2024 Volume 44 Issue 4 Pages 360-363
口唇のフォアダイス状態を主訴に受診した3症例に対し,炭酸ガスレーザー(CO2RE®シネロン・キャンデラ社)を用いて治療を行った.組織学的検討を踏まえ,病変の解剖学的位置を考慮した照射を行った.1例は術後一部に再発を認めたが,2例は現在に至るまで再発なく,いずれも瘢痕形成はなかった.フォアダイス状態は正常な独立脂腺の集簇であり病的意義がないが,顔面においては整容面から治療を希望する場合も多い.本疾患は真皮の比較的浅い部位に存在し,好発部位である粘膜は創傷治癒が非常に早いため炭酸ガスレーザーにより低侵襲かつ短期間での治療が可能である.
Three patients who presented with a chief complaint of Fordyce spots of the lips were treated with carbon dioxide laser (CO2RE® Syneron Candela, Inc.). Irradiation was performed with consideration of the anatomical location of the lesion based on histological studies. One patient had a partial postoperative recurrence, but two patients have had no recurrence to date with no scar formation. Although Fordyce spots represent a normal collection of free sebaceous glands and have no pathological significance, individuals often desire treatment for cosmetic reasons. Fordyce spots can be treated in a minimally invasive manner with carbon dioxide laser in a short term since they are located in a relatively shallow area of the dermis and wounds in the mucosa, which is a preferentially affected site, heal very quickly.
元来,毛包に付属する脂腺が直接粘膜に開口するものを独立脂腺と呼ぶ.独立脂腺は口唇,頬粘膜,乳輪,大小陰唇,亀頭部,舌,食道,子宮頚部などに存在する.脂腺が発達する思春期以降,独立脂腺が直径1 mm程度に成長すると黄白色小丘疹として透見されるが,口唇と陰部におけるこれらの多発集簇をフォアダイス状態と呼ぶ1).同様の現象を眼瞼においてはMeibom腺,乳輪においてはMontogomery areolar spots, 男性の包皮内板においてはTyson’s glandsと呼ぶ2).上口唇の赤唇境界部付近は独立脂腺が密に存在し,フォアダイス状態の好発部位である.多くの場合左右対称性にみられ,集簇が密な場合は白色調の局面が形成される.そのほとんどが自覚症状はない3).フォアダイス状態は生理的変化であり,病的意義がないため放置されることが多いが,特に口唇においては整容面から治療を希望されるケースが多い.今回我々はフォアダイス状態を主訴に受診した3例に対し炭酸ガスレーザーを用いた治療を施行し,良好な結果が得られたため,若干の考察を加えここに報告する.
症例1:35歳女性
現病歴:20歳代に行った歯科治療の数カ月後より左上口唇の白色丘疹を自覚.徐々に増大し,加療目的で当科を受診.
初診時現象:左上口唇に限局し,最大1.5 mmの白色小結節の集簇を認めた(Fig.1).

Case 1: A cluster of white small papules localized on the left side of the upper lip are noted.
治療と経過:フォアダイス状態を第一に考えたが,局在した分布及び歯科治療後に出現した経過から歯科金属に反応した扁平苔癬や物理的刺激に伴う白板症を鑑別に挙げ,これらを除外する目的で直径3 mmの皮膚トレパン(デルマパンチ®)を用いて皮膚生検を施行した.
病理組織学的所見:異型のない小葉及び導管により構成された脂腺管が粘膜の重層扁平上皮に直接開口しており,独立脂腺と矛盾のない所見だった.深さは真皮乳頭下層に留まり,標本のマクロ所見から推察される垂直方向への拡がりは開口部中央から周囲に1 mm以内と肉眼的に確認できる丘疹の直径とほぼ一致した(Fig.2).

Non-atypical sebaceous gland ducts open directly into the superficial layer of the stratified squamous epithelium of the mucosa. The lesions are confined to the subpapillary dermis with little spread to the surrounding area.
治療と経過:1%エピネフリン含有キシロカインにより局所麻酔を行った後,炭酸ガスレーザー(CO2RE®シネロン・キャンデラ社)をクラシックモード(スキャナモード),スポットサイズ2.5 mm Core Fluence 17.0 J/cm2で照射した.組織学的所見を踏まえ,焼灼範囲は肉眼的に確認できる丘疹の大きさを越えず,僅かに陥凹を残す程度に留めるよう注意した.術後は連日白色ワセリン塗布でMoist wound healingを促したところ,数日で速やかな上皮化に至った.術後4か月の再診時,病変局面の左側辺縁に僅かに再燃を認めたが,小範囲に留まることから経過観察中である(Fig.3).尚,組織学的検討を踏まえた診断は保険診療として行った.腫瘍性病変の除外及び真皮内での標的の位置把握を目的としており,倫理的に妥当との判断を施設内で共有した.患者に対しては検査の必要性及び診断の結果についてインフォームドコンセントを取得した.フォアダイス状態の治療自体は美容目的となることから以下に続く症例を含め施術は自費診療として施行した.

Case 1 showed a slight relapse on the left margin of the plaques within a limited region.
症例2:17歳女性
現病歴:初診の数年前より上口唇赤唇部に白色小丘疹が出現し,加療目的に当科を受診.
初診時現象:上口唇の赤唇境界部中央に点状小丘疹が集簇し,上口唇結節の左右で局面を形成していた(Fig.4).

