2024 Volume 44 Issue 4 Pages 379-385
近年の上部尿路結石治療におけるレーザー技術の進歩と軟性腎盂尿管鏡の開発は劇的なスピードで進んでいる.ホルミウム・ヤグレーザー(Holmium:yttrium-aluminum-garnet(Ho:YAG)laser)による砕石術はすでにゴールドスタンダードである.さらに近年では,Ho:YAGレーザーにpulse modulation機能を搭載したレーザー機器も開発され治療効率の改善に貢献している.開発され治療効率の改善に貢献している.またあらたにHo:YAGレーザーとは異なる波長をもつツリウムファイバーレーザーも登場し,すでに臨床で使用されている.これらのnew technologyが今後,尿路結石治療の方向性を変えていくことに間違いはないであろう.
Current development of laser technology and flexible ureteroscope under urolithiasis treatment have dramatically been prompted to go toward less-invasive procedures. Of all, Holmium:yttrium-aluminum-garnet (Ho:YAG) laser lithotripsy has already been gold standard. In addition, “Moses technology” with pulse modulation had invented and contributed to improve the clinical efficacy. Furthermore, novel laser named Thulium fiber laser whose wavelength is different from Ho:YAG laser has introduced and already applied in clinical field. These new technology are going to make a lot of roles for urolithiasis management.
ホルミウム・ヤグレーザー(Holmium:yttrium-aluminum-garnet(Ho:YAG)laser)は尿路結石治療における標準的な砕石方法として使用されている.特に上部尿路結石においては,軟性腎盂尿管鏡の進歩と相まってHo:YAGレーザーの細く柔らかいレーザーファイバーにより複雑な腎盂腎杯形態をもつ腎結石に対しても治療が可能になった.さらに近年では,Ho:YAGレーザーにpulse modulation機能を搭載したレーザー機器も開発され治療効率の改善に貢献している.またレーザーエネルギーのデリバリー効率を向上させるためにダブルパルスを用いた“Moses technology”も登場している.さらにあらたにHo:YAGレーザーとは異なる波長をもつツリウムファイバーレーザー(Thulium fiber laser: TFL)も登場し,すでに臨床で使用されている.これらのnew technologyが今後,尿路結石治療の方向性を変えていくことに間違いはないであろう.本稿では,尿路結石治療におけるレーザーイノベーションと臨床使用について基礎的な知見を含めてお話しする.
1986年,今から30年以上に水中内でレーザーを照射したことが報告され,その現象は“Moses effect (ME)”と名付けられた.MEは“dynamic optical cavity”を作り効果を発すると考えられたが,泌尿器科分野におけるレーザーの適応にまで至らなかった.しかし1990年にLeeuwenらによってHolmium:yttrium-scandian-gallium-garnet (Ho:YSSG) laserがtissue ablationとして血液中だけでなく,生理食塩水内でも効果を発揮することが注目され,Ho:YAGレーザーにもフォーカスされるようになった.そして1992年初めて泌尿器科領域でHo:YAGレーザーが使用された.しかし,照射されたエネルギーの約半分がターゲットに届くまでに液体内に吸収されるためエネルギー伝達の効率を求め研究が進められた.そして1994年にTrostらによってdouble pulse shaped laserが報告され,2017年に“Moses Technology (MT)”として臨床で使用することが可能となった(Fig.1)1).
History of Laser lithotripsy
それに遅れること2018年にツリウムファイバーレーザー(Thulium fiber laser: TFL)がロシアから発売された.TFLは1,940 nmと,Ho:YAGレーザーの2,100 nmより短い波長をもち,深達度も浅く,より液体中に吸収されやすい特徴を有するため,より早いレーザー照射を可能にする(Fig.2A, B).現在TFLは本邦で薬事承認を受けておらず(2023年2月現在),まだ臨床において使用することはできないため,MTを有したHo:YAGレーザーが最もadvanced laser technologyとなる.またTFLとは別に,2,010 nmの波長を有するThulium YAG laserは通常,連続波であるため泌尿器科領域では前立腺肥大症の蒸散術に使用されているが,近年では尿路結石のレーザー治療として応用されつつある.
(A) Absorption depth, (B) Water penetration depth
Ho:YAGレーザーは閉鎖された光の空間(optical cavity)から発生する.このcavity内は真ん中にホルミウムイオンで被覆されたYAGクリスタルが配置されており,これらの構造物を“Solid-state laser”と言われる.それぞれのレーザーパルスは,キセノンランプ,またはクリプトンランプによって放射されたライトがホルミウムイオンと相互に作用することによって,2,120 nmの波長をもつ新しい光分子(Photon)として放射されることによって発生する.これらの光分子はoptical cavity内を自由に飛び回り,cavity内の鏡に反射する.そして,必要とされる時にoptical cavityの出口が開き必要なpulsed laser energyが照射される(Fig.3A).フラッシュランプによって放出されたエネルギーの多くが消費され,結果としてoptical cavityのヒート現象に繋がる.
