2023 Volume 44 Issue 2 Pages 155-163
悪性脳腫瘍に対する5-アミノレブリン酸(5-Aminolevulinic Acid: 5-ALA)を用いた蛍光ガイド手術は主に励起光源および観察用フィルターを内蔵した顕微鏡を用いて行われてきた.近年,5-ALAによる蛍光観察可能な内視鏡・サージカルルーペさらには外視鏡が登場し,その有用性が示唆されている.しかし,蛍光評価は長年蓄積された顕微鏡下評価を基盤にしており,新たな観察システムによる蛍光評価はこれらと異なる可能性があり注意が必要である.また,新たな蛍光観察システム導入に伴う短所もあり,これらを十分に理解した上で応用することが肝要である.
Fluorescent-guided surgery (FGS) with 5-aminolevulinic acid (5-ALA) for malignant brain tumors has been mainly performed with microscopes equipped with emission light source and filter for observation. Recently, endoscope, surgical loupe, and exoscope for 5-ALA-FGS were commercially available, and their usefulness was suggested. Commonly, fluorescence evaluation was based on surgical microscopes accumulated over many years; thus, the fluorescence with these novel fluorescence observational systems should be considered different. Additionally, operators should well understand the cons of the introduction of these novel systems.
悪性神経膠腫は浸潤性の腫瘍であるため,MRIガドリニウム造影T1強調画像で造影される部分を超えて周囲正常脳組織に浸潤するように腫瘍細胞が存在する.悪性神経膠腫は最悪性の腫瘍であり患者の予後は不良であるものの,手術摘出率は患者にとって重要な予後規定因子である1,2).手術摘出に際して,ガドリニウムで造影を受ける腫瘍塊は肉眼的な色調や,摘出中の出血の度合い,硬さなどが正常脳とは明らかに異なるため,慣れた術者であれば正常脳含有部との判別が比較的容易である.一方で,造影部周囲の腫瘍細胞正常脳浸潤部においては判別が困難となる.5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid: 5-ALA)は経口投与することで主に胃で吸収され腫瘍細胞に到達して,腫瘍細胞のヘム代謝経路を介してプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PpIX)へと変換される.PpIXは波長405 nm近傍の青色励起光により励起され波長635 nm近傍の赤色蛍光を呈するため,5-ALAは腫瘍摘出術中蛍光診断薬として用いられ腫瘍浸潤範囲を可視化し,蛍光ガイド手術(fluorescence guided surgery: FGS)を可能とする(Fig.1).悪性神経膠腫における5-ALAを用いたFGSは,2006年のランダム化比較試験(ALA-Glioma study)によりその有用性が確認され3),本邦では2013年に保険収載され,米国では2017年に食品医薬品局で承認された.本ランダム化比較試験では5-ALA-FGSを用いることにより患者の無増悪生存期間を延長することが示されたが,残念ながら全生存期間の延長を示すことはできなかった.しかし,知見が蓄積されることで,最近のシステマティックメタ解析では5-ALA-FGSの全生存期間延長への寄与が示唆された4).これらは主に顕微鏡下FGSの結果であるが,近年,蛍光観察可能な内視鏡,サージカルルーペ,さらには外視鏡が市販されるようになり,5-ALAを用いたFGSでも積極的に用いられるようになっている.
Five-aminolevulinic acid is metabolized to protoporphyrin IX through the heme synthesis pathway in tumor cells that was excited by blue light, thereby generating red fluorescence.
ABC: ATP binding cassette, ALA: aminolevulinic acid, PEPT: peptide transporter, PpIX: protoporphyrin IX
本稿では手術時術野観察システムの変化に伴う蛍光観察システムの変遷とその有用性,問題点および,今後の展望について,自件例も踏まえながら考察を加えたい.
