The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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Photodynamic Therapy for Brain Cancers; Current Status and Future Perspectives
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2023 Volume 44 Issue 2 Pages 83-84

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2014年1月に原発性頭蓋内悪性脳腫瘍に対するPDTの保険収載が為されてから,約10年が経過した.その間,国内でのPDTの普及に向け,ガイドラインや施設基準・施行医基準の作成,ハンズオン講習会の開催や,医療経済的側面からのDPC側枝の獲得など,紆余曲折はあったものの,PDTが安全で有効な術中補助療法であるというコンセンサスは得られたと思っている.加えて,脳腫瘍の診断ガイドラインや取扱い規約にまで紹介され,C1という低いレベルではあるものの,学際的な認知も得られつつあると考えている.

しかしながら,国内での普及が十分為され,本疾病で苦しむ患者様の多くに届けられている状況には至っていない.やはり,Phase IIIのrandomized clinical trialが為されない限り,PDTのevidence levelを上げることができないことは周知の事実であろう.その意味でもPDT施行施設と,非施行施設を対象とした施設間比較研究の結果の公表が待たれる.将来のPhase III研究実現の足がかりとなることを期待して止まない.

今回の特集では,保険収載の早期からPDTに取り組んでいただいた,国内有数の脳腫瘍治療施設から,実臨床に大変参考となる論文が報告されている.今井亮太郎先生からは,慶應義塾大学病院での多くの経験症例の提示をいただき,PDTの照射局所制御効果を示された.ただ現行の照射法ではどうしても摘出腔側壁への照射が困難となる場合があり,腫瘍再発部はレーザーを当て切れなかった場所である場合が多いとの報告である.開発者である私どもも当初からこの問題を危惧し,ミラー照射法を開発した.この点にも触れていただいているが,果たしてミラー照射法でのエネルギー減衰と再発との因果関係は未だ不明である.今後,レーザー照射ムラについてのご検討をさらに掘り下げていただきたいと思う.棗田学先生はPDTによる有害事象やPhotoimmunotherapy(PIT)の可能性に言及した基礎研究を報告された.有害事象として興味深かったのは,3例に認めた一過性の脳表のFLAIR高信号である.決して永続的症候を残さず,早期に消失する所見であり,著者らは顕微鏡の白色光源によるheat injuryを疑った.白色光にもtalaporfin sodium(TS)を励起し得る664 nmの赤色光が含まれていることは自明であるが,理論的には正常脳細胞にはTSは蓄積しておらず,あるとすれば脳表の血管内に残存するTSへの照射が,虚血性変化を惹起した可能性が考えやすい.よってheat injuryという表現には疑問を抱いた.PITに関する基礎研究は,新潟大学で同定されたグリオーマ細胞膜貫通型抗原XとIR700の複合体を用いた研究であり,その細胞死の形態はまさに小林久隆先生が報告したblebbingからの細胞破裂であり,感銘を受けた.開発者の施設からは深見真二郎先生が100例を超える自験例を纏めてくれた.血管遮蔽シートの開発,照射ムラを無くすためのミラー照射法の開発,さらに再発パターンに関する検討など,有益な情報が多かった.有害事象に関し,初期に経験した爪熱傷や,TSを調整する際に医師の眼への噴霧といった貴重な報告を示していただいた.そして,棗田先生も指摘された脳表の熱傷という表現が気になった.著者らは可能な限り正常脳を綿花で多い,顕微鏡の光量を下げるなどの工夫を推奨している.今後,十分留意すべき有害事象と思われた.井内俊彦先生からは,千葉県がんセンターで経験したPDT施行例と非施行例を比較した研究を報告された.いつもながら非常に論理的な考察がなされており,PDTが患者のperformance status(PS)維持と生存期間延長の両者に貢献していることを,明瞭なKaplan-Meier曲線と詳細な統計解析にて示された.興味深かったのは,再発は摘出腔底面からが多いというもので,今井亮太郎先生の報告とは一線を画するものであった.その理由づけが井内先生らしいロジックであり,腫瘍摘出後の摘出腔の変形,つまり腫瘍によって圧排されていた正常脳が底部に折り重なることで,光が届かなくなる可能性を述べられた.腫瘍の浸潤パターンの特徴にも触れられており,グリオーマ病態への該博な知識が溢れ出る様な考察であった.最終的に若年者・初診時のPS良好例・MGMT非メチル化例・全摘出例・大線量照射例でPDTの有効性が示されると述べられた.荒川芳輝先生からは京都大学でのご経験を報告いただいた.少ない症例数ではあるが,PDT後の脳浮腫発生に言及され,照射が15回以上になると,無症候性かつ一過性ではあるものの脳浮腫が必発であったと述べられた.現行のPDTの方法論では重複,過剰照射は避けることとなっており,照射回数と局所のエネルギー密度の間には相関は無い筈である.ただPDTは正常脳に浸潤する腫瘍細胞をターゲットとする治療であることから,正常脳血管への影響を常に考慮すべきであることを示唆するものかもしれない.今後の検討課題と思われた.

今回の特集に掲載された5論文に共通していたことは,悪性脳腫瘍に対するPDTの有効性が確実に示されたことであった.保険収載から10年が経過し,多くのPDT施行施設から,その有効性安全性に関する報告が為されるたびに,一人でも多くの悪性脳腫瘍に苦しむ患者様にPDTを届けたい気持ちになるのは,私だけでは無いであろう.その意味で,諸家が求めるPhase IIIのrandomized clinical trialを走らせるための礎ともなる様な特集となったと思っている.多忙な臨床の合間に,この様な素晴らしい論文を御寄稿いただいた著者の皆様に,読者を代表して深甚なる謝意を述べさせていただきたい.

 
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