The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Photosensitizers in Urology and Potential of Sunitinib, a Tyrosine Kinase Inhibitor, as a Photosensitizer through Drug Repositioning
Shinkuro Yamamoto Hideo FukuharaHung Wei LaiShun-ichiro OguraKeiji Inoue
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2023 Volume 44 Issue 1 Pages 47-52

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Abstract

泌尿器科領域における代表的な光感受性物質には,5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinicacid: 5-ALA)により誘導されるプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PpIX)があり,筋層非浸潤性膀胱癌(non-muscle invasive bladder cancer: NMIBC)に対する光線力学診断(Photodynamic diagnosis: PDD)の際に使用される.近年は特に,PDD補助下での経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor: TURBT)による治療効果におけるエビデンスも報告されている.また,近赤外光による蛍光イメージングシステムを搭載したロボット支援機器の普及・適応拡大に伴い,血管やリンパ管の術中蛍光イメージングに用いられるインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)を含む近赤外蛍光を発する光感受性物質の適応拡大・開発が期待される.最後に,腎癌に対するチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor: TKI)として長年使用されてきたスニチニブに光感受性物質としての特性があることも明らかとなってきた.本稿においては,5-ALAやICGの現状と,in vitroでのスニチニブのヒト腎癌細胞株に対する有効性について概説する.

Translated Abstract

A major photosensitizer in urology is protoporphyrin IX (PpIX), which is induced by 5-aminolevulinic acid (5-ALA) and used for photodynamic diagnosis (PDD) of non-muscle invasive bladder cancer (NMIBC). In recent years, evidence for the therapeutic efficacy of PDD-assisted transurethral resection of bladder tumor (TURBT) has also been reported. In addition, as robotic-assisted devices equipped with near-infrared fluorescence imaging systems become more widely used, it is expected that the application and development of photosensitizers that emit near-infrared fluorescence, including indocyanine green (ICG), which is used for intraoperative fluorescence imaging of blood vessels and lymph vessels, will expand. Finally, sunitinib, which has long been used as a tyrosine kinase inhibitor (TKI) for renal cancer, has also been shown to have photosensitizer properties. This article outlines the current status of 5-ALA and ICG and the efficacy of sunitinib against human renal cancer cell lines in vitro.

1.  はじめに

光感受性物質と励起光を利用した光線医療は,様々な分野で広がっている.特に泌尿器科領域において使用される光感受性物質には,可視光領域に蛍光特性を示すプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PpIX)や,近赤外領域に蛍光特性を示すインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)がある.5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid: 5-ALA)により誘導されるPpIXを光感受性物質として使用した光線力学診断は腫瘍の可視化目的に,ICGを光感受性物質として使用した光線力学診断は,血管やリンパ管の可視化目的に使用される.今回,泌尿器科領域で光線力学診断目的に使用されているこれらの光感受性物質の実際を概説する.また,本邦では未承認であるが,前立腺癌を適応として,光感受性物質パデリポルフィン(padeliporfin)を用いた血管を標的とする光線力学治療(photodynamic therapy: PDT)が2017年に欧州で承認されている.今後,他の光感受性物質の臨床応用や他の泌尿器癌に対する適応拡大が期待される1,2).我々は,腎癌に対するPDTの新たな光感受性物質として,スニチニブ(sunitinib)に着目した.スニチニブは,腎癌に対するチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor: TKI)として2008年に本邦で承認されて以降,日常臨床で使用され,安全性が確立している.そこで,我々は,ドラッグリポジショニングによる光感受性物質としてスニチニブを使用したPDTのヒト腎癌細胞株に対する有効性の検証と細胞死の解析を行ったため,その実験結果についても概説する.