(A) Schematic representation of Ho:YAG laser, (B) Schematic representation of TFL laser
TFLはその名の通り,ツリウムイオンで被覆された薄く長いシリカファイバー(10~20 μm core diameter, 10~30 m length)で構成されている.レーザーを押す出すために,ツリウムイオンを興奮させるために多数のダイオードレーザーを使用する.それによって放出されたレーザービームは1,940 nmで連続的にも,波動的の照射も可能である.特徴はレーザーファイバーのデザインにあり,ダイオードレーザーの照射スペクトラムがツリウムイオンの吸収効率と正確にマッチしていることから,エネルギー伝達がスムーズである.その結果,フラッシュランプで発生したHo:YAGレーザーよりもTFLに効果が高い.TFLから照射された空間的なレーザービームの特徴は,超細いファイバーを通したhigh powerなレーザーエネルギーの伝達と高い効率である(Fig.3B)2).
結石を砕石するためには水中でのpulsed laser excitation(波動励起)が必要である.レーザー本体から発起されたエネルギーがファイバーに伝達され先端から照射され熱をもったバブルとして形成される(laser bubble).このlaser bubbleがもつ①Photomechanical ablation(effect)と②Photothermal ablation(effect)の2つのメカニズムが様々な効果をもたらし結石を砕石する.とくにPhotothermal effectの効果を現すのに最も重要なパラメーターがlaser wavelength(レーザーの波長)である.Ho:YAGレーザーの波長は2,100~2,140 nm,TFLの波長は1,940 nm,Thulium YAGレーザーの波長は2,010 nmである.これらの違いにより組織,水中,血中ヘモグロビンへの吸収率が変わり,それぞれのレーザーによる効果の特徴や違いに繋がってくる.以下に2つのメカニズムについて解説する.
4.1 Photomechanical effectLaser bubbleが形成される過程で起きるcavitationからの衝撃(Shock wave)とそれが収縮する力(bubble collapse)で結石を破壊する(Fig.4).この効果を発揮するために大切なポイントはレーザーファイバーと結石表面が“Non-contact”であることが必要である.砕石片は比較的大きくなる.
Photomechanical effect
Laser bubbleが形成される時に発生する熱により結石を砕石する(光温熱効果).レーザー先端から発生する熱が結石表面に伝達され温熱膨張(Thermal expansion)により結石が砕石されるだけでなく,その熱が結石内部にも伝達され結石内部にあるcrystalline pores内からcavitationを発生し砕石する(Fig.5).この効果を発揮するために大切なポイントはレーザーファイバーと結石表面が“Contact”であることが必要である.砕石片は小さく,塵状(dust)になる.
Photothermal effect
現在使用されるレーザーシステムは術中の様々な状況に応じて適切な砕石を行えるように3つのパラメーターを設定することができる.それが①パルスエナジー(J;ジュール),②パルスフリークエンシー(Hz;ヘルツ),③パルスレンクス(300~1,500 μsec;マイクロセカンド)である.①と②の設定を決めることでレーザー1発の“laser power(W;ワット)”が決まる.実臨床においてはFig.6のような手順でレーザーセッティングを行う.これらのパラメーターの設定限界値は用いるレーザーシステムによって異なる.現在,尿路結石症の砕石に用いられるレーザーは主にHo:YAGレーザーとTFLである.またHo:YAGレーザーシステムの120 W(Pulse 120H)にはpulse modulationを行ったdouble pulse modeを備えた“MOSES Technology (MT)”が2017年から新しく加わった.それぞれのレーザーシステムの特徴についてTable 1に記載する3).