本邦の脳神経外科手術は主に顕微鏡下手術として発展してきた歴史的経緯があり,FGSも例外ではない.われわれは,世界に先駆けて白色光下観察から蛍光励起・観察へワンタッチで切り替えることが可能なFGS対応顕微鏡を開発し,1999年にフルオレセインナトリウム,2001年にインドシアニングリーン蛍光観察用システムを報告した5,6).以降,5-ALA蛍光観察用顕微鏡が開発,市販されると本邦・欧州を中心として5-ALA-FGSで一般的に用いられるようになった.ランダム化比較試験 ALA-Glioma studyも顕微鏡(OPMI Neuro/NC4 system with fluorescence kit, Carl Zeiss Surgical GmbH, Oberkochen, Germany)を用いた結果である3).その後,5-ALA蛍光観察可能な軟性内視鏡システムが開発・報告7)されたのを契機に5-ALA-FGSが可能な硬性内視鏡システムが市販され,その有用性が報告されるようになった8-11).しかし,悪性神経膠腫瘍を始めとする悪性髄内腫瘍の最大限の摘出を目的とした5-ALA-FGSにおいて,内視鏡の有用性は限られており,的確な腫瘍生検への貢献や顕微鏡手術の補助として深部局在残存腫瘍視認など腫瘍の局在診断への応用に用いられることが多いようである9,12-16).脳神経外科手術に外視鏡の応用がされるようになると,様々な蛍光観察システムが発売当初より搭載され,5-ALA-FGSにも用いられるようになった.2014年にHDXO-SCOPE(Karl Storz社,Endoscopy, Tuttlingen, Germany)を用いた5-ALA-FGSが報告されたのち17,18),Vitom(Karl Storz Endoscopy社,Tuttlingen, Germany)19),Kinevo 900(Carl ZEISS社,Oberkochen, Germany)20),ORBEYE(Olympus社,Tokyo, Japan)21-23)など各種外視鏡を用いた5-ALA-FGSが報告されている.2017年に米国食品医薬品局に神経膠腫の術中蛍光診断薬として承認されて以来,米国でも積極的に5-ALA-FGSが行われており,同国からの報告が近年増加している.欧米とくに米国では,悪性神経膠腫摘出術は肉眼下で行われることが多いが,サージカルルーペを用いて摘出操作を行う術者も多いようである.近年,5-ALA-FGSに利用可能な励起システム付属フィルター搭載サージカルルーペの臨床試用さらには検証の報告が見られはじめており,今後の応用に期待される24-26).
外視鏡下手術は3次元眼鏡を通して多くは解像度4Kの大型モニター下に術野を観察しながら摘出操作を進めることが出来るため,内視鏡と異なり従来の顕微鏡と同様に,腫瘍全摘出を目指した開頭脳腫瘍摘出術に容易に応用できる.すなわち,脳腫瘍に対する内視鏡手術では穿頭孔ないしは小開頭による低侵襲手術が目指されたり,顕微鏡手術の補助として用いられたりする傾向にあるのに対して,外視鏡は顕微鏡の代替手術機器としての位置付けである.顕微鏡に比した低コスト,手術室内での占有面積の小ささは魅力であるが27),外視鏡手術はモニター下手術であることから術者が観察しているモニターを共有することが出来るため,traineeやレジデントのみならず医学生への教育効果も高いとされる28).モニター下手術であることは外視鏡下FGSでも利点となる場合がある.顕微鏡下FGSでは術者および側視鏡を見ている助手は顕微鏡接眼レンズ越しに肉眼で蛍光所見を評価しているのに対し,その他の手術参加者は対物レンズおよび記録装置のレンズを介したモニター上の蛍光所見を見ていることとなり,その評価が異なる可能性がある.時には術者と助手の蛍光評価さえ異なる場合もある.一方,外視鏡下FGSでは術者および助手のみならずその他の手術参加者も同一モニター下に蛍光所見を共有出来るため,すべての手術参加者で蛍光強度評価の共有が容易なことは有用である.特に悪性神経膠腫に対する5-ALA-FGSでは,腫瘍浸潤辺縁領域は弱蛍光を呈することが多いが,これらの領域の追加摘出に際してこれを行うかどうかを判断する上では複数人で蛍光評価を行うことは極めて重要であることから特に外視鏡下観察は有用であると考える.