2.  5-アミノレブリン酸による光線力学診断

5-ALAは,動植物内にも存在する天然アミノ酸であり,ヘム生合成経路におけるPpIXの前駆体である.8分子の5-ALAが,ミトコンドリア内で1分子のPpIXを形成し(Fig.1A),最終的にフェロキラターゼにて二価鉄をキレートされて,ヘムやビリルビンへと代謝される3,4).しかし,膀胱癌を含む様々な癌種において,ワールブルグ効果に起因するTCAサイクル(tricarboxylic acid cycle)のダウンレギュレーションにより,三価鉄を二価鉄に還元するために必要な電子が不足し,フェロキラターゼは不活性化状態となる4).このため,外因性に5-ALAが大量に投与されると,癌特異的にPpIXが異常集積する.PpIXは光活性を有するため,その蛍光性を利用した癌診断はPDDと呼ばれ,脳神経外科領域においては,「悪性神経膠腫の腫瘍摘出術中における腫瘍組織の可視化」を,泌尿器科領域においては,「経尿道的膀胱腫瘍切除術時における筋層非浸潤性膀胱癌の可視化」を効果・効能として,本邦で保険収載となっている(Fig.1B, C, D).膀胱癌に対するPDDでは,5-アミノレブリン酸塩酸塩として20 mg/kgを,膀胱鏡挿入3時間前(範囲:2~4時間前)に,水に溶解して経口投与する.2017年12月に保険収載となって以降,膀胱癌に対するPDDは広く普及してきている.この背景には,筋層非浸潤性膀胱癌(non-muscle invasive bladder cancer: NMIBC)に対する標準治療である経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor: TURBT)の治療成績の改善にPDDが寄与することが期待されているからである.通常の白色光観察下のTURBTでは,術後1年再発率15%~61%,5年再発率31~78%と高く,術後再発率を減じることが大きな臨床的課題であった5).しかし,白色光下TURBT(white light transurethral resection of bladder tumor: WL-TURBT)とPDD補助下TURBT(PDD-TURBT)の無再発生存率は,術後12カ月でWL-TURBT群58.6%,PDD-TURBT群86.9%,術後60カ月でWL-TURBT群40.4%,PDD-TURBT群66.7%との結果から,PDD併用により,術後早期の再発率が抑制されることが示された6).2019年膀胱癌診療ガイドラインでは,膀胱癌の診断・治療において,PDDによる腫瘍可視化技術を用いることは,癌検出感度が改善されること,さらには術後膀胱再発率の減少に繋がることから,PDDは,推奨グレード・エビデンスの確実性が最も高い水準を得ている(II 診断 CQ1:推奨の強さ1,エビデンスの確実性A,III 治療 CQ4:推奨の強さ1,エビデンスの確実性A)7).2022年9月現在,保険収載後4年以上経過しており,様々なPDD-TURBTの治療効果が明らかとなってきている(Table 18-11).WL-TURBTよりもPDD-TURBTは,術後残存腫瘍率を低下させるため,術後再発率を低下させると考えられていた.小林らは,TURBT術後の残存腫瘍率が,WL-TURBT群は47.3%であるのに対し,PDD-TURBT群は25.7%であったと報告しており,PDD併用により有意に残存腫瘍率を低下させる効果が示された6).また,三宅らは,Person-Time法を用いた解析で,WL-TURBTよりもPDD-TURBTは,TURBT術後の累積再発率を低下させる効果があることを示している9).このように,5-ALAを用いたPDDは,診断において,白色光よりも高感度であるだけでなく12,13),PDD-TURBT後の術後再発率低下,残存腫瘍率低下,累積再発率低下といった治療効果が明らかとなってきている6,8,9).5-ALAを用いたPDDは,光感受性物質が泌尿器科領域の臨床に大きな影響を与えた代表的な診断技術である.

