20%のときの細胞生存度の差は0.07(正常に増殖したときの7%)に過ぎず,この方法は,PCIの副作用低減のうえで顕著な効果をもつとは言えない.

Fig.3 

Effect of the treatment with serum on cell viability. Cell viability was normalized to the cells treated without TatU1A-eosin and light. Data are presented as the mean ± SEM (n = 3).

4.3  トリパンブルーによる光増感剤の消光の影響

そこで次に,細胞膜に吸着している光増感剤eosinのトリパンブルーによる消光を試みた.eosinの蛍光スペクトルはトリパンブルーの吸収スペクトルとよく重なっているため(Fig.4),eosinの近傍にトリパンブルーが存在すれば,eosinからトリパンブルーへのFRETによるエネルギー移動が起こると考えられる.細胞にトリパンブルーを投与してすぐであれば,細胞内のトリパンブルー濃度は低く(エンドソーム脱出に必要なエンドソーム内の光増感剤の力を阻害せず),細胞外にはトリパンブルーが存在する(細胞表面の光増感剤は不活性化する)状態が作り出せると,我々は考えた.

Fig.4 

Spectral overlap of eosin fluorescence and trypan blue absorbance.

Fig.1cに示したように光照射の直前にトリパンブルーを20~320 μM含む培地に交換して光照射を行い,その後すぐに細胞上清を取り除いて,培地で2回洗浄したうえでGMに置換した.その結果,トリパンブルーで処理した細胞は,処理していない細胞と比べて,細胞生存度が顕著に増加した(Fig.5a).特に80 μMまではトリパンブルーの濃度依存的に細胞生存度を高める効果が見られた.また,LDHアッセイにより細胞毒性を調べたところ,80 μMまではトリパンブルーの濃度依存的に顕著に毒性が低くなることが分かった(Fig.5b).

Fig.5 

Effect of photoirradiation in the presence of trypan blue on cell viability and cytotoxicity. (a) Cell viability was normalized to the cells treated without TatU1A-eosin and light. (b) Cytotoxicity was normalized to 0.1% NP-40 treatment. Data are presented as the mean ± SEM (n = 7).

これらの結果から,狙い通りの細胞表面の光増感剤の不活性化により,PCIに基づく副作用(細胞増殖抑制や細胞毒性など)を低減できたと考えられる.

トリパンブルーの存在下で光照射を行うことでPCIの副作用を減らせることが分かったが,その一方でPCI作用が無くなってしまっては意味がない.そこで,トリパンブルーの存在下で光照射することによりRNAの導入(PCI作用)が起こるかどうかを調べた.その結果,TatU1A-eosinやTatU1A-Alexa546によるshRNAの細胞質内導入が十分に起こることが示された(Fig.6).フローサイトメトリー解析の結果,TatU1A-Alexa546と光により細胞内導入されたFam標識shRNAの量は,トリパンブルー処理時においてもトリパンブルー(−)の場合と比べて遜色ない程度であった(Fig.6c).

Fig.6 

PCI-mediated cytosolic shRNA internalization in the presence of trypan blue. Fam-labeled shRNA were delivered using TatU1A-eosin (a) and TatU1A-Alexa546 (b). Scale bars indicate 20 μm. (c) Flow cytometric analysis of PCI-mediated cytosolic shRNA internalization using TatU1A-Alexa546 and light. Fluorescence intensity data are presented as the mean (n = 2).

5.  考察

PCIによる様々な物質のエンドソーム脱出/細胞質内導入の研究は盛んに行われており,生命科学への応用研究も進んでいる3-7).ただし,PCI作用の証明ばかりが公表されていて,副作用を減らす努力については表に出てこない.しかし,光増感剤存在下での光細胞毒性は数々のphotodynamic therapyの研究例の中で証明されており14,15),(特にUV~青色領域の)光そのものの細胞毒性についても知られているため16,17),光と光増感剤を用いるPCIにおいても強い光を用いたりすれば副作用が生じると考えられる.PCIの研究者は(我々がそうであるように),PCI作用を引き起こせる最小限の光強度を調べ,副作用を最小化した条件で,光を用いているはずである.従って,光が強すぎたり,光増感剤が思いのほか細胞に集積したり,一重項酸素生成効率の高い光増感剤を用いたりすると,副作用が顕在化する.光や光増感剤の条件が少々変わっても副作用が生じないような方法を見い出すことは,PCIの実験手法を使いやすくするうえで非常に重要である.