顕微鏡下手術と比した外視鏡を用いたモニター下手術のもうひとつ利点は,鏡筒軸によらず術者の体勢を一定に保つことができ,人間工学的に術者に優しい事であることであるとされるが21,28),FGSにおいても同様の利点があると思われる.FGSでは励起光が対象組織に適切に照射されなければ,本来蛍光するはずの組織が蛍光せずに腫瘍組織を残存させる結果となり注意が必要である.5-ALA-FGSで用いられている市販された手術顕微鏡,内視鏡および外視鏡はいずれも鏡筒軸と励起光照射軸がおおむね一致している.緒言でも述べたように,蛍光ガイド手術の有用性は,腫瘍塊そのものの摘出時に比して,ある程度腫瘍塊摘出を行った後の腫瘍細胞浸潤域の追加摘出時により有用となる.腫瘍塊摘出後,摘出腔最低面から5-ALAを用いて蛍光ガイドに追加摘出を行う際に顕微鏡を用いる場合でも外視鏡を用いる場合でも鏡筒は重力方向に近い方向に向ければ操作面に励起光を照射することが可能であり,術者は比較的安定した体勢で手術摘出を継続することができる(Fig.2A, B).これに比して,摘出腔側面から追加摘出を行う場合,その面に向けて励起光を確実に照射する必要があり,鏡筒自体を大きく動かさなければならない.そうすると,顕微鏡を用いた場合は接眼レンズも鏡筒と共に動くため,蛍光観察を行うだけであれば大きく問題とならないが,摘出操作も同時に行う場合,術者は腕を上げるような体勢での摘出を余儀なくされ,術者の疲労の原因となる(Fig.2C).一方,外視鏡を用いた場合は鏡筒を大きく動かしても,術者はモニターを見ながら摘出操作を行うので,摘出腔底面の操作を行う場合と何ら変わらない体勢で蛍光観察を行いながら摘出を行うことが出来る(Fig.2D).ただし,安定した体勢下であっても操作軸が鏡筒軸(モニターに映し出された術野に対する垂直軸)と大きく異なることがあるため,操作には慣れが必要である.われわれの経験から,内視鏡特に斜視鏡下での操作と同様,手術操作を続けるにしたがって比較的短時間で自然にhand-eye coordination が形成され操作に慣れることができるものと考えている.
Comparison of operator’s posture with microscope and exoscope when the remnant tumor was removed with 5-aminolevulinic acid–induced fluorescence guidance from the tumor cavity wall.
When the tumor was resected from the bottom of the tumor cavity, the posture was not different (A, B). Conversely, the posture was ergonomically friendlier for the operator with an exoscope compared with a microscope when the tumor was resected from the side cavity wall (C, D).
FGS: fluorescent guided surgery
ORBEYE(ORB)は専用モニターとともに本邦で開発された外視鏡である.Narrow band imaging,インドシアニングリーンとともに5-ALA用術中蛍光観察システムを搭載しており,悪性神経膠腫に対するFGSにも積極的に用いられている.その取り回しの良さや従来の5-ALA-FGS用顕微鏡と同様,鏡筒に切り替えスイッチが付いておりワンタッチで白色光術野から励起光術野に切り替えができ,シームレスな5-ALA-FGSへの移行が可能である.最近,ORBを用いた5-ALA-FGSの報告も散見されるようになり,先に述べた,顕微鏡に比した外視鏡を用いた5-ALA-FGSの一般的な有用性に加えたORB独自の有用性についても検証されつつある.VogelbaumらはORBを用いて5-ALA-FGSを行った悪性神経膠腫20症例においてORB下で術者が主観的に蛍光強度を3段階(strong, weak, none)に評価し,それぞれの領域で少なくとも2か所サンプリングしてその組織所見を検討したところ,高い感度,特異度,および陽性的中率を示した23).対物レンズを通した肉眼での観察かイメージセンサを通したモニターでの観察かの違いにより,ORB下術野所見は従来の顕微鏡下術野所見は通常白色光下であっても術者の受ける印象が若干異なるとされる.これまで5-ALA-FGSにおける青色励起光照射下術野所見の違いについても指摘はあったが,同一術野をそれぞれの観察システムで比較した報告はなかった.