2024 Volume 44 Issue 4 Pages 386-390
上部尿路上皮がん(upper urothelial carcinoma: UTUC)に対する温存療法は1 cm未満の小さい孤立性の低グレードかつ低リスクのUTUCなら腎盂尿管鏡(ureteropyeloscope: URS)にレーザーアブレーションを併用した低侵襲治療で腎温存療法の成績が比較的良好であることが最近報告されている.加えてURSの利点として,治療前に病理組織診断が可能であることが挙げられる.我々の施設では低リスクの腫瘍に限らず臓器温存としてlaser resection with vaporization(LRV)に取り組んでいる.我々はLRVを施行した37症例(男性30例・女性7例)患者の生検病理と再発との関連を調査した.lymphovascular invasion(LVI)に関しては陰性が35症例(94.6%)と最も多かった.生検病理で判定が可能であったグレード・浸潤様式・LVI・同時に存在するcarcinoma in situ(CIS)病変・生検pTステージを多変量解析で検討したところINFとLVIが独立した再発予測因子となることが判明した.症例数が限られるためさらなる検討が必要であるが生検病理でのLVI陽性あるいは浸潤性の発育様式と判明した症例には厳重なフォローが必要となることが示唆された.
For upper urothelial carcinoma (UTUC), minimally invasive treatment with laser ablation combined with ureteropyeloscope (URS) for small, solitary, low-grade, low-risk UTUC of less than 1 cm results in kidney-sparing treatment have recently been reported to be relatively good. An additional advantage of URS is the possibility of histopathological diagnosis prior to treatment. At our institution, we are working on laser resection with vaporization (LRV) as organ preservation not only for low-risk tumors. We investigated the association between biopsy pathology and recurrence in 37 patients (30 males and 7 females) who underwent LRV. Regarding lymphovascular invasion (LVI), 35 cases (94.6%) were negative. A multivariate analysis of the grade, invasion mode, LVI, coexisting carcinoma in situ (CIS) lesions, and biopsy pT stage that could be determined by biopsy pathology revealed that INF and LVI were independent predictors of recurrence. Although further investigation is necessary due to the limited number of cases, it was suggested that strict follow-up is required for cases found to be LVI-positive or infiltrative growth patterns by biopsy pathology.
上部尿路上皮がん(upper urothelial carcinoma: UTUC)の腎温存療法は単腎症例やADLの低下した患者で過去にも試みられていたが,当時はレーザーデバイスが発達しておらず,それらの殆どが逆行性あるいは順行性に尿路にBCGや抗癌剤を注入するものであった.UTUCは治療への反応性や疾患の進行の面で不均一な遺伝学的背景を持つ可能性がある癌の一つである1).伝統的な治療方法は腎尿管と連続する膀胱の一部を全摘出する手法がゴールデン・スタンダードとして現在でも採用されている.最近になりUTUCの非浸潤癌に対して温存手術が好まれるようになっている2,3).腫瘍に対するアプローチの方法は順行性経皮的または逆行性尿管鏡による内視鏡アプローチが最近の潮流である.腫瘍の治療には電気切除,レーザーアブレーション,および高周波治療を含むアプローチが用いられている.こうして低リスク疾患の場合は再発率を最小限に抑え,腎機能を維持することが可能になった.これらレーザーデバイスの台頭によって著者が調べ得る限り4割程度の報告で100%の再発なし生存が可能であったとの報告が見当たった2-4).Petrosらの報告によれば15施設中1施設を除いて80%以上の再発なし生存が可能であったことも報告されている4).低リスク癌を決定する判断材料は画像診断と尿管鏡生検結果,細胞診所見などから決定される.これらの判断材料を用いれば温存術で摘出した腫瘍組織切片からの病理組織の治療前診断がより正確に行えうる.そのほかの重要な検討項目としては同側尿路への疾患再発リスクの検討と,膀胱などの下部尿路再発のリスク検討がある.UTUCに対する腎温存療法を施行したとして,最も重要であることは術後再発の可能性に尽きると言える.再発リスクが低くなる低リスクUTUCであるのか,逆に再発や病勢進展の可能性が高くなる高リスクUTUCであるのかは再発の有無を予想する最重要なファクターである.生検によって予後不良が予測し得るのであれば患者の治療後のフォローアップの方法を厳重にすることでひいては長期生存に寄与できるはずである.我々は生検病理の因子の中で術後再発に大きく関わる因子があるのか否かを検討した.