Laser parameter
Comparison of Ho:YAG and TFL lasers
Parameter | Ho:YAG low power |
Ho:YAG middle power |
Ho:YAG high power |
Ho:YAG high power (MOSES) |
TFL |
---|---|---|---|---|---|
Wavelength | 2,140 | 1,940 | |||
Light source | Flash lamp | Diode laser | |||
Active medium | Yttrium Aluminum Garnet Crystal | Thulium fiber crystal | |||
Doping | Chromium Thulium Holmium Metals | Thulium Metals | |||
Laser cavity | 1 | 2 | 1 | ||
Electrical requirements | 220 V outlet | 110 V outlet | |||
Cooling system | Water cooling | Air cooling | |||
Sensitivity to vibration | High | Low | |||
Mode of emission | Pulsed | Pulsed | |||
Maximum power output | 20 W | 30–60 W | 80–100 W | 120 W | 50 W |
Pulse energy (J) | 0.2–1.2 | 0.2–1.2 | 0.2–6 | 0.2–6 | 0.025–6 |
Pulse frequency (Hz) | 5–15 | 5–25 | 5–50 | 5–80 | 1–2,000 |
Pulse width (μs) | 350 | 350–1,300 | 350–1,300 | 350–1,300 | 200–1,200 |
Mechanism of action-Effect | Photomechanical and Photothermal | Photothermal | |||
Penetration | 0.4 mm | 0.07 mm | |||
Optical fiber | Low-OH Silica | Low-OH Silica | |||
Core laser fiber size (μm) | >200 | >50 |
レーザー1発の強さ(J;ジュール)である.砕石においてもっとも重要なパラメーターである.1発のエネルギー出力が高いほど強い波動を出すため,結石は大きく割れやすい反面,その衝撃で結石は後方へ移動しやすくなる(これをStone retropulsion(結石後方移動)という).結石後方移動が大きいと効率よく結石にレーザー照射ができないため砕石効率は低下することになる.また,1発のレーザー出力が大きいほどレーザーファイバー,尿管鏡先端の損傷の可能性が増加する.それらを考慮したレーザー先端の適切な位置(“safety distance”)がとても重要となる.レーザー出力は用いるレーザーシステムによって異なり,Ho:YAGレーザーでは0.2~6.0 J,TFLでは0.025~6.0 Jである.
5.2 パルスフリークエンシー1秒間のレーザー照射回数(Hz;ヘルツ)である.結石を大きく砕石する(fragmentation)にはあまり重要ではないが,結石を小さく砕石する(dusting)においてはその設定が重要となる.用いるレーザーシステムにより設定限界値異なり,Ho:YAGレーザーでは最大で80 Hzまで設定が可能である.しかし近年では120 Hzまで設定可能な器機も開発されている.一方,TFLでは最大で2,400 Hzまで設定可能である.
5.3 パルスレングスレーザー1発の照射時間(μS;マイクロセカンド)である.多くのレーザーシステムではShort pulse mode(150~500 μS)とLong pulse mode(900~1,500 μS)が選択できるようになっている.中にはMiddle pulse mode(about 500~800 μS)を備えているレーザー機器もある.この設置限界値もレーザーシステムのよって異なる.Ho:YAGレーザーでは150~1,500 μS,TFLでは200~12,000 μSである.Short pulse modeの特徴はレーザー1発が短時間で照射されるため衝撃大きく,結石後方移動が多く,かつレーザーファイバー先端の損傷が起きやすい.また大きい結石破片が形成されやすい.Long pulse modeの特徴はレーザー1発が比較的ゆっくり照射されるため衝撃が少なく,結石後方移動が少なく,かつレーザーファイバー損傷が少ない.また多くの結石は塵状にとなりdustが形成されやすい.
5.4 モーゼステクノロジー(MOSES Technology: MT)通常,Long pulseやShort pulseに関わらず,Ho:YAGレーザーから照射されるレーザーエナジーは1発である.照射されたレーザーエナジーは多くは気泡化されたバブルを水中で発生させるために消費されてしまう.MTはこの無駄な消費を減らすために2つのlaser bubbleを発生させるように調整されたpulse modulationである.1発目の気泡化されたバブル内に2発目のレーザーパルスを通過させるように照射することにより2発目のレーザーエナジーが消費されることなく結石表面に届くというメカニズムである.また1発目のバブルが破裂後,収縮するエネルギーにより結石がレーザーファイバーに近づき,結石の後方移動が少なくとなる効果もある(Fig.7).さらにMTをhigh frequency(0.2J*40~80 Hz)で使用すると通常のLong pulseやShort pulse modeと違い結石を小さくする効果が高いとも言われている(Snow globe effect)4).またMTにならってBurst lithotripsyという3つのlaser bubbleを照射する方法も考案され通常の砕石モードに比べて60%のStone ablation rateが上昇したという報告も見られるが,まだ臨床応用には至っていない5).