そこでわれわれは,インフォームド・コンセントを得たうえで,てんかんで発症した20歳代男性の左側頭葉神経膠芽腫症例(Fig.3A)に対して,出血の全くない摘出操作直前の脳表を従来の手術顕微鏡および搭載蛍光観察モード(OPMI PENTERO, Blue 400, Carl ZEISS社Oberkochen, Germany)とORBおよび搭載蛍光モード(BLモード)の2機種で観察して記録した.通常白色光術野所見は軽微な違いにとどまるが(Fig.3B, C),励起光照射下所見では蛍光部の色調,色温度において受ける印象が全く異なり,主観的には概して顕微鏡下蛍光所見に比してORB下蛍光所見は全体的には白みがかった印象を受けた(Fig.3D, E)29).さらに,われわれの検討から,蛍光部位のみならず腫瘍周囲の正常脳非蛍光部位においてもその違いも顕著であることが明らかとなった.すなわち,ORB搭載蛍光観察モードでは脳溝,太い皮質静脈のみならず脳表面を走行する血管も視認可能で,励起光照射下術野においても比較的安全な手術操作を行うことが可能ではないかと思われた.よって,顕微鏡下では周囲構造の把握が励起光照射下には困難であるため時々通常白色光モードへスイッチしながら摘出操作を進める必要があるのに対し,ORB下では励起光照射下でも連続下操作が可能となり手術時間の短縮に寄与する可能性があると考える.また,ORB下でのFGSでは,励起光照射下での摘出操作継続が比較的安全にできる事から,術者体勢維持を容易にするという先述した利点がより生きると予測される.
Preoperative gadolinium-enhanced T1 weighted magnetic resonance imaging (A: axial image, B: coronal image) and intraoperative photographs under white light (C: with ORBEY, D: with OPMI PENTERO) and blue light excitations (E: with ORBEYE, F: with OPMI PENTERO) of a 20-year-old male patient with glioblastoma. Strong fluorescence area (arrow) and vague fluorescence area (harpoon) with blue light excitation under each scope.
Adapted from Ikeda N et al. 202229).
前項で示した従来顕微鏡とORBでの5-ALAによる蛍光所見の違いの原因として,肉眼観察下なのかイメージセンサを介したモニター観察下の違い,励起光特性の違いなどが挙げられる.われわれは,外視鏡は顕微鏡から発展した顕微鏡発展型外視鏡と内視鏡から発展した内視鏡発展型外視鏡に大きく分けられると考えている.手術用顕微鏡の開発を主に行ってきた企業はこれを発展させて外視鏡へと応用した傾向があり,5-ALA-FGSのための励起光そのものや蛍光観察システムについてもこれを踏襲している可能性がある.一方,ORBを含む内視鏡発展型外視鏡は顕微鏡発展型内視鏡と異なった蛍光観察システムを搭載していることが多い.例えばOPMI PENTEROの励起光は通常術野でも用いられているキセノン光源から発せられる白色光にフィルターを通すことで青色励起光を作り出しているのに対して,ORBEYEでは白色光源から青色励起光を作り出すのではなく,白色光源から別の青色LED光源に切り替えて青色励起光を照射するシステムとなっている.われわれは,このシステムの違いが蛍光観察モードでの両鏡視下の蛍光所見の違いにより大きく関与していると予測した.
そこで,従来の顕微鏡であるOPMI PENTEROおよびORB搭載励起光の特性を検証するべく,それぞれの白色光,励起光を焦点距離20 cmから60 cmで照射した際の405 nmエネルギーを光パワーメータ(光パワーメータ3664,日置電機株式会社)にて測定した29).白色光強度は通常脳神経外科術野で用いる強度(OPMI PENTERO;“明るさ”20%,ORB;“光度”“標準”)に設定した.白色光ではいずれの鏡視下でも焦点距離が遠ざかるほど405 nmエネルギーは低下したが,いずれの焦点距離においても405 nmエネルギーに統計学的に差はなかった(Fig.4A)(Mann-Whitney U-test, p < 0.05).一方,青色励起光の405 nmエネルギーはいずれの鏡視下でも焦点距離が遠ざかるほど低下したが,いずれの焦点距離でもORBにおいて従来顕微鏡の約2倍であり統計学的に有意な差を認めた(Fig.4B)(Mann-Whitney U-test, p < 0.05).本結果は,それぞれの鏡視下での蛍光所見,非蛍光部位所見の違いには励起光源特性の違いが強く関与していることを示唆した.