Case 2: Symmetrical clusters of small white papules at the vermillion border are noted, forming a plaque at the either side of the upper labial nodule.
治療と経過:特に顕著な3か所の丘疹に対し治療を行った.症例1の組織学的検討を参考とし,狭い範囲で僅かな陥凹を残す程度に炭酸ガスレーザー(CO2RE®シネロン・キャンデラ社)をクラシックモード(スキャナモード),スポットサイズ2.5 mm Core Fluence 17.0 J/cm2で照射した.術後経過は良好であり,現在に至るまで再発はない(Fig.5).

Case 2: After surgery
症例3:32歳女性
現病歴:初診の数年前から上口唇赤唇部に白色小丘疹が出現し,加療目的に当科を受診.
初診時現象:上口唇赤唇部の左右に2 mm大までの白色小丘疹が点在していた(Fig.6).

Case 3: Small white papules with a maximum diameter of 2 mm at the vermillion border are noted.
治療と経過:右上口唇の白色局面に対し治療を行った.既出の2例と同様に,炭酸ガスレーザー(CO2RE®シネロン・キャンデラ社)をクラシックモード(スキャナモード),スポットサイズ2.5 mm Core Fluence 17.0 J/cm2で照射した.術後経過は良好であり,現在に至るまで再発はない(Fig.7).

Case 3: After surgery
フォアダイス状態は病的意義のないことから経過観察とされることが多いが,顔面においては整容面から治療を希望される場合が多い.治療法について過去の文献を検索したところ2003年にOcampoらが我々と同様に炭酸ガスレーザーを用い良好な結果を報告している4).他に選択肢となりうる手段としてニードル高周波機(AGNES®)が挙げられる.AGNES®は上部が絶縁された極小の針を使用するため,表皮への影響を最小限に熱作用で独立脂腺を破壊でき,非常に低侵襲な治療が可能である5,6).4.0 MHz高周波ラジオ波メスを用いて2週間程度で上皮化が得られたという報告もあるが7),フォアダイス状態のような微小な病変に対する治療のoutcomeは術者の技量に大きく依存すると考える.口唇以外では陰部病変に対しデルマパンチによる切除を施行した例もある.症例1において生検部位は再発がないように確実な除去が可能ではあるものの,術後色素沈着や瘢痕化の観点から広範囲には適応とし難い8).外科的アプローチ以外では欧米のガイドライン9)で重症ざ瘡に対する第一選択となっている経口イソトレチノイン(本邦では未承認)の副次的効果としてのフォアダイス状態の消失が知られている.経口イソトレチノインは皮脂腺の縮小及び毛包漏斗部の角化を抑制する作用を有するビタミンA誘導体である.Mutizawaらは経口イソトレチノイン内服を行った2例において,両者とも2~4週間でフォアダイス状態が速やかに消退する一方,1例は内服中止後早期に再燃を認めたと報告している10,11).今回我々が用いた炭酸ガスレーザーは波長10,600 nmの気体レーザーである.水分に高率に吸収されるため,生体組織に吸収されやすいという特性を持つ.照射された組織では光エネルギーが熱エネルギーに変換され,著明な熱効果により組織は一瞬で蒸散される.この機序を利用し炭酸ガスレーザーは皮膚小腫瘍の治療において幅広く用いられる.現在多くの機種にパルス発振形式が搭載されている.皮膚の熱緩和時間よりも短い時間に高いエネルギーを照射することで周囲組織の熱損傷を最小限に留め,術後の瘢痕形成や色素沈着のリスクが軽減されている12).しかしながら病変の首座が深く,治療による組織欠損が大きい場合,また鼻尖部,頬部,頤部など僅かな陥凹が目立つ場所は炭酸ガスレーザーであっても瘢痕形成のリスクが大きい13).この点,フォアダイス状態は真皮浅層の病変であり,また赤唇部は創傷治癒が早いことから炭酸ガスレーザーの対象として適しているといえる.我々は病理学的検討を踏まえごく小範囲の焼灼に留めた.いずれの症例においても術後の瘢痕形成はない.出力は同機器で顔面病変に対し標準的に用いている強さであるが,繊細な操作が可能であり,例えば日光黒子と鑑別を要するような隆起が軽微な脂漏性角化症でも複数回のショットを重ねることで白い正常真皮の露出を確認するよう施術している.自験例は3例ともアトピー性皮膚炎など皮膚の菲薄化を来すような基礎疾患はなく,通常の出力での施術が可能と考えた.症例1では一部の再燃を認めており,焼灼後も脂腺が残存していたと考えるが同様の手法で照射した他2例に再発はなかった.脂腺の拡がりには個体差があると推測され,再照射は容易に施行できることから初回の照射は最小限とし,必要に応じて追加を行うことが妥当と考える.
フォアダイス状態は真皮層の浅いレベルに存在することと,発症部位である粘膜は創傷治癒が非常に早い2点が特徴であり,炭酸ガスレーザーによる低侵襲かつ短期間の治療が可能である.フォアダイス状態に対しての炭酸ガスレーザー照射を治療選択肢として積極的に提案されるべきと考える.
本論文において他者との利益相反はない.