The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Quantifying the Risk of Cutaneous-Photosensitivity in Photodynamic Therapy
Emiyu Ogawa Hayato ItoHiroshi Kumagai
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2023 Volume 44 Issue 2 Pages 143-146

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Abstract

現在,光線力学療法(Photodynamic Therapy: PDT)では光線過敏症を回避するために2週間の遮光期間が取られている.しかし患者の薬剤代謝はこれよりも早いケースもあり,2週間の遮光期間が冗長となる可能性がある.また現在の光線過敏試験では侵襲性がある点,天候に左右される点,評価が定性的である点に課題がある.著者らは画像解析による光線過敏反応の定量化を行い,蛍光計測を用いたモニター装置および薬剤代謝を推定する数理モデルと組み合わせることで,新たな光線過敏試験および遮光管理の実現を目指している.本稿では,光線過敏試験の現状,定量化手法,およびこれまでに開発されたモニター装置について概説する.RGB,CIELAB,HSVの3つの色空間を用いて評価を行った結果,CIELAB色空間は光線過敏反応による発赤の定量評価に最も効果的であった.これらの光線過敏症リスクの定量的な評価の実現は,患者のQOL改善および医療コスト削減の両方のメリットを生むものと期待される.

Translated Abstract

Currently, photodynamic therapy (PDT) involves a 2-week light-shading period to prevent photosensitivity. However, in some cases, patients metabolize drugs more quickly, making a 2-week light-shielding period redundant. Furthermore, the current photosensitivity test is invasive, weather-dependent, and qualitative in its evaluation. To overcome these limitations, the authors aim to develop a new photosensitivity test and light-shielding management approach by quantifying the photosensitivity response through image analysis and combining it with a fluorescence-based monitoring system and a mathematical model to estimate drug metabolism. This paper outlines the current state of photosensitivity testing, quantification methods, and monitoring devices we developed. Three color spaces, namely RGB, CIELAB, and HSV, were used for evaluation in this study. Among them, the CIELAB color space is the most effective for the quantitative assessment of redness due to photosensitivity reactions. The realization of these quantitative assessments of photosensitivity risk is expected to produce benefits in both improving patient quality of life and reducing healthcare costs.

1.  はじめに

低侵襲な癌の選択的治療である光線力学的治療(Photodynamic therapy: PDT)において,課題の一つとして挙げられるのが,皮膚に残留した光感受性薬剤による光線過敏症である.現在主に用いられるタラポルフィンナトリウム(レザフィリン®︎,Meiji seikaファルマ株式会社,日本)の場合,光線過敏症を防ぐために2週間の遮光措置が取られるが,患者ごとに薬物代謝速度が異なるため,代謝の早いケースでは遮光期間が冗長となる場合がある.また現在行われている光線過敏試験は,日光曝露による侵襲性がある点や,天候に左右される点,目視評価が定性的である点など課題も多い.我々は光線過敏症の症状を画像解析により定量化し,光線過敏症の原因となる薬剤代謝の科学的エビデンスを取得することで,新たな光線過敏試験および遮光管理の実現を目指した.この総説では光線過敏症の現状および定量化手法とこれまでに開発したモニタリング方法について解説する.

2.  PDTにおける現在の光線過敏症対策

PDTは,癌に対する低侵襲な治療法で,腫瘍選択的に取り込まれる光感受性薬剤を投与し,レーザー励起による光増感反応を起こすことで一重項酸素を産生し,その酸化障害によって腫瘍を選択的に治療可能である1,2).第二世代光感受性薬剤であるタラポルフィンナトリウムでは,早期肺癌,原発性悪性脳腫瘍,化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌に対して治療が可能である3-5).PDTは治療の侵襲性の低さなど多くのメリットがあるが,課題の一つに光線過敏症という副作用がある6-9).現在主に使用されている光感受性薬剤であるレザフィリンでは光線過敏症は顕著には生じないが,第一世代光感受性薬剤であるフォトフリンでは重篤な症状が報告された背景もあり,レザフィリンの添付文書に遮光措置が記載されている.具体的には,直射日光を避けて照度500ルクス以下の室内で過ごし,投薬から3日間はサングラスの着用が推奨される.投薬から2週間後に指・手背部を直射日光で5分間暴露し,紅斑や水泡等の光過敏反応を示すかどうか目視で調査し,反応が見られた場合にはさらに1週間遮光下に過ごすこと,光過敏反応が見られなくなるまで同様の試験を繰り返すことが定められている10)

3.  光線過敏症対策の課題

PDTにおける光線過敏症の発症頻度は,2013年に報告された原発性悪性脳腫瘍に対するPDTの治験において,投薬から4日後に全患者の55.6%,8日後に77.8%,16日後に全ての患者において光線過敏反応が消失することが示されている11).このように実際には多くの患者が,現在の遮光プロトコルで定められている投薬後2週間よりも早期に薬剤が代謝されていることがわかる.現在のプロトコルは安全な運用のために代謝の最も遅い例に対して定められているため,代謝が早い患者においては遮光期間が冗長となるケースが多い.暗所での遮光入院は特に高齢の患者では認知機能の低下が指摘されており,冗長な遮光による患者QOLの低下および不要な医療コストがかかることが問題である.