MT in Ho:YAG laser
Ho:YAGレーザーはそれが持つ効果性,多様性,そして安全性により1992年以来,尿路結石治療におけるgold standardな砕石器機であり,現在最も普遍的に臨床において用いられている.Ho:YAGレーザーを用いて結石治療を行う場合,結石を消失させるために2つの砕石方法が選択される.一つ目が“Fragmenting with basketing”で比較的大き目に割った結石をバスケット鉗子で体外に取り出す方法である.そして二つ目が“Dusting”で,可能な限り小さく結石を割ることにより,その破片が自然に排石させることを期待する方法である.それらは施設や術者の好み・技術,使用できる医療器機次第であるが,どちらの砕石方法が患者にとってベネフィットがあるかはエビデンスが少ない.HumphreyらはRCTにおいて結石消失率,周術期合併症,そして再手術率の全てにおいて同等であったと報告した.ただし,Dustingのほうが有意差はないが手術時間が早い傾向があった6).砕石された破片を取り出すbasketingは技術的にも難しく,dustingのみに比べ時間を要するため,砕石片をできる限り小さくすることにより自然排石を促すdustingを使って砕石する方法が世界の進んでいる方向である.そのためMTを用いたlow energy*high frequencyのHo:YAGレーザーの効果は期待が持たれているが,MTの効果を示す臨床のエビデンスは少ない.
一方,TFLはMTが市場に登場した2017年の翌年2018年に臨床実装され,2020年8月にFDAで承認されて以来,多くのエビデンスが集積されつつある.現時点までの結果を統合するとHo:YAGレーザーに比べて多数の潜在的なアドバンテージがありそうである.その1つ目が結石の蒸散スピードである.TFLはfragmenting settingでは通常のHo:YAGレーザーに比べ2倍のスピード,dusting settingでは4~5倍の蒸散効果があると言われている.またたとえMTを用いたとしてもTFLは3~4倍のdustを形成すると報告されている.2つ目がレーザー照射時の結石後方移動である.TFLはHo:YAGレーザーに比べ,後方移動が少なく照射効率が高い.3つ目はレーザーファイバーの破損が少ないことである.4つ目は砕石片がより小さくなることである.TFLによる砕石片は<1 mm程度となると言われている.5つ目はレーザーファイバー径が細いことである.腎結石など軟性腎盂尿管鏡を用いて砕石する場合には,細いレーザーファイバーの方が屈曲性に優れ,そして限られた3.6 Frの尿管鏡working channel内に挿入されるレーザーファイバーが細ければ細いほど,生食灌流の妨げになりにくくなり,良い術野を表現できる7)(Table 2).実臨床においてもいくつかの報告がされており,UlvikらはHo:YAGレーザーとTFLのRCTにおいて有意にTFLの方が結石消失率は良く,手術時間も早かったと報告した8).一方でMartovらは結石消失率に関して同等だが,手術時間が有意に早かったと報告した.現時点ではTFLの方がHo:YAGレーザーよりも臨床的に勝っていそうであるが,MTを用いたhigh frequencyの砕石方法とTFLの比較の報告は2つしかない.これら2つの報告からは両者同等という結果である9,10).また,腎結石など上部尿路では比較的スペースが広い部位などでのhigh frequencyセッティングでのレーザー照射は許容できるが,尿管などの狭い限られた空間内でのhigh frequencyレーザー照射は視野の妨げになるだけでなく,尿管粘膜への直接的な,間接的な熱損傷のリスクが高い.TFLはHo:YAGレーザーよりも同じレーザーエネルギー照射で高い温度上昇を認める11).そのため,high frequencyで効果を強く発揮するTFLよりは,low frequencyでも視野を妨げず,尿管へのダメージが少ないMTのほうが有用性が高いかもしれない.
Advantage of TFL laser compared to Ho:YAG laser
Advantage items in TFL | |
---|---|
• Enhanced laser ablation | Four to five times faster speed in dusting Two to three faster speed in fragmenting |
• Less stone retropulsion | |
• Increasing laser safety profile | Less broken laser fiber |
• More tiny stone dust | Less than 1 mm stone size |
• Smaller diameter of laser fiber | Easy deflection and better saline irrigation through working channel |
ツリウム・ヤグ・レーザーはダイオードレーザーから発生した光をツリウムメタルによって覆われたYttrium-Aluminum-Garnet crystalに照射されることによって生成される.通常,このレーザーは2,010 nmのwavelengthをもち連続波(continuous mode)で使用される.そのためpulsed emissionが必要な結石治療には適していないとされていた.しかし,pulsed Thulium solid-state laser(p-Tm:YAG)が開発され,bench studyにおいてHo:YAGレーザーと同等のfragmenting効果を示すと報告されている12).しかし,Stone retropulsionにおいては,Ho:YAGレーザーよりも弱く,結石への照射効率が高いとも報告されているが,まだ明確な結果はでていないため,実臨床での研究結果が待たれる13).
利益相反なし