術者は患者の足側に位置しガイドワイヤーや装置の介助を行う助手を含め最低2人で治療にあたる.我々は患者左側にX線透視装置Cアームを位置させ,患者右側に天井からの吊り下げモニターで尿管腔内を観察できるようにしている(Fig.1).UTUCに対する我々のレーザー治療はNd:YAGレーザーとHo:YAGレーザーを併用するもので,患側上部尿路の全摘除や部分切除術よりも臓器を温存できる点で機能的に優位であるといえる(Table 1).Ho:YAGレーザーはNd:YAGレーザーと違い深い組織を凝固するのではなく腫瘍基部を切開しつつ蒸散させる方法である.視野を妨げる出血がなく,かつ軟性尿管鏡が使用可能な症例では我々は積極的に経尿道的操作によるUTUC治療を行っている.我々は十分深達度で腫瘍切離が可能なNd:YAGレーザーを用いて腫瘍切除を行い,広範囲な蒸散と焼灼を組織深達度の浅いHo:YAGレーザーを使用して安全に治療を完遂している.古くはNd:YAGレーザーがUTUCでの治療の中心であったが安全面でHo:YAGレーザーがより広く用いられるに至った.Ho:YAGレーザーはNd:YAGレーザーと異なり水に吸収される性質を持つため灌流液にその高いエネルギーが吸収されたことにより組織に対する剥離と蒸散のエネルギーが発生することが特徴的である.つまりHo:YAGレーザーを用いる際にはターゲットとなる腫瘍や尿管粘膜との距離を大きくとれば逆に,より精細な操作が行われることになる.Nd:YAGレーザーは組織深達度が深いため安全性を考えれば,とくに大血管に近接した尿管組織の蒸散にはHo:YAGレーザーの使用が安全といえる.UTUCの腎温存には尿管狭窄がないことが条件の一つとなる施設が多いと思われるが自施設では狭窄解除が可能な症例に限り腎温存をこのときの尿管狭窄の解除にはHo:YAGレーザーが安全面で使用しやすく大血管から離れた部位で選択的にNd:YAGレーザーは使用されるべきである.尿管鏡の手技で注意しなければならないことは行っている.視野の確保である.灌流液を止めた状態では蒸散し熱変性した尿管粘膜や腫瘍組織が視野の妨げとなるため,還流しながらの操作は必須となる.また,還流することで操作部位への過度の加熱を防ぐことが可能である.我々は持続還流装置としてエダップテクノメド(株)のエンドフローを用いている.エンドフロー専用チューブセットを装着し,灌流液を術式に適した圧へコントロールしつつ過度の加熱などの合併症の低減を図れる.灌流液はエンドフローの庫内において,20分で加温され38°C前後の適温となるように設計されているため長時間の手技による患者低体温の術中合併症も防ぐことが可能である(Fig.2).
Operating room equipment including Siemens imaging equipment.
Characteristics of distinctive laser.
吸収 | 血管への影響 | 凝固 | 切開 | 波長の長さ | 到達深度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
Nd:YAG | 弱 | あり | 強 | 鋭利 | 短い | 深 |
Ho:YAG | 強:体内の水に吸収され熱化 | 血管透過 | 弱 | 非鋭利 | 長い | 浅 |
A flexible ureteroscope was connected to an irrigation tube of Endoflow with a working channel.
全身麻酔下に軟性尿管鏡を用いて対象腫瘍を観察し,腫瘍生検を行ったのちにHo:YAGおよびNd:YAGを適宜切り替えながら組織蒸散と止血を行った.LRVの症例は37症例(男性30例・女性7例)で年齢の中央値は71歳であった(Table 2).自然尿細胞診の陽性率が81.1%と高かったが,これは膀胱癌のコンタミネーションの可能性も高いと考えられた.