Fig.1 

(A) Molecular structure of 5-aminolevulinic acid and protoporphyrin IX. (B)(C)(D) Endoscopic images of the bladder diagnosed using both white light source (white light mode) and blue light source (fluorescent PDD mode). (B) Papillary lesion (C) Flat lesion (D) Tiny lesion (yellow arrow)

Table 1  Post-approval reports in Japan on the therapeutic efficacy of TURBT with PDD using 5-ALA
Author Year Therapeutic effect
Miyake M et al9) 2021 Decrease in cumulative postoperative incidence after TURBT on NMIBC
Taoka R et al10) 2022 Decreased residual tumor rate and improved cumulative recurrence-free survival after TURBT on NMIBC
Fukuhara H et al11) 2022 Decrease in cumulative postoperative incidence after TURBT on NMIBC
Kobayashi K et al8) 2022 Decreased residual tumor rate after TURBT on high risk NMIBC

TURBT: transurethral resection of bladder tumor, PDD: Photodynamic diagnosis, 5-ALA: 5-aminolevulinic acid, NMIBC: non-muscle invasive bladder cancer,

3.  インドシアニングリーンによる光線力学診断

ICGは,分子量776のアニオン性の両親媒性水溶性蛍光体で,波長780 nmに励起のピークがあり,波長820 nmに蛍光のピークがある光感受性物質である(Fig.2A)14).ICGは,「血管および組織の血流評価」,「乳癌,悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の同定」,「網脈絡膜血管の造影」に対して,本邦で保険適応となっている15).泌尿器科領域においても様々な報告があり16,17),血流評価やリンパ節の同定への有用性が報告されている.しかしながら,近赤外光を検出するデバイスは一般に普及しているとは言い難い状況であり,ICGを用いた術中ナビゲーション手術がその有用性に比して普及していない原因であったと思われる.しかしながら,ロボット支援手術システムであるda Vinci®(Intuitive Surgical社)の普及と,近年の適応拡大によりその状況は変わりつつある.現在,本邦でも承認されているda Vinci® Xiと最新機種であるXには,近赤外光による蛍光観察可能なFireflyTMが標準搭載されているため,ロボット支援手術システムの普及とともに,FireflyTMが世界中に広く普及することが期待される.

Fig.2 

(A) Molecular structure of indocyanin green. (B)(C) Endoscopic images of mesenteric blood vessels diagnosed using both white light source (B) and near-infrared (NIR) (C). (C) blood vessels (red arrows).

da Vinci®は,2012年のロボット支援前立腺全摘除術で本邦初の保険収載となって以降,2016年のロボット支援腎部分切除術,2018年のロボット支援根治的膀胱全摘除術を含めた12術式が適応となり,以降も様々な診療科の手術で保険収載となってきている18).da Vinci® Xi以降,FireFlyTMは標準装備となっているため19),ICGのように近赤外に蛍光波長を持つ光感受性物質が使用可能である.筋層浸潤性膀胱癌に対する標準治療であるロボット支援根治的膀胱全摘除術時には,通常,回腸利用の尿路変更術を行う.我々は,その腸管操作時に,術中ICG静脈内投与による血管蛍光イメージングにて血管を同定し切除ラインを決定している(Fig.2B, C).術中ICGによる血管蛍光イメージングは,高難度医療として,高知大学医学部附属病院の承認を得て実施している.これにより,従来は体外で行っていた腸管操作を,体外手術へ切り替えることなく,腹腔内で回腸導管手術を完結させることが可能となった.すなわち,ICGを用いた蛍光イメージング技術の恩恵として,より低侵襲な手術が可能となった.今後,様々な領域における外科的手術時に,近赤外による蛍光イメージングが使用可能となるため,それらを応用した光感受性物質の需要は非常に高いと考えられる.