The energy of the light at a wavelength of 405 nm in a white light source equipped with each scope was almost the same as that at any focal length (A). The blue light source equipped with ORBEYE was approximately twofold stronger than that with OPMI PENTERO at any focal length (B).
Adapted from Ikeda N et al. 202229).
5-ALAの代謝物質であるPpIXのような光感受性分子は励起光の光エネルギーを受けて励起状態となり,励起状態から基底状態に変化する際のエネルギーが光エネルギーに変換されて蛍光として認識されるが,その後基底状態から励起状態に戻る.これを繰り返してある一定期間蛍光を呈することができるが,連続励起光照射により発生する一重項酸素存在下などでは基底状態から励起状態に戻ることが出来にくくなり蛍光強度が低下し,場合によっては視認できないほどまでになることがある.この現象を蛍光消退現象(photobleaching)と言う.本現象は当然ながら顕微鏡下5-ALA-FGS中にも起こり,本来であれば5-ALA-FGSで追加摘出するべき腫瘍含有組織を腫瘍非含有組織として術者にunder estimationさせる可能性があり,Stummerらも早期より本現象に留意するよう警鐘を鳴らしている30).われわれは,ORBの青色励起光照射下術野所見の違いが励起光源特性の違い,すなわち従来の顕微鏡に比して強いエネルギーの青色励起光照射によるものであることを明らかにしたが,これを踏まえて顕微鏡下と比したORB下における蛍光消退現象の程度を検証した29).
高濃度PpIX(0.00781 mM),低濃度PpIX(0.00125 mM),溶媒のみ(0 mM PpIX)を浸透させた濾紙に対してOPMI PENTEROの青色励起光とORBの青色励起光を焦点距離25 cmで10分間連続照射して記録した.高濃度,低濃度PpIX浸透濾紙でいずれでも経時的に蛍光消退が観察された.低濃度PpIX浸透濾紙に対するOPMI PENTEROの青色励起光照射では10分経過しても蛍光が弱いながら観察できたが,驚くべきことにORBの青色励起光照射では6分経過すると蛍光が肉眼的に観察できなくなった(Fig.5).同様の検証を3検体ずつで行い同様のシステムでビデオ記録して,画像解析して照射開始前に対する相対的赤色強度を半定量的に算出すると,低濃度PpIX浸透濾紙・ORBの青色励起光照射下では約6分で照射開始前の約30%,10分で約20%まで低下していることが判明した(Fig.6A).低濃度・高濃度PpIX浸透濾紙いずれに対する青色励起光照射下でも,ORBでは照射開始2分以降10分まで照射前と比して統計学的に有意な(Mann-Whitney U-test, p < 0.05)蛍光強度の低下であった.一方,OPMI PENTEROの青色励起光照射下では低濃度PpIX浸透濾紙でも約70%程度の蛍光消退にとどまっていた(Fig.6B).本結果はあくまでもin vitroでの検証であり,低濃度PpIX含有組織すなわち悪性神経膠腫に対するORB下5-ALA-FGSにおける弱蛍光領域が約6分の励起光連続照射で完全に蛍光が消退することを意味するものではない.しかし,これまで長く慣れ親しんできた顕微鏡下FGSとは大きく異なることに留意する必要性を示していると考える.ORBを用いた5-ALA-FGSでは励起光照射下でも非蛍光部位が明るく見えるため手術操作が容易となったことから,連続青色励起光照射の機会が増えていると予測される.ORBの励起光特性検証の結果(Fig.4B)と合わせて考えると,ORBを5-ALA-FGSに用いる場合は,特に短焦点距離で本来弱い蛍光を呈する領域に対して操作を行う場合には,蛍光消退現象をより惹起しやすく,時には視認不能な状態になる可能性があることに留意しなければならない.Stummer らは顕微鏡下5-ALA-FGSにおける蛍光消退現象について初めて述べた論文の中で,摘出操作部以外の予期せぬ蛍光消退現象を予防するため同部位の綿片での保護や,間欠的励起光照射の必要性を提案しており30),ORB下5-ALA-FGSでは特にこれらの方法が有用であると思われる.