本研究では,光増感剤eosinの消光が可能なトリパンブルーを光照射時に培養液に加えることで,細胞増殖阻害や細胞毒性などの副作用を大幅に抑制可能であることが明らかになった.トリパンブルーは時間が経つと細胞内に浸み込んでしまうが,光照射直前に加え,光照射直後に取り除くことで,トリパンブルー自体が細胞に与える毒性はほとんど見られなかった(Fig.5b).このような消光剤を用いる方法は,培養細胞レベルの実験において,我々のPCDR法のみならず,他の光増感剤や他のキャリアを用いたPCI実験にも適用可能だと考えられるため,今後の幅広い利用が期待される.本研究の副作用低減法は他の細胞種においても有効だと思われるが,本研究で用いたCHO細胞と比べて副作用(光細胞毒性)の出かたは違う可能性があるため,細胞種ごとにトリパンブルー濃度などの至適条件を検討する必要があると思われる.

ここで,トリパンブルーによる光毒性低減が期待通りのFRET型消光ではなく,トリパンブルーによる単なるフィルター効果(光の遮断)によって起こった可能性を考えてみる.eosin励起波長におけるトリパンブルーのモル吸光係数を考えると,80 μMのトリパンブルーでは,励起光を半分遮断するだけでも1 mm程度の光路長が必要である.一方,光照射は接着性の細胞に対して培養ウェルの底面から行ったため,光路にトリパンブルーを含む培養液が入り込む余地はない.このことから,トリパンブルーによるフィルター効果の影響は極めて小さいと言える.

なお,トリパンブルーの濃度は80 μMから320 μMに増やしても,それ以上の副作用低減は見られなかった.トリパンブルー80 μMのときの結果は,PCI未処理[光(−)やTatU1A-eosin(−)]の場合と比べると,さらに毒性低減の余地があるため,なぜトリパンブルーをさらに濃くしても効果がないのかは謎である.トリパンブルーによるeosinの光毒性の低減とトリパンブルー自体の毒性が相殺している可能性も考えたが,トリパンブルー自体の毒性がほとんど観測されなかったため,この可能性は否定された.トリパンブルー80 μM以上濃くしても効果がなかった理由の1つは,水中で凝集しやすいトリパンブルーが一定濃度を超えると実効濃度が上がらないことが要因かもしれない.もしそうであれば,細胞表面に高濃度で作用しうる(培地に溶けやすいか,細胞表面に集積しやすい)消光剤を探し出して用いることが,本手法の更なる改善につながると考えられる.

6.  結論

本研究では,PCI実験において,投与した光増感剤が「PCI作用に必要なエンドソーム内」と「PCIに不要な細胞表面」に局在すると考え,後者がPCIの副作用である光細胞毒性の主要因だと考えて,細胞表面の光増感剤を除去または不活性化する方法を検討した.単に細胞洗浄回数を増やすだけでは副作用低減効果は全く見られなかった.また,血清に含まれる分解酵素によるTatU1A-eosinの消化を期待して血清による細胞の処理を行ったところ,副作用低減の傾向がみられたが,実用的ではない僅かな効果しかなかった.最も効果のある方法は,消光剤のトリパンブルーの添加であった.光増感剤eosinの消光が可能なトリパンブルーを光照射時に培養液に加えることで,細胞増殖阻害や細胞毒性などの副作用を大幅に抑制することができた.このような消光剤を用いた副作用低減法は,我々のPCDR法のみならず,他の光増感剤や他のキャリアを用いたPCIへの適用が期待される.プロトコルは簡単で,光照射直前にトリパンブルー等の消光剤を含む培地に交換し,光照射後すぐに通常培地に交換するだけである.トリパンブルーは480~700 nmくらいの範囲で吸収をもつため,この範囲に蛍光をもつ多くの光増感剤に適用が可能だと考えられる.加えて,他の波長域に対応する消光剤や,より細胞毒性の低い消光剤を見い出すことで,消光剤を用いたPCIの副作用低減法がさらに使いやすくなることが期待される.

利益相反の開示

利益相反なし

引用文献
 
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