All patients characteristics
Patients background characteristics | |||
---|---|---|---|
Count | % | ||
Gender | Male | 30 | 81.1% |
Female | 7 | 18.9% | |
Age; median (95% lower-upper) | 71 (68–76) | ||
Hydronephrosis | None | 24 | 64.9% |
Hydronephrosis + | 13 | 35.1% | |
Tumor side | Right | 13 | 35.1% |
Left | 19 | 51.4% | |
Both | 5 | 13.5% | |
BT at diagnosis | None | 7 | 18.9% |
Yes | 30 | 81.1% | |
Cytology | Negative | 7 | 18.9% |
Positive | 30 | 81.1% | |
Selective cytology | Negative | 16 | 43.2% |
Positive | 21 | 56.8% | |
ECOG PS | 0 | 23 | 62.2% |
1 | 13 | 35.1% | |
2 | 0 | 0.0% | |
3 | 1 | 2.7% |
BT; bladder tumor, PS; performance status, LVI; lymphovascular invasion, CIS; carcinoma in situ
生検検体での病理組織学的所見はLow Gradeが31例(83.8%),High Gradeが6例(16.2%),観察期間中央値31.3ヶ月(13.5~50.8)での予測平均再発なし生存期間は25.5ヶ月,予測平均生存期間は37.5ヶ月であった(Table 3).腫瘍はLow Gradeが31例(83.8%)と大半を占め,浸潤様式はINFαが34例(91.9%)と最も多かった.lymphovascular invasion(LVI)に関しては陰性が35症例(94.6%)と最も多かった(Table 3).グレード・浸潤様式・LVI・同時に存在するcarcinoma in situ(CIS)病変・生検pTステージをふくめた多変量解析で検討したところINFとLVIが独立した再発予測因子であった(Table 4).
Pathological characteristics
Patients background characteristics | |||
---|---|---|---|
Count | % | ||
Grade | Low | 31 | 83.8% |
High | 6 | 16.2% | |
INF | α | 34 | 91.9% |
β | 1 | 2.7% | |
γ | 2 | 5.4% | |
v | No | 36 | 97.3% |
Yes | 1 | 2.7% | |
Ly | No | 36 | 97.3% |
Yes | 1 | 2.7% | |
LVI | No | 35 | 94.6% |
Yes | 2 | 5.4% | |
Concomitant CIS | No | 26 | 70.3% |
Yes | 11 | 29.7% | |
pT classification | pT0/pTis/pTa | 34 | 91.9% |
pT1 | 1 | 2.7% | |
pT2 | 1 | 2.7% | |
pT3 | 1 | 2.7% | |
pT4 | 0 | 0.0% |
BT; bladder tumor, PS; performance status, LVI; lymphovascular invasion, CIS; carcinoma in situ
Cox univariate and multivariate analyses
Univariate | Multivariate | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Sig. | HR | 95% CI | Sig. | HR | 95% CI | |||
Lower | Upper | Lower | Upper | |||||
Grade | 0.26 | 1.88 | 0.63 | 5.65 | ||||
INF | 0.06 | 2.18 | 0.97 | 4.89 | 0.01 | 2.90 | 1.28 | 6.60 |
LVI | 0.59 | 0.57 | 0.07 | 4.47 | 0.04 | 0.02 | 0.00 | 0.86 |
Concomitant CIS | 0.98 | 1.02 | 0.36 | 2.86 | ||||
pT classification | 0.90 | 1.04 | 0.58 | 1.85 | 0.08 | 2.58 | 0.88 | 7.51 |
LVI; lymphovascular invasion, CIS; carcinoma in situ