また,現在行われている光線過敏試験の方法は,指・手背部を5分間日光に曝露し,紅斑,水疱等の光線過敏反応が生じるかを医師が目視で判断するというものである.この試験では日光曝露を用いているため,雨天や曇天などの天気や時間帯よって試験の実施が左右され,退院の時期を制限する場合も生じる.日光曝露強度は季節や時間帯によっても異なる点や,結果を目視で判断している点からも,試験結果には誤差となる要因が複数含まれており定性的であるという課題がある.実際に日光曝露により光線過敏反応が生じるケースでは,限局した部位ではあるものの,掻痒,紅斑,浮腫,水疱などの症状が生じるため,患者への侵襲性も課題である.

4.  画像解析による皮膚色の定量化手法

光線過敏症が生じた状態において,皮膚の発赤を定量的な評価と,皮膚組織中薬剤濃度の対応を調査することで,将来的に天候に左右されることなく非侵襲に光線過敏リスクを評価可能なシステムを構築することを目的とし,皮膚光線過敏症試験を行ったPDT患者9名の試験後の手背部画像を使用し,発赤画像解析による定量評価を行った(京都大学病院倫理審査委員会承認:承認番号R1894).室内の照明の影響など撮像条件を揃えるため,カラースケール同時に撮像し色調補正に用いた.RGB,HSV色空間(H),LAB表色系(a*)を画像解析により取得し,従来の光線過敏試験の結果との比較をおこなった.以下に方法の詳細を示す.

撮影したPDT患者の手背部画像の日光曝露部位に1 cm × 1 cmのROIを設定し,ROI内およびカラースケールのRGB値を画像処理ソフトのImageJ(National Institutes of Health)を用いて取得した.ROIは血管の影響を受けず皮膚ごとの誤差を抑えるために十分なサンプリング面積を確保するように目視で設定した.使用したカラースケール(CasMatch, Bear Medic Corporation, Japan)の既知のRGB値と,実際に撮像された各画像内におけるカラースケールのRGB値の近似式を作成した.各画像での近似式を用いて明度と色調の補正を行い,ROIのRGB値の撮像条件を揃える補正をおこなった.発赤の赤みを表す値として,RGBのG値,CIELAB表色系のa*値,HSV表色系のH値の3つを解析し,光線過敏症試験における発赤の定量化をおこなった.以下に3つの表色系への変換式と特性を詳述する.

RGB:主にパソコンやディスプレイ,プリンタなど一般的な情報機器が対応している色空間の標準規格の一つ.赤(Red: R),緑(Green: G),青(Blue: B)の三原色を組み合わせることで色を表現する.R,G,Bそれぞれの強度は,8 bit(各色256段階)間隔で等分して表現され,全16,777,216種類の色を表現することが可能である.皮膚に発赤が生じることで,赤の補色である青緑つまりG,B成分に変化が生じる.

CIE1931XYZ表色系:色の視覚的特性を数値化するために使用される一般的な方法の1つで,3つの主要な色の値(X, Y, Z)を使用して,人間が視覚的に認識できるすべての色を表現する.取得された上記RGBの値から,下記の対応関係式(1)を用いてX,Y,Zの値を算出した.

  

RGB=3.2406-1.5372-0.4986-0.96891.87580.04150.0557-0.204011.0570×XYZ(1)

CIELAB色空間:人間の視覚システムの特性に基づいて設計された色空間であり,色相,明度,彩度の3つの要素で表現される.これら3つの座標は,色の明度を表すL*,赤と緑の度合いを表すa*,黄色と青の度合いを表すb*で構成される.この3つの座標の中で,a*は赤みが増すほど正の大きな値をとる指標であり,肌色の評価に一般的に用いられている.上述したCIEXYZ表色系から下記の対応関係式(2)~(4)を用いてL*,a*,b*を算出した.

  

L*=116YY013-16YY0>0.008856903.29YY0YY00.008856(2)

  

a*=500XX013-YY013(3)

  

b*=200YY013-ZZ013(4)

HSV色空間:色相(Hue),彩度(Saturation),明度(Value)の3つの要素で色を表現するための一般的な方法の1つ.HSV色空間は,人間が色を感じる方法に基づいて設計されており,色相は赤,緑,青などの基本的な色の種類を,彩度,色の鮮やかさや純度,明度は色の明るさを示す.HSV色空間は,円錐形状をしており,中心点からの距離によって彩度が,円錐の高さによって明度が,円周に沿って色相が変化する.色相は,赤,緑,青をそれぞれ0,120,240度とし,0から360度までの範囲で表され,下記の対応関係式(5)で算出される.赤みが増すほど,色相が0もしくは360に近づく.