4.  スニチニブによる光線力学治療

スニチニブは,血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor: VEGFR)や血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor: PDGFR)を主な標的としたTKIである.スニチニブは,VEGFR,PDGFR,KITやFLT3を介したシグナル伝達を阻害することで,抗血管新生活性や直接的な抗腫瘍活性を有している20,21).スニチニブは,転移性腎細胞癌と消化管間質腫瘍に対し,2006年に米国で初めて承認された.その後,2008年に本邦でも承認され,転移性腎細胞癌の第一選択薬として長らく使用されてきた薬剤であり,現在も,治療選択肢の一つとなっている.そのため,スニチニブは,TKIとして広く使用されてきており,その安全性と副作用はよく理解されている.近年,新たな光感受性物質としても注目されている.スニチニブは,波長340~480 nmの広い吸収範囲を持ち,429 nmに吸収極大を持つことが報告されている22).我々が行った検証実験においても,波長443 nmに吸収極大を持ち,波長536 nmに蛍光極大を観察し,ほぼ同様の結果を得た(Fig.3B).さらに,スニチニブと光照射を併用すると,活性酸素種の発生を引き起こし,ヒト卵巣癌細胞株やマウス大腸癌細胞株を用いたin vivo実験において,腫瘍増殖抑制効果が示されている22).我々は,ヒト腎癌細胞株786-Oを用いて,スニチニブを用いたPDTの有効性の検証と細胞死の解析を行った.スニチニブ20 μMと光照射(波長:470 nm,照射エネルギー:14.4 J)群において,活性酸素種の有意な発生増加を認め(Fig.3C),さらに活性酸素種の発生量に応じて,細胞生存率の有意な低下を認めた(Fig.3D).また,スニチニブと光照射群において,caspase-3のmRNAの顕著な増加を認め,TUNEL陽性細胞の増加を認めた(Fig.3E, F)21).この結果から,ヒト腎癌細胞株786-Oに対するスニチニブを用いたPDTの殺細胞効果とアポトーシスが誘導されることを示した21).しかし,スニチニブの吸光範囲での励起波長は,深達度が浅く,新たな光感受性物質として用いるには,励起方法が問題となる.二光子/多光子励起や放射線による励起法で検証するなど22,23),より深い組織への励起法の開発が今後の課題である.

Fig.3 

(A) Molecular structure of sunitinib. (B) Spectral properties of sunitinib. Normalized absorption and emission spectra of sunitinib in Dimethyl sulfoxide. (C) Assessment of reactive oxygen species (ROS) generation by sunitinib with or without photoirradiation. The intensity of photoirradiation was 8 mW/cm2. DRAQ5 was used for nuclei staining. 2',7'-dichlorodihydrofluorescein (DCF) fluorescence represented intracellular ROS generation. Quantification of intracellular ROS generation in 786-O cells. (D) Cell viability of 786-O cells after photoirradiation. (E)(F) Apoptosis analysis following treatment with sunitinib and photoirradiation. The intensity of photoirradiation was 8 mW/cm2 for 30 min. 786-O cells were treated with 20 μM of sunitinib for 4 h. (E) Effects of sunitinib with photoirradiation on the mRNA expression of caspase-3. (F) Effects of sunitinib with photoirradiation on the TUNEL-positive cells. CTL = control, without any treatment; = photoirradiation only; Sunitinib = sunitinib only; Sunitinib + = sunitinib with photoirradiation. (C-F are partially modified or taken from Ref. 21).

5.  結語

5-ALAにより誘導されるPpIXは泌尿器科領域の膀胱癌診療に大きな影響を与えた光感受性物質である.今後は,近赤外光による蛍光イメージングシステムが標準搭載されたロボット支援手術機器の普及に伴い,近赤外に蛍光特性をもつ光感受性物質の臨床応用が期待される.また,ドラッグリポジショニングにより,安全性の確立した新たな光感受性物質の発見も期待される.

謝辞

本稿の執筆に際し,仁子陽輔助教(高知大学教育研究部総合科学系複合領域科学部門),関仁望大学院生(同 仁子研究室)の御助力に深く感謝申し上げます.

利益相反の開示

共著者の小倉俊一郎はSBIファーマ株式会社から研究費等の提供を受けた.

共著者の井上啓史は日本化薬株式会社より講演料,SBIファーマ株式会社から研究費等の提供を受けた.

引用文献
 
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