Three concentrations (0, 0.00125, and 0.0078 mM) of protoporphyrin IX-soaked filter paper under continuous blue light exposure with ORBEYE (the upper column in each box) or OPMI PENTERO (the lower column in each box).
Adapted from Ikeda N et al. 202229).
Semiquantitative relative fluorescent intensity of protoporphyrin IX (PpIX)-soaked filter paper with ORBEYE (A) and OMPI PENTERO (B).
Adapted from Ikeda N et al. 202229).
われわれが示したように顕微鏡下蛍光所見とは外視鏡下蛍光所見は主観的な印象が全く異なる.今回,外視鏡ORBについてのみ従来の顕微鏡下5-ALA-FGSとの違いについて励起光特性およびそれに伴う蛍光消退現象に焦点をおいて検証を行った結果を示したが,5-ALA-FGS対応顕微鏡より後に開発された蛍光励起・観察システムいずれにおいても検証が必要であると考えている.実際,これまでの外視鏡以外の観察デバイスに関する報告に掲載されている術中写真を見ても,顕微鏡下の蛍光所見と色調や色温度がかなり異なることがわかる10,25,31).Kampらは5-ALA蛍光観察システム搭載3種類の顕微鏡と内視鏡を用いて,励起光特性,これらによる蛍光強度を比較検証して報告している10).彼らが検証した内視鏡では励起光波長光強度のピークが顕微鏡と異なり,顕微鏡と比して励起光強度は弱く,同等のPpIX含有組織の蛍光強度は有意に弱かった.さらに,顕微鏡間の比較では励起光波長分布に差はなかったものの,驚くべきことに顕微鏡間でさえもその強度と同等PpIX含有組織の蛍光強度が異なったと報告している.悪性神経膠腫に対する5-ALA-FGSでは,決して“光る”か“光らない”か(all or nothing)のみで腫瘍摘出範囲を決定しているわけではなく,主観的蛍光強度の判定も摘出限界範囲設定に重要となる.よって,5-ALA-FGSにおける術中組織蛍光強度の評価は約20年に及ぶ歴史のある顕微鏡下蛍光強度評価(strong,vague,noneなど)を踏襲していることが多いと思われるが,この主観的蛍光強度評価基準を基とした5-ALA-FGSの有用性を顕微鏡以外の観察デバイスすべてに応用することには慎重となるべきかもしれない.例えば,ORB下観察で従来の蛍光強度評価基準でstrong,vagueと判断される範囲は顕微鏡下観察よりそれぞれ広くなり,それに伴い5-ALA-FGSにより術者が「摘出すべき」と判断する範囲が広くなる可能性がある.さらに,その局在によっては5-ALA-FGSによる広範囲の摘出が無用な合併症を惹起する可能性さえある.悪性神経膠腫に対する5-ALA-FGSの有用性の根拠となったのはあくまでも顕微鏡を用いた5-ALA-FGSであり,その他のデバイスを用いたFGSについては十分な検証結果が待たれる.単に“良く見える”ことによる有用性を強調するのみではなく,新たなデバイスを用いた際の短所についても十分に留意しながら慎重に応用する必要があるとわれわれは考える.
悪性神経膠腫摘出術において5-ALA-FGSの有用性は論を俟たない.5-ALA蛍光観察システム搭載内視鏡,外視鏡,サージカルルーペの登場により5-ALA-FGSの適応の幅が拡がったといえるが,これら新規デバイスによる蛍光所見と従来顕微鏡下FGSとの比較検証が今後の課題である.新規デバイスを用いた5-ALA-FGSを行う際は,検証の結果判明した従来顕微鏡下FGSに比した短所にも十分留意する必要がある.
利益相反なし