2023 Volume 44 Issue 1 Pages 1
環太平洋地域7か国の化学会による5年に一度の国際会議が2021年12月に開催されました.その中でPhotodynamic therapy and photoimmunotherapy based on the photochemistryのシンポジウムが開催されました.基礎から臨床まで幅広い演題がありましたが,化学の学会のため,光感受性物質に関する話題が多くを占めました.そのような光感受性物質に関する最新の話題をまとめた企画を考えておりましたとき,本誌からお声をかけて頂き,本特集に至りました.本特集は,6件の総説と3件の原著論文で構成されています.光感受性物質として良く知られているポルフィリンは腫瘍選択的に集積されやすい性質をもちますが,分子修飾で機能付与ができます.まず,放射線と光の併用効果に関する総説では,放射線増感剤としての機能付与がまとめられています.ポルフィリンにグルコーストランスポーターのリガンドを結合した細胞内分子標的型PDTの総説や糖鎖連結のためクリック反応を利用した合成方法に関する総説では,積極的に光感受性物質の腫瘍選択性を高める研究が紹介されています.また,糖鎖連結ポルフィリンの前臨床試験に関する総説も掲載しています.臨床に関する総説では,泌尿器科領域におけるPDTおよびPDDに用いる光感受性物質が紹介されています.さらに,光感受性物質の機能化のため,pHを利用した一重項酸素生成活性や蛍光強度の制御によりPDTとPDD機能を併せもつ光感受性物質が総説で紹介されています.また,ポルフィリンの自己会合と脱会合を利用した活性制御も原著論文として報告されています.光感受性物質のドラッグデリバリーのため,高分子ミセルを利用する原著論文も掲載されています.さらに,光感受性物質の新たな使い方として,細胞内へのRNA導入の原著論文を掲載しています.このように,光感受性物質は光線治療のみならず,放射線療法へ応用でき,分子修飾で腫瘍選択性の向上やPDD機能の付与も可能です.ドラッグデリバリー技術との併用により,腫瘍選択性はさらに向上でき,がん治療のみならず,RNA導入のような遺伝子治療にも応用できることが期待されます.光感受性物質の実用化には,絶え間ない分子の改良や様々な試験・評価を経たのちに医療機器開発との連携が必要です.本特集がこのような光感受性物質の開発や様々な分野との連携のきっかけになれば大変うれしく思います.最後に,本特集の機会を与えてくださった日本レーザー医学会誌編集事務局と投稿頂いた皆様に感謝申し上げます.