UTUCに対する腎温存療法はコスト面での有効性も検討されている.腎温存療法と腎尿管全摘除を比較した研究によれば,最初の1年間は入院費用,通院費用,救急対応の費用は温存療法に分があったことが知られている5).勿論,費用だけを理由に温存療法に誘導することは間違っていると言え,症例の適切な選択が最も大切であろう.本来UTUCの腎温存療法は低悪性度かつ単発・低グレードの腫瘍に限定して行われるものであるが我々は多発腫瘍での治療経験も有している(Table 2).また,尿管狭窄のある水腎症症例にも13例の治療経験を有している.尿管狭窄がある症例は温存治療の過程でextravasationをきたせば腫瘍播種を起こすおそれがあるため経験が積んでから行うことが肝要である.今回検討した症例の中で水腎症のある症例が比較的多い反面Low Grade UCが多かった点に関しては逆行性尿管操作を頻回に繰り返していたことが尿管狭窄から水腎症を来たした原因であったと推察している.UTUCは対象の臓器が腎盂から膀胱尿管移行部位に及ぶ全長30 cmに渡る長さに及ぶことから症例ごとに必要となる治療上の注意点が異なる.一方で移行上皮癌であることに変わりはない点では単純かもしれないが最も予後が悪い泌尿生殖器癌の一つであることは忘れてはならない.諸家の試みにより適切な治療の決定の目的で疾患のリスク分類作成を始めとした様々な試みがなされた6-8).そして低リスクUTUCに対しては従前のUTUCに対する治療である腎尿管全摘除術では手術侵襲の大きさや術後の総腎機能の低下を正当化できなくなり,この10年でより低侵襲な手法として腎温存療法が試みられるようになった.Nitaらは腫瘍の存在部位,腫瘍サイズ,グレードが治療後の経過を左右することを報告している.同様にGrassoらは160例を超える症例の解析を通して,グレードが患者全生存と癌特異生存を決定する最も重要な因子であると報告している6).グレードは逆行性アプローチだけではなく順行性アプローチによる温存療法の成否を左右する.Motamediniaらは経皮的順行性のアプローチによって本来は腎尿管全摘除の適応と判断されてきた殆どの症例で臓器温存が可能であると結論付けている中で,高グレードの腫瘍を有していた患者では術後再発のリスクが高かったことに注意すべきであると報告している7).我々の検討でも単変量解析ではグレードは再発を有意に予測したことからグレードは重要な因子であると考えられる.CIS病変は通常は腎温存療法の適応外と判断されると考えられる.自験例ではCIS病変はHigh Grade全例と一部のLow Grade腫瘍に併存する形で存在していた.適応に関しては前向き試験で明確に臓器温存の適応が決定されていない現状を踏まえ当院では症例を限定せずに本来適応外とされる大きな腫瘍やCIS病変に対しても温存療法を行っており,当院の経験から適切な症例を将来明確にしたいと考える.
セカンドルック尿管鏡やフォローアップ尿管鏡の頻度,期間に関しては統一されたものはなく施設ごとに経験的に決定されている現状であろう.我々の施設においても尿管鏡を用いた定型的なフォロー期間を厳密に決めてはおらず現在でも半年に1度のセカンドルック尿管鏡を受けるように提示するように努めているが全患者が受け入れるわけではない.今後適切な尿管鏡のフォロー期間を決定することは重要であろう.
今後も特に単腎患者や術前から総腎機能が低下している患者において低リスクのUTUCでは腎温存療法はその役割が期待される.我々の施設では2018年からYAGレーザーを用いたUTUCの腎温存療法を行っている.Nd:YAGレーザーが色素の濃い組織の凝固作用を有する原理を応用して癌組織の血流障害を誘発し,その後,水分を含んだ組織を固化・蒸散する能力を有するHo:YAGレーザーで出血をコントロールされた癌組織を除去するものであり,これらの特性を理解し,うまく利用すれば一部の高リスクUTUCでも臓器温存が可能と考えている.本解析の観察期間における患者集団では全摘除に移行した症例は認めなかった.おそらく再発なく経過し得た症例は初期癌が殆であったためであろう.再発したとしても全摘を施行せず経過を観察するに至った症例はもとよりADLが芳しくなく,そもそも全身麻酔下に腎尿管全摘を受けることが叶わない患者集団であり根治目的ではなく血尿などの緩和目的でのレーザー照射を行った経緯がある.
一般的にLVIの判定における生検病理組織は手術標本に比較して組織量が限定的であるため判定が困難と考えうるが我々の施設ではハンドピースがスライド式ではない把握型のジョーの確かな把持により組織脱落が少ないと判断しているリチャードウルフ社製の金属製尿管,膀胱,腎盂鏡用フレキシブル生検鉗子を用いることで解決している.今回の検討によりINFとLVIの二つが温存治療施行前の生検病理によって得られれば術後の再発と生存を前もって予測し得る可能性があり再発リスクが高いと判断された患者に対しては通常行うコンベンショナルなCT検査と尿細胞診に加えて,温存術後の尿管鏡による定期検査を最初の2~3年間はとくに厳重にし,またアジュバント化学療法などをオプションとして考慮するとよいであろう.
利益相反なし.