  

H=60×G-RMAX-MIN+60ifMIN=B60×B-GMAX-MIN+180ifMIN=R60×B-GMAX-MIN+300ifMIN=G(5)

5.  光線過敏反応の定量化

Fig.1に光線過敏試験前後のそれぞれの表色系指標での解析結果を,光線過敏試験の陽性および陰性の結果をそれぞれ,赤色および青色のプロットで示す.光線過敏症試験の陽性および陰性の判断は,通常の臨床で実施する際と同様に医師の目視による光線過敏反応の有無で分類した.(a)は縦軸にRGBのG値を,カラースケールで撮影条件の補正を行った後,光線過敏症試験前の値を1として規格化して示した.光線過敏症陽性の場合にG値が低下する傾向が見られた.(b)は縦軸にCIELAB表色系のa*値を示す.抽出したsRGBの値をXYZ表色系,CIELAB表色系に変換し,カラースケールの白を基準白色とすることで補正し,(a)と同様に光線過敏症試験前の値を1として規格化した.光線過敏症陽性の場合にa*の値が低くなる傾向が(a)よりも強く見られ,光線過敏症有無によるa*値には有意な差(Wilcoxon signed-rank sum test: p < 0.05)が見られた.(c)は縦軸にHSV表色系のH値を示す.抽出したsRGBの値をカラースケールで補正した後,HSV表色系に変換し,(a)(b)と同様に光線過敏症試験前の値を1として規格化した.光線過敏症の有無でH値には差が見られなかった.Table 1に各表色系指標での発赤判別の感度と特異度を示す.G値では日光曝露後の値が0.9以下の場合に陽性とし,a*値とH値の場合は,1.1以上である場合に陽性とした.これにより,感度,特異度どちらにおいてもa*値が最大であった.

Fig.1 

Results of quantitative analysis of reddening in each color system index before and after the photosensitivity test (a) G value, (b) a* value, (c) H value (red: photosensitivity test positive, blue: photosensitivity test negative)

Table 1  Sensitivity and specificity of reddening discrimination for each color system index
G Value a* Value H Value
Sensitivity 0.83 0.83 0.43
Specificity 0.67 0.83 0.67

6.  新たな光線過敏試験および遮光管理に向けて

著者らはこれまでにレザフィリンの蛍光を用いた拡散反射光計測システムによる皮膚中の残量薬剤モニターの開発を行ってきた12,13).このモニター装置は経皮的モニタリング装置はプラスチック光ファイバーを用い蛍光および拡散反射光の計測が可能な設計である.血圧を計測するカフ様に簡便に上腕に装着可能なセットアップで,カフ内側にプラスチック製光ファイバー2本を搭載したセンサーパッドが取り付けてあり,皮膚に密着させて計測を行う.レザフィリンの吸収スペクトルのうち400 nm帯のSoret帯の波長で薬剤を励起することで生じる赤色の蛍光を計測する原理である.通常のPDTでは600 nm帯のQ帯を励起して治療を行うが,これは治療深度を確保するものであり,本手法では光線過敏症を起こす主な原因となる真皮の深さと一致する光侵達長である青色を励起に用いている14-16).このモニター装置を用い,これまでに臨床研究でPDT患者の皮膚内薬剤濃度推移を明らかにしてきた.

さらに,この実測結果を数理モデルへと展開した.レザフィリンは静脈注射により投与された後,血管内から組織間質へと移行し,細胞に取り込まれ細胞の内部へと移行する10,17).従来知られている血液と細胞内を記述した2-コンパートメントモデル18,19)ではなく,組織間質液を模擬した3つのコンパートメントを構築した20).これまでに報告されている血漿中薬剤濃度推移および開発した蛍光モニター装置による皮膚組織中薬剤濃度推移から,各コンパートメント間の移行速度定数を最適化手法により求め,連続的な皮膚組織中薬剤濃度推移,すなわち光線過敏症リスクレベルの変化を明らかにしてきた.

光感受性薬剤の代謝には個人差が大きいため,個別の薬物動態明らかにすることは遮光戦略を立てるに当たって有用であると考えられる.上記の蛍光実測結果および数理モデルによる予測と一般的な事前検査結果を併せることで,患者ごとに遮光必要期間をあらかじめ予測できるアルゴリズムの構築を目指している.薬物動態をモニタリングすることで,患者ごとに必要な遮光期間を明確にし,不要な遮光を減らすことや,事前の計測や検査によってあらかじめ遮光が必要な期間を予測できる可能性がある.さらにPDTの術式によっては,開発したモニター装置を用いて在宅での遮光管理を併用することで,入院を伴わない外来での安全なPDT治療の実現の可能性もあると